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入学デビュー、失敗!(2)

「先生びっくりしたよ〜、目がバキバキで意味不明なハチマキしたメガネかけた男の子がさ、お嬢様言葉で話すんだもん。しかもカゴ背負ってるし。宇宙人に攫われて言語野バグらされたあとに登校してきたのかな?って思っちゃった」

 「はい……すみません……」

 「ちなみにだけどカゴには何が入ってるのかな?」

 「えっと……それは……」

 「大丈夫だよ、先生に見してごらん?怒らないし、ましてやバカになんかしないからさ」

 「じゃあ……」


 俺はカゴをひっくり返して、中から六法全書を取り出した。


 「これです……」

 「……なんで六法全書?」

 「分厚い本なら頭良く見えると思って……」

 「バカなの……?」


 なんてこった、この格好は天才じゃなかったなんて……周りの目線はヤバいやつを見る目だったんだ……近所のおばちゃんが「悩みでもあるんならいつでもいいなよ」って、今日に限って優しいからなんでだろって思ってたけど、こういうことだったなんて……。


 「これじゃ、俺の輝かしい高校デビューがっ!」


 己の愚かさに絶望して、つい思いが口から出てしまった。


 「あ、高校デビュー!だからこの格好かぁ」

 「そうなんです……俺、中学だとアホって言われてたから、高校は頭良く見させようとして自分なりに頑張ったんですけど……」

 「ふふっ」

 「なんで笑うんですか!」

 「ごめんごめん、必死に頑張ったんだなーって思って。金村くん、君は君なりに努力したんだよね」

 「……はい」

 「だったら胸を張ればいいんだよ!たしかに方向音痴な頑張りだったかもしれないけど、その頑張りが君の明日に繋がるはずだからさ!それにずっとやっていれば、いつか本当に秀才になれるかもだよ?」

 「先生……」

 「だから、そんなに落ち込まないd」

 「そんな言葉では俺の心の傷は塞がりませんよ!!」

 「(あっこの子めんどくさいバカだ)」


 その時、チャイムが鳴った。この音は小学校でも中学でも高校でも、どこでも変わらないらしい。

 

 「おーい天谷(あまたに)先生、そろそろ教室行かないと。生徒を整列させて、体育館までお願いしますよ」

 「あっはい。今行きます。じゃ、金村くんも一緒に行こっか!」

 「行くって……どこに?」

 「クラスにだよ!君は私が担当する、1-Cクラス!」


 こうして天谷先生に連れられて、俺は1-Cに向かった。教室を開けると、妙に視線が痛い。どうやらもう有名人になっているらしい、やったね!……泣きそう。


 「君の席はあそこね」


 そう言われて、空いている席に座る。机の右隣は背の低めなポニテ女子。左隣は少し中性的で整った顔立ちをした赤髪ロングの男子で、学ランにサラシを巻いた……待て。この時代に学ランとサラシ?さらには茶色い木の枝らしきものを口に咥えている。おいおい、タイムスリップしてきた昭和の不良か??

 よりによってその番長(仮)は俺が座るなり、小声で話しかけてきた。


 「よお、アンタか?"文化の違う星から来た宇宙人か、まごうことなき変態かの2択"って呼ばれてる噂の男は」

 「オウッッッ!……いえ、人違いです。」

 「そうか。……えっ?なんで急に叫んだんだ」

 「肺の中で飼っているオットセイが急に暴れまして」

 「な、難儀な身体してるなァ……」


 くそっ、恥ずかしい!時代錯誤のヤンキーにいじられた上、とんでもねえあだ名がもう出回ってやがる!!!

 落ち着け、俺。こういう時は深呼吸だ。吸って〜、吐いて〜、吸って〜……うん、いい感じだ。リラックスできる。これで目を閉じれば肌で感じる、初日の学校の雰囲気。誰もが緊張する入学式。生徒たちは黒板の前で説明をする、初めての先生に釘付けで。そこで俺は背筋よく椅子に座り、カツオ出汁の味噌汁を啜る……。

 んん?なんで味噌汁啜っちゃったのイメージの俺??てか、マジでカツオ節の匂いするぞ!?え?なんで?そんな周りにカツオ節なんて――。


 あ……あった。左隣のヤンキー……こッ、こいつ……!


 よく見たら口に咥えてるのカツオ節じゃねえか!!!しかもわざわざ削る前の硬いやつを細長く棒みたいに!!どう作ったんだよそれ!!


 「ん?どうした?」


 いや、どうしたはこっちだよ。なんでカツオしゃぶってんだよお前。てか周りのみんな気づいてないの!?

 ……違うな、気づいてるな。前の席の奴らひたすら首傾げてるもん。何人かは腹の鳴らしてるし。そうだよね、教室にカツオ節あるとは思わないもんね。しかもその場所がヤンキーの口元だとは誰も思わないもんね!!!

 

 「はい、じゃあ早速ですが皆さんには体育館に移動してもらいます」(グオオグギュルゴオオオオオオオ)


 なんなら一番先生がお腹鳴らしてるもんねぇ!!!……しょうがない……みんなのためにも、ここは移動する時にさりげなく言うか……。


 「な、なあ君。」

 「おう、なんだ?」

 「口のそれ、カツオ節だよね……?みんなお腹すいちゃってるから、やめた方が……」

 「…………」


 やば、下向いて無言になったぞ。もしかして怒ったか!?


 「い、いや無理にとは――」

 「バレたァァァァ!!!恥ずかしいべ!!!」

 「えっ」


 怒ってなくてよかったけど、赤面して泣くのも予想外だよ!!


 「うおおおおおん!!オラ、中学の頃は地味で!!!でもヤンキー漫画の主人公に憧れて!!!高校では渋いヤンキーで通そうと思ったのにいいいい!!!」

 「お前もそんな感じだったのかよ!!つーか、わかった!!わかったから静かにして!!目立ってるから!!まだ入学式前なのに存在が全校に知れ渡っちゃうから!!!」

 「うう……ぐすっ……で、でも。存在が全校に知れ渡るって、なんだか伝説の不良みたいで、それはそれでカッコいいべな……」

 「あぁん!?こんなの広まってもカッコいいわけねえだろぉ!?俺はもう変態扱いだぞこの野郎!!??」

 「ひいいっ!?ごごご、ゴメンだべぇ!!」

 「おーい、そこの高校デビュー失敗二人組!もう体育館移動するからね!!ちゃんと着いてきてね!!」

 「せ、先生!!その呼び名はやめてください!!!」

 「初日に二人組結成……!バディを組むヤンキー漫画みてえだべえ!」


 金村彼方、入学初日。今日早速、俺と似ているヤツを見つけてしまいました……。

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