先生が、やべえ!(1)
(キーン、コーン、カーン、コーン)
お、チャイムが鳴った。隣のメスガキは相変わらずフスーフスー言ってるけど……とにかくそろそろ授業が始まるな。今日の一限目は国語。そういや、どんな先生が担当なんだろ?
そんなことを考えていると、ドアがガラリと開いた。
「はいはーい、それでは授業始めるわよ〜♡」
と言って手をはたきつつ、一人の人物が、大きなお尻を蠱惑的にフリフリしながら教室に入ってきた。服装は白スーツで、学校内にも関わらずヒールを履いていて、高い背をさらに高く見せる。またその大きなお尻のためなのか、ズボンはピッタリとしていて窮屈そうだ。髪は紫色に染めサラサラとしていて、肩まで伸びている。
その新たに教室に入ってきた異質な存在に、俺は目が釘付けになった。
「私の名前はぁ、中島葵っていいます。ぜひ葵先生って呼んでね♡」
それは先生の甘ったるい声に恋に落ちたわけでも、女性らしい身振り手振りにドキドキしたわけでもない。そうじゃなくて──
「はい!葵せんせー!」
「あら、あなたはたしか〜……そう、鏑木俊太ちゃん!これからよろしくね俊太ちゃん♡で、何か質問かしら?」
「そうそう、入学式ん時から気になったてたことがあるんだけんど」
「なになに?遠慮せずに言って?」
「葵せんせーって男なの?女なの?」
「……強いていうなら乙女よ!」
濃い化粧をして長めのつけまつ毛を瞬かせる彼が、ゴリゴリのオネエさんだったからだ。
「ま、言いたいことは分かるわ俊太ちゃん。きっと、あなた以外の何人かの生徒も困惑していることでしょう」
たぶん、何人かじゃなくて全員だと思うけど……。
「でもね、そんなことは些細な問題なのよ。今は多様性の時代よ。私みたいな人もいて当たり前。だから皆には色んな価値観を知って欲しいって、校長がオネエの私を雇ってくれたのよ」
「そうだったんだべか!深い理由があったんだべなぁ」
「ウフ、そうでしょ?だからね俊太ちゃん、無作法に性別聞くのも、実は今の時代、あーんまりよくないのよ?」
「うっ、ごめんなさいだべ……」
「いいのいいの、学ぶまでは分からないんだから!そしていま学んだのだから、コレからを気をつければいいのよ!」
「わかったべ!!」
「素直でかわいい子ね♡」
「ありがとう葵のおっちゃん!」
「ぶっ殺されたいんかこんガキャア!!」
「ヒィッ」
「……アラ、いけないいけない。平常心平常心っと♡いーい?葵先生と呼ぶのよ?」
「はい……葵せんせい……」
地声メチャクチャ野太いな、びっくりした……しかし今のは鏑木が悪い。
「さ、気を取り直して。早速授業進めてくわよ!まずは……おっ、ちょうどいいのがあるじゃない♡"みんなちがってみんないい"これをやっていくわよ!では音読!!リピートアフタミー、『みんなちがってみんないい』エビバディセイ!」
「「「み、みんなちがってみんないい!」」」
「『男も女も関係ない』エビバディセイ!」
「「「お、男も女も関係ない!」」」
「『恋は誰でもギャラクシー』エビバディセイ!」」
「「「こ、恋は誰でもギャラクシー???」」」
「『男の子も女の子もかわいいもんはかわいい』!」
「「「男の子も女の子もかわいいもんはかわいい!」」」
「『かっこいいもんはかっこいい』!」
「「「かっこいいもんはかっこいい!!」」」
「『あなたはあなたで私は私』!」
「「「あなたはあなたで私は私!!!」」」
「ってことは、みんなちがって〜?」
「「「みんないい!!!!」」」
「フゥ〜〜!あなたたち……上・出・来♡」
……こうして、何とも癖の強い授業は次第に教室を熱狂の渦に巻き込んでいった。まるでライブのように……。
こんなのが全教科にいるのかこの高校…………やばい、ワクワクしちゃうじゃんか……!