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4 三者三様の幸せ、私達の前に広がるバラエティー豊かな幸せ

 同じく深夜、こちらは『白雪姫』の物語世界です。白雪姫が居なくなって、すっかり上機嫌のお(きさき)さまは、久しぶりに魔法の鏡を使ってみました。


お妃さま「鏡よ、鏡。この世界で一番、美しい者は(だれ)だい?」

魔法の鏡「それは、かぐや姫でございます。お妃さま」


 予想外の答えが返ってきたからビックリです。


お妃さま「かぐや姫!? 何処(どこ)の国の姫だい、それは! 外国なら、殺しに行くのが面倒だね……この世で最も美しいのは私なんだ」

かぐや姫「ああ、かぐや姫なら、わたくしの事です。そして残念ながら貴女よりは、わたくしの方が美しいと思います」

お妃さま「きゃあ!?」


 いつの()にか、妃の寝室に入り込んでいた、かぐや姫を見て。意外と可愛らしい悲鳴が上がります。


お妃さま「な、何で? どうやって此処(ここ)に? 一般人が城の警備を突破して、こんな所まで()られるはずが無いのに……」

かぐや姫「お城には、様々(さまざま)()(みち)や、秘密の通路があるのですよ。白雪姫から教えてもらいましたわ」


 不意を突かれて、すっかり狼狽(うろた)えている妃です。(わる)知恵(ぢえ)(はたら)く妃も、腕力(わんりょく)には自信がありません。暗殺、という言葉が思い浮かびます。


お妃さま「こ、殺すのか? 私を、この場で……」

かぐや姫「そんな事をすれば、白雪姫も、シンデレラも嫌な気持(きも)ちになるでしょう。あの二人は家族というものに(あこが)れを持っています。全く、あの子達は、何と(いと)おしい……」

お妃さま「シ、シンデレラ……?」

かぐや姫「こちらの話です。さて、わたくしは貴女を殺さないと決めました。ならば平和的に話し合うべきでしょう、そう思いませんか?」


 そう言うと、かぐや姫は、にこりと笑って。するすると妃に、しなだれ()かるように近づいてきました。かつて(みかど)(とりこ)にした美貌(びぼう)()(ぬし)が、妃の手を取って、首筋から(みみ)へと(あつ)吐息(といき)が掛かるように話しかけてきます。


かぐや姫「妃さま、わたくしは貴女より美しい。しかし、それも仕方(しかた)ないのです。何故(なぜ)なら、わたくしは月から来た姫。いわば特別枠(とくべつわく)なのですよ。その、わたくしを(のぞ)けば、確かに貴女の美貌(びぼう)は世界一と言って良いでしょう。わたくし、そんな貴女が嫌いではありませんわ」


 かぐや姫は携帯機で、ASMRという技術を知っています。耳元で愛の言葉を(ささや)けば、この(きさき)さまを()とせると、かぐや姫は確信しておりました。


かぐや姫「わたくしと貴女が付き合えば、それは世界一の美貌を持つカップルとなります。素晴(すば)らしいと思いませんか? 今の生活を()ててでも、()る価値があると思いませんか?」

お妃さま「はわわ……はわわわわ……」


 年下の女子から()められるという、これまで経験した事のない状況です。妃の胸は、(あや)しく、ときめいてしまいます。


かぐや姫「この城から(のが)れて、どうか、わたくしと一緒になってくださいまし。ね? かぐやからの、お・ね・が・い」


 一音(いちおん)ずつ、区切(くぎ)るように(あま)くダメ()しされて。もう妃は、何の抵抗も、できませんでした。


お妃さま「はううぅぅ! 行きましゅ! 一緒に行かせていただきましゅうぅぅ!」


 絶頂に(たっ)したかのように、お妃さまは、舌足(したた)らずな声で。こうして理性を飛ばされてしまったのでした。




 お城から、お妃さまが消えましたが、以前から妃の本性(ほんしょう)に気づき始めていた王様は、むしろホッとしました。妃の寝室には携帯の予備機が置かれていて、その機械からは白雪姫が、王様にメッセージを伝えます。


白雪姫「お父様、私は元気です。いつか、そちらにも顔を見せに戻ります。親切な方に助けられて、今、とても幸せに私は暮らしています。かぐや姫、シンデレラさん……本当に、素晴らしい方々(かたがた)でした……」


 舞踏会を荒らしたシンデレラは、(おも)に女性達から好意的に受け入れられて、その後はブレイクダンスの教室を(ひら)いて生計(せいけい)を立てています。教室には義理の姉達も居て、今は仲が良くなったようです。シンデレラの美しさは王子様からも注目されましたが、王子様いわく「ちょっと、僕には奔放(ほんぽう)すぎるかな……」と苦笑(にがわら)いされてました。結婚を(のが)したシンデレラですが、そんな事など本人は気にせず、充実した日々を過ごしております。


 かぐや姫と、お妃さまは、()たして何処へ行ったのやら。(うわさ)では、お妃さまに出資(しゅっし)させて高級バーを(ひら)いたとか何とか。その店では絶世(ぜっせい)の美女が二人でお酒を出してくれて、七人の小人達が給仕(きゅうじ)しているそうです。


 かぐや姫の元には、時折(ときお)り、シンデレラが(たず)ねてくるようで。妃とかぐや姫とシンデレラ、そして七人の小人達が集まる姿は、まるで幸せな家族のようでありました。


かぐや姫「寂しくなったら、いつでも此処(ここ)へ来なさい……いいえ、寂しくなくても、とにかく来なさい。愛してますよ、シンデレラ」

シンデレラ「……てやんでぇ」


 かつては(すさ)んだ性格だったシンデレラも、今は愛を知って、『てやんでぇ』の言い方も可愛(かわい)らしくなってました。かぐや姫とシンデレラが、これからどうなるのかは、また別の物語です。


 世の中には様々(さまざま)な愛があり、それぞれの家族の形があり、(こと)なった幸せがあります。バリエーションが(ゆた)かな世界。他者を尊重(そんちょう)し、微笑(ほほえ)()える物語。これからの、御伽(おとぎ)(ばなし)は、そのように未来へと(かた)られていくのではないでしょうか。では、そろそろ、()めの言葉と(まい)りましょう。


 こうして、それぞれの主人公(ヒロイン)達は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。

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