第1話
目を覚ますと病院のベッドの上だった。
なぜ病院だとすぐ分かったのかと言えば、俺のベッドの横に白衣を着た看護師がいて、俺の左手にはギプスがはめられていたからだった。
「看護師さん……」
俺は看護師に声をかけた。
「あら、寺田さん、目が覚めたのですね。先生を呼んできますから、待っていて下さい」
そう言うと看護師は病室を出ていった。
病室を見た。
白い壁、白いカーテン、白い寝具。
何もかもが白色でまぶしかった。
すぐに医師が来た。30代前半だろうか。俺より若いはずだ。
「寺田さん意識が戻りましたか」
「私はどうなったのですか」
「車にはねられて、救急車で運ばれてきて、手術をしたんですよ」
「そうだったんですか」
だが俺は何も覚えていなかった。
「自転車で交差点を横断中、暴走車に自転車ごとはねられて交差点の反対側まで飛ばされたんです。ただ、地面に衝突する時に、おそらく左腕を突っ張るようにして身体をかばい、そのため頭や内臓には損傷がなかったのですが、左腕を複雑骨折したのです。そこで、緊急手術で砕けた左腕の骨を修復する手術をしました」
なんだか、すごいことになってしまっていたようだった。
「そうだったんですか」
「普通でしたら一命をとりとめただけでも奇蹟的なことですよ」
「ありがとうございます」
「1週間程度で退院できます。そうそう奥さんも心配されてずっと付き添われていましたよ」
そう言うと若い医師は病室から出ていった。
(そういうことか。まてよ、奥さん? 俺には妻はいないぞ。それとも理香子のことか)
そんなことを考えているうちに俺はまた眠りに落ちた。