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棋譜に恋して

作者: kazuunnabe

 将棋の駒に恋してると意識したのは小学六年生のころで、すでに初潮を迎えた知人やブラジャーをつけようとしている会話についてこれず、思うのは将棋のことばかり、飛車、角、桂馬それぞれに個性があり人生(駒のバックボーン、とでも言うのか)を垣間見る、そのうち駒が喋り出すのだ。駒と会話が出来ることが普通ではないと気づいたのは中二の頃で、そのころには知人にもボーイフレンドがちらほらいたりした。普通の女性がananを読むように私は月刊将棋を読み、ジャニーズを追うような想いで羽生善治の写真を集め、切り抜きをせっせと集めたりした。それが恋ではなく単なる憧れでしかないと、気づいてもそれは続いた。自分の追い求める将棋を知るもの、それがたまたま異性であっただけのことと、そう結論づけた。

 恋と憧れを混同することは良くあった。学校の先生を愛し、戦国の武将を愛し、時の総理大臣を愛した。それが周りの知人のように同世代の異性に惹かれないのは何故なのか悩んだ頃もあった。告白すると当時友達と追いかけてたアイドルはフェイクであり、コンサートの時もCDを買う時もどうしても同じように好きになれない、熱中できない自分がいた。あのキラキラしたものがどうしても虚像に移ってしまうのであった。私が求めるものは魂の輝きや命の力強さであった。あの革命家が持つ眼光のようなもので睨まれると途端に力が抜ける。異性を気にしないそれはどこか、なにかしらの純粋性を感じてしまうのであった。

そんなわけで将棋と武将と政治というおよそ女生徒が興味ないものを突き詰め、ついには高校2年の頃には諦めにも似た境地に達し「加代は珍しい子だから」という周りの理解?に囲まれノンビリと成長してゆくのだった。

 男子生徒から告白されることは良くあったが、どうしても首を縦に振ることができなかった。繊細、天然、可憐、天使という男子生徒から投げつけられる自分自身の批評のそれは、どこか現実味を帯びて伝わないのであった。自分はかぐや姫だと思った。言いよる人はいるけれども、自分の心を揺さぶるものがない、いつか誰かしら私の心を引きつける言葉を与えてくれる方が出てくるはず、そう思っていた。わたしが男性に求めるものは容姿でも背丈でもない、言葉であった。私の魂をくすぐる言葉。そんなものを与えてくれる人がいたらすぐにでもお付き合いすると心に誓ったのであった、十五の夜の晩であった。

「これで今年2人目ね、なかなかいいペースじゃない」

「いいペースって、、断る人の気持ちも考えてよね。学校に居場所がなくなるじゃない」

「そういうの余裕って言うのよ、なんで加代ばっかり告白されるのかしら。胸の大きさと美人度でいったら私のほうが断然上のような気がするのに。この学校では観る目がある男子がいないわ」

「えっちゃんは美人だけどオーラが怖いのよ、男子の腰が引けちゃうのよ、きっとね」

 棋譜の美しさは数学の定理に似ている、と思った。ある人に言われたことがある、棋士を目指すものは男性だろうと女性だろうとしあわせな恋愛をすることができない運命にある、と。色々なものを捧げて犠牲にしてこそ勝利がある、それは練習の時間だけではない。考え方そのもが棋譜をベースにしてしまうのだ、と。81のマスからなる棋譜は世界の縮図を表しているがそれらは現実のものではない。それを教えてくれた師匠もまた既婚者であり、加代の憧れの存在でもあった。個人レッスンを受けている時は、薬指のリングがいちいち気になり集中できないでいた。何度も指輪を外すように嘆願したが、それは叶わなかった。駒の動きが悪くなるから、よく解らない理由を先生に提案しては困った顔をさせるのであった。

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