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おおがらおじさん童話

ケンくんと、コウちゃん

作者: 家紋 武範

 ケンくんのママがパパの車で病院に行くことになりました。

 毎日具合が悪そうだったのでケンくんは心配です。


 ケンくんはおばあちゃんとおうちで待つことにしました。

 夕方の薄暗い空に星が輝いているのを見てママが言っていたことをふと思いだしたのです。


「流れ星に三回願い事を言うと願い事が叶うのよ」


 前にママとやったときには流れ星が早く消えてしまったので、お菓子がたくさん食べたいという願い事は叶いませんでしたが、今度は違います。

 ママの病気が治るように必死でお願いしなくてはなりません。


 ケンくんは、おばあちゃんがハンバーグを作っている時にそっと、お二階に上がって窓を開けました。


 きらきらとお星さまが輝いているので手を合わせて流れ星が出るのを待ちました。


 その時です。きらりとお空が輝いて、一つの星が滑り台を滑るように流れました。


「あ。流れ星! ママの病気がよくなりますように。ママの病気がよくなりますように──」


 二つお願いしたところでようすが変です。流れ星はこちらに向かってくるではありませんか!

 ケンくんは眩しくなって目を閉じると、ドスンという音がケンくんの横の畳から聞こえました。


 ケンくんがそれを見てみると、まん丸な何かが動いています。目をぱちくり開けてケンくんを見上げてきました。


「キミはだれ?」

「ボクは流れ星のコウちゃん。ややや。ここはキミのおうち? あわわ。大変だ」


 流れ星のコウちゃんは、お空の滑り台で遊びながら、人々の願い事を叶えるお仕事をしていたのですが、間違ってお空から落ちてしまったのです。


「早くお空に帰らなくっちゃ!」


 コウちゃんはその場で飛び上がりましたが、ケンくんの背ほども飛び上がれません。

 コウちゃんは泣き出してしまいました。

 でもケンくんはいい方法を思いついたのです。


「流れ星に三回願い事を言うと願い事が叶うんだよ」

「そうか!」


 ケンくんとコウちゃんは窓辺に並んで流れ星を待ちました。コウちゃんがお空に帰れるように流れ星にお願いするのです。


 すると、三度ほど流れ星が流れたのですが、早すぎてどうしても二回までしか願い事を言えないのです。

 コウちゃんは、また泣いてしまいました。


「これじゃあ、いつまでたってもおうちに帰れない」


 ケンくんもコウちゃんがかわいそうになりましたが、とてもいい名案が思い浮かびました。


「コウちゃんは願い事を叶える流れ星なんでしょ? コウちゃんが流れている間にボクが三回願い事を言うよ」

「それはいい!」


 コウちゃんはにっこり微笑みました。




 コウちゃんは、ケンくんの机の上に立ちました。ここから畳の上にできるだけゆっくりと流れるのです。


 ケンくんは両手を胸の前に合わせて、準備をしました。


「いくよ!」

「うん」


 コウちゃんは机の上から飛び上がってきらりん! 畳に向かって流れました。


「コウちゃんがお空に帰れますように。コウちゃんがお空に帰れますように。コウちゃんが──」


 しかし、コウちゃんは畳の上に落ちてしまいました。もう少しだったのに。


 ケンくんは思い立って、うちわを二つ持ってきました。これをコウちゃんが持って、鳥のように羽ばたくのです。

 コウちゃんはその名案ににっこりと微笑みました。




 またもやコウちゃんは机の上に乗ります。両手にうちわを構えてます。

 ケンくんは両手を合わせて息を飲みました。


「いくよ!!」

「うん!」


 コウちゃんは羽ばたきながら机の上から飛び上がってきらりん! 流れ出しました。今度はさっきよりもゆっくりです。

 ケンくんはすかさず願い事を言いました。


「コウちゃんがお空に帰れますように。コウちゃんがお空に帰れますように。コウちゃんがお空に──」


 しかしダメでした。もう少しだったのに。

 コウちゃんは気の毒なくらい泣きました。

 ケンくんはコウちゃんをなぐさめていましたが、またまた名案が浮かびました。




 ケンくんはパパの傘を持ってきました。広げると大きな大きな傘です。

 これを広げたまま持って流れれば、パラシュートみたいにふわりふわり。コウちゃんは今度こそと思ってケンくんに口を曲げて微笑みました。


 コウちゃんがケンくんの机の上に立って傘を開いて構えます。


「いくよ!!!」

「うん!!」


 コウちゃんが机の上から飛び上がってきらりん、ふわりふわり。


「コウちゃんがお空に帰れますように。コウちゃんがお空に帰れますように。コウちゃんがお空に帰れますように!」


 その時でした。コウちゃんの体がふわふわと宙に浮いています。傘を放してもふわふわ、ふわふわ。


「やった! これならお空に帰れるぞ!」

「やったね。コウちゃん!」


「ありがとう。ケンくん。お礼にボクがお空に帰って流れ星になったら、ケンくんがする願い事は一度で叶えてあげるよ!」


 コウちゃんは二、三度部屋の中を回転してお礼とお別れを言いました。

 ケンくんも笑顔で手を振りました。


 コウちゃんはお空に帰っていきます。ケンくんはそれを眺めていましたが、やがてコウちゃんの姿は見えなくなりました。




 ケンくんは寂しがって顔を落とすと、ちょうどパパの車が帰ってきたところだったので、走ってパパとママを迎えに行きました。


 パパは車から降りてきましたが、ママは車の中にいませんでした。


「パパ。ママは?」

「ママなぁ、少しの間入院することになったんだ」


「ママ、お病気治らなかったの?」

「いや。すぐ戻ってくるよ。ケンくんは弟と妹、どっちがいい?」


「え?」

「ママのお腹に赤ちゃんができたんだ。だから具合が悪かったんだよ。少し病院にお泊まりすれば戻ってこれるよ」


 ケンくんのママは赤ちゃんができたつわりだったのです。ケンくんは赤ちゃんだったと知ってうれしくなりました。


「ボク、弟がいいなぁ」


 その時です。お空にきらりんと流れ星が流れて行きました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです。ケンくんがんばりましたね。 てっきりママの回復をお願いする展開と思いましたが、いい意味で裏切られました。
[良い点] 読んだ後に思わず笑顔になる、とても素敵なお話でした。 その後を感じさせる終わり方がいいですね! 読ませていただきありがとうございました。
[良い点] 読ませて頂きました! とっても可愛いお話ですね。 ケンちゃんの可愛い願い事に、心が温かくなりました。
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