魔王の正しい倒され方
マークスは珍しく『魔王便』の深夜版を聞いていた。
『やられ方、復活の仕方だが、実は2パターンあって、各魔王城が崖の上にある理由にも繋がるんだが。
1。適当に勇者にあしらって、城の壁に大穴を開けさせる。
適当なところで『見事なり。勇者』『私を倒しても第二、第三の魔王が汝の前に立ちはだかるであろう』と渋い声で告げて、海に背面ダイブ。勇者たちが泥棒を終えた後、崖の隠し通路から城に戻るって偽装パターン。
あと本当にやられちまうパターン。灰になって土に還った後、魔力を含んだ土からぽこりと復活とか、この場合は、一時的に人間に近い紙装甲に戻るから、人生エンジョイするのもいいかもな。
三パターン目は最近になって南の魔王が作った物で、魔王討伐の形骸化だ』
年末に劇の形で討伐のふりをする。聖剣が魔王に接触すればいいわけだから、刃を潰した聖剣で魔王の肩を叩く。
浄化の威力は劣るが、毎年続ければ瘴気がひどく凝り固まることはない。
『が、真似するにはそれなりの下準備が必要だ』
「よく考えたものだ」
ステリア教の教義、利益と対立せずに、魔王の脅威を後世に伝えるための研究分派。一歩間違えれば異端とか悪魔崇拝扱いされるが、二百年もかけて地道にステリア教と友好関係を築いてきた。
実態は南の魔王の魔王による魔王のための宗教団体なのだが。
『......宗教とは違うんだが、最近、東の王が変な思想にかぶれてるらしい。お年をめされた権力者の考えることって似たり寄ったりだけれどなー』
「マー様来た」
「ん」
こんな夜更けにパーティー揃っての訪問とは珍しい。
◆
「死亡岬で見つけた城はぼろっちい上、ろくなもんなかったしよ。
もう、こいつを殺して魔王ってことでいいんじゃねえの?めっさ怪しいじゃん。村の長老が子供の頃から姿が変わってないなんて」
いや、勇者が言って良い言葉じゃないような気がする。もし、万が一、殺した相手がただの村人Aだった場合どうするんだ。(本物の魔王だが)
「魔王は岬をー海を越えた先にいます」
聖女が指差すは、はるか遠く。死亡岬の先、どこまでも続く海の果て。
「真の魔王は北の果ての果て、南の果ての果て、西の果ての果て、東の果ての果て。世界の裏側にいる」
「そんなの大昔の作り話だろう。さっさとばらそうぜ」
嘘ではない。西の魔王によるとこの世界は球になっていて、大陸のちょうど真裏に狂った魔王が封じられている孤島があるらしい。
うん万メートル級の山に囲まれていて、退治以前にまず人が息ができるかという問題がある。雪と氷の牢獄。そこに......
勇者たちが倒し損ねた魔王が『魔王たちの結界』によって封じられている。
「ばらす?」
「王さまに不死の霊薬として渡すつもりです。逃げてくださー!」
聖女が教えてくれる。が、続く言葉は女戦士に塞がれる。
「なにを?」
それでもわからず首をかしげはたと気づく。
「私を?私は人魚かなんかですか?」
一応、魔王の肉にそんな効果があるのか、ドラゴンを見るが、ドラゴンは首を振る。
「そのドラゴンも人に慣れているようだし、好事家に売るか魔道研究所に売り飛ばすかすれば結構なお金になるわよ」
「え~」
魔法使いがルンルンで告げる。が、ドラゴンが大人しいのは『マークスが魔王になるかわりに人を襲わない』と契約しているからで、『正当防衛』は禁止されていない。
「ウィプス。カミーラ。キョシーちゃん。ソンピーさん。セレン。ニンフ。パンシー。ユキたんをこれ以上待たせるわけにはいかないんだ」
「帰りを待っている人多すぎるよ」
変なのが混じっている気がしないが、たまたま名前が似ているだけだろう。
いや、突っ込みを入れている場合じゃない。
「さあ、魔王覚悟!」
『ピンポンぴんぽんんんんNNN!』
天から女の甲高い声が聞こえた。
『やっと勇者が正解にたどり着いた。長かった。じゃあ、さくっと入刀しちゃって勇者!』
「つうかあんた誰?」
勇者が姿のない相手に問う。
『私。神様よ神様。本来巫女がさっさと勇者に伝えなきゃいけないのに。神様が聖女すっとばして天啓を勇者に与えるわけにはいかないでしょ。勝手に答えを教えるのはダメだけれど。自らたどり着いたなら、私が直接語りかけてもいいの』
「聖女!ほんとかコラ!」
『溜まりにたまった神様パワーで、魔王をぶっ飛ばして!こんな建物が魔王城なんて、ショボすぎてありえない!』
溜まっていたのは鬱憤なのではないだろうか。
「ってか、こんなショボいのが本当に魔王城なのか?金銀財宝は?王様と教会から姫との結婚許可が降りねぇだろ!」
「姫とまで結婚するつもりなんですか?」
「我が国と協会はお恥ずかしいことに財政破綻寸前なのです」
聖女が女戦士の手の隙間から国と教会の内情を伝えてくれる。
彼らは絶対の勝利を確信しているのか、女戦士の拘束が緩んでいたようだ。
一瞬、聖女をかっ拐えばという考えが頭をよぎるが、今は敵同士。助ける義理はない。
『大丈夫よ。寄進はこの畑ひとつで!この畑の香辛料は金の山なんだから!』
前魔王がどんなやつだったかは知らないが、少なくとも魔王になって平和だったはずだ。なのになぜ財政破綻寸前?
「期待はずれで悪かったな。我が身を食らっても不老不死にはならぬぞ。もしどうしても不老不死の秘密を知りたいのなら、我を倒してから尋ねるが良かろう」
『だから、死なない程度に手加減してね』と言う意味を込めて、精一杯威厳のある魔王っぽい声で宣言した。『魔王スピーチ講座』は少しは役に立っただろうか。
ドラゴンに目配せするとドラゴンはしっかりと頷いた。
ばっさり斬られるのは、魔王の責務として仕方がないが、斬られたあと分解されるなんて冗談ではない。
勇者と出会って二年。別にぼーっと過ごしていた訳ではない。一応作戦は立てている。
マークスが斬られた瞬間に鍋がジョロキアパウダーをぶちまけて、その隙にドラゴンが巨大化。マークスと鍋、鶏、牛を掴んで逃げる。
何度かリハーサルをしているが(もちろんパウダーは別の物を使用)、タイミングが合ったのは一度きり。
鶏と牛は諦めないといけないかもしれない。
「魔王覚悟!」
勇者の掛け声と同時にマークスは何度か練習した防御呪文を念じるがー
「神のみなにおいて命ずる。我が身を贄に魔王を彼岸に...送りたまえ」
聖女がそう言った途端彼女は淡く光り、聖女からもらったアミュレットもそれに連動し、瞬く間に強く輝く。
だまされた?今まで向けてくれた笑顔は、全部嘘、だったのか。
閃光が一気に広がり視界が白で塗りつぶされた。




