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西の魔王の訪問

「おにぎりうっまいな。っで、聖女の資格の失って幼馴染みの勇者涙目。ざまあみろ」


 西の魔王が久々に訪れた。

 ゲラゲラ笑う西の魔王にマークスはため息を漏らす。

 さんざんぼこぼこにされて、イラついていたのはわかるが・・・。


「そりゃ勇者も聖女も災難だったな」


「別に、無理に手ぇ出したわけじゃないし。

 いやー。まさか町でたまたま逢った男が魔王だとは思わなかったんだろうな。三回もリトライしているのに、ぜんぜん気づかないとはな」


 魔王と言っても、角と魔眼と羽引っ込めて、無駄な化粧を落として、町人風の服に着替えれば、見た目だけは一般人だ。


 教会は聖女の結婚を禁じているが、誰と結ばれようが実際のところは聖なる力に影響はないらしい。


 ただし、例外はある。明確に神を裏切った場合、神の寵愛は消える。


「絶対狙ってやったろう?責任取れよ...」


 いきなり聖女の資格を失ったからには当然無職。三回も魔王を殴っていたら、瘴気(凝り)はほぐれているだろうが・・・仲間や教会にはどう言い訳するのだろう。


「ああ、元聖女にその気があるなら。で、お前んとこの勇者様はまだ魔王を見つけられないのか?」


「勇者と聖女は固定で魔法使いと戦士は入れ替わった」

「あ~。勇者が功績上げないのにじれて、婚カツか寿脱退か~」

「そうみたいだ」


 勇者一行と遭遇して一年が経った。それまでも噂と聖女の勘を頼りに長い旅を続けているはず。それぞれに将来があり未来がある。

 勇者一行の中には長い旅の末、パーティー解散したり、目的がすり替わったりといったことも珍しくないそうだ(西の魔王談)。


 東の勇者一行は月一の割合で、マークスのあばら屋を訪れていた。


 マークスの作る回復薬が他で買うより効能が良く、安い。どうも遠方で転売しているらしい。

 毒薬も一緒に定期購入しているが、使い道を聞くのが怖い。


『魔王や道中の配下を倒すために必要』とは言っていたが・・・


 マークスの配下はペットを含めても、ドラゴンとちょっと目が合うと石化する人見知りコカトリウス(翌朝自動解除。卵を産む)。毎日よい牛乳を搾らせてくれる魔牛くらいしかいない。


「聖女にはばれてる」

「じゃあ、もうシバかれたのか?」


 西の魔王は身を乗り出して尋ねる。

 無害な人が退治されるというのにずいぶんとうれしそうだ。


「護符を交換して、男よけの匂袋を作っただけだ」


「護符を交換て...まだ信仰を捨てていないのか。どんな護符なんだ」


 マークスは麻の服から似つかわしくないアミュレットを引っ張り出して見せる。


「おおう。すげーキラキラしてるな。俺にくれよ」


 西の魔王がアミュレットに触れると、ばちりと小さな雷が発生した。


「おわっ」 


「すまない。これが無いと祈るときに困る」


 魔王になって五百年。一日一度の祈りは欠かしていない。


「こんなお高い物、聖女おまえ気があるんじゃないか」

「まっさか」

「魔王と聖女は惹かれ遭う。おまえ、人間から嫌われているだろう?」


「...。それを教えたのは君じゃなかったか?」


 そんなことは何度も思い知らされている。

 五百年前。変わったドラゴンを飼いはじめてたから、村の人がマークスを避けるようになった。

 いつもにこやかに挨拶かわしていた人が急によそよそしくなったのだ。


『なんとなく怖いんじゃ。その、村から少し離れてくれんか』


 マークスの家の付近だけ、常に暗雲が垂れ込め、雪や雷が降ったことも災いした。たいそう気味悪がられ、結局、村を追い出されることとなった。


 村の郊外に居を移した頃、成りたて魔王の前に最初に現れた魔王が西の魔王だった。


 いわく、動物が強い獣に怯えて逃げていくように、人間も魔王を異質な捕食者として恐れる。

 そして、魔王のなかには人間を食事としか認識しない者もいたらしい。現在活動中の魔王は比較的穏やかで人間の理性を残している。


 昔の苦い思いが浮かぶが、西の魔王はかまわず話を続ける。


「魔王と聖女。畏怖と畏敬。負と正。互いを恐れない。何よりまっすぐ目を見てくれる」


 まあ、『人』として見てもらえたのは嬉しかった。


「物語とかでは聖女と勇者と結ばれるってのが多いけど」


「聖女が魔王に寝返ったあげく駆け落ちしました。なんて話を広められるわけないだろう。そういうのは『聖女は苛烈な戦いで行方不明』もしくは『死亡』扱いになるんだ。俺の嫁さんもそんな感じだった。今の聖女もそうなるんじゃないか?」


「お嫁さん・・聖女だったのか?」

「おまえと出会うずっと昔に亡くなったがな。勇者は、魔王の気配にも、聖女の気配にも鈍感な者が選ばれる」


「鈍感って」


「あるいは肝が据わっている。元から、聖女の圧に慣れている幼馴染みとか?」


 ぷくくと西の魔王から思いだし笑いが漏れる。勇者に意趣返しができたことが嬉しかったのだろう。


「基本、魔王が当て馬。九割方勇者の方をとるがな。国家と結婚するか。神の花嫁になるか。あとは恋人と無事結ばれるか。魔王と結婚なんて片手で数えるほどだ」


「ふ~ん」


 高菜のおにぎりをかじりながら、マークスは聞き流した。会話のわずかな切れ目に茶をすする。


「魔王便に口説き文句のコーナーでも作るか?

 瞳は海の水を閉じ込めた蒼玉、髪は天に流れる銀の河。水浴びをしている姿は地上に舞い降りた天女」


 『魔王便』は西の魔王が『各魔王』の親睦のためとほぼ一人で企画製作、番宣しているのだから、新しいコーナーは作り放題だ。


 はぁーとため息をつく。そこで何かが頭に引っ掛かった。


 (今、最後へんな言葉が混じっていたようなー)


「待て」


「え?」


「おまえ、また勝手に覗いていたな?」


「あー、いやー、ちょっとだけ容姿を確認しようとしたら、たまたま、な?」


 コ、イ、ツ、はー


 ここ数日、うちへの就職希望者がまたぞろ増えたと思ったら。西の聖女と浮気の上、東の聖女を覗き。


「勇者の心を折った記念に特別なおにぎり作ってやるよ」


「おお、ありが・・・って、つーんと鼻に来る匂いと目に痛い謎の刺激臭がするんだが」


「いいから喰えっ!」


 わさび、からし他各種香辛料をたっぷり効かせたスペシャルおにぎりを西の魔王の口にねじ込んだ。


「っあ!ひぃー。ひぃー、がら、ヴェエエ。み、みい、みみ!!」


 おそらく、水と言おうとしたのだろう。西の魔王は喉元を押さえながら、ぴょんぴょん飛びはね、最後には白目を剥いたままばたりと倒れてしまった。


「まあ、な゛んにしてもぎをつけることだ。言い゛寄ってき゛て背後からぐさりってごどある゛がらな」



人見知りコカトリウス・・・自分より大きな生物、見慣れない物に遭遇したときに、固まる。その固さはオリファルコンに匹敵する。ので、人間によって捕らえられ鋳溶かされる事態が多発。現在は絶滅危惧種。

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