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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第四章:アクティブ編

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第15幕:手癖な刃と腹黒射手




 残党を射抜き、沈黙させる。

 ダメージソースとしての役割だけでなく、目聡く取り零しを狩るのも私の役目で。


 戦果ポイントの入りは。


 ある意味、私が一番かもしれないですね。



「――近付かないと、終わりますよ?」

「…………ぐッ……!」

「あと、少しですか?」

「……クソッ、マシンガンかよ! どれだけ撃つつもりッ―――ぐがぁぁッ!?」



 ゲームをやってて気付いたんですけど。

 皆、やられたときの声に持ちネタがあるんですよね。



 ……私も、作った方が良いんですかね。

 


 狩人の派生は、低コストが基本。

 物理攻撃と魔法攻撃は、比べられることが多いですけど。


 術士派生と比較すると。


 一撃の重さは譲る物の。

 魔力を使う事も少なく、連射も可能な為、どんな状況でも扱いやすく。


 私は、現在3rdの領域。


 【銃士】に転職しているんですけど。


 どうにも、慣れた弓が手放せなくて。


 いっその事。

 このまま、最後まで弓矢でやり通そうと考え始めている始末です。



「ところで。将太君は――大丈夫、なんですかね?」



 彼は、私と同じ後衛職なので。

 大型の魔物を相手にしている時は良いんですけど。


 こういう戦場では。


 優先的に狙われて。


 前衛の仲間が護るのは当たり前――の筈なんですけど。



「いや、ダメだろ」

「多分持たないね」



「んじゃ助けろやあぁぁぁぁぁ!! ――いやぁぁ! グリルはイヤァァァ!?」



 ……………。



 ……………。



「―――いや、訂正。まだ余裕じゃない?」

「みたいだな」

「凄く元気そうですね」



 本来は、彼一人で戦うのは、至難。

 術師は、体力も俊敏も、前衛より低い傾向にある故。


 すぐ、敵に追いつかれて。

 なす術もなく、身体を斬り裂かれて、硝子と砕けるのみの筈。



 ―――しかし、未だ生きている。



 命乞いは基本。


 転がり、不意打ち、即逃げ。


 相手も、楽しくなってきたのか、遠距離のみで仕留めようとしていて。

 包丁が飛ぶ、お皿が飛ぶ。


 ……凄く、楽しそうで。

 ゲームでここまで生き汚くなれるのも才能ですね。



 彼を囮にしたのは理由があり。



 実は、苦肉の策で。


 此方も、ギリギリ。


 敵軍が異常に多く、上位の術士も多数抱える故。

 いつものように、固まって戦うのは、狙ってくださいと言っているモノなんですよね。



「――こういう時に……やっぱり」

「当ててやろうか?」

「えぇ、どうぞ」

「スイカ事件の黒幕――アイツが使ってた技が使いたい、だろ? 何度か言ってたよな」



 流石に、よく分かっていますね。


 幼馴染というのもありますけど。


 それ以前に。

 他人の感情を透かす程の分析力の高さが、彼の根幹。


 ただ魔法を撃てばいい後衛でなく。

 前衛に彼が居るという事が、敵には脅威であり、味方にとってはこれ以上ない幸運。


 攻撃力は低めでも。


 同じPLが相手なら。



「―――俊敏特化の俺の技が、何故当たらんッ!?」

「戦うの下手だからかもな。――じゃあ、退場」



 手数の攻撃を避け。


 確実に一撃を入れ。


 堅実に、着実に、魔剣士は戦果を稼いでいく。

 


 人の事言えないですけど。



 どこに魔剣士要素が……?



「……んで。何の話だったか」

「私も、ああいうの撃てるようになりたいです」

「「………えぇ……?」」

「無理じゃないか?」

「いいえ、出来ます。私は諦めませんよ」



 無理は、嘘吐きの言葉なんです。


 七海も、優斗も、ルミ姉さんも。


 三人は、いつだって。

 「無理」と言いながら、全部解決しちゃうんですから。


 ……きっと、今回も。


 私達は、乗り越えて。

 あの人は、更に想像も出来ないような事をやっている筈です。

 


「一か所に固まったな……! それが我らの狙い―――」

「―――あ。それ、無理」



 ……でも、今回の無理は。

 いつものとは、ちょっと違う意味合いでしたね。 


 そろそろ、戦いも佳境。

 生き残っているのは、冷静さを残した者たちのみで。

 虎視眈々と私達を狙っていた反乱軍の術師が、こちらへと牙をむく。



 しかし、その刹那。



 フットワークも軽く。


 黒影が、すり抜ける。


 まさに、一瞬の早業で。

 七海のスキルが、今に私達を狙っていた敵の主力PLの肩口を斬り裂いていた。




   ◇




「何故、身体が動かんのだ! これは――麻痺……っ!」

「“神経締め”……へへへッ。私も料理人さん名乗れるかなぁ」



 鮮度が落ちないって言うよね。



 この技は、暗殺者のスキルで。


 2ndで、初めて覚えてからは。

 ずっと愛用してるんだけど。

 人型以外の敵には、あまり効かないから、出番が限られるんだよね。


 だから、こういう時。

 有用な使い道がある時は、積極活用。


 これ、勿体ない精神の基本ね。

 


「ねぇ、今どんな気持ち?」

「―――くっ……この美少女が。私に、乱暴する気か……!」



 ノリノリじゃん。

 流石に、痛みも危険もない、ゲームだからこそのノリだね。


 生かすも殺すも自由だけど。


 はて、さて――どうしよう。


 なんちて。

 ルミねぇみたいに考えてみたり。



「――恵那ぁ? こういう時って、どうすればいいの?」



 普通にキルするのは、何か違うし。


 ここは、専門家に聞くのが一番と。


 私の質問に。

 敵を牽制していた恵那が、うっすらと笑みを作る。

 クラスの男子が、可憐だとか勘違いしてるヤツで。


 この笑みの時って。


 大体、ポンポンブラックな事考えてるんだよね。



「パーティの連携、見てましたけど。この人、貴方達の団長ですよね?」

「「……………!!」」

「女! キサマ……!」

「――で、なんですけど。私達、仲良くなれると思うんです」



 流石、恵那。

 あちこちに注意向いてるだけある。


 彼女に任せれば、間違いないよね。


 私は、身長を喫して。

 恵那に、寡黙そうな人質さんを引き渡す。


 

「……何が望みだ、黒髪美人」

「特に、難しい事ではありません。パーティさん揃って、この外周区画から退いてくれませんか?」


「「……………え」」


「退く。……そんな事で良いのか?」

「仲良く、ですからね」

「―――是が非もないな。あぁ、良いだろう。その取引を受け入れる」



 敵の言葉に頷いて。


 まるで、無防備に。


 後衛である恵那は。

 いとも簡単に、人質を敵へと引き渡しに近付く。

  

 

 ……………。



 ……………。


 

 麻痺の効果ってさ。

 もう、とっくに切れちゃってるんだよねぇ。



「―――油断したな! 隙あ―――」

「ないです。サヨナラです」



 元より、腹黒は人を信じない。

 性格の悪い人物というモノをよく理解している故に、恵那は心理的分析も得意で。


 面倒かつ、敵に回したくないタイプだ。



 ……………。



 ……………。



 んで、何やってんの……?



「人質キルしてどうすんのさぁ!」

「不可抗力です」


「「……確かに」」



 いや、貴方達の団長だよね?



「―――で、恵那さんや。ぶっちゃけ、ここまでが狙い?」

「違います。助けられると期待させて、目の前で奪おうとか、思ってなかったです」



「……らしいっすよ?」



「「ふざっっっっけんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」



 確かに、不可抗力。


 その筈なんだけど。


 団長をキルされて黙っている敵さん達ではなく。

 激情のままに、突っ込んでくる。



 冷静の欠片もなく。



 ―――成程、コレが狙いなのね。



「七海。援護、お願いします。危なくなったら、優斗と航君がやってくれるので」

「希望的観測ぅ……!」



 そんなこんなでふざけて。


 ゆるーく、戦ってるけど。


 俊敏も高い恵那が、攻撃を軽く避けつつ。


 逆に、威力の高い矢を隙間なく放ち。

 仕上げは、私が防御で手の埋まってしまった敵に接近して、首を刈る。


 相性はピッタリだ。

 なんせ、幼稚園の頃からの幼馴染ですからね。


 狙いは、全部分かる。


 此方の考えも伝わる。


 ゲームだけで繋がってるような連携とは、年季が違うんだよ。


 それより、何より。

 そりゃあ、凄いんですぜ? 私の仲間たちは。



 五人で、全力で戦い抜いて。



 どんな敵だって倒してきた。



 暗黒騎士さんは――うん。

 あの時は、連勝続きで、やや天狗になってたのか。


 不覚を取ってしまったけど。


 折角の見せ場を。

 ルミねぇに褒めてもらえるチャンスを。


 一番大事な所を逃しちゃったけど。


 これから幾らでも挽回すれば良い。


 百合? ノンノン。

 そういうアレじゃない。

 私たちは、皆ルミねぇが大好きなだけなんだよ。


 家族みたいなもんさね。


 なんて、考えていると。



「―――んっとによ……! 助けがおっせんだよ!」

「あぁ。こればかりは、すまん」

「周りから切り崩さないと、全滅だったから。取捨選択したんだ」



 見知った顔ぶれが戦いに加わり。


 趨勢(すうせい)は、完全に私たちに傾いた。



「あ。将太君、生きてたんだ」

「へへへ、まぁな」

「ピックさん達はどちらへ?」


「面白かったから見逃すってよ。案外、逃げてる最中でキル関与あったし、普通にポイント稼げてっかもな」


「……ホント、しぶといよね」 

「なんか言ったか?」

「でも、確かに。今回は、皆報酬に期待できるんじゃないですか?」



 超レアな武器・防具。 


 そして、称号や名声。


 およそ無いけど、ユニーク職とか。

 私達が目指すとすれば、この辺だろうかねぇ?


 でも、ユニークは。


 私は、憧れだけど。

 案外、ウチのパーティーって、成りたいって人が少ないんだよね。


 私と将太君くらいじゃないかな。

 

 周りに気を配れども。

 襲い掛かる影はなく。

 本当に静かに事なってきた戦場で、私は考えるけど。



「―――本当に、静かになったね」


 

 乱入時はあんなに騒々しかったのに。


 随分と、こちら側は人が少なくって。



「開始から数十分だ。大分、PLの数も減ってる。そもそも、外縁に(たむろ)ってるのは、端からセコイ商売してる連中だけだ」

「……俺達みたいにな」

「さらっとブーメラン投げるよね」



 周りからチクチク。

 最小限の被害で抑えようって人たちが、この区画に集まる。


 だから、人少ないんだね。


 恵那の交渉も、それを考えた結果か。


 

 ……………。



 ……………。



「てーー事は? そろそろ、私らも帰る……わけないよねぇ」

「うん、あり得ない」

「うちのリーダーの性格的に、無いな」


「優斗。どうするんです?」

「誰も死ななかったのは、かなーり運が良いよな?」


「「……………」」


「んじゃ、最期だ」



「―――中央区、突っ込むぞ。折角の機会なんだから、生きて帰ろうなんて思うな」

「「逆ぅ!!」」

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