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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第四章:アクティブ編

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第14幕:限定脳筋&ロマン砲




 プレイヤー、ノンプレイヤー、エネミー。

 この世界で生きる者には、必ず体力――HPが存在しているけど。


 同時に、弱点という概念も。


 定められた急所も存在して。


 

「――何だこの執事―――っ!?」

「あぁ、どうも」

「………コイツ!」

「恥ずかしげもなく、なんて羨ましい恰好を!」

「生きる嫌味だ! 絶対リアルでもイケメンだぞ!」

「爽やかイケメン野郎だ! 仕留めろおおぉぉぉ―――ぶへぇぇぇ……ッ!?」



 何故かは分からないけど。

 僕は、凄く元気な一団に目を付けられてしまったようで。


 後衛の持つ儀仗(ぎじょう)が青く光る。


 氷の長槍が地面から生える。


 僕を狙って飛び掛かってきた男が、貫かれて消える。



「オイィィィィ!? テメェ!」

「この初心者(ヌーブ)!」

「こっちは味方だぞ! 狙って魔法撃てや!」



 ……こうも高レベルの人ばかりだと。

 大規模な魔法を使える人が多いと、味方同士でも連携が取れていないようで。


 取り敢えず、僕は。

 側転で敵方の魔法攻撃を回避しつつ。


 折をみて間合いを詰め。


 氷を扱う魔術師の喉笛を狙い。

 白手袋にも見える極薄のガントレットで、最近覚えた攻撃系スキルを打ち込む。



「“二ノ白打”」

「……………ッ!?」



 PLの弱点は、共通―――というより。


 人間の基本に準拠して。


 首を断ち斬られたら。

 どれだけ体力が残っていても消滅するし、胴体が別たれても同じ。


 今の彼等のように。

 一瞬の油断で、キルされてしまう事になるんだ。


 だからこそ、緊張感がある。


 より実戦に近い戦闘がある。


 魔物に比べてしまえば。

 PLやNPCの体力なんて、吹けば飛ぶようなものだから。


 これはもう、極論だけど。

 今日始めたばかりのPLが、歴戦のTPを倒すことだってできるのが、この世界だ。



「―――相変わらず。エグいな、航」

「首グシャァだもんねーー」

「表現がマイルドで良かったです」

「脳筋プレイ極まれり、ってとこか。クラスメイトが見たら泣くな、こりゃ」



 流石に、向こうではこんな事許されないけど。

 仲間内で遊ぶときは、別。


 誰だってそうだろうね。


 僕は、ゲームでまで深くは考えたくないから。


 普段の自分とは別のことが出来るのが嬉しい。


 ……でも、まだまだ。

 この程度じゃ、皆に並べないんだ。



「―――そこっ、貰った――うっそだろおぉぉぉ……!?」

「はい、ざんねーーん!」


「三倍返し、です」

「あんまり打ち過ぎんじゃないぞ―――ッと」


「ちとズレたか?」

「いや、ナイスタイミングだ。細かい調整は自分でやる」



 後衛を狙った矢が、短剣に撃ち落される。

 一度に三矢が番えられ、放たれ……敵は、なすすべなく体力を持っていかれる。


 小さな爆発が傍で発生して。


 あり得ない速度で飛翔した魔剣士が、勢いのまま敵の上下を別ける。



 ……………。



 ……………。



 僕の仲間って。

 俗に言う、ぶっ壊れなんだよね。


 普通、吹き飛ばされるままに敵を斬ろうなんてしない。

 計算して飛ばされるなんて、おかしい。

 

 普通、腕で矢を一度に番えて確実な3連射なんてできない。

 スキルを連続で纏わせない。


 普通、短剣で矢は弾かない。

 動体視力とかいうレベルじゃない。


 普通、自分の魔法の爆風で回避しようなんて考えない。

 仲間の背後を爆発させ、攻撃速度へブーストを与えようなんて思わない。

 

 そのどれもが。

 一つ間違えれば阿呆の所業で。


 しかし、皆が十全と扱ってて。


 ……考える程に、優秀な面子。

 少人数パーティの僕たちがここまで来れた理由でもある。


 TPになるには。

 未だ、レベルが圧倒的に足りないけど。


 もしも、ゲームが終盤を迎え。

 成長が頭打ちになって、僕たちと彼らとが、同レベル帯になったのなら……。



 ―――勝てるんじゃないかな。



 まず、九分九厘。

 それだけ、皆の戦闘センスは異常だ。



「……負けて、いられないよね」



「ん、どうかしたか?」

「誰か居た?」

「ヤバいトップ連中のいる場所は避けたはずだが……?」


「―――ううん、何でもない」

「……航のそれは怖ぇぇよ」



 自分たちのおかしさに気付かず。

 呑気に、僕の独り言を深読みし始める優斗たち。


 大切な友達に。


 自慢の仲間に頼られるため。


 彼等四人と肩を並べるため。


 僕は、究極の一を目指す。

 皆を護る最高の前衛になる為、常に最上の戦闘を模索し続けないとね。




   ◇




 魔法ってのは、かなり難しく、深淵のように奥が深いんだ。

 

 何事も、最初が肝心というが。


 第一に、選択肢。

 どの術士も、始めは基本となる地水火風の属性から一つを習得するが。


 2ndになると。

 一気に選択肢が広がり。


 地の上位派生である闇属性。


 水の上位派生である氷属性。


 火の上位派生である炎属性。


 風の上位派生である雷属性。


 どの属性を選ぶかは、その魔法使い次第。

 よりその属性を極めたいのなら、単一路線を行くが。


 別の選択肢も、存在して。


 それが、複合型。

 個々の威力こそ前者に劣るが、幅広い種の敵に対応でき、トリッキーな戦術を取れる長所があり。 


 地属性と水属性の複合である木属性。


 水属性と火属性の複合である霧属性。


 火属性と風属性の複合である嵐属性。


 風属性と地属性の派生である無属性。


 

 ざっと判明しているだけで。

 基本、上位、複合派生――全部で、12もの属性が存在している訳で。


 遊び心、と言うべきか。


 自分に合うかが、大切だ。


 使って楽しいかが大事だ。


 そして、勿論。

 効率よく運用するための術者の技量も必要だし。


 能力値も熟考する必要がある。


 魔力が高いほどに使用できる魔法の数も、質も上がるが。

 あまりに身体能力が低ければ、終わりだしな。


 攻略サイトの最強ランキングを当てにするのではなく。

 自分で判断するって事が、大事なんだ。



「おい、魔力極振り貧弱野郎。そこ、危ないぞ――っと」

「……ん? ――のわっ……!?」



 考え事をしていたら。

 仲間にローブの裾を引かれ、鼻先をドでかい矢が掠める。


 ボーっと突っ立っての考え事は止めとくか。


 戦場でやってはいけないランクの第三位だ。



「ほぅ? んじゃ、第一位は?」

「昼寝」

「それはもう、論外じゃない?」



 独り言聞かれてたわ。


 ちょっと恥ずかしい。



「――ねぇ、将太。僕も、あのブースト使ってみたいな」

「うん……? ……うーん」

「結構危ないぞ、アレは」

「まぁ、普通は死ぬからね。でも、ホラ。実戦の方が成長するって言うでしょ?」



 まだ航はやった事ねぇが。


 ぶっつけ本番は怖ぇぇな。


 いま前衛である航に消えられたら、終わるの俺だし。


 優等生な航だが、これで。

 ゲームの中だけ脳筋だが。


 ……まぁ、俺としても。

 小細工なしに動いてくれる武闘家を、存分に頼っている。


 深く考えて連携を取らなければいけない訳でもなく。

 航が作ってくれた隙を狙って魔法を叩き込めばいいから、楽で良いんだよな。



「ホラ、前衛さん達? もっと頑張ってよね」

「弾避けになってください」


「「……………」」



 こんな風に……な。


 危険な役は任せて。


 俺は、後ろでコソコソしてれば良い。



「……場所、そろそろ移動するぞ」

「「了解、リーダー」」



 ……………。



 ……………。



「―――おーい、前衛さん達? 護ってくんね?」

 


 コソコソしてれば良い。


 して良い……んだよな?


 何で、移動の時置いてくの?

 何で、敵軍の流れ弾が無限に俺へ飛んでくんの?


 敵軍は分かるぞ?

 術士から潰すのは、基本中の基本だし。


 何で、俺の仲間たちは、その攻撃から俺を護ってくれないの?



「―――おや、将太君や。確か、このクエストってさ……?」

「ほぼ、個人報酬……なんだよね?」



「勘の良いガキィィィ!! 仲間だろォ!?」



 マジかよ、コイツ等。


 護る気、欠片もねぇ。



「―――よし、分かった!! 1000アルあげるから! なっ?」


「はした金だし」

「ルミねぇに怒られるし」

「ノーモア賭け事なので」

「金は、そういう事に使うんじゃないんだぞ」



「薄情者どもがァ―――!!」 



 思わず、注目を集めるのも辞さず。


 俺は、戦地の真ん中で叫ぶ。

 コレも、ゲームの中だからできることだろう。


 本当ならば。


 今頃、俺の首は胴体からサヨナラバイバイ……。



「おい。また、後ろ」

「ぶべらっっっっ―――ッ!?」



 ……ゲームの中でも。



 後ろから敵が来ていたようで。


 言われて、すぐに回避したが。


 ギリギリ急所を外したが。

 思いっきり腹部へ槍のスイングを食らったらしく、当然に吹き飛んでいき。




「あばばばばばばばばばばばばば………ッ!?」




 ズザザザザ――ッ……と。


 コントのように直線運動。


 唯一、幸運なのは。

 転がった先が薄情野郎の足元で、追撃がなく、体力もミリだけ残っていた事。



「――よ、お帰り。昼寝は一位じゃなかったのか?」

「……優斗、ポーション」

「やらん。死に掛けてまで顔面スキーで遊んでるモノ好きには、な」



 鬼畜か、コイツ。

 お前で魔法の神秘研究してやろうか。


 仲間へ攻撃を加えようか。


 俺が真剣に悩んでいると。


 倒れたままの俺の口へ、甘い液体が流れ込んでくる。


 その距離は一メートルはあり。

 ゲーム内だから咳き込みこそしないが、良い子は真似しちゃいけないヤツだな。



「………あまっ……」

「後でポーション返してくださいね? 三倍返しです」

「……まぁ、中級なら」


「赤色だし、上級ポーションじゃない? コレ」

「……………何故に?」

「仲間ですから。一番良いのを……と」


「仲間の優しさに涙がとまらねぇよ……!」

「嬉しいなら、白目剥かないで?」



 余りに嬉しすぎて。

 俺氏、歯ぎしりと嗚咽(おえつ)が止まらない。

 

 

「ほら。回復したなら、早くその無様な体勢を……」

「―――相変わらず。君たちは、会う度によく分からないことになっているね」


「「お……?」」



 戦闘の轟音に混じり。


 不意に、声が聞こえ。


 仲間たちはそちらを向き。

 俺は、倒れた状態で首だけを動かして声の主を探す。



「―――あっ! 戦うコックさん!」

「来てたんですね?」

「その節は、どうも」

「どもっす。奇遇ですね」


「……此処、我々のホームタウンなんだけど」


 

 そう言えば、そうだったな。



「そっすね。――で……どっちすか?」

「見ての通り、反乱軍だ。待ってあげるから、せめてその体勢を如何にかしてから話そうか」



 前回出会った時は水着だったが。

 今回の彼は、正装の様子。


 全身白衣で長い帽子を被り。


 まるまるとしたお腹と顔で。


 さながら、料理人を思わせる風貌の男性PL……。


 そう、ピックさん。

 【O&T】が発行する新聞……その日常枠の常連である有名人だ。


 専門は料理だが。

 攻略にも名前が挙がる中堅の武闘派、【満腹全席】のギルド長。



 ……………。



 ……………。


 

 つまり、GPがウマウマな賞金首。


 倒せば、かなりのポイントだな。

 


 俺は、温厚そのものな彼に言われるまま立ち上がり。



 一応、敵陣営らしいので。

 埃を払う仕草を交えつつ、朗らかに、刺激しないように、陽気に話しかける。



「あ、そういえば。お店、有名店なんですよね。戦勝会の予約って受付中ですか?」

「……ははっ。既に勝った気かい」

「気位は高い方が良いんで」



 ただでさえ、劣勢。

 反乱勢力の数が圧倒的な現状だ。


 此処は、俺の小粋なジョークで場を切り抜けねば。



「……ふむ。ディナーコースなら、一人頭二万アルは用意してきて欲しいね」

「元戦友のよしみで、そこを如何にか……」



 適度に気の利いた台詞で笑いを誘うが。


 不敵な笑いはノーセンキュ。


 絶対戦う気の顔だろ、コレ。



「しかし、今回は――敵だ。構えると良い」

「……HAHAHA、包丁とフライパンで戦うつもりで?」



 彼は、料理人なわけだし。



 敵を料理してやる……! とか。


 コミカルな想像が脳裏を駆ける。

 

 ……が、しかし。

 俺の冗談を聞いた彼は、何故か満足そうに、さも真剣に、何度も頷き……。



「くくく……ッ。よく、分かってるじゃないか。――皆、聞いたな。粋な良い子を、料理してやりなさい」

「お、確かに。生き良いっすね」

「では、美味しく料理しましょ」

「可愛い子ねぇ、貴方タイプよ」



「……………ふぇ……?」



 合図を受け、彼の背後から現れる巨漢たち。

 お腹ぷよぷよな団長とは異なり、立ち仕事、力仕事で培われたような筋肉質のボディ。


 一様に純白の服を纏い。


 爛々と輝く鑑識眼で。

 俺の身体を、隅々まで舐めるように検分する屈強なコックたち。



 ―――そして、その手には。



 大剣ほどもある、巨大な中華包丁。


 フォーク、にも見える三又の大槍。


 フライパン――のようにも見える、平のドでかい焼き(ごて)

 ……赤熱してジュウジュウ言ってんだけど。



 その光景に。

 思わずたじろぐ俺だったが。



「完全にやる気っすね、ピックさん。言っときますけど、うちのロマン砲は、ヤバいですよ?」

「瞬間火力、パーティ最強ですよ」



 何故かは、知らんが。

 今まで黙っていた仲間たちが、急に俺の事を賛美しだした件。


 状況はともかく。

 褒められれば嬉しくなってしまうのが性で。



「へへへ……! もっと、もっと褒めて!」

「将太君スゴーイ」

「流石は魔法使いです」



 パワーが貯まって来た。


 これは、勝ち確だろう。


 皆も、ニヤリと笑い。

 やる気満々の様子だしな。



「よーーーしっ! どっからでも掛かって来やがれ……!」

「「……………ッ!!」」



 ……………。



 ……………。



「「じゃあ、相手ヨロ」」



「……………へ?」

「いや、喧嘩売ったのお前だけだし。良いですよね? ピックさん」


「……君たちは、それで良いの?」

「「良いの」」



 ……………。



 ……………。



「――あの……ピックさん? 料理長様? 子供の戯言、本気にしてないですよ――」

「近頃は、人型の調理も慣れて来てね。一応聞くけど――どんな料理になりたい?」


「……あーーーと。じゃあ……その」


「――活け造り一丁ォ!」

「「注文(オーダー)、入りました」」




 ――――よし、逃げよう。

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