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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第四章:アクティブ編

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第13幕:無職の本気




「……………? ――今の、もう一回聞いても良いかな」

「ひょ……?」

「何か、間違ってました?」


「ううん。ちょっと、確認」


「――優斗。どうですか?」

「……ん。領主勢力と、反乱勢力。二つのうちから選んで参戦、って仕組みらしいな。当然、勝った方が達成報酬を取れるだろうけど」



 聞き間違いだと思ったけど。


 二度目も、やっぱり同様で。




――――――――――――――――――――

【Original Quest】 新月を刻む白刃



 (所要:1~2時間程度)



 貴方に、固定の役割は存在しません。

 敗れても、敗れても、何度でも目的へ挑戦しましょう。

 

 領主を殺害する。

 反乱を鎮圧する。

 他プレイヤーと協力し、戦場で刃を振るう。

 

 全ては、貴方の判断に委ねられました。


 異訪者として、自由に行動しましょう。



【発動条件】

・古代都市領主の「客人」となる


【備考】

・貴方に、クエスト制限は存在しません

――――――――――――――――――――




 やはり、そうなんだよね。


 私だけ、クエストが違う。


 それは、やっぱりハクロちゃんの影響で。


 発動条件の通り。

 領主の客人となり、領主館に出入りを許された者のみのクエスト。


 でも、此処は環境最前線。


 古代都市アンティクアで。


 私が受けるには。

 余りにも分不相応なものであるのは間違いなくて。



「……………」



 やっぱり、私は大人しく逃げ帰る?


 今からでも、尻尾を巻いて逃げる?


 ……無論。

 選ぶ答えは一つで。

 


「―――ゴメンね、皆。私は、ここまでみたいだ」

「……ふぇ?」

「「はやっ……!?」」

「後で追いつくことも無いだろうから、宜しくね」



 悪いけど、今回は

 私には、確固たる目的が存在しているわけで。


 友達が助けを求めてるんだ。


 それ以上に必要な事なんて。


 必要な理由なんて、無いから。

 そうと決まれば、私にとっての最善として、離脱のままに駆け出す。



「すぐ行くから。ちょっと待っててね、ハクロちゃん」




   ◇




「―――それで、結局。何が狙いだったんですかね? ルミ姉さんは」

「ね? あの無職さんは」



 恵那と七海の言う通り。

 彼女には、戦闘能力など欠片も存在しない筈で。


 俺たちの知る限りでは。


 確かにその筈なのだが。



「――なぁ。ルミさん、明らかに、戦場突っ込んで行ってなかったか?」

「……うん、行ってた」

「……今頃キルされてないかな」



 彼女が向かったのは、退路である転移ゲートでなく。

 安全区域に見える外郭の住宅街でもなく。


 中央より広がる、激戦区。

 

 大絶賛盛況中の、戦場で。 


 レベル高めの俺たちですら。

 無策で突っ込めばすぐ消滅するであろう、死の空間の筈。



 まぁ、既に死んでいるだろう。



 およそ、正気の沙汰(さた)じゃない。



 ……だが。

 彼女がそんな阿呆でないのは、俺たちの知る所で。



「―――或いは――死ぬのが目的……か?」 

「「え?」」

「どゆことぉ?」

「そういうプレイか?」



 仮説こそ出てくるが。


 考えても分からんな。

 


「……まぁ? 無職とか、ルミねぇからすれば、只のハンデだし?」

「…………えぇ」

「あの人に戦闘職とか、やらせちゃいけないんだよな」


「……それはそれで」

「僕達は、見てみたい気もするんだけどね?」



 湧くのは疑問符ばかり。


 俺達は首を捻るばかり。


 しかし、目の前へ広がる惨状を見る限り。

 いつまでも、棒立ちとは行かなくて。

 


「――では。私たちは、私たちの目的を」

「ん。いこっか」

「……情報士官さん。どうだ?」

「公開情報では、現在のPL総数は、領主側が三割。反乱側が七割……だって」



 戦況としては。


 反乱軍が圧倒的―――と。

 



――――――――――――――――――――

【City Quest】 新月を齎す暗闇



 (所要:1~2時間程度)



 本クエストは、対立型となっています。

 陣営を選択し、都市中央区の戦場へ乗り込みましょう。


 討伐対象

 (敵軍所属プレイヤー・敵軍所属NPC・敵軍指揮官)

 個人の討伐ポイントに応じて報酬を獲得できます。 



 所属の選択を行ってください。



 《反乱軍へ》  《領主軍へ》



【発動条件】

・クエスト開始7/10日時点で、進捗:古代都市をアンロックしている



【達成条件】

・敵対勢力の壊滅(参加PL8割の死亡)

・敵対勢力指揮官の死亡(main)

――――――――――――――――――――




 改めて状況とクエスト内容を整理し。

 俺達は、久々に降り立つことになった古代都市の風景へ視線を戻すが。



「死に晒せえぇぇぇぇ!!」

「返り討ちだ、**が!」



 口汚く相手を(ののし)りながら。

 敵軍へと襲い掛かる者達。


 数十、数百のPLがひしめく戦場。


 しかも、その全員が高レベルで。


 彼等が二分され。

 互いの命を狙っているという状況が、このクエストを更に混沌化させている要因なのだろう。


 同じPL同士で。


 血で血を洗う戦場そのものだ。



「……絶対性格悪いよね、運営」

「「禿同(はげどう)」」 

「クロニクルじゃないから、ギルド壊滅ボーナスは健在だし。クエストより、最上位ギルドの団長を優先している人もいるね」

「うへぇ……。行きたくないねぇ……!」



 だが、しかして。


 その空間よりも。


 更に異様なのは。



「―――――」 

「「―――――」」



 中央区の最奥にそびえ立つ砦。

 領主館の城門を護るようにして仁王立ちする存在。


 銀の甲冑に、蒼の外套。

 均一の制式兵装を纏った騎士たちは、PLの攻撃を容易く裁き、蹂躙する。

 

 帝国通商都市の牙兵団。


 王国海岸都市の鋼殻騎士団


 公式が示唆した、皇国にいる天秤の銃士たち。


 この世界で、軍隊はバケモノ揃い。

 個人個人が現TPを寄せ付けない程の化け物だと言われているが、何より。



 ―――それが持つ戦闘能力は、余りに圧倒的だった。



 一帯を吹き飛ばすでなく。


 纏めて薙ぎ払うでもなく。


 間合いを詰める。

 首を薙ぎ、唐竹(からたけ)に断ち、飛翔し、袈裟(けさ)に斬る。

 一瞬で複数のトッププレイヤーを消滅させた男は、ただ静かに長剣を掲げ。



「我が名は、アルバウス・ピスケス」



 高らかに、宣言する。



「月光騎士団指南役、総元締め――白刃の剣聖」



 己は、此処におりと。



「さぁ、ひよっこ共。我が首級を挙げるが良い」

「「……………ッ!!」」



 現最強は、不敵に笑う。

 環境の最前線で剣を振るい続ける、最強の雛鳥(ひよっこ)たちへ。 



 ……………。



 ……………。



「―――いや、12聖天やん」

「そりゃ居るだろ、古代都市なんだから。情報通りだ」

「よく向かってくね、あの人たち」



 ……………。



 ……………。



「しねえぇぇぇぇ剣聖!!」

「その首寄こせぇ!」

「と言うか、その剣寄こせぇぇ! 絶対S級のレアアイテムぅぅぅ!」



 PL心理と言うべきか。

 

 大人数で囲んで戦えるとなれば、倒せると考え。

 報酬を期待して、ああなる。


 ……確かに、現実として。


 NPCには疲れがあるのか。

 少しずつ、ほんの少しずつ、ダメージは通っているようで。



 反乱軍へ加担するPLが増えている原因の一つなのだろう。



「―――で。僕たちは、どっちに付く?」

「……どうしよっか」

「お任せしますけど」

「んじゃ。参考までに、目の届く範囲では?」

「有名どころは、GR4位の【妖精賛美】に、6位【轟きの一矢】……他にも、沢山いるよ? これ。大体が反乱勢力だけど」



 ギルドランクは、あくまで指標だが。


 それでも、最上位となれば充分埒外(らちがい)


 その看板に惹かれ。

 真なる強者――ゲームに適合した連中だけが、方々から集ってくる。


 一位と二位が、圧倒的過ぎて。


 紛れもなく、三位も怪物集団。


 単純な団員の多さと質もそうだが。

 それを率いる者たちが、圧倒的な実力を持ち合わせているというのも大きく。



「あれらが相手だと、あまり大きな物は残せないからな。やることは、一つだ」

「そう来るだろうな、団長」

「あぁ。選択肢は無いも同じだ」



 先の戦況を見てもそう。


 戦力差からも明らかで。


 当然だ。

 どちらに付くかは、必然的に明らかで。



「「領主勢力ポチー」」



 より危険で、より厳しい側の軍勢へ。

 

 負けそうな方へ付く。


 これしかないだろう。



「へへへ……っ! 弱きを助ける正義の味方ぁ……!」

「思ってすらいない事言わないでください、七海」

「そんな柄じゃないしな」

「そもそも。俺ら、内情知らんしな」

「どっちが悪いとか、どういう経緯の反乱とか、分からないしね?」



 正義云々(うんぬん)、悪云々はどうでも良く。



 今回の目的は、対人の経験を積む。

 ただ、それだけで。


 ポイントにも、報酬にも。


 端から期待などはせずに。


 ただ、味方として。

 より長く、最強とされる存在の技と動きを観察し。


 敵側のTPと刃を交えて。


 いずれ戦う時に備える。


 そして、生かせると思うモノが存在するのなら、積極的に自分たちへと組み込む。


 これが、今俺たちがすべき事。


 最高の最低限ってやつだろう。 

 


 ……………。



 ……………。



「んじゃ、俺らも行くぞ」

「号令を、団長」

「おう。行くぞ、野郎ども。俺達が、あの化け物爺の首を―――ッ」



「邪魔、“斬鬼一閃”」

「「おーーじゃましまーーーす!!」」



「―――えぇぇぇぇぇ―――――ッ!?」

「「団長ぉぉぉ……ッ!!」」 



 不意打ち際に飛び込み。

 背後がお留守な見知らぬPLの首を斬り裂き、踏み抜き。


 その戦果を手土産と。

 

 俺達は戦場へ突入し。


 先のバカ共のような、背後ガラ空きな無策ではなく。


 不意打ちにでも。


 波状攻撃にでも。


 全ての攻撃に対応できるよう。


 暗殺者が目を光らせ、銃士が遠方を観察し。

 炎術士が敵を遠ざけ、前衛が各個撃破。

 俺達は、全方位対応型の陣形を組み、戦場へとその身を躍らせていった。


 


「―――じゃあ、死ぬまで頑張りますか」

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