第12幕:ノーモア賭博
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◇ 攻略クエスト情報(7/10更新) ◇
【概要】
city questが発令されました。
対象のPLは、王国古代都市のイベントに参加できます。
詳細情報unknown
古代都市来訪で個人公開されます。
【備考】
・発令現在、【古代都市:アンティクア】を解放しているPLが対象となります。
・本クエストは【人界領域】【秘匿領域】開始のプレイヤー専用です。
・一度死亡した場合、再参加は不可となっています。
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運営から送られてきた最新情報。
私には、よく分からないけど。
……………。
……………。
沈黙の長さを考慮すると。
やっぱり、それだけ衝撃的な事なのかな。
「――古代都市で、クエスト……!?」
「ヤバいでしょ、これ」
そして、静寂の後には。
その話でもちきりだし。
概ね、出された結論は満場一致みたいだ。
「―――まぁ、行くっきゃないって事で」
「さんせーい」
「……賭けは中止で良い?」
「おう。仕方がないな、これは」
「あーぁーー、残念」
……賭け………?
「エナ。賭けって、何の事だい?」
「はい。ルミ姉さんに褒めてもらった回数を競ってて、皆でアルを賭けて――ぁ」
「「………………」」
「……エナドジィ」
「エナドリみたいに――」
「――みんな?」
「「……はい」」
「褒めるのは、いけないコトだったのかな?」
「「……………」」
「私は、もう、皆を褒めちゃいけないのかい?」
「――違います!」
「もっと褒めて欲しい!」
「何なら俺も撫でて欲しい!」
「………僕も」
「―――航……?」
「じゃあ。子供うちでお金を賭けるのは、ダメだよ。――ね?」
「……ゴメンなさい」
「「……スミマセン、ルミ先生」」
「うん、許すよ」
「……良いの?」
「元より、私たち同士で賭けをしてたからね。お金が絡まないなら、どれだけ勝負したって良いさ。その方が、やる気が出るだろう?」
締めの言葉に。
皆、元気に返事をしてくれたけど。
私、何時の間にか賭けの対象にされちゃってたんだね。
道理で、今日は。
……今日も、皆張り切っていたわけで。
「ところで。シティクエスト――都市クエストって、どういうモノなのかな?」
「「ぁ」」
皆、あれ程の衝撃を受けてたのに。
何故、吹っ飛んじゃったんだろう。
思い出した様子の五人は。
しかし、首を捻って、どう言うべきかを考えている様子で。
「――あーー、えーーと?」
「実際は、俺達も初めてで」
「伝聞とか、世界感とか。公式のちょっとした謳い文句が初出の用語なんですけど」
公式さん曰く。
重要都市には、その都市ごとの物語があり。
これは、一種のクロニクルの扱い。
世界その物に影響こそ与えないけど、価値は計り知れないもので。
大規模な都市全土へ影響を与え。
都市そのモノの情報を改変する。
言わば、都市のアップデート。
改良であれ、改悪であれ。
PL自身も、自身の活躍を記録としてオルトゥスの歴史に刻むことができ。
勝ち馬にさえ乗れれば。
大きな戦果をあげれば。
それこそ、貴族位さえ夢じゃなく。
国家の核心に属することだってできるようになるかもしれないと。
それだけ、価値あるクエスト。
それが、都市クエストらしい。
「―――まぁ、そういう訳ですから」
「急いで向かわないとな。乗り遅れたら、大損だ」
「行かないと情報開示されないって載ってたし」
「戦闘条件も分からんし」
「作戦を立てるには、早く行ってクエスト情報の確認をしないといけませんね」
……ふむ。
「―――じゃあ、ルミねぇ! ―――は――どう……する……?」
「「……………ぁ」」
不意に、ナナミが元気にこちらを向くけど。
その声は尻すぼみで。
これは、アレだよね。
一緒に行こうって言おうとしたんだろうけど。
ちょっと考え直したんだ。
護れるかが不安だろうし。
皆が名を挙げるには、全力で戦わなきゃいけないだろうし。
五人の為を思えば。
答えは一つだよね。
「私は、遠慮しておこうかなぁ」
「……ですよねぇー」
「む……むむぅ……」
「確かに。今回は、護れる自信がないな」
「興味がないわけじゃないけど、行って何をするのかって言われたら――ね? 私、只の的だし」
助っ人は別の人に頼むと良い。
……なんせ、あの都市には。
私が及びもつかないような力を持つ、眠れる竜が居るから。
皆も知っている子だし。
もしかしたら。
戦いに協力してくれるかもね。
「――じゃあ。皆がお偉いさんになったら、養ってね?」
「オーケー!」
「分かりました」
「分かるな。働かせろ」
「んじゃ、俺たちはお先に上戻りますけど」
「この先、進んじゃダメだよ? 絶対に進んじゃダメだよ……?」
「振るな、マジでお釈迦だ」
今は平和な階層だけど。
次からは、また沢山の敵さんが出てくるだろうからね。
ちょっとだけ、覗いて。
手早く帰る事にするさ。
手を振って皆が歩いていくのは、ボスのエリアごとに存在する転移ゲートで。
親切設計が光るね。
「―――んじゃ、最速ぅ!」
「七海!」
「速いって!」
「遅れるなよ、ヒンジャックさん」
「おいィ! 走らないでくれよ!」
飛び出したのは、仲間内最速を誇る暗殺者さんで。
皆、とても素早いから。
すぐに、都市へ到着しそうだね。
一人、置いていかれそうだけど。
……………。
……………。
「―――さて、どうしようかな」
走っていく皆を見送り。
その声が完全に聞こえなくなる頃。
賑やかから一転し。
静寂が訪れる空間。
何だか、急に寂しくなって。
独り言の声も、広い部屋に地下してるみたいだ。
「戦闘で試そうと思ってたアイデアが幾つかあるんだけど。何なら、今からその試運転でも……んう?」
さぁ、どうしようかと。
取り敢えず、当てもなく静かな階層を歩き出した瞬間。
ポロロン♪ なんて。
頭の中に、再びよく聞く音が鳴って。
……………。
……………。
―――メール……?
先程のとは音が違うこれは。
フレンドメールに宛がわれている効果音だね。
こんなタイミングでなんて。
十中の八九、開催中の限定イベント関係だろうけど。
盗賊なヒャッハーさん達か。
大規模ギルドの団長さんか。
そのどちらかから、お誘いでも来たりしてるのかな?
どれ、どれ……と。
愉快な文面を期待して、私はメールを覗く。
『たすけて』
―――――。
―――――。
目を通した瞬間、身体に力が入る。
ユウトたちが消えた門へと、走る。
最近は余り激しく身体を動かしてなかったから、どうにもおかしな錯覚があって。
ゲーム内なのに。
息が切れる感覚。
身体の節々が痛む。
それを幻痛と感じつつ、地上へ戻る転移ゲートへ。
都市間を結ぶモノより二回りほど小さい装置へと身を躍らせ、滑り込み。
「みんなー、ちょっと待って」
前を駆けていく団体へと追い付くけど。
視界には、慌ただしく走るPLが多くて。
本当に、沢山の人が。
お忍びの上位PLが、例のクエストに参加するために走っているんだ。
何とか追い付けたのは。
ちょっと俊敏と体力が低い子のお陰だね。
「―――ルミ姉さん……?」
「―――必死そうな顔して、どうかしたの?」
「うん……うん?」
「必死な……顔?」
「今更、無職に危機感でも覚えたのか?」
好き放題言われるけど。
追い付いたなら、充分。
「私も、用事ができたんだ。同行しても良いかな」
「「え……?」」




