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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第四章:アクティブ編

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第9幕:いざいざ大迷宮




 人界三国は共に広大らしいけど。


 最大の領土を持つ国家と言えば。


 人々は、やはり。

 口をそろえて、帝国の名を上げるという。


 皇国に続き、長き歴史を誇る国家。

 その始まりは、数百年前の大戦で多大な武功を上げた英雄が築き上げた地盤に、二代目となる嫡子が君主制の仕組みを作ったことによる。


 最大の領土と。


 最高の軍事力。


 地方の仕組みを分野ごとに区分けした方式。 

 その中で、現在に至るまでの人界最大国家としての基礎が成り立ってきた。



 ……そして。



 帝国黎明(れいめい)期の経済基盤。

 それを大きく支えた資源庫の一つこそが、大迷宮プレゲトン。


 鉱山都市を語る上で。


 その存在を欠かすことは出来ない。



『ねぇ。ビスマルク』

『はい、陛下』

『――遺跡――好きだったよね?』


『………左遷ですか』

『発見されたばかりの迷宮だよ? 上手く行けば、一獲千金さ』

『出向ですよね?』

『まぁ、有体に言うとね。よろよろ、爺や』



 実際に、こんなやり取りだったかは分からないけど。

 文献的にはそんな感じで。


 領土の北部に存在した遺跡。


 その近辺を開拓する必要性。


 当時の皇帝は。

 父の代から仕える重臣……自身の相談役であった男に、この調査を一任し。


 老いたとて、余りに優秀だった男の影響もあり。


 何時しか、鉱山は都市として発展し。

 出土する豊富な鉱石とアイテムの数々により、四大都市の一角を成すに至った。

 

 

「――これが、迷宮内部……なんだよね」

「やっぱり、退屈そうだな」

「うーん。ちょっと、想像してたのと違うというか……普通?」



 そう。確かに広いけど。


 視覚的には、普通。

 古代都市と比べてしまえば、遺跡とは到底呼べないような、只の大洞窟だった。


 色味にも土の茶色が続き。


 面白味はとかも無いかな。


 未だ底の見えない大迷宮。

 その階層は数十とも、百とも、それ以上とも言われているらしいけど。


 入ってから此処まで。


 ほぼ変わらない風景。


 まだまだ上層だからかもだけど。

 殺風景というか――5層ごとにボスが居るって話を聞いてワクワクしていたのに、そういう手合いは一緒に居るユウトたちが以前倒したらしく。

 

 今回は素通りだったし。


 なんて言うか、拍子抜けというか。

 ちょっと退屈だなぁ……。



 なんて、思いながら。


 深層へ進んでいると。


 やがて、内部は様々な色合い――採掘場で見たような水や緑の色合いが混ざり始めて。


 未知なる世界を感じるし。


 深淵を覗いてる気がする。


 温暖差も、明らかに出てきて。

 一層超えるごとに、暑いと寒いが変わるのは、すごく面白くて。



「流石は未知なる迷宮だ。私は信じていたよ」 

「……………」

「私、こういうの待ってたんだ」

「はいはい」 



 これだから、オルトゥスはやめられない。


 本当に、非日常を感じられる。

 不思議と神秘を楽しむ為に出来たようなゲームで。


 あぁ、楽しいとも。


 それこそ、一日中。



 ずっとやっていたくなるような―――



「経験値寄こせェェェ!」

「「素材オイテケェェェェ!!」」



 ……………。



 ……………。



 ………あぁ、うん。




「「ヒャッハー!」」



 やっぱり。

 やっぱり、ゲームは程々が良いのかもね。

 

 普段は優しいあの子たちが。

 余程、溜まった鬱憤(うっぷん)やストレスがあるのか、一切の情け容赦なく蹂躙する姿は。


 何だか、くるモノがあって。


 ストレス解消には良いのかな。


 或いは、情操教育に悪いのか。


 ちょっと複雑な感情を抱く私だけど。

 時々、思い出したようにこちらを見てくるのは――もしかして、褒めてほしい……とか?


 いくら私でも。


 一方的な蹂躙。

 俗に言う「いじめ」を褒めるのは、良くないと思うんだけどな。



「いじめじゃありませんーー!」

「虐めっ子は、皆そう言うんだ」


「一方的じゃ――ッ――ないですよ、ルミさん。僕達でも、一撃喰らったら即退場クラスの高火力モブばっかりです――っとぉ!」


「これは、正当な防衛だ」

「だから褒めてください」

「――あー……諸君? 敵来てるんで、引き続き正当防衛カモン」



 引き続く正当防衛って何だろ。


 

 私が訝しんでいる間も。

 五人は、広い大洞窟を縦横無尽に駆けまわり。


 次々に敵を蹂躙する。



「―――キュ―――ッ!?」



 今戦っているのは、ラースラビットの上位互換っぽいけど。

 やっぱり、このゲームって。


 昔から続く、定番の敵を見ないね。

 

 スライムとか。


 ゴブリンとか。


 オーガとか、スケルトンとか。

 まだまだ、他にも地域はあるから、別のエリアとかに居るのかな。



「優斗! 死角、来てんぞ!」

「―――分かってる――右――だろ?」


「予測すんのやめれ」

「へへへッ。なら、手柄はお先にっ」


「「ヌケガケ!!」」

「一人では行かせませんよ、七海。……仲間、ですから」


「エナリアさん? 何か間がなかった?」



 後方で冷静に戦局を観察していたショウタ君が指示を出し。

 最後まで聞かずともユウトが回避。


 空いた隙にナナミが撃ち込み。


 エナが追い打ちを掛ける……。



「航さーん? 調子どうよ」

「うん。そろそろ、変わって欲しい――倒して欲しい」



 その間、ずっと。

 ワタル君は、複数の敵の注意……()()()を引き付けて、追い回されている。


 

 

 ―――バランスの良いチームだね。




 ユウトは魔剣士。

 魔法と剣技の双方にリソースを割いた複合職だ。


 どちらも取っている分。

 火力にやや心許なさを感じるけど。

 中衛である彼の仕事はトドメじゃないから、器用な構成が良いのだとかで。



 ナナミは忍者。

 隠密戦闘に特化した暗殺者で。

 

 体技にも暗器の扱いにも優れ。

 高火力高俊敏かつ、罠の解除とか索敵もこなせる便利屋さんだ。



 エナは銃士。

 ちょっと前まで環境の支配者と言われてたらしいね。


 現在では対策が考えられてて。

 色々と、更なる力を手に入れたPLも増えているらしいから、波にのまれつつあるけど。


 それでも強力かつ高速の一撃。

 遠距離からの攻撃は強力だ。

 彼女は、未だ弓を手放せないみたいなんだけどね。



 ショウタ君は炎術師。

 火属性魔術師の特化派生らしいね。


 特徴は大火力の高燃費で。

 パーティーでも随一の威力と攻撃範囲を持つ、ボス戦での要だ。



 ワタル君は、軽戦士から方向性を変えた拳闘士。


 前までは剣を持ってたけど。

 今では白手袋みたいにスリムかつしなやかなデザインのガントレットを付けてて。

 

 更には、彼自身の装備。

 身軽さと共にビジュアルにも気を配っているのか、鎧とかは着てなくて。

 黒地の背広は―――執事さんっぽい?



 それ、動きづらくないかな?



「戦う執事さん……? 妙だなぁ」

「そう?」

「おかしいですかね」

「結構人気っつうか、ありふれてると思うんすけど」



「――ねぇ、助けて?」



 確かに、鍛えている人も居るだろうし。

 格闘技上がりの人達も居るだろうけど。


 戦闘職じゃなし。

 彼等は、戦うために居るわけじゃないからね。


 友人の一人が。

 本職さんが、飲みながらぼやいてたよ。



 ……で、そろそろだ。



「――さぁ、皆。紳士なコスプレイヤーさんを助けてあげて」

「「あーい」」



 私が発破をかけると。


 後衛職を除き、一斉に飛び出す三人。


 

「――ショウタ君は行かないの?」

「後衛なんすけど」

「でも、海岸都市の防衛戦では前衛と一緒に戦ってたよね?」



 忘れる筈もない。


 あの光景は、随分異色だったからね。



「術士の役割勘違いされてそうで怖いっす」

「えぇ? 敵陣に飛び込んで爆発したり、デコイになったり、仲間を吹き飛ばすんだろう?」

「致命的に勘違いしてる……!」


 

 ―――何と、まぁ。

 アレは、本来の用途じゃなかったんだ。


 なんて驚きだろう。


 最近で一番驚いた。


 でも、となると……私の中で、ショウタ君の役割が分からなくなってきたよ。

 そう言えば、余り普段の戦闘も見ないし?


 巡り合わせの悪さもあったかね。



「……まぁ……なんでしょう。――そうだ!」

「どうかした?」

「ククク……! 此処は、今までの汚名挽回って事で。ルミさんに、俺の新たな力を見せてあげますか」


「汚名――む? 新しい力かい?」



 新たな力が欲しいとか。

 男の子が好きそうな言葉だけど。


 興味を持つ私に。


 ニヤリと笑って。


 彼は、魔法でもなく。

 私がハト君たちを呼びだすときのように、召喚の言葉を紡ぎ始めた。




「―――いでよ―――ッ! 我が爆発的しもべっ!」

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