第8幕:クエストの仕組み
一度に受けられるクエストには上限があり。
一度発生したクエストは残り続ける。
破棄するのはボタン一つ。
すぐに、辞められるけど。
破棄さえしなければ。
ずっと、保留状態で。
同時進行の扱いで、残り続ける――と。
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【original Quest】境界の深奥(進行度:Ⅰ)
図書館にあった怪しげな本。
袋へと入った、謎の白い粉。
凄く、怪しいですよね?
どの様に分岐するか。
全ては、貴方の動きに関わってきます。
まずは、やっぱり通報!
信頼できる政府・役所へ、貴方の成果を報告しましょう!
※現在、達成済みのクエストです。
【達成条件】
・都市政府へ不審物の情報提出を行う
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「クエストの保留……。そういう事だったんだ」
これが、齟齬の真実。
なんてことはなく、私が知らなかっただけなんだ。
トラフィークへと戻ってきて。
自室で確かめてみたんだけど。
これは、確認不足だよね。
今迄、幾つかクエストを受けてはきたけど。
数自体も指で数える程だし、重複なんてした事なかったから、余計に気付かなくて。
……………。
……………。
何より、このクエスト。
見つけたのはトラフィークなのに。
アンティクアでも、提出が出来た。
都市の指定はないみたいだけど。
そもそも、直接領主に提出する必要があったのかという疑問も残るし……うん。
「多分、コレ。普通に役所に行けば良かったんだろうね」
言うなれば、アレだよ。
お財布を拾ったり、怪しい不審者を見つけたとするけど。
警察に届け出を出そうとして。
交番へと届けるんじゃなくて。
偶々、偶然。
そこに居合わせてしまった友人な警視総監さんに届けてしまったような感じ。
そう、完全にやり過ぎ。
「どうなるのかな? プシュケ様、興味深そうだったし……ぁ」
そちらも気になるけど。
時間が掛かりそうだし。
興味深いと言えば。
ハト君行進曲の最中に、また【道化師】がレベルアップしていたんだよね。
もう、合計で9レベルだけど。
そろそろ変化はあったかな。
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【道化師(Lv.9)】
手指を用いた動作に補正が掛かります。
貴方のテクニックで世界を取りましょう。
【特殊技能一覧(スキルポイント:29)】
小鳩召喚(修得済み)
・消費魔力3で、ハトを召喚します。
・召喚されるハトの配色 白(80%) 混(15%) 黒(5%)
縛鎖透過(修得済み)
・消費魔力5で、縄抜けを行えます。
・特殊な拘束魔術の場合、必要魔力が上昇します。
鏡界製作(修得済み)
・魔力を消費して鏡面や硝子を生成します。
・生成される物質の大きさは消費魔力に依存。
視界生成(必要:5P)
・他者と五感の一つを共有出来ます。
・共有には、共有者の同意を得る必要があります。
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「………スキル、増えてる……!」
意外や意外だね。
ハクロちゃんと同じパーティーに居ても。
一次職の方は、一しかレベルが上がっていなかったけど。
こちらは、こんなに成長が。
……あぁ、そう言えば。
またまた、遂最近聞いたんだけど。
詳細情報の確認が出来るらしいんだよね、コレも。
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【SKILL】 視界生成 (Lv.1)
見えざるモノを見通す力。
祝福による聖者の力か。
妄信による狂者の力か。
其は、多くの情報を処理する力。
愚かしき道化は、常に俯瞰して世界を視ている。
狡猾なそのモノは、世界を嘲弄し、自身を嘲笑い続けている。
◆他者と五感を共有出来ます。
・現在、一種まで可能(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)
・効果時間は使用魔力依存
【現在Lv.1】
スキルポイントを消費し、一度に共有できる感覚を増加できます。
(Lv.1:消費2) (Lv.2:消費2)
(Lv.3:消費2) (Lv.4:消費2)
(Lv.5:消費2)
※共有には、共有者の同意を得る必要があります。
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フム……フム……。
これは中々面白い。
凄く使い勝手が良い――というか。
応用性があるよね。
もしも私の一次職が戦闘系だったのなら、とても強力なスキルになっていただろうに。
微妙に残念というか。
虚しくなってくるね。
「――まぁ、もとより道化師スキル。これも、本人の使い方次第なんだろうさ」
二次職とは、その人物の好み。
数ある職業から、こんなキワモノを選んだ私にも、考えはあって。
滑稽で面白いから、道化師。
強くて格好良いのは、違う。
そういう意味では、この有用スキルだって。
案外、私に合ってるのかな。
『あなたの選んだカードは、jokerですね?』
『なんで分かるの!?』
………とか。
視覚を共有すれば、簡単だけど。
『あなたの選んだカードは、spadeのaceですね?』
『共有してるから当然分かるよね』
『……………はははっ』
こうなるわけだし?
本来の用途は、イカサマ向けの筈なのに。
相手の同意が必要なんて、実に滑稽だ。
……にしても、ねぇ?
前々から思ってたけど。
本当に、私の二次職はレベルアップが早いよ。
一次職と違って。
こっちは、使えば使うほどに。
使うだけで、強力になるから。
私は毎日、毎時間のように。
一人で手品芸をやってるし。
あとは、【無職】唯一のスキルが影響しているのかもね。
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【無職(Lv.18)】
現代での人気職業の一つ。
まだ本気を出していないだけ。
【特殊技能一覧(スキルポイント:29)】
自堕落促進(修得済み)
・戦闘系効果なし
・戦闘職以外の成長が早まります
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無職唯一のスキル、自堕落促進。
戦闘系職業以外の成長速度がアップするスキルだ。
倍率とかは不明なんだけど。
これのおかげでもあるかな。
もしも、転職したら。
無職の隠し効果の所為で、能力値全部リセットなんだけど。
……まぁ、アレだよ。
「その時はその時だよね」
人間、積み上げたものを崩すのは勇気がいる。
それが、大切な記録やキャリアなら、尚の事。
でも、期を逃したら。
もっと大きな後悔に繋がることもあるから。
ギャンブルと同じで、見切りを付けることが大切なんだ。
その時は、すっぱり諦めるさ。
やり直せるなら、また成れる。
壊すのは慣れているからね。
常識も、日常も、価値観も。
「―――さて……さて。新たな力を得た所で――うん。……どうしようかね?」
この力をもって、敵を蹴散らす?
論外。
命を食い散らかされて終わりだ。
お祝いのスイーツパラダイス?
いや、駄目。
ゲームの中とは言え、あまりに舌が肥え過ぎるのは良くない事。
やがては現実に影響を及ぼし、自分の作るご飯が味気なくなっちゃう。
ナコちゃん達の工房へ遊びに行く?
……うーむ。
先日顔を出したばかりだし。
いきなり行くと迷惑だよね。
―――やっぱり、観光かな。
学術都市をもうちょっと細かく散策するのも良いし、かの要塞都市に行くのも良い。
本来は道中で魔物の餌だけど。
欲張りな私なら、何と。
帝国の重要都市なら、何処でも行けるようになっているからね。
本当は、王国にも行きたいけど。
海岸都市では指名手配だし。
古代都市は、ハクロちゃんに案内してもらう事になっているし。
これは、決まりだね。
「そうと決まれば、―――んう……?」
おや――メールだ。
差出人は、ユウト。
幻の迷宮攻略隊、その隊長さんからだね。
「……今日こそ、一緒に迷宮攻略――っと」
迷宮に吹き抜けるは一陣の風。
刃の一撃からは逃げられない。
つまり、鉱山都市で。
フォディーナからのお誘いだろうけど。
彼等は、よほど。
余程、穀潰しの足手纏いが欲しいと見た。
なら、喜んで行くとしようかな。
誘っといて返品は承らないけど。
「考えてみれば、初めての大迷宮だ。実に、楽しみだとも」




