第1幕:不思議な探訪記
私が住んでいる帝国には。
四つの重要都市があって。
それ等は、それぞれが独自の役割を持っているらしく。
帝国の財を富ませる鉱山。
帝国の盾と称される要塞。
帝国の剣と称される通商。
そして、現在地となる四つ目の重要都市が。
【学術都市:クリストファー】
帝国の頭脳と呼ばれる都市。
300年以上の歴史を誇るという帝国が蓄えてきた知識、その全てがこの都市に集約されると言われるまでの最先端都市……ね。
「――ルミ。なに読んでるんだ?」
「ガイドブックだよ。さっき、そこで村人Aさんが配ってただろう?」
「むら……?」
PLの楽しみ方は人それぞれだけど。
中にはコアなロールプレイもある。
その一つが、村人Aロールで。
曰く、街道から通じる都市の入口や、転移ゲートの傍に立って「此処は○○だよ」と言いながら簡易ガイドブックを渡してくれるお仕事。
案外、流行ってるらしくて。
さっきも一人いたんだよね。
帝国の南側に位置し。
王国と隣接する都市。
古い時代の遺物の上に作られ。
多くの技術と資源を供給し続けてきた四大都市の一つ。
「――そんな一つを、以前は見逃しちゃってね? 来てみたかったんだよ」
「そうか」
そんな訳で。
居合わせたハクロちゃんと一緒に、観光へ来たんだけど。
早速、見慣れない建物ばかりだね。
トラフィークはレンガの街。
フォディーナは木材の街で。
双方に、差異はあったけど。
どうやら、此処クリストファーは現代的な街並みを特徴としているみたいで、現実の日本に在っても遜色ない風景だ。
心なしか、PLの経営しているお店も多いみたいだし。
やっぱり、落ち着くから。
ここに腰を据えて商売したり、根城にする人も多いのかな。
古本屋さんとかも多くて。
薬品類の商売人も多いと。
学術都市らしく、知識の押し売りをしてきそうで。
実に興味惹かれる店舗ばっかりだよ。
「――いらっしゃいませー」
まずは、手近にあった本屋さんに突撃。
本は本でも。
厚手で面が広い、昔ながらの古本ばかりで。
「……デカいな」
「ふふ。あまり読まないよね、こういう本は……ぁ」
冷やかしをしていると。
ショーケースへ大事そうに収められた古本に目が留まる。
これは……あぁ。
「――そう言えば、ショウタ君が魔法の覚書を欲しがってたね」
「おぼえがき」
【覚書】……秘伝書?
みたいなやつで。
職業の派生的な都合で、本来覚えられない魔法も使えるから。
すごーく値が張るらしいけど、欲しい人は多いみたいなんだよね。
でも、私の言葉に。
首を傾げていた少女は。
哀し気に、口を開いて。
「まほう……使えない……」
「あ、やっぱり?」
「ん……。私は、向こう見てくるな」
丈夫そうな、白地の織物で作られた旅装。
小さな肩に背負われた、巨大な剣。
歩いていくハクロちゃんの装備は、どう見ても近接寄りだし。
魔法を使う想像が付かないし。
確かに、使えなそうで。
本来は覚えられない筈の魔法が使えるとは言っても。
術士や僧侶など、魔法適正のある職業であることが大前提だし、無理なのだろう。
勿論、私も無理で。
お土産に出来れば良いなと思ったんだけど……。
「私のお小遣いじゃね……」
覚書の値段、本当に高いんだ。
丁寧なお仕事で装丁されたことが伺える表紙。
その中には、羊皮紙の質感があるページが綴られていて。
それぞれ、売りモノらしいけど。
【火弾の心得:一万アル】
【水弾の心得:一万アル】
【風切の心得:一万アル】
【地尖の心得:一万アル】
……名前を見るからに。
恐らく、コレは。
あまり強力じゃない魔法だよ。
下位でこの値段だと。
上位の魔法は、ギルドでお金を集めてようやく買えるようなものだ。
またしても、私場違い?
商業都市に行った時と同じ心境だ。
「無職らしく、カジノで一山当てたいところだね。――ん。ハクロちゃんは……あぁ、いたいた」
彼女がいたのは、店の更に奥で。
カテゴリがまた別のコーナーだ。
どうやら。
近接職向けの指南書とかもあるらしく。
「……買えない」
「……………」
「……買えない」
「ハクロちゃんも?」
「ん。今週のお小遣い、昨日全部使っちゃったぞ」
―――まさかの週給制……!
もしかして。
お仕事ある?
何の仕事でお金を得てるんだろう。
何故だか、凄く気になってくるよ。
「立派なんだね、ハクロちゃんは……」
「ん……?」
何の仕事かは分からないけど。
私なんかよりも、ずっと立派だと分かってしまったよ。
大人の立つ瀬がないね。
……………。
……………。
古本屋さんを出ると。
今度は向かいのお店。
薬屋、雑貨屋、食料品店をぐるぐる回る。
そんな事を、何度か繰り返し。
「――いつの間にか、中央区――と」
「まんなかか?」
「そうだね。大通りを一直線で来たから、到着も早かったんだ」
都市を全部見ようなんて思ったら、一日じゃとても足りないけど。
大通りは、その中でも上澄みだから。
通り抜ければすぐで。
都市の中でも、中央にある高台。
およそこの世界では一般的でない、巨大で幾何学的な……軍事国家の要塞跡のような台地の上に、中世風の巨大な砦が立つ。
「―――あれは?」
「んん……と」
ガイドブックによると。
アレは、領主様の館兼、魔法の研究施設らしいね。
学校的な側面もあるとかで。
だから、他の領主館よりも大きいんだろうね。
外から見た敷地の広さだけでも、圧倒的だし。
でも、私達PLは相変わらず、ああいう所へは行けないらしいけど。
何時かは入れる時が来るのかな?
観光欲を抑えつつも。
上を見上げていると。
「………ルミ」
「どうかした?」
ハクロちゃんに、装備の袖を引かれて。
「あっちは? 何だ?」
「――ふむ、教会図書館だね。国ごと、都市ごとに特色はあるらしいけど。人界の都市には必ずと言って良い程あるらしいんだよ」
「ふん、ふん」
「所謂、生涯学習ってやつさ」
「……しょうがいがくしゅ?」
……………。
……………。
―――あ、通じてない。
まあ、見た目で言えば。
彼女は中学生――小学生? にすら見えるから。
知らないのは無理ないかもね。
「簡単に言うと、人生は丸ごと修行ってことだよ」
「……むずかしい」
そうとも。
だから、人生なんだ。
「じゃあ。さっきの古本屋ではないけど、一般向けの本は好きかい?」
「ん、好きだぞ。釣りとか、推理物なんかも見る」
……渋い。
見た目に似合わぬとは、この事かな。
「良いね、とても大人っぽくて。じゃあ、ちょっと寄ってみるかい?」
「ん……!」
なら、次はコチラ。
ハクロちゃんと一緒に、図書館散策と行こう。
教会図書館は、大体三階構成。
一階は子供向けの書架。
二階は一般向けの書架。
それで、三階がPL向けになる攻略スペースで。
【叡智の窓】があったりもするけど。
「六……七割方なのかな。神話関係が多いよ、やっぱり」
やっぱり、教会だからね。
過半数はこの手の書籍で。
それ自体が、オルトゥスのストーリーの根幹だし。
学習していく事で後々の理解が深まると思えば、積極的に活用するべきなんだろう。
「ちょっとお勉強していく?」
「勉強……?」
「そう、お勉強」
「ん。勉強、嫌いじゃないぞ」
「―――素晴らしい。じゃあ、早速行こうか」




