第30幕:スイカ、スイカ
「―――スイカポーション、スイカ収納BOX、スイカ糧食、メロン・ウォーター……? 西瓜パーティですね、これは」
「報酬がなぁ……」
「今夜はパーリナイ?」
クエストから一週間が明けて。
イベントは終了したんだけど。
私たちは、夜にゲーム内で集まって報酬をチェックしていた。
で、結果はこの通り。
蓋を開ければスイカだらけ。
報酬の中に「西瓜」と付いていない物がない。
でも、性能としては。
優秀だね、このアイテム。
少なくとも私からすれば。
通常の下級ポーションより、ちょっぴり性能が良い感じで。
BOXの方は、収納スペースを微量だけど拡張できるみたいだ。
他は嗜好品とかもあって。
着色料たっぷりのクッキーを思わせる糧食。
赤と緑で不思議な色合いのジュースだとか。
美味しいのかな?
とても興味がそそられる。
「収納BOX。これは……ぁ。アイテムの保有量も増やせるみたいです……!」
「え? ――マジじゃん!」
「何気に重要アイテムだな」
流石に、三人は大喜びだね。
私はアイテムを沢山使うという事が少ないし。
使う前にやられちゃうから。
こういう喜びを感じにくい。
やっぱり、戦うのって大事だよね。
そういう意味では、イベント後半では私も多少スイカを割ったし……ぁ。
―――そう言えば……。
「確か、割れたスイカは○○が美味しく頂くってクエスト文にあったね」
「――では、もしかして」
「このスイカポーション、あの悪玉かよ」
「えぇ……ま? 南無南無ぅ」
そう、私達が。
PLが美味しく頂くという事だったんだ。
耳の奥で「キュッキュ」っと幻聴が聞こえ。
思わず、躊躇してしまうけど。
食べることが彼等への弔いだと思えば、それは正しい事なのかもしれず。
「どうする? 色々と選択の幅は広いけど」
「取り敢えず――保留?」
「航と将太が先にログインして調査に行ってくれてたらしいからな。戻って来てから決めよう」
「では、お二人に味見してもらってから決めますか?」
「おい、腹黒」
「――ホラ、ルミねぇ! 恵那腹黒だよ!? ルミねぇは騙されてるんだよ!」
恵那も、相変わらず冗談が好きだね。
昔と、全く変わらずに。
じゃれ合う幼馴染三人。
その微笑ましい光景と声を軽く聞き流しながら微睡んでいると、現実に引き戻すような着信があって。
『クエストお疲れ様ですわ!!』
「―――んう? ……ふふふ。やっぱり、律儀な子だね」
「メールですか?」
「誰からなのっ!!」
覗き込むように両脇から詰められるけど。
共有してないから、見えよう筈もない。
……でも、むむ。
これは、良くないね。
この反応は良くない。
私のメール履歴が、昔のように厳重チェックされてしまいそうで。
「マリアさんだよ。ほら、イベント中私が一緒に居た、五位の人」
「ギルドランク、五位な」
「………むぅ」
「………フレンド登録したんですか?」
「うん。面白い子だったよね」
二人も、よく覚えているだろう?
私とずっと一緒に居たんだから。
上位ギルドだけあって、彼女はやっぱり忙しいみたいだけど。
こうして頻繁に連絡をくれるのも嬉しいよね。
「あんまり良い噂聞かなかったんだけど……大丈夫なの?」
「大丈夫って――何が?」
「「……………」」
「まぁ、ルミねぇに限ってな」
「……………? あ、そうだ。皆の事をギルドに誘いたいって言ってたよ?」
「セールスお断り!」
「流石にその気にはなりませんね」
「大規模ギルドなんて、自由に冒険がモットーと相反するしな」
そう言うと思ったから。
私からお断りを入れておいたけどね。
ゆっくり、他愛もない会話で時間を潰し。
ギルドホームでの時間は過ぎ去っていく。
ショウタ君とワタル君。
そろそろ帰って来るんじゃないかな?
◇
「――情報収集ご苦労さん。どうだった?」
「やっぱり、BOX大人気だよ」
「必要Pは他のよりかなーり多いが。一点ものだし、交換しない手はない」
「だよねぇ……?」
「これからも、継続して類似アイテムが出てくるかもな」
前々から騒がれていた問題。
オルトゥスでは、ポーションなどの必須アイテムを収納できるスペースが小さくて、使い過ぎるとすぐ枯渇しちゃうから。
一つ一つのアイテム収納を増やせるこのアイテムは、救世主。
取らない手はないと。
それが最優先らしい。
「じゃあ、取りとして――残りはスイカポーションかな?」
「回復量は普通だけど、限定品だし、個別スタックだしね」
「非常用に残しておくか」
「それって、確か……」
「エリクサー症候群ってやつ?」
結局最後まで使わないやつだね。
「……それで」
「これなんですけど――どうぞ、御嬢様」
「――うむ? うむ。くるしうないね」
今着ているのがドレスだからか。
気取ったワタル君に渡されて。
手に取ったのは、活字の文面。
私が中心に座ってたから。
両サイドと、後ろ側から一斉に覗き込まれる状態だ。
……………。
……………。
で、これは【オルトゥス・タイムズ】
情報収集系二次職の人たちが多く在籍するギルドの新聞だね。
今では貴重な情報源。
多くのプレイヤーが愛顧している新聞だけど……んう?
「――海洋都市で行われたミズコン。優勝者はクエスト黒幕!? ……ね。記事になるとは思ってたけど、結構細かいな」
「………これさ」
「ルミねぇさんの事書かれてますね」
「名誉優勝――?」
「コンテストに前後して都市に頻出していた白翼の精霊さんとの関連性は濃厚……と。ふふ、鋭いねぇ」
「実際、どうなんですか?」
多分、私の事かな。
練習と話し相手を兼ねて、よく召喚してたから。
白翼の精霊さんは。
詰まる所ハト君で。
考察を交えた良い記事だよ。
もしかしたら、道化師人口増えちゃうのかな?
勿論、優勝者であるマリアさんの事や、インタビューの記事も。
その後発生したオリジナルクエストの事もあり。
とても良い感じに書かれているよ。
「これね? ミズコン、PLが主催だったから。司会さん、【O&T】の広報長らしいよ」
「――へぇ……そうだったんだ」
通りで、ここまで密な文を。
間近で見ていたんだから、当然か。
あの司会さんも良い人だったね。
お客さんとして、一番パフォーマンスのやりがいがある部類の人だ。
「――で、NPCさん達に尋ね人にされてるらしいですけど」
「海賊貴公子、とうとう指名手配?」
「困ったね。そうなると、暫くはあの格好で海岸都市に行けなさそうじゃないか」
「いや、多分さぁ?」
「あの格好じゃなくても行けないですね」
「見た目で絶対にバレるからな」
そうかもしれないね。
少なくとも、ほとぼりが冷めるまでは。
行ったら、おちおち観光も出来ないかもしれないし。
別の都市観光に行こうかな。
それこそ【学術都市】とか。
「――或いは、変装アイテムがあれば行けるかもね」
「道化師のスキルとか?」
「うん。まだ次は未定だけど、これがゲームの醍醐味。今から楽しみだよ」
果たして、次のスキルは?
観光もそうだけど。
自分で使い方を考えるという楽しみが広がって。
「じゃあ、色々終わったって事で――祝勝会でもするか」
「何処で?」
「二次会予定地は?」
「御社の保養地は?」
リーダーさんの放った言葉に。
口々に反応する団員達だけど。
随分と、遊ぶ気満々じゃないか。
もう、すぐにでも夏休みが来るんだから当然だろうけど。
「じゃあ、昼間は私の家で。夜は店主君の所に押し掛けるのはどうだい?」
「――きちゃあ!」
「――決まり!!」
「……はは。ノルドさん、アポなしで大丈夫かな」
「アレで喜んでくれますからね」
「あとは、親御さんには行き先をちゃんと言っておくんだよ?」
「「ウェーイ!」」
「お世話になります」
店主君には悪いけど。
もう、私たちはその気満々という事で。
後は、念のために掃除機を掛けたり、寝室へ入れないようにしておいたり……。
おやつはどうしようかな。
夏だし水菓子が良いかも。
「―――じゃあ、私は良く冷えたスイカを用意して待ってるね」
「「スイカはもういい(です)」」




