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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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第29幕:いずれ、また




「―――本来、只人の手に余る存在たる【深層級】の怪物。神代の遺物――綱獣。都市守護者が権能を無効化できる海洋伯だったのも要因ですが。よもや、あそこ迄弱体化していようとは……ふふふふっ。何たる誤算」



「やれ、やれ。そう上手くは行きませんか」



「では、私も戻ると―――っと」



 先手必勝と、“一閃”を繰り出し。


 軽く往なされるも、二撃、三撃。


 当然、逃がすつもりなどない。

 コイツは、サブクエストに討伐目標として設定されてんだからな。



「――手荒ですねぇ、異訪者殿」

「いや、どっちが」

「ブーメランです」

「いきなりあんなバケモノ呼んだアンタには言われたくないな」

「予想、的中だったね」

「犯人は現場に戻ってくるって、なぁ」



 んで、俺達だけとも思ったけど。



「さっきはよくもやってくれたな」

「料理人を消し炭にするなど、許せない事です」



 存外に、来るもので。

 トゥルーさんやピックさんは怒り心頭らしい。


 PLの大多数は、サブの事なんて忘れてるか、黒幕の存在自体知っているか怪しいが。

 この人数が集まっただけマシか。


 報酬も独占出来るしな。


 だが、ボス戦ってのは人数のバランスが大事。


 リスクを低下させ、報酬も少なくするか。

 リスクを覚悟で、高い報酬を望むか。

 最適なラインを天秤に掛けることが肝要だが、如何(いかん)せんアイツは未知数過ぎて……どうだ?



 勝てる確率は。



 ほぼないよな。



「――――ふふ――では、皆様」

「「……………ッ」」




 


「もう帰投しますので、見逃して頂けませんか?」






「「―――ふざけんなぁぁぁ――――ッ!」」

「おや……?」

「逃がすつもりはありません。貴方の悪意は、強すぎる」



 らしいが。

 

 彼女が言うなら間違いはないな。



「恵那判定、黒だ。お前さん、救いがないってよ」

「つまり、ダメ人間!」

「「……………?」」


「それは、困りましたね。これでも、私は信心深いのですが」



 何か、アレなんだよ。

 コイツ、何処かルミねぇに似ている気がするんだ。


 外見、というだけではない。

 

 恵那の判定も厳しいし。

 七海も、やたら気が立っている。

 それは、所謂自分が好きなものの偽物が出回っていたりする場合の心境だろう。


 トワさんの所為?


 設計者の趣向か?


 ゲームの中だし。

 あの人開発者だから、本当に何でもアリなんだよな。



「んじゃ、続けるか……?」 

「仕方ありませんね。少しだけ、お付き合い致しましょう」

「――その言葉を」

「――待ってましたよォ!」



 言う前から飛び出してたよな。

 不意打ちする気満々だったいぶし銀PL達は、争うように技を繰り出し。



 術士系3rd【闇術士】のスキル“黒影羂索”

 羂索(けんさく)とは、縄状の罠の事で。

 闇属性は地属性の派生だが。

 物騒な名に反して、こういう捕縛などの補助的な魔法が多くを占めていると聞く。



 戦士系3rd【武闘家】のスキル“二ノ白打”

 ダメージ量もかなりのものだが。

 一瞬で二撃分の攻撃を与えられるため、障壁や一撃では倒せない敵などに有効。



 ―――どちらも、有力な技だが。



「その技は、どちらも先に拝見しましたね」

「―――ッ――成程」

「見切られたか……ッ」



 懐から現れる短剣。

 それが、縫うような動きで二人の首筋を狙う。



「―――っと。協力しますよ、お二人さん」

「僕も、忘れずに」



 俺が攻撃の軌道を逸らし。

 航が懐に潜り込むことに成功する……が。


 拳の一撃は無手に止められ。


 警戒した航はすぐさま後退。


 追おうとする奴は、俺が押し留め。

 結果的に、前衛で黒幕と相対しているのは俺一人……と。



「―――ねぇ。僕の一撃、渾身だったんだけど」

「ヤバいな、コイツ」

「レベルが違う、と」

「一度殺された身からすれば、バケモノです」



「ふ……防御だけではありませんよ。では、こちらからも御一つ、まず一人から」



 一人から……一人……?


 おい、待ってくれよ。

 俺だけ至近距離で――ヤバい、と思った瞬間に。



 巨大な魔方陣が現れる。



 同じのが―――二つだ。




虚像(フェイク)―――”極光の一条星(ブライト・スフィア)”」

「将太ァ!!」



「―――“紅蓮咲き”―――ッ!!」



 巨大な熱光線が二筋の光明を創り出し。


 冷たい感覚が背筋を撫で。

 眩い閃光が目を支配して。


 援護を求めた瞬間には。


 俺は、身体が吹き飛んでいく感覚に身を委ねる。


 ……………。


 ……………。


 ―――おぉ、あっぶな。

 

 危うく、死ぬかと思ったわ。

 バカげたビームではなく。

 仲間の爆撃で無様に吹き飛んだ俺は、減った体力を回復せんと中級ポーションを含む。

 


「……聞きたいのだが」

「何をしているんだい? キミらは」

「「え? 救助?」」


「「……………」」



 果たして、仲間に攻撃魔術の爆風を喰らわせるのが救助かは、議論の余地があるが。

 キルされるよりはずっとマシだ。


 だって、防壁とか無理だろアレ。

 盾や武器で受け止めた所で、諸共蒸発する未来しか見えん。



「―――おい、海洋伯さんどこ行ったんよ!」

「早く来て! 英雄様!」


「彼は、今頃封印の再構築に追われている事でしょう。私に構う暇などありませんよ」

「「マジで?」」

「マジです。マジマジです」



 アレを唯一防いだ男。

 かの12聖天の助力は期待できないそうで。



 ……………えぇと?



 ……………アレだ。



「―――あ、帰っていいですよ。というか、帰って?」

「宜しいのですか」

「「どーぞ、どーぞ」」


「あぁ。勝てんわ、これ」

「私も、仮にもギルドマスターだ。悪戯にキルされたくはない」



 そう、やっぱり勝てそうにない。

 匹敵するかは分からないが、思えば12聖天と対一でやり合ったような化け物だ。


 このサブクエストは。

 明らかに、地雷の香りがする。


 見切りを付けた俺たちに対し。


 怪訝な顔で立っていた黒幕。


 だが、調子を取り戻したか。

 様になる一礼をした後、奴は別れ話のように切り出す。



「―――私の名は、アール。ノクスが伝令者。以後、お見知りおきを」



 ノクス……名だけは知っているが。

 まさか、直接正史に絡んでくるような大規模な組織だったなんてな。


 フォディーナのお使いクエは前振り。


 初出の関連クエだったって事か……?

 


「伝令……デンレイ。つまり、使い走り?」

「下っ端さんですか?」

「「煽るな!!」」


「……貴様の目的は、何なんだ」

「何故あのような事をしたんだい? 考察スレに投下するから、言うんだ」



 ノリノリだな、トゥルーさん達も。

 中堅の中でも、有力ギルドの一員、そしてリーダーとして名が売れている二人だが、やはりゲーマーらしい。


 メタ全開の俺たちに。

 NPCである男は、暫く考えるように首を捻っていたが。


 一つ、頷くと。


 両手を広げる。



「宵も、明けも。全ては同じ」




「光とは、闇より出ずるもの」




「沈むか、昇るか。世界の真実は――起源(オルトゥス)は、貴方達異訪者によって決まる事でしょう」



 ……………。


 ……………。


 それは、恐らく世界の根幹に関わる謎々。

 様々なクエスト、遺跡、文献などで、この世界は俺たちに断片の情報を見せて来て。


 これが繋がった時、考察は完成するのだろうが。

 俺たちには長らく疑問があった。



 ―――そもそも、異訪者を呼んだのは誰だ……?

 


 異訪者は、この世界における異物だ。

 ある日を境に現れ始めた。

 それは、俺達にとってはサービス開始の日という事に他ならないのだが。


 王様に召喚されたわけでなく。


 雑に導入されたわけでもなく。


 クラス転移という訳でもない。


 帝国や王国の貴族も、知らない。

 一体誰が異訪者を呼んだと設定されているのかは、考察掲示板では当然の議題で。



「――何か、この人メチャメチャ知ってるみたいだね」

「全部聞きたいんすけど」

「ネタバレOKですか?」

「ふふふ……いずれ、分かりますよ。では、皆様。また、会うとしましょう」



 そう言い残し。

 伝令アールの姿は、影と消えて。



 最初から出来たのか?



 完全に遊ばれてたな。




   ◇




「―――皆、こんな所に居たんだね。レイド君達に聞かなきゃ分からなかったよ」



 あの後、俺達はそのまま感想戦と洒落込んでいたのだが。

 不意に、遠くから呼び声がして。

 そのまま歩いてきた海賊貴公子。

 

 どうやら、盗賊たちに聞いたらしい。


 終わるまでは一緒に行動してたしな。


 で、やってきてすぐ。

 彼女は興味深そうに地面を見下ろす。

 

 本来、都市内は不壊オブジェクトだが。

 大地が三本もの線で大きく抉れている様子は、印象に残るようで。



「あれ? 黒幕さん、二本も三本もビーム撃ってったっけ? 私が逃げた後に?」

「「………えぇ……と」」


「ん……黒幕の討伐。――あぁ、そういう事。どうだった?」



 察しが良いというよりは。

 相手の心を見透かしているというべきか。


 勘付いた彼女は。


 成果を問いかけ。



「……うぅ。逃げられました。ルミねぇさん……」

「おぉ、よしよし」

「「!」」



 目聡くて腹黒いのが、すぐさま飛び込む。

 外で恥ずかしくないのか?

 


「――また先を越され……ぐぬぅぅぅ……腹黒恵那ぁ……!」

「毎日新鮮で良いね、将太」

「現実逃避すんな航」


「――じゃあ、帰ろうか。お弁当も、水筒も持ったかい?」

「「はーい」」

「では、帰ろう。えぇ……と? トゥルーさんとピックさん? 機会があれば、また競いましょうね」


「んじゃ、お二人さん。また何処かで」

「バイバイです」

「共闘、有り難うございました」



 言いたい事だけ言って。


 帰り始める遠足気分達。


 呆気にとられた様子の二人は……うん。



「「……………」」

「色々と、すみません。んじゃ、失礼します」

「本当にすみません。それでは」



 マジで、まともなのは俺と航だけか?






「……何だったんでしょうね、彼等は」

「全員まともじゃねぇな……色々と」




「―――――ツルーさん? フレンド交換いかがです?」

「―――――トゥルーだ。……あぁ、するか。この奇縁にあやかって」

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