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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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第27幕:海岸(戦)線




「面妖な男だな、彼は」

「「……………」」



 望遠鏡をのぞき、地平線を臨む男。

 この都市の守護者へと、言いたい。


 いえ、あの人女性ですと。


 そう言いたい……のだが。


 状況が状況だけに。

 先の申し訳なさもあり、俺達は誰一人口を挟まず沈黙を貫く。


 それは、昔動画で見たアレ。

 バジリスクというトカゲが水の上を走っていく映像と酷似した何か。


 怪物に追われながらも。


 ルミねぇは、女性を抱えて逃げていく。

 足元では飛沫が上がり、水面は日光で煌めき……うん。



 恐らく、アレだ。


 

「―――ガラス……か?」

「「え?」」

「あれだ。ガラス板の上を走ってないか?」


「―――あ、確かに」

「微妙に光の反射が違って見えますね」



 だから、見えずらい。

 何らかのスキルで生成した板の上に一瞬だけ足を付け、また次の板へ……と。

 


 巨大な魔物を振り切り。

 

 

 彼女は走り続けていた。



 ……………。


 ……………。



 で、こちらの状況はというと。

 ルミねぇが崖から飛び降りてすぐ、俺達五人はそちらに気を取られ。


 後ろで何かドンパチやってたが。


 そっちのけで崖下を見物し続け。


 あの男――黒幕には逃げられたらしく。

 領主様も、現実逃避のように隣へやって来て、望遠鏡で海上を見ていて。



「――あのー、その節は、すみません」

「「ごめんなさいです」」

「……気にするな。自由でこそ異訪者だ」



 流石海洋伯。

 海のように深い懐を持っている。


 普通、怒るところで。


 キレても良い事だが。

 


「だが、今度は――今度こそは、協力してもらうぞ」

「「ウッス」」


「都市への攻撃は、我らが引き受ける」

「攻撃を」

「引き受ける」

「その通りだ。故、奴を沈める役目は、頼むぞ。あらましは、纏めて説明しよう」



 望遠鏡を覗いたままで。


 俺たちへ話す激強領主。



 ―――ゲームの都合と言うべきか。


 

 NPCが倒すのではなく。


 PL達にやらせたいと。


 アニメや小説で、味方側の最強キャラは大体不在とか、防衛側とか。

 つまり、そういう事だろう。


 望遠鏡を懐へとしまい。


 海洋伯は、去っていく。


 PL達を招集しに行ったのだろう。

 マジで、アレを倒すには数十人程度じゃ全く足りなそうだ。



 ―――確かめてみるか。



「なぁ、ナナミン。鑑定はどうだ?」

「………………」

「「ナナミン?」」


「――うん、ヤバいよ……? “情報看破”」





―――――――――――――――――――――――

【Name】   三身の綱獣(ベースティア) (Lv.40)

【種族】  獣亜公“縒り綱”


【権能】

・古の遺骸(能力値喪失)

・ホッシン(超速再生)

・楔の獣(レベル低下:大)


【基礎能力】          

  

体力:**(5000)  筋力:**(200)  

魔力:**(100)  防御:**(30)  

魔防:**(30)    俊敏:**(30)  

―――――――――――――――――――――――




「―――っと、コレは……」

「大規模レイドのボスだね、どう見ても」



 いや、そもそもだ。


 この文字化け……修正値は。



「普通、カッコ内の数字って、鎧とか能力の補正だよね?」

「えぇ、その筈ですね」

「――ってーなると……修正値だけであの能力ってか?」



「「バケモンかよ!!」」



 あくまで、一部だけであの能力値。

 恐らく、文字化け部分は喪失しているのだろうが。

 本来の力であったのなら、想像も出来ない程のステータスを持っているという事で。



「あれなる獣は、神を縛る三身の綱が一つ!!」



 やがて、集まっていたPL達へ。


 数百は居るであろう者たちへ。


 海洋伯は高台で声を張り上げ。

 クエストの内容であろう条件などを紡いでいく。



「引き上げられた綱を、再び海へ還す! それが我ら、そして諸君らの役目だ!」



 海洋伯の話を訳すとこうだ。

 

 彼の擁する騎士団が防衛。


 俺達PLが敵の殲滅をする。


 殲滅――という言葉からも分かるが。

 今、こうしている間にも楔の獣とやらはポンポンと触手から眷属を生み出し続けていて。


 その眷属ってのは。


 まぁ、あの果実だ。



「発生した新種の果実が、魔力の影響により魔物化している! 眷属を迎え撃つ前衛と、本体に攻撃を入れる後衛に分かれ、心して掛かるのだ!!」



 つまり、そういう事らしいが。



「――じゃあ、スイカが暴れてるのって?」

「設定的には、あのレイドボスが復活した余波で変質した、って所なのかな」

「マジかよ、農薬ってこえー」

「薬も、行き過ぎたら害だね」



 曰く、魔力は力の根源らしいが。


 毒にも薬にもなり得るらしい。



「神の楔が解かれようものなら、この都市の壊滅は免れない――が。封印ができぬわけではない。異訪者たちよ。存分に青果を挙げろ!!」

「「―――――おぉぉぉぉぉぉッ―――――ッッ!!」」


「……青果ぁ」

「スイカぁ……」



 思わぬ大規模レイド発令に。


 PL達も、湧いているようで。

 


 とうとう、火蓋が切られる。



 待機していた敵が襲い来る。



 海上で浮かぶ巨大な獣から生み出され。

 どんぶらこと海を浮かび、砂浜に打ち上げられた事で、都市へ襲い来る大小様々なスイカ。



 これが、メインのクエストという訳だ。




   ◇




「「――――キュキュ―――――ッ!!」」

「「うらぁぁぁ!!」」



 逃げるのでなく、自ら襲い来るスイカたち。

 攻撃力や、体力のパラメーターも上がっているらしいな。


 逃げないスイカたち。

 つまり、割り放題で。


 ある意味ではボーナスタイムだが。

 体力管理次第で、やられる可能性もありそうだな。


 PLは二つの集団へ分かれ。

  

 近接型は前方でスイカを相手取り。

 遠距離型は、後方で楔の獣へと攻撃を続けるといった戦争スタイル。



 で、俺達一刃の風は……全員前衛だ。



 その方が、稼ぎが良いだろうからな。


 

 将太には必要な時にスイカを吹き飛ばしてもらい。

 その間に体力回復と態勢を整える。



「――でも、三身の綱……やっぱり、出雲の国引き伝説?」



 スイカにヘッド? ロックを掛け。

 頭……玉を砕き割りながら、航が呟く。



「知っているのか航!」

「流石歴史オタクだな」


「――んじゃ、ホッシンって?」

「……何だろうね」

「「おい」」

「だって、そんな言葉神話には出てなかったし」


「―――そちらは、仏教用語ですね。三身(さんしん)説と三身(みつみ)をもじったのかと」

「知っているのか恵那!」

「流石神社の娘」


「何か、デジャブってない?」

「というか、お寺と神社は完全に別物じゃない……?」



 ゲームゆえに。

 俺達は、雑談交じりにスイカを割る。


 やり方は幾つかあるだろうが。


 集中力を切らさず、継続して戦うには、やはりこれが一番だろう。



 んで、何だかんだと。


 色々考えてはみたが。


 ゆっくりと海岸へ近づいてくる獣は―――やはり……。




「―――――オオオオォォォォォォォ―――――ッ!!」




「「やっぱりキモイッ!!」」

「メドゥーサみがあるな」

「何かに似てるって思ってたんだけど、アレだわ。真実の口とかいう、手入れると占い出来る奴」

「観光地によくあるヤツな―――お?」



 矢や銃弾の雨(あられ)と。


 攻撃を受け続けた影響か。

 やがて、楔の獣自体が雄叫びを上げ、動きを始める。


 髪や髭を構成する触手が蛇のように二つへ割れ。


 空いた穴からは―――断続的に岩が射出される。


 都市への攻撃だ。


 護り切れんのか?


 俺達は、思わず都市へ振り返るが。

 


「――鋼殻騎士団! 帆を張れ! 民を護る傘とせよ―――――防壁展開ィ!」

「「アイアイキャプテン!! ――“天蓋盾(てんがいじん)”」」



「……騎士団…だよな?」

「どっちかというと海賊の返事が近いんじゃないかな」



 気の抜ける声を振り絞り。

 重厚な鎧を纏う男たちは、空へ向かって大盾を掲げ。


 半透明の壁が広がる。

 

 巨大な岩を弾き砕く。


 ―――2nd……【騎士】系のスキルだろうが。

 おそらく、もっと上位のクラスだな。



 そして……彼等の長、蒼の領主は。

 


「凱旋せよ―――英雄の大艦船(テセウス・パラドクス)


 

 何と、巨大な船を生成。


 しかも、空中を飛ぶ奴。


 砲門からは次々と弾が射出され。

 海から飛来する岩を砕き割り、三身の綱獣へも降り注いでいく。



「……どちらがレイドボスなんですかね」

「「……………」」

「ヤベェでしょ、アレ」



 あそこまで行くと、いずれPLにも同じ事が出来るのか不明だが。

 何らかのスキルと考えて良いのか……?



 海洋伯こと、【蒼穹の魔砲】カンケール。

 12聖天は、それぞれが象徴とする色と武器の名を冠するという。


 その一人とは聞いていたけど。

 

 こっちもこっちで規格外だな。


 断続的に響き渡る砲の着弾音。

 都市に飛来する攻撃が防がれる音。



 ―――まさに、戦争。



 海岸線では近接職がスイカを割り。


 後方では、遠距離担当が矢を、弾を射出する。


 特に、遠距離を得意とするPL達は。

 今回のイベントは余り活躍の機会が恵まれなかっただろうから、万々歳だろう。



 ―――だが、それでも。



「スイカの数多過ぎ!! これ、飲み込まれるよ!」

「だな。かなりマズい」

「優斗、どうしようか」

「一旦引きますか?」


「……………」



 どうするべきなんだろうな。

 スイカが凄い勢いで減っているように、PLも次々と数を減らして。


 このままだと、いずれ。


 都市へも被害が行くか?



「―――いや、続行する。後続が来るまで待つぞ。気張れ将太、お前が要だ」

「しょうがねぇなぁ……!!」



 前衛に、何故か広範囲爆撃可能な魔術師がいて良かったな。

 狙った訳ではないが、結果オーライだ。


 今回は、クロニクルと違い、何度でも再参加が可能。

 好きなだけ戦える。


 ならば、俺たちは。

 復活した連中が来るまで耐えて待てばいい。



「そら、すぐに後続の連中が……ぇ」

「「えぇ……?」」



 ―――多くないか……?


 

 新たに戦列へ加わってきた連中。


 その数は、まず百人以上は居て。



「さぁ―――始めなさい! 平らげるのです!」

「「イエス、イエス」」



 ……あれは―――



「あの人って……誰だっけ」

「ルミさんが抱っこしてた人だろ? ……何かこっちみてっけど――おい、優斗」

「俺の所為にするな」

「いや、女関係は大体お前だろ」


「痴情の(もつれ)れだね?」

「不潔ですね、優斗」 



 分かっててやってんだろコイツ等。



「あの人が戦慄奏者のギルドリーダーらしいよ」

「みたいだな。さっきは気付かなかったけど、思えば聞いてた特徴通りの令嬢って感じだ」



 GR五位のマスター……マリアさん。

 団を率いて現れた女性は、武器を持つでもなく、その後方で瞳を閉じ。



「―――朱き焔で鉄を討ち、輝く威光で不定を融かせ」



 そう、歌い始める。



 で、団員たちは踊り始める。


 各々が、武器を振り回して。

 

 まるで、アイドルのファンたちのように。

 特攻、特攻―――他のPL達に混じり、スイカへと無慈悲な攻撃を初めて。



「――良い所に大所帯の補充が来たな」

「だな。コレで、まだ行ける」

「肉壁万歳」

「流石は、サーバー最大の大規模ギルドですね」




「―――リア――ソール……太陽の権能よ! 光を与えたまえ!」




「範囲極大! 全体強化ですわ!」




 新たな肉壁(せんゆう)たちの到来に。

 改めて、前を見て武器を振るい始めた俺たちだが。


 何故か、全身に。


 全身に力が漲っていくのを感じて。


 それに、やはり。

 あの女性の視線はコチラへ向いているようで……あ。





 ―――――そう言えば、ルミねぇは……?

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