第26幕:厄災の前触れ
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【Original Quest】 厄災の前触れ
緊急クエストが【海岸都市】にて発生中です。
【鋼*神***ス】の封印が弱体化中。
終末イベントへ繋がる恐れがあります。
PL、NPC間で協力して楔の獣を討伐しましょう。
貢献度によって、イベントクエスト【悪玉スイカの乱】
の報酬へと使えるポイントを取得できます。
【勝利条件】
・楔の獣の討伐(0/1)
・黒幕の討伐(sub)
【敗北条件】
・海岸都市の壊滅
・海岸都市領主の死亡
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―――これは……?
突如表示されたクエストメッセージ。
書いてあるのは非常に物騒な内容で。
終末イベント?
Xdayみたいな、世界の終わりが描写されるような?
でも、確かな事は。
現在私はその中心部に居るという事で、すぐそこにいる男性NPC――アールさんが、それを起こしたという事。
……微弱な地震が発生する。
傍にいた二人の男性も。
いち早く異常を察して。
「―――ッ―――“黒影羂索”」
「“二ノ白打”――むぅんッ!!」
禿頭でガタイが良い男性――トゥルーさんが影の様な綱を展開し。
合わせるようにピックさんが拳を打ち込む。
二人共、凄く強そうだね。
私は、何もできないから。
辺りを見回し。
状況の確認を取った後、別に行動を開始する。
「司会さん、NPCさん達の避難をしてあげようか」
「――えぇ……そう――そうですね……!」
地震もどんどん大きくなっているし。
人々の避難が優先だろう。
あんな大層なメッセージ。
何もない筈などないから。
叡智の窓が浮かび上がるのも。
理解できているのも私達PLだけだし、説得にも時間が掛かるから、すぐ取り掛からないとね。
「PLの皆さんッ! クエスト確認は終わりましたか? 神様にお祈りは? よく分からないですが、その神様が復活しそうとの事ですので、急ぎ住民の避難を!! 内陸へ!」
「おい、聞いたか! ショーは終わりだ!」
「住民さん、避難です!」
「「―――急げ、急げ―――ッ!」」
案外、観客だったPLさん達の反応も早いね。
司会さんの言葉にも。
確かな力があって。
「―――くそッ、ちょこまかと……!」
「さっきの縄は?」
「魔力切れだよ!」
「ふふふ――中々どうして……お強いですね」
―――あっちは、水着姿で楽しそうだね。
高台で戦闘する三人。
ビーチバレーの延長――場外乱闘みたいな様相だけど、うち二人は必死で。
対して、アールさんは。
おそらく、黒幕さんは。
凄く強いみたいで。
二人の攻撃を、無手で軽く往なし続ける。
―――そんな中で。
「ちょっと! これは一体どういう事ですの!?」
一人の女性がステージへ出てくる。
彼女は、控室前で話した子だね。
出てくるのは良いけど。
逃げなくて大丈夫かな。
今、この立地はやや不安定だから―――あぁ。
三度、発生する大地震。
震源地は、恐らく海の方角で……近いね。
「……離れて」
「――きゃあ―――! って、お姫様だだだだだ……!?」
無職でも。
俊敏は、多少高めなんだよ。
折角豪華に作ったステージが。
高台に拵えた特設舞台が。
激しい戦闘の余波と、地震の影響――押し寄せる津波の影響もあって、崩落していく。
そこから。
女性を抱えて内陸へ移動と。
いや、随分と盛り上がってきた―――おや?
……………。
……………。
「いや、いや。中々楽しませてもらいましたよ。催し事とは、かくも面白きものでしたか」
「―――おい、色男」
「……あのバケモノは――何だい?」
戦闘を中断し、黒幕を睨みながら。
警戒するように地平線へ視線をやる彼ら二人。
気にもなるだろう。
私だって、凄く気になるんだ。
それは、海を割り開き。
大津波と共に出現した。
体高は、それこそニ十メートル以上。
水苔が張り付いた、白の大理石に近い色合いの体表には、タコの様な多量の触手。
石像みたいな外見だけど。
顔に当たる部分は怒り顔。
まるで、日本神話の神様みたいな外見。
顎周りの長い無精髭は、無数の細かな触手らしく。
……うーむ。
「―――気持ち悪いですわ―――っ!!」
だよね?
私と女性がそちらへと気を取られている間。
突如、視界が眩しくなって。
「「………なッ!?」」
「では、忙しい身ゆえ。余興は終幕と致しましょう」
「虚像―――”極光の一条星”」
さながら、レーザービーム。
魔法とあっても圧倒的な技。
至近距離にいた熱き水着男たちは瞬時に飲み込まれ。
息をのむ間もなく。ポリゴンと消える。
……やっぱり。
あの人はすっごく強いね。
「「――――――――」」
そして、その一撃は。
延長線上にいた私達二人をも呑み込もうとしている訳で―――ぁ。
これは、ダメだね。
◇
「――ッ―――ルミさん! 避難しなかったんですか!?」
「「ルミねぇ!」」
「無事ッスか!」
「……ふぅ。うん、助かったよ」
視界が未だチカチカするけど。
私と女性は何故か無事だった。
多分、光の奔流が私達を呑み込む刹那。
障壁の様なモノが発生して。
私と女性を纏めて保護してくれたみたいだね。
「―――でも、いつの間にあんな魔法を習得したんだい?」
「……いや、それ」
「僕達じゃなくて」
一番早く駆け付けたワタル君を始め、歯切れの悪そうな五人。
どういう事かと聞こうとして。
「おや、おや……。取り敢えず手近な者たちを始末と思えば、今度は団体様ですか。流石は異訪者様方、秘匿の蟲を思わせる繁殖速度だ。――そして」
「やはり、来たか。ノクス」
「お早い到着ですね、海洋伯様」
不意に現れたのは、蒼髪の男性。
私と同じようなフロックコートで、ブーツを履き。
20代後半くらいの若々しい青年。
―――海洋伯さん……?
この都市の領主様じゃないか。
じゃあ、先程の障壁を作ってくれたのは、彼なんだね。
海洋伯さんは、海へと目をやり。
現れた巨人を確認した後。
睨み付けるかのように、アールさんへと向き直る。
「―――三身の綱獣……。貴様、どうやって……?」
「ふふふふ」
何だか、スゴイ状況だ。
高台……崖の上にて集う面々。
推理ものならクライマックス。
こちら側の子供たち――戦闘大好きな皆は、武器を抜いてやる気満々みたいだし。
黒幕さんも目の前にいるし。
守護対象である都市で一番偉い人もいるなんて、間違いなく……。
―――私、場違いだよね?
「―――話は後だ、ヤツを捕縛する。協力してくれるか、異訪者たちよ」
「報酬いっぱい!」
「イベント限定!」
「新しいアイテム」
「……お前等」
「……えぇ……と、協力します、海洋伯」
やっぱり場違いだ。
ユウトたちは戦えるけど。
私はあんなビーム攻撃をしてくるような人とは、絶対に戦いたくないし
一瞬で蒸発しちゃうし。
「じゃあ、私は逃げるから。頑張ってね、皆」
「「は――――い!!」」
どうやら、やる気充分みたいだし。
女性を連れてスタコラしようかな。
「―――さ。ここも戦場になりそうだから、一緒に逃げよっか?」
「……何でですの」
「ほら、危ないし」
「――ッ――先程から、貴方! 私をずっとお姫様抱っこ――ではなく! わっ……私を誰だと思っているんですの!?」
―――そう言えば、聞いてなかったね。
……………。
……………。
「……さぁ……?」
「GR五位の巨大ギルド【戦慄奏者】のマスターであるマリアですわ! 無礼ですわ!」
無礼……なのかなぁ。
ギルドランク五位って。
とっても凄い事だけど。
まあ、それはさて置くとして。
陸路は逃げる人たちでごった返して。
通る道もなさそうだから、私達は別のルートから逃げる事にしようかな。
此処はゲームの中だから。
疲れも感じないし、貧弱とは言っても並以上の筋力があるから。
恐らく、大丈夫な筈だよね。
「ちょっと久しぶりだから、手荒になるよ。舌噛まないように気を付けてね」
「……へ………? ――あの、何でそっちに……貴方、何を―――え? え? ―――うそうそうそうそうそ―――っ!?」
「――――きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあ――――っ!!!」
やはり逃げ道がなさそうだから。
私は、女性を抱きかかえたまま、高台……崖から飛び降りて。
そのまま海へと降り立ち。
目の前の巨大な魔物。
目が合うは怪物さん。
逃げないとマズいことは間違いなかったから、足を突き出し。
そのまま、砂浜目指して逃げる事にした。
―――――海の上を走って。




