第24幕:ミズコンの海賊
・アップデート情報(軽微な修正)
修正点
前話登場エネミー「アクダマン」の体力を30から3へ修正致しました。
「―――部門っ! 開幕となります!」
「では! エントリーナンバー1番……」
間に合ってるのかな……?
もう始まっているような感じだけど。
都市内部の沿岸……駄々広いビーチ。
ミズコンのために作った特設らしいステージの裏では、係りの人が呼びかけを行っていて。
空気は開始してるけど。
まだ、大丈夫なのかな。
「―――すみません。まだ飛び込みは大丈夫ですか?」
「―――わぁ――……じゃなくて。えぇ、開始はしていますけど、人数が多いので、まだ後半に入ることは可能ですよ。受付はお済みですか?」
良かった、まだ大丈夫みたいだ。
女性の言葉に頷き。
彼女の説明を聞きながら、私は胸をなでおろす。
折角抜けて来たのに。
とんぼ返りしたら、皆に格好が付かないからね。
「受付記録と照合します。――お名前は?」
「ルミエールだよ。名前、有るかな」
……パラパラと。
五十音順らしい冊子をまくる音。
やがて、指の動きが止まり。
「はい……特徴も、お名前も――はい、確認取れました。では、エントリーナンバーは41番、開始はまだ先なので、控え室の方でお待ちを」
「うん、ありがとう」
小さな冊子を受け取り。
私は先へと進んでいく。
PLの主催とは聞いていたけど。
中々にしっかりとしたステージが覗けて、本格的な控室もある。
受付さんもいるし。
良く準備できたね。
やっぱり、私以外にも。
NPCさん達と仲良くなっている人は沢山いるようで、何だか嬉しくなるよ。
更衣室だって、ちゃんとあって。
でも、プレイヤーには不要かな。
タッチ一つで簡単着替え。
肌を晒す瞬間すらなく高速着替えが可能なんだから。
「―――で――演技の流れは……?」
受付で渡された小冊子。
簡単な演目の流れを確認してみるけど。
司会さんによる幾つかの質問タイムで。
次に、個人のアピールタイムがあって。
決勝に上がれるのは四人――ね。
「私の番号が40過ぎだから、倍率は……ふむ。かなりインパクトが必要かな」
だけど――もう間に合ってるよね。
だって、私の恰好自体が奇抜……。
なんて、考えてると。
―――ポフン……と。
身体が誰かとぶつかる。
どうやら、余程影が薄くなってたみたいで。
こうなるなら、通路の椅子じゃなくて、ちゃんと控えの部屋に入っていれば……。
「あら、ゴメン遊ばせ。あんまり目立たないものだから気付かな―――」
「うん、気にしなくて良いよ。気合を入れるために脱力してたから、ちょっと影が薄くなってただろうし」
「………ぇ……あの」
ぶつかったのは女性だった。
彼女もPLなのに、中々面白い話し方だね。
「……もしかして、そのお姿で参加されるのですか?」
「そうだよ。立派な水着だろう?」
海賊のコスプレだって。
水着には違いないとも。
荒縄でグルグル巻きにされて。
背中をサーベルでツンツンされながら、サメの餌に――もとい、海に飛び込むんだから。
オリンピックにだって、飛び込みの種目があるだろう?
流石に苦しいかな。
……やっぱり、水着じゃない?
でも、受付さんに聞いた限り。
この衣装でも、良いらしいんだよね。
極論を言ってしまえば、海で着るようなものであれば何でもいいとのことだし。
「君は、もうアピールを終えたのかい?」
「ふふふ……えぇ。既に決勝へ通過してますわ」
それは、スゴイものだね。
まだ終わってもないのに。
余程、決勝へ通過する確信があるみたいで。
確かに、自分が自分を信じなければ終わり。
これは、自信という意味でも彼女には負けていられないね。
「なら、私もすぐに行くから」
「―――ふ――ふっ。奇をてらい過ぎて失敗しない事ね」
ロールな茶髪をかき上げ。
何故か目を逸らす令嬢様。
心配してくれてるんだ。
なら、ここは有難く受け取っておこうかな。
◇
控室で調子を整える事暫く。
遂に、その時はやって来た。
ステージに立つは司会の男性。
何処で手に入れたのか。
或いはタカモリ君と同じ口なのか、この暑さで黒地のスーツを決め込んでいる彼は、どうやらPLみたいで。
既に数十人を相手しながらも。
まるで、疲れた様子もなく良く通る声を張り上げる。
「―――では、続きまして41番は――ほぅ……? ――掟破りの衣装で乱入! 粗野か? 屈強か? いやいや、これは。大海と黄金の地平線が具現したぞ」
「―――海賊貴公子ルミエールさんです――――ッ!」
私が決めた謳い文句でなし。
中々に、凄いアドリブだね。
どうやら、全出場者こんなに凄い宣伝をしてくれているらしい。
陽の光が自身を照らす中。
目の前には無数の観客で。
大仰な紹介に気後れしないよう。
堂々と特設の舞台へ立った私もまた、大仰を極めるとばかりに手を広げる。
今更ながらだけど。
腰にサーベルが欲しい所だね。
「やあ、諸君。紹介に預かった海賊さんだよ」
「「……………ッ!!」」
初の印象としては満点。
コレを良い方向へ……。
「―――では、最初の質問です! なぜ、肩に鳩ポッポを……?」
ほう、早速だね。
海賊と言えば、肩にオウムやお猿さんを乗せていたり様々。
だから、その代替みたいなもの。
……私としては、本当にそんなノリだったけど。
アピールとして。
敢えて言わせてもらうならば。
「ハトは、平和と希望の象徴だからさ」
「―――ほう……」
「そんなモノとは無縁……先の見えない航海、過酷な船旅では、この子が居てくれることが何よりの助けなんだ」
人生の縮図そのモノと言えるね。
言いながら、ピートを掌に。
その時点でどよめきだけど。
予備動作なく現れたソレを、そのまま肩のハト君に差し出すと、可愛くついばんでくれる。
―――あざとい……というべきかな。
コレもまた、好印象。
……ふふ、卑怯結構。
可愛いは正義なんだ。
とっても悪どい手法だけど。
私達を見上げるお客さん達は、興味深そうに――そして、綻んだ顔で。
小動物の持つ不思議な魅力っていうのは、人を捉えて離さない。
「――これは……成程ッ」
「さぁ、次だ。赤旗、髑髏マーク、大変結構。何でもどんと、さぁ来いさ」
「―――ふふ、私も乗ってきました」
「体験入船かい?」
「えぇ、まさしく。――では、その服装は?」
「あぁ、この一張羅かい? これは、友人が夜なべをして作ってくれた物さ。彼らの職業は私と同じで、とても公言できるようなものでは無いけど……ね」
「―――賊ですか」
「そう、賊」
「……成程。ギャップというやつですねぇ」
「職業は関係ないよ。大事なのは、その人の本質だからね」
根は良い子達なんだ……って。
さりげなく取りなしておいて。
言いつつ、ハト君はリリース。
送還ではなく、ステージの右へ……中空へと飛び立たせる。
目で追う人達には申し訳ないし。
とても名残り惜しいだろうけど。
これ以上は関心がそちらへ向いてしまいそうだし、ここで一旦リセットだ。
後で回収してあげよう。
勿論ご褒美もあげよう。
送還は最後にしてあげるよ。
「「―――――――」」
さあ、さあ……?
大分場があったまって来たけど。
司会さんは何度も頷いて。
何かを吟味しているかのように、堪えるかのように震え。
「―――成程、成程……ではッ! 最後に、自由なアピールをどうぞ……!」
「「……………」」
熱の入りようは最高潮。
目の前にて固唾を飲んで見守る人々は、私の一挙手一等足を見逃さないと構えていて。
司会さんも大分期待しているみたいだね。
―――でも……アピール、か。
実は、何も考えていないんだ。
何を聞かれるかも分からなかったし。
待っている間、集中しすぎて表の様子も殆ど見てなかったし。
だから、私の十八番。
手近にあるものでどうにかする……自由に操るとすれば―――フム?
手元にあるのは、ただ一つ。
啄まれた残り――果実の芯。
ただ、それだけで。
それで組み立てられるものなんて……沢山あるね。
「――航海というのは、本当に大変だ。逆風で全くうまく行かないことも沢山あるんだ」
「「……………」」
何をするでもなく。
パフォーマンスするでもなく。
私は、観客へ語りかけ始める。
今迄そうであったように。
言の葉を、己の力と放つ。
「座礁して、遭難して、一人置き去りにされて――その身一つ以外、全てを失ってしまう事だってあるかもしれない」
感情だって、そうだ。
物質だって、そうだ。
物も心も、動かせるから。
人の心は、決して永遠なんかじゃないから。
いずれは、どうしようと離れていってしまうモノ。
ぼやけて、離れて、失われて……どんな感動であろうとも、時間が経てば消え去る定めだ。
―――でも……それでも。
「これは、さっきの果物の芯だね」
ここは固くて食べられないから。
人間だって大抵残すし。
動物だって、残すんだ。
そう……どうしても、残ってしまう。
「でも、残って良い。残して良い。だって、それこそ、絶対に譲れない自分の中に在る最初の宝だから」
その人物の根本。
変わらない、譲れない物は。
その人を構成する核……芯。
それは、決してなくならない。
無くなる時こそ、終わる時で。
それが残っているのなら。
人は、また立ち上がれる。
例え他の全てを失ってしまっても、本当に大切なものは、自分自身の中に在る。
だから、まだ何も終わってない。
「――あぁ、そうだとも。夢に向かって歩んでいけば……」
そこ迄語り、私は視線を空へ。
既に、細工は終わっていてね。
左の空から舞い降りてくるは、複数のハト君たち。
何故、いまに至るまで観客さん達の意識に映らなかったか……。
その答えは簡単だとも。
あれ程のインパクトだ。
飛び去っても、暫く追ってしまうもは当然で……先程リリースした子に多くの意識が割かれて。
反対方向で召喚した子達を認識できなかっただけ。
認識外に弱いのは皆同じ。
特に、一つに夢中ならば。
―――そして、この形は。
そう……それは、まさしく。
希望の方からやってきてくれた形で。
頭、両肩……止まり木を求めるせめぎ合い。
ある種、笑いを誘う光景だけど。
私自身は、それに意識を割くことなく。目の前で刮目する人々へと、切っていた言葉を続ける。
「―――ほら――ね? 希望は、向こうから羽ばたいてきてくれる」
「「……………!!」」
ハトが象徴とする言葉は多くて。
中には、再生なんてものもあるんだ。
だから、私も。
大勢のお客さんに向かって。
両手を広げて鼓舞をする。その心へ響くであろう、確かな言霊を。
余すことなく、皆へ。
彼等、一人一人へと。
「君も、そうさ。必ず立ち上がれる。君に出来ない筈は無い。だから、諦めないでね? ……これは、私からのささやかな贈り物さ。さ――お一つどうぞ」
「―――ぁ……ありがどうございばず」
芯は内に秘める物だから。
隠して、別のモノを出す。
あたかも再生したかのように、取り出した丸のピートを彼へ渡す。
代表は。丁度、傍にいた人。
それを受け取った司会さん。
彼は、とても感情豊かなんだね。
果実を受け取った司会さんは、一筋の涙を流しながら微笑む。
それは、小さな幸せ。
ゲーム内では、初めて見るよね、涙。
―――――じゃなくて。
「ちょっと長かったかな。これで、私のアピールタイムは終わりだよ」




