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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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第14幕:竜の炉心を打つ者



「……テツさぁ? 自首しな?」

「違う! 盗んでない――ッ!」



 大粒の紅玉と見間違う鉱石。


 それは、彼が勝ち得た報酬。


 けど、余りにスゴイ物で。

 そう思うのも無理ないね。

 目を輝かせながらも自首を薦めるナコちゃんに、経緯を知っている私達皆で取りなす。



「ナコちゃん? それは、本当に彼のモノなんだよ?」

「……ルミエさん。本当ですか?」

「あぁ、凄かったよな」

「侯爵様相手に「テイクオフ!!」って……ねぇ?」

「アレは――ふふっ」

「危うかったよな――腹筋が」

「……もう、虐めないでください」



 本人は後になって言い間違えに気付いたようで。

 【竜骸晶】のように顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたけど。



「――でも、私もこんな凄い素材は見たこと無いです。【帝都】の一等地にある鍛冶屋だって、そうそうお目に掛からないんじゃないですか?」

「……そんなに?」

「侯爵が欲しがるくらいだからな」



 鍛冶師のナコちゃんをして。


 この素材はモノ凄いようで。


 何せ、Aランクのアイテムだからね。

 私も、これ以外見たこと無い――というか、Bランクすら見たこと無いのに。


 いきなり激レアなんてね。



 ……まぁ、それにしても。



「――ナコちゃん【鑑定】Lv.5なの!? 凄い!」

「……えへへ」

「俺なんて、全然上がらないのにな」

「そこは才能じゃねえか? ユウトさんや」


「テツは【鍛冶】Lv.幾つなの?」


「え…と。Lv.4です」

「「――すげェ!!」」



 仲良いね、君たち。


 今日知り合ったとは思えないよ。

 

 トラフィークは広いから。

 幾つもの鍛冶屋があって。

 鉱山都市であるフォディーナにもなると、更に多くの施設が存在しているわけだから。


 本当に、私たちが出会ったのは偶然によるもの。


 出会いって、良いものだね。



「……で、アレよ」




「「―――変態候!!」」



 ……………。


 ……………。 


 まぁ、中には気に食わない出会いもあるよね。


 悪い人じゃ――いや。

 合理主義な御仁だし。

 利害が合えば凄く頼りになる人だろうね、彼は。



「変態……って、クラウス候様? テツ、何かあったの?」



 一斉に上がる怒声。

 それに目を白黒させながら、ナコちゃんが尋ねる。


 ……あと。


 ナコちゃんNPCなのに。


 変態候で伝わるんだね。



「えー……と。ルミエさんが、プロポーズされてた?」

「――ぷっ――ぷろ!? 大貴族様に!?」

「そんなんじゃないよ!」

「噂通りでしたねアレは」

「本当にもう、舐めるような目で上から下まで…なんてうらやま――けしからん変態候めェ」


「ふふっ。皆があのプレイヤー君たちの二の舞にならなくて良かったよ」



 良い経験だと思えば良いのさ。


 初めてって訳でもないからね。


 口々に皆で文句を言い。

 不敬にも、暫く彼の話題(わるぐち)で盛り上がった後。

 


「じゃあ、鎚を作るって事に決まったのよね? 皆さんも――」

「「見て行きたい!」」

「是非、お願いします」

「そうそう見れるモノじゃないからね」

「……ふふ。じゃあ、テツ?」

「うん、早速やろう。今回こそは絶対に失敗しない!」



 すぐに鍛造が始まる…誰一人待ちきれないようで。

 でも、テツ君の発言は。


 それじゃあ、まるで。


 いつも失敗しているみたいじゃないか。




  ◇




「……じゃあ、行くよ? ナコ」

「サポートは任せて」


 

 工房にある座敷の奥。


 心臓部と言える空間。 

 

 そこは混凝土…コンクリートが剥き出しの床で。

 ゲーム内時間で夜中の今となっては、火入れの為の鍛造炉だけが主な光源。


 そんな中に在って。


 私達は二人の会話のみに視線を集中していた。



「【竜骸晶】は純粋な魔力塊だから、どんな金属とも親和性が高いけど――どうするの?」

「今回は【黒鉄晶(こくてつしょう)】と組み合わせてみる」

「………コクテツ?」



 思い浮かぶのは。


 新鮮な野菜さん。


 あと、濃い店主くんの顔。



「秘匿領域原産の鉱石です」

「玉鋼みたいな感じで、使いやすいけど、造るのに凄く手間が掛かって……実は、普段はこればっかり作ってたり」

「「ほぇ~~~」」

「黒くて……あぁ、黒鉄だわ」



 取り出された黒曜石みたいな金属。

 そして、竜骸晶。

 その二つを用意したテツ君は、気合を入れるかのように顔を軽く叩いて。



「――じゃあ、行きます」



 職業一つとっても仕組みは様々。


 生産系二次職【鍛冶師】の場合。

 製作はノーマルとカスタムの二種類に分かれているらしく。


 職人の腕に寄らず、安定した製作を行える「ノーマル」と。

 失敗率の高さを職人の腕で補うため、多くの工程を要求される「カスタム」だ。


 今回は、迷いなく「カスタム」


 一世一代の大仕事で。


 瞳は真剣そのモノだ。



「――カスタムプロセス、開始」



 この世界は、ゲームだから。


 現実の鍛冶とは異なるけど。


 それでも、やっぱり。

 神秘的な物を感じるね。


 テツ君が起点(トリガー)を作ると。

 二つの素材が淡く光り始めて。

 すぐさま正面、左、右――三方向に表示されたパネルへ、彼はプログラムのような文字を打ち込んでいく。



「――ナコちゃん。この工程、初めて見るね」

「ルミエさんの【白爛】とかは素材の影響で、元々の鍛冶成功率が高いですからね。安定した性能を求めるならあっちで、ロマンを求めるならこっちです」

「ふむ……ふむ」

「神秘的です…」

「カスタムであまり上を目指すと失敗しますけど――」


「――アッツ――っ!? これ、今迄のヤツとは全然――」

「休まない! 動かす!」

「はい!」



 話の途中で跳ね上がるテツ君。


 やっぱり、熱いとかあるんだ。


 でも……ナコちゃん。

 鍛冶の師であるらしい彼女は。

 決して弟子の甘えを許さないようで。



「……鬼じゃ、鬼がおる」

「スッゴイ声量」

「若女将、かな」

「でも、相性良さそうだよな。あの二人」


 

 彼女の激励を受けて。

 怯んでいた彼は、再び鉄を打つ。


 祈るように鎚を振るい。


 その度に跳ねる火柱は。


 竜種の怨念?


 或いは期待?


 炉の灯りのみに照らされていた室内は。

 何時しか、真昼のような光に包まれ……ある程度離れている私たちにすら熱風が届く。



「――ッ―――ッ―――ッ!!」



 純粋な魔力塊。


 竜の命が根源。


 とても、現実離れした光景だ。


 その中心で鎚を振るう少年は。

 もう何一つ周りが見えていないとでもいうかのように無言で……しかし決して無心などではなく。



 ―――金属が鳴る。



 ―――変成が成る。



 まさに求める形をとり始めた塊だけど。


 今にも爆裂しそうな焔塊。

 消滅の寸前みたいな佳境(かきょう)

 惑星爆発を閉じ込めたような光の収束に――彼は大きく鎚を振り上げ。



「――80……成功!」

「……テツ?」

「まだまだぁ!!」

「――ちょっと! テツ!」

「もう一丁ォ!」

「もしかして、テツ君」

「……聞こえてないのか? 集中し過ぎて」



「――ダメッ――テツ!! 流石に狙い過ぎ――」



「―――――ダメ押しィィィィィ――ッ!!」

「「……………!」」



 静止を求めるナコちゃんの声に、もはや反応すらせず。

 彼は正面に全てをぶつける。


 それは英断か。


 或いは愚考か。



「――――――――」



 彼が我に返った目の前には。


 内包どころか。

 焔を放ちながら――まるで威嚇するようにソレが輝いている。

 呼吸をするように。


 紅く脈動している。



 ……一度の静寂が訪れて。



 ……やがて彼が振り向き。



「……………今、ボク……ヤバいことしてた?」

「「……………」」

「最後の方、記憶が――」

「――やったよ! テツ――っ!」



 「わっぷ」……と。

 ナコちゃんに飛び掛かられたテツ君は暫く状況を理解していなかったけど。


 すぐにソレを認識し。


 ボーっとした様子で。 


 視線を、再び正面へ向け。

 自身が確かに成したという成果と向き合い。



「――やったぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」



 歓喜に打ち震えている。


 そして、ユウトたちは。

 


「なんていうか――魔剣?」

「鎚だから、魔鎚じゃないかな」

「――凄いです」

「炎燃えてるし」

「Aランク装備……まさか、最初に間近で見るのが二次職用アイテムとはなぁ」



 焔放つ高位の装備。 

 その煌びやかな生誕に、その荘厳さに。


 感嘆の息を漏らし。


 全員が凝視してて。



「――ねぇ、二人とも。これは、成功で良いのかい?」



 最後に不穏な事をナコちゃんが言ってたから。

 私はちょっと気になっちゃったんだけど。



 二人は、声を揃えて。



「「成功ですっ!!」」



 本当に、嬉しそうに。


 満面と笑みを浮かべ。


 暫く感極まったように抱き合ってたけど。

 我に返ったナコちゃんは、狂喜を誤魔化すかのように、攻めるような視線をテツ君へ送る。



「――でも、やっぱり悪い癖でてたよね」

「……はははは」

「最後のアレでしょ?」

「何だったん? アレ」

「賭けみたいなもので、完成状態で打てば打つほどに能力値が上がるんですけど……一打ちする度に成功率が10%下がった状態でトライするんです。で、失敗したら爆散」


「「……………oh」」

「ま、まぁ。一回くらいなら90%――」

「最後のやった時点で、50%だったんですよ? バカじゃないですか?」

「「……………」」


「――いーじゃん! 成功したんだし!」

「今回は! 成功でしょ? 何時もアレのせいで折角の高ランク素材ダメにしちゃって!」

「何だよ! ナコだって――」



 ギャーギャー。


 ギャーギャー。


 私たちを置いてけぼりに。

 口論が始まって。



「「皆さん、有り難うございます!!」」



 でも、最終的には。

 仲良く……示し合わせでもしたかのように、揃って頭を下げる。


 やっぱり二人は。


 凄く仲が良くて。

 

 良いパートナーだよね。


 それで、大切なのは――。

 私達は、一斉に完成したソレへと押しかけて、再び感嘆の息を漏らす。


 言うなれば。


 黒曜の隕石。


 全体的に漆黒で。

 硝子質みたいな質感の鎚。

 しかし、透けてはなくて……どこまでも深い宵闇の中に、(ひび)割れたような紅い筋が走る。

 

 暗闇の中から覗く光。


 まるで、夜明けだね。




―――――――――――――――

【装備銘】 フェルノ・アウナス 


【種別】

鍛冶・鎚 RANK:A+


【要求値】

筋力:30 魔力:25


【強化値】            

強化成功率上昇(大)

装備狂化(小)


【固有:魔竜の焔魂】

太古に生ける竜種の力を内包した鎚。

竜は死せども、その魂は燃え続けている。


製作武器に【属性:炎】を付与する。 

―――――――――――――――




「――ランクも上がってて、要求値高…‥え? もう名前付いてんだけど……ナコ?」

「ネームドってやつよ」

「「ネームド」」

「御師匠様に聞いたんですけど、余程高ランクの装備は命を宿してて、自分で名前を決めるとか…‥我が儘とか」

「「我が儘?」」

「私も、初めてだからよく分からないんですけどね」



 何だろうね、我儘って。


 それも、気になるけど。


 色々と凄いよ。

 私じゃあ、どれだけ凄いのか理解できないくらいには。



「――でも、本当の名前みたいだし……狂化? ――炎って、火属性とは違うのかい?」

「あぁ、コレは……」

「上位派生、ですね」

「こっちの方が圧倒的に威力が高いし、将太の魔法も炎属性が主になって来てる……って。お役御免じゃね? お前」


「え……? ―――嘘だぁ――ッ!」


「バイバイ、将太」

「今迄ありがとね」

「離れてても、忘れませんから。元気に暮らしてください」


「でも、武器とは表記が全然違うんだな」

「あくまで二次職用の装備ですからね。戦闘に使うにしても、一般アイテム位の威力しかでないですよ」



 私が最初に使ってたナイフみたいな感じだね。


 このゲームは面白くて。

 極論、その辺の石も武器に出来る。

 でも、結局補正なんて皆無だし、少しでも装備を固めている相手には、急所でもない限り全然効かないんだ。



「――これで。もっともっと強力な武器が作れる……! 暫くレベル上げなきゃだけど、皆の武器も!」

「勿論、期待してるよー」

「慣れてきたら、頼む」

「弓矢も出来ますか?」

「はい! 僕が皆の武器を造りますから!」



 彼等は盛り上がって。


 とても微笑ましいね。



「――目指せ! 夢の帝都一等地だ―――ッ!」

「「おー!!」」

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