第13幕:変人の皮を纏いし怪物
「――いやー、儲けた儲けた」
「偶には労働も悪くないねぇ」
「ガッポガポだし」
「山分けしても、かなりいい感じの収入になるんじゃないですかね」
採掘場を後にしつつ。
持ち物確認をする皆。
殆ど換金アイテムだけど。
中には有用な物も多くて。
テツ君なんかは。
特にウズウズが隠せないようで。
歩きながら所持品欄を確認しては、大きな笑みを作って――コケそうになっている。
「――っと。前見て歩けよ」
「……はは、すみません」
「じゃあ、このまま皆で工房へ行くのが良いのかな?」
「はい、お願いします」
「造るの見たいしっ!」
「ですね。まずは転移装置で通商都市へ戻って――あれ、何でしょう」
「「ん?」」
―――確かに、何だろうね。
エナの示す先に有るのは。
来た時には無かった物で。
PLたちがゲートのようなものを通っている。
見た目で言えば、都市間を移動するワープ装置に似ているけど、人ひとりが通れそうなくらいの大きさしかなくて。
でも――およそ問題ないね。
横にまぁ、ズラリとあるし。
何よりも、隙間がなくて。
この採掘場から出るには。
しっかりとアレを潜る必要がありそうで。
「――もしかして。持ち物チェック、じゃないか?」
「えぇ……それってさ」
「ヤバくない? 今は」
「だな。まさか買取りって言っても、こうなるとは思わないし……」
顔を顰めるユウトたちが首を動かして。
一斉に注がれる視線。
対象は、勿論だけど。
「――――――――」
頭真っ白な様子で。
立ち尽くすテツ君。
思い出されるのは、先の戦い。
……いや。戦いというよりも、一方的な虐殺というのが正しいような力の差。
「……見つからんように頑張って隙間を通り抜けるか?」
「取り出して上から投げるとかね」
「良し、インポッシブルなミッションと行こう!」
「インポッシブルじゃダメじゃん」
「……ぁぁ……胃が」
「気をしっかりね」
皆で彼を奮い立たせつつ。
私達もスムーズに進んでいく列に並ぶけど。
PL達が通れども。
反応しない機械。
形だけの装置なのかな。
或いは、換金アイテムだけが所持品から消える仕組みとか。
「――でも、それなら。案外何とかなりそうでは?」
「……確かに。何処も普通に進んでるみたいだし、形だけのモノかもね」
それに安心してきたのか。
私達は軽い気持ちで近づいてきたゲートへと足を踏み入れて。
―――ブー、ブーと。
―――ファン、ファンと。
真っ赤なランプが灯って。
景気良く鳴り始める装置。
……まぁ、不可能だからしょうがないね。
「――そこな方……あぁ、お連れ様も」
「「……………」」
そして、すぐさまやって来るNPC。
職員らしき男性は、私たちの前までやって来ると金属探知機みたいな不思議棒をかざし始めて。
「少々お待ちください、持ち物の照合を――!!」
「………その場でお待ちを」
スタコラ走っていく。
これは、もうダメだ。
「ぁ…あぁ……あわわわ」
「――いや、大丈夫だよ」
「任意同行かもしれないし、お偉いさんが一介の冒険家相手に直接会うとは思えないし、多分職員さんが――」
……………。
……………。
「――侯爵様が直接お会いになるそうです。あちらの係が案内いたしますので、くれぐれも粗相のないよう……えぇ、お気を付けて」
「「……あかん!」」
「大貴族――え、マジで?」
「僕らも初めてだね」
「そんなに珍しいのかい?」
「重要都市の領主は、名前以外表に出てくることがそもそもないですからね。このクエストに出てくるのも予想外でしたし」
「12聖天が来るのも予想外だったし」
私達が話す傍で。
気の毒そうにこちらを見る職員さん。
でも、いま彼が欲しいのは同情じゃないんだ。
「あの……僕、さっきの魔法で貫かれたりしない――ですよね?」
「「……………」」
◇
私達が通されたのは。
比較的簡素な応接室。
プレハブ小屋みたいだ。
でも、内装的にはそこかしこにくり抜かれた鉱脈や鉱物、出土品のようなものがあり。
とても美術館チックな空間で。
不思議な魅力が漂っているね。
そんな中に在って。
「よもや【竜骸晶】……それも、属性付きの希少種」
ドアップ侯爵様。
対面に座る彼に。
皆恐縮していた。
……というか、怖がっているね。
テーブルに置かれた紅く輝く鉱物は、テツ君が掘り当てた激レアアイテムで。
侯爵が食い入るように見ていることからも、その貴重性が伺える。
「……………………」
でも、その持ち主は。
今にも気絶しそうで。
先の魔法を使っていた黒子さんも、侯爵の傍らにいるし。
完全に側近的立ち位置なんだね。
顔見えないのに威圧感が凄いよ。
「――くくくッ……此度は、大収穫よ。我の眼鏡に適うモノを多くの者たちが所持しておったが、よもや、このような希少品を発見するものまでいようとは」
……あぁ、マズいね。
これは、いけないね。
既に彼はその気だ。
何とかして、テツ君が無事に守り切れれば……アレ?
「―――ぷしゅー」
「……テツ? ――テツ! しっかりしろ!」
「将太、乱暴に揺すらないで!」
「……大丈夫、ですか?」
「テツ君息してない!」
「おい、バナナ。勝手に殺すな」
――バナナ…バカナナミ。
久々に聞いた愛称だけど。
テツ君……うん、無理だね。
相対してコレだと、凄まれたら強制ログアウト案件かもしれない。
「―――さて、少年よ」
そして、何と。
向こうさんは、今の流れを無視。
というより、これを好機と考えているようで。
流石は大貴族。
世の渡り方を完全に熟知していて。
「え……? ――あの……ぼく……は」
「――賢そうな少年よ」
「………ぁ……」
「そう怯えるでない。我は平和主義であるからなぁ」
いや、無理があるよ。
その顔で平和主義は無理でしょ。
「「………………」」
「どうかした?」
「……ルミ姉さんの平和主義も無理がありますけどね」
……エナの心外な発言はともかく。
武人を思わせる古傷だらけの顔。
口元は、最大限に弧を描いてて。
威圧的に笑う彼の後ろでは、黒子さんが身じろぎ。
黒いフードを目深に被り直して、手を後ろへ回す。
……駄目押しの威嚇だね。
試練にしてもやり過ぎだし。
テツくんは充分頑張ったし。
ここは、年長者として助け船を出してあげないと。
「――テツ君。大丈夫かい?」
「……ルミエさん……!」
「イヤなら、断っても良いんだよ?」
「――無理ですぅ! ……死んじゃうぅぅ……」
空へ飛び立ちそうといえば、そうかもしれない。
今に居なくなるかもしれない。
でも、客観視すれば。
特段、危機的状況というわけでもないさ。
「別に、さっきの虐殺劇なら、気にすることは無いと思うんだ。彼にその気はないだろうし」
「………え?」
―――だって。
「あれは、只のパフォーマンス……劇の一幕。そうなのでしょう? 侯爵様」
「………ほう?」
「「――え?」」
「……成程。だから、私も」
エナも、そういうのには敏感。
でも、反応できていなかった。
なら、答えは簡単さ。
「………ふ――ふふ」
「ふふっ――ははは――ッ! 成程、なるほど。道理で、恐怖も隙も見せぬと思っておったら、そういう事であったか娘よ。これは、思わぬ大鉱脈なりっ」
候爵様はさも可笑しそうに笑う、わらう。
十中八九そうだとは思ったけど。
1と2に当たらなくて良かったね。
彼は私へ視線を留めて。
深く、ふかく覗き込む。
「――なぁ、美しき金色の娘よ」
「何でしょう」
「我の妻にならんか?」
……………。
……………。
「――申し訳ありません、侯爵様」
「そうか……残念だ。気が変わったら、何時でも我が元へ来るが良い。席は用意しておこう」
断わった側も。
申し出た側も。
とてもあっさり、会話を切る。
光栄なことなんだろうけど、私は旅人だからね。
それに――およそ。
私の気が変わったとしても、お嫁さんは厳しいね。
―――だって。
(静かにしろって!)
((―――む――ッ! む~~ッ!!))
数人、静かに暴れる器用さを見せ。
今にも対面へ跳びかかりそうだし。
留めている側も、恐縮や恐怖を完全に忘れ。
侯爵への敵意を覚えていそうで……今にも前者へ加わりそうな勢い。
「――あの――ッ! パフォーマンスっていうのは! どういうことですか!!」
ワタル君、ありがとう。
およそ彼らしくない声量で質問したのは、仲間の状況を見ての事だろう。
だから、私も。
皆の気を落ち着けるために、長話をしようかな。
「――そもそもの前提として。アレを企画したのは――侯爵様、ですね?」
「「……………!」」
「――あぁ、然りよ」
「考えたのも、依頼したのも狙われた本人。だから襲撃側に悪意なんてなかったし、ただ事前の取り決め通りの役割に殉じただけ。およそ、そういうクエスト内容だったんだろうね」
「……でも、何でそんな事を?」
「――あぁ。これの為、か」
「そう、その通りさ」
彼が出資する無料のボーナスイベント
恐怖によって力の差を見せ。
自らの力を喧伝すると共に。
あわよくば貴重なアイテムを懐へ。
無論、それだけじゃなく。
見た目では判断できないような、大局……更にその先まで見据えた考えがあるだろう。
それは、恐らく。
「――其方等は、実にきたいな存在よ」
「「きたい」」
「――なぁ、優斗先生」
「…不思議って意味だ」
「其方等は一度死しても蘇り、短期間で恐ろしさを覚えるほどの成長を遂げる。今や、戦いの主力へ変わりつつあるほどに、な」
恐らく、彼は。
PLの有用性を先の戦いで認識し、優秀な人材を取り込もうとしているんだ。
その為に、こうして自身を誇示した。
それもこれも、ああいうパフォーマンスを行えば、強力なPLは興味を持つし、彼の配下に加わろうとするという事もありえるから。
―――脱帽するね。
「で、それを踏まえたうえで本題なんだけど――テツ君」
「………あ」
「取引、どうする? 全部自由だけど」
私の言葉に顔を上げて。
彼が伺うは侯爵様の顔。
「決めよ、少年。其方自身は、どうしたい?」
「………僕は」
「――僕は――」
「テ、テイクオフします――ッ!!」
「――ほう……?」
「「……アウトぉ」」
「なぁ、英語教諭ルミ先生? テツの評定は…?」
――大丈夫、大丈夫だとも。
ケアレスミスは認めるから。
多分、緊張のせいで。
テツ君はすぐにでも離陸したいらしく。
大事なところだし。
気絶には早いけど。
持ち帰りの意志は、ちゃんと伝わったようで。
「――ふ――はっはっは――ッ!! 愉快な少年よ!」
眉をあげ、やがて豪快に笑う鉄血候は。
その答えを気に入ってくれたみたいだった。




