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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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第12幕:鉄血候クラウス




「――諸君! 作業は捗っているだろうか―――ッ!」



 採掘地帯はとても広いけど。


 一帯の隅々まで良く響く声。


 その主は、如何にもな貴族さんで。


 刈り上げた灰色の髪に。

 切れ長で鋭い黒の瞳で。

 立派なカイゼル髭をたたえた老齢の男性はしかし、活力に漲っていて筋骨隆々。


 面識はないけど。


 その特徴的な容姿は、私も覚えがある。



「――もしかして、彼が鉄血候様なのかい?」

「……そうなんですか?」

「そそ、あのオジサン」

「このイベントの開催者――というか、出資者の一人ですね」



 では、やはり彼が。

 【鉄血候】こと、クラウス・F・ビスマルク候。

 

 鉱山都市を束ねる侯爵。

 皇帝が信を置く4人の大貴族の一人にして、帝国の金庫番。


 曰く、人界でも屈指――世界有数の大金持ちで。


 政治手腕もさることながら。


 戦闘においても一流の戦士。

 

 あと、お嫁さんが沢山いて。

 その種族や容姿…性別、年齢に至るまでも様々であることから、守備範囲の広い【変態候】とも呼ばれている人物。


 話題性には事欠かないね。


 そんな有名人である彼は。

 複数の護衛さんと、良く分からない黒衣の人物を控えさせ。

 露天掘りとなっている採掘場の高地へと立ち、私たち無数の雇われPLへと言葉を投げる。



「詳しき話は、前情報が通り。この場で得た鉱物、出土品は全て諸君らの私財として認めよう」

「「―――――」」

「有難い話だね?」

「今は、特にな。――テツさんや」

「…………ははっ」

「差し押さえられたら発狂するよね、絶対」

「でも、流石にそんな――」

「――であるが。一般の者には無用の長物たる魔力石の類……そして、我が欲するようなモノが現れたあかつきには、是非買い取らせてもらいたい。我が家の家紋において、公正な取引を約束しよう」

 

「「……………ァ」」

「バレなきゃセーフじゃないか?」



 魔力石などの、換金アイテム類。

 後は、彼の欲するものにアレが含まれていないと良いんだけどね。

 

 でも、彼の言い分は最もで。


 スポンサーとしては。

 当然の威光だろうね。

 私達はタダで美味しい思いをさせてもらっているようなものだし、対価としては安いもの。



 そんな事を考えている中。



「我の話は以上だ。――意見があるものは?」



 朝礼のような配置に反して。

 言葉を締めくくり、是非を問う鉄血候。


 彼の話は早々に終わったみたいで。


 ……しかし、何か話でもあるのか。


 数人のPLが進み出て。

 何処か三下感を覚える動きと声量で、下から高地へと声を張り上げる。



「――なァ、侯爵様! 先の魔族との戦い、報酬がしょぼかったんじゃないか?」

「「……………」」

「そうだそうだ!」

「俺たちを使い捨ての駒にしたよな。こちとら、何も手に入んなかったんだぞ!」



 彼らが言っているのは。

 

 クロニクルの話だろう。


 確かに、そういう考えもある。

 実際、標的となった人界の都市は、何処もPLが主となって戦っていたというし。


 運が悪くて流れ弾に当たったり。

 退場が早かったりして。

 思うような【戦果ポイント】のようなボーナスが無かった中堅以下PLには酷な物だったのだろう。


 とはいえ。


 それは、自身で選んだ事だし。

 

 攻める相手がちょっと違うね。


 私の考えに反し。

 一つ頷いた侯爵様は、薄く笑うままに問いかける。



「では、何を望む。異訪の者たちよ」

「……それは」



 ―――その瞬間。



 怪しげな揺らぎ。

 向けられたのは私ではないけど、危機感を覚えて。


 思わず白爛を取り出した……丁度その時。

 





「「――あんたの首だァ―――ッ!!」」


 




 宣言と行動は同時だった。


 他にも仲間がいたようで。

 高地に立っていた鉄血候に向かって複数の矢が飛び。


 彼らもまた、自ら紡いだ魔術をもって攻撃を行う。


 バスケットボール程もある火球。

 可視化されたガラスのような風。

 重量に反して何処までも飛んでいきそうな岩石など、種類も形も様々かつ不思議な攻撃。


 それ等は、全て高台を目指して飛翔し。


 あまりに突飛。


 皆が……いや。


 PLたちは、およそ何が起きたのかを測りかねていて。

 ただ、その場に釘付けで巻き起こる砂埃を見守る。



 およそ、理解不能の所作だね。






「――ほぉ……。勇敢…否、蛮勇を見せるものだ。よもや、我を討ち取るという依頼でも受けたか」


「「……………ッ!!」」





 

 そして、完全に理解していたのは。


 外ならぬ、狙われた侯爵様自身で。


 まるで取り乱した様子もなく。

 彼は弾かれた矢の破片、そして下手人たちを見下ろしながら不敵に笑う。




「度胸や良し。――だが、我は必罰を信条としていてな」




「――タウラス。喰らえ」

「御意に」



 彼の隣に控えていた黒衣。


 その手には、巨大な武器。

 大鎚が握られていて。

 魔法、そして無数の矢を完全に防ぎ切っていた鎚を振り被った黒衣は、ソレを振り下ろす。 



 言葉に表すなら……大噴火。



 大地が震えるような錯覚と。


 響き渡るような轟音の旋律。



 ―――そして。

  



「「……………!?」」



 氷柱(つらら)のように隆起する針の大地。

 PL達がせっせと掘った深穴から生じる紅蓮の火柱。

 災害のような力は、的確に下手人のみを狙い打ち。


 寸分たがわず。


 一人も残さず。


 彼等は、ポリゴンの波に飲まれて消え。

 それを何でもないかのように平然と見送った侯爵は。


 再び、先程のように。


 こちらへと声を投げかけ始める。



「――さぁ。他に、我が右腕【紅蓮の戦鎚】へと挑戦したい者がいるのであれば、今この場でも戦いを許そう。死を恐れぬ者のみ……な」



 アレを見せた後で――ねぇ。



 なんて非情なスペクタクルだろう。


 やり方が、流石は貴族と言えるね。



「――ふふふ……どうだい? ユウト。喧伝(けんでん)にはいい機会だと思うけど」

「らしいっすよ、親分」

「行ってくるんです?」

「……勘弁してくれ。肉餅になるのは御免だ。というか、アレ【12聖天】の一角だろ? TPでも勝てないぞ」



 ―――じゅうにせいてん?

 

 それは、何だろうね。


 私が知らない言葉だ。



 シン……と静まり返った採掘場。

 鉄血候は暫く本当に対戦相手が現れるのを待っていたみたいだけど。


 やがて諦めたか。



「……では、引き続き作業を続けてくれたまえ」 



 そう言い残して。


 侯爵以下、護衛の人たちは去って行く。

 どうやら、派手な見世物はこれにて幕引きという事らしい。



 PL達は、暫く固まっていたけど。


 やがては各々が作業へ戻り始め。


 採掘を進めていく。


 ……どこか、無理をするような急ピッチで。

 これじゃあ、本当の強制労働みたいだねぇ。



「―――んで、掘るのは良いんだけど……どうするんすか?」

「……どうするって」

「続けるしかない?」

「怠けてたら同じ目に遭いそうだし」

「……はははっ」

「ゲームが変わってないか? 俺たち、労働者になった覚えはないんだけどな」


「――あ、また【蒼石晶】発見」

「「ルミねぇ?」」

「……マイペースぅ……ですかね」



 強制労働はともかく。



 やっぱり美味しいね、このイベント。

 実に稼ぎの良いアルバイトをしている気分だよ。



 ……………。



 ……………。


 

 そこからも。

 私たちは一塊で共生労働(給料山分け)に従事し。


 暫く採掘を続けて。


 日も沈み始めた頃。


 そろそろ、引き上げようという事になり。

 換金アイテムも結構掘れたことで、中々に満足してその場を後にする事になった。




・F・

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