第9幕:閑話掘り下げ
「―――とまぁ、そんな感じなんだよ」
「「……………へ?」」
「そんな感じなんだよ」
囚われの身から仮釈放され数日。
私は【黒鉄商店】で寛いでいた。
目の前には【一刃の風】の皆が居て。
ユニークスキルや詳しい情報を端折って、ちょっとした冒険の事を話しているんだけど。
何故か、首を傾げるユウトたち。
「――いやさ……え? 何やってんの――?」
「圧縮してヨロです」
「貴族の身代わりやって、盗賊に襲われて、別の盗賊に攫われて、盗賊と仲良くなって盗賊の仲間(仮)になったんだとさ」
「……うーん、意味不明」
「無事でよかったんですけど、ね?」
それにしては、余り喜んでないね。
お姉さんが無事に帰って来たのに。
やや渋面を作った彼等は。
私を攻めるように、拗ねるように距離を詰めて来て。
……あぁ、そこ座るのね。
「――なぁ、ルミねぇ」
「忘れてないよね?」
「約束……ですよ?」
「うん、勿論さ。私は皆が一位になるのを、楽しみにしてるからね」
「でも、これは油断できないよ」
「いつの間にか他の団に入ってて、俺たちの脳が破壊されるかもしれないからな」
彼等5人の最終的な目的。
いずれ、GR1位に君臨するという夢。
それは難しい事だ。
実に、困難な事だ。
でも、不可能と言い切る事も出来ない。
このゲームのシステム的には、それを可能とするだけの要素が幾つもあるから。
私だって楽しみにしてるとも。
彼等が、私の所へと到るのを。
―――無職という高みから……ね。
「でも、その為には3rdにならないとな」
「後ちょっとだしね」
「最前線の人たちには及ばないけど、僕たちも十分速いし。上手く行けば、大幅にGRを上げられるかも」
もう、そんなになんだ。
私は上位職とか無いし。
好きに動けるけど。
そういう目標があるというのも、面白くて羨ましいな。
「もしかして、皆はもう転職先を決めてたり?」
「「――ふふふッ」」
こういうゲームの醍醐味。
それは、転職先の選択だ。
能力値を好きに割り振って。
自由に自分の職を決められるというのは、本当に楽しくて…ガチ勢さんなユウトたちは、強さという点でも、既にネットとかで色々調べているのだろう。
嬉しそうに展望を聞かせてくれる。
「俺は【刀士】か【魔剣士】だな。攻撃力を取るか、魔法とバランスよく取るかだ」
「そのまま上位派生一択っす!」
「【武闘家】も良いんですよね」
「やっぱり環境トップの【銃士】です」
ユウトは変わらず剣士の高みへ。
エナも、強力な狙撃手を目指し。
ワタル君は軽戦士だけど。
今のスタイルから変えて拳で戦うか検討しているんだ。
将太君はバーニングマンを極めるようで。
危ないお祭り男君の誕生を予感できて…。
……やっぱり決まってる。
皆、流石と言うべきかな。
でも、ナナミは…?
真っ先に言いそうな彼女は、頭を捻って唸っていて。
「――ナナミは暗殺者だけど。次の予定はあるのかい?」
「んん~~悩んでんだよねぇ。ニンジャとか」
「おぉ、忍者」
チャラオ君と同じだ。
でも、それを思うと。
ナナミは【盗人】派生で。
彼女が成る可能性のある3rdは、大体彼等の中にもいそうなんだよね。
……あぁ、そうだ。
その彼等と言えば。
一応、頼まれ事みたいなモノを請け負っているんだよね。
「――皆は【ノクス】って知ってるかい?」
「「のくす……?」」
それは、あちらの目的……夢で。
どうにも名前に覚えがあるので。
皆にも覚えがないか聞いてみる――と。
彼らは首を傾げた後。
思い至ったように同時に叫んだ。
「「ジュゲムっ!!」」
「……あぁ。それだよ」
引っ掛かっていたんだけど。
ようやく思い出した。
フォディーナの観光クエストをした時、皆に寄ってたかって虐められていた盗人君が、そんな単語を口にしていたんだった。
あの光景。
皆の行動があまりにショッキングで。
そっちまで頭が回っていなかった。
それに、他の皆は。
私よりも多くクエストをしていただろうから、より強く残っていたんだろうね。
「でも、それがどうかしたんです?」
「どっかで聞いたとか」
「いや、ちょっとした怖い話をね。NPCも、裏で行動してるって話さ」
それは、巨大な秘密組織の名。
人界に根を張る裏組織の一つ。
それをさっくりと。
色々と端折って話してみる。
「――へぇ。随分と深く調査してるところがあるんすね」
「話、聞いてみたいです」
「私達も、似たようなの聞くけどね」
「そうなのかい?」
「航がそういうの好きだからな。どっちかというと神話関係、オルトゥスの成り立ちとか、神々の話だとか」
「クエストの説明に出る事もありますし」
「――じゃあ、プレイヤーたちは知らずのうちにそういった話に首を突っ込んでいるってことなんだね。実に面白くなってきたじゃないか」
「……無職が何か言ってるね」
無職でも夢を見たいのさ。
見るだけで、行動しない。
故に、私は無職。
まだ本気を出していないまま、可能性を秘めたままの自分を保持しているのさ。
「でも、神話って言えばやっぱりさ」
「今回のクエストはそんな感じだね」
「―――今回――?」
一人でほくそ笑んでいると。
ナナミとワタル君の会話が。
面白そうな匂いを感じて、私は顔を上げる。
「今回のクエストって……」
「「はい?」」
「――急に、随分と装備を固めるね。何処か行くのかい?」
顔を上げた途端に、装備変更。
何時もの、バラバラな装備が。
自ら収集した彼等本来の装備では無く、均一の装備へと変わっていて。
ヘルメットとか。
作業用の服とか。
サーチライトも。
ナナミの短剣はミニシャベルに。
ユウトやワタル君は大きなシャベルやピッケルへ持ち替えていて。
どう見ても冒険の装備じゃなくて。
皆で穴でも掘りに行く感じだよね。
―――は……よもや。
「……まさか、遂に無職の穀潰しを……?」
「無職に用はねーですわ」
「居て貰わないと困るし」
「そのままで、どうぞ」
「――んで。俺達、ずっと大迷宮に籠ってたんすけどね? 内々で言われてた噂話を聞けたんですよ」
「所謂、ボーナスイベントってやつです」
その話は聞いたことがあるね。
クロニクル、オリジナル。
そしてイベントクエスト。
オルトゥスのクエストシステムは大別して三種だけど、イベントクエストの中には大々的に告知がされるわけではなく、小規模に行われるモノもあるらしくて。
その手の情報などは。
NPCから聞き出せる。
ユウトたちの場合は。
彼等NPCから聞き出したPLから、更に聞いたのだろうけど。
「モグラさんのお仕事へ行くのかい?」
「イエス、その通り」
「今回は、かなり美味しいクエストらしくて…何と、無料!」
それは、随分とお得……んう?
有料のクエストがあるのかい?
私がいぶかしんでいる間にも。
皆の解説は進んでしまってて。
ワタルくんが。
教えてくれる。
「―――フォディーナで、採掘イベントっていうのをやるらしいんです」




