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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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第8幕:夜の支配者




「………ノクス。ラテン語の夜?」


 

 それは、組織の名で。

 つい最近何処かで聞いたような、聞いてないような?


 いつだったかなぁ。


 護衛……されるクエストが終わり。

 数日が経過しているんだけど。

 私は再び【傍若武人】のギルドホームへお呼ばれして、彼等の歓待を受けていた。

 

 で、今話しているのは。


 彼等の持つ夢、目的で。



「――らしいっすね。【人界領域】に根を張る巨大犯罪組織――その一角だとかで」

「へぇ、犯罪組織なんて」

「「怖いっすよねェ?」」

「うん、怖い怖い」

「某たちの目的は、その組織の壊滅なのですぞ」



 大それた野望は。


 盗賊の特権だね。


 彼等は同業者なのに。

 盗賊団が犯罪組織を壊滅させようなんて、抗争みたいで。



「――でも、何でそんな事を? 因縁があるとは思えないんだけど」

 


 彼等は一般通過PLさんだからね。


 何かの介入はあっても。

 直接的な因縁はない筈。

 ならば、やはり欲しいモノを相手が持っている場合だけど――そういう風でもないんだ。


 私の疑問に、彼等は不敵な。


 攻撃的な笑みを浮かべてて。



「ただ、気に入らねえだけさ」

「――ほう?」

「ノクスの大幹部…その一人は裏社会で【盗賊王】なんて呼ばれてるらしくてな。俺としちゃ、それが我慢ならねえ。盗賊の王は一人で良いのさ」



 レイド君、ちょっと現実が心配だよ。

 昔のトワみたいな中二病さんで――そういう理由なんだ。


 気に入らない……か。


 それは確かに、うん。

 

 理由としては()()()()()か。


 

「良いね、とても面白い」

「「ケケケケケケケッ」」

「流石、ルミちゃん。――こんな人がリアルにいねえかなぁ……ぐすっ」

「「グスッ…ううぅ……」」



 つい数秒前の集団馬鹿笑いは何処へやら。

 チャラオ君が切ない一言を口にし。

 すぐさま悲哀に涙を流しながら、互いに肩を叩いて慰め合う盗賊くんたち。


 本当に面白いね、君たちは。


 最高の観客さんに成れるよ。



 ―――でも、盗賊王。 



 確かにゲーム的と言うか。

 物語の敵役にはうってつけの二つ名という訳で……仲間たちを見事にスルーしたレイド君の瞳には確かな闘志が宿っている。



 ―――それも、恐らく。



「やっぱり、レイド君は【ユニーク】とやらを持っているんだね?」

「……………ッ!!」


 

 私が()()を口にした瞬間。


 固まり、此方を伺う彼等。


 表装のバカ騒ぎやしかし。

 その実、決して油断ならない強かな彼等……その長は。



「――どうして、そう思う」

「私の勘」

「「勘かいっ!!」」

「根拠には乏しいけど、コレで自分の感覚には自信があってね」



 あの時…尋問の時レイド君は。


 私にユニークかと聞いたけど。

 

 彼の反応は、同族に送られるモノで。

 身近に、同様の力が存在しているという自負、有用性を知るが故の期待があった。


 それ故に、欲しがる。

  

 強力かつ独特な力を。



「大方、その点でもあちらが気に入らないんだろう?」

「……………」

「何で無職なん? ルミさん」

「戦闘職でさえあれば、きっと……はは」


「私、身勝手な平和主義なんだ」

「……ある意味、バランスが取れてんのかもな。まぁ――」



 「ご名答」……と。



 レイド君はシステムのパネルを操作して。

 私へ、その秘密の画面を共有してくれた。





―――――――――――――――

【Name】    レイド

【種族】  人間種 

【一次職】  強欲王(Lv.47)

【二次職】  鑑定家(Lv.2)


【職業履歴】 

一次:盗人(1st) 盗賊(2nd)

   任侠(3rd) 強欲王(――) 

二次:鑑定家(Lv.2)


【基礎能力(経験値:0P)】            

体力:30  筋力:25  魔力:40

防御:38  魔防:20  俊敏:65  


【能力適正】

白兵:B  射撃:B  器用:AA 

攻魔:E  支魔:E  特魔:B

―――――――――――――――




 ……………わぉ。

 


「――ゴメン、ちょっと()()のせいで見にくいんだけど」

「………ホレ」

「総レベル47? あぁ、廃人の方でしたか」

「おい」



 いや、だってねぇ。

 こんなステータス。


 見たこともないし。

 プレイヤースキルだけじゃなくて、レベルという点でも、確かな実力だったんだ。


 でも、少しおかしいよ。


 確かに彼はユニークだ。

 しかし、レベルの方は。

 何処か中途半端と言えるもので、【任侠】とやらは途中で消えているみたいだ。



「3rdの上限レベルは60だろう? ユニークっていうのは、成長中でも成れるものなんだ?」

「さあ、な。俺も良く分からん。いつの間にか条件を達成してたんだろ」



 てっきり、レベルが成長しきったら。

 その時に上位職と一緒に現れると思ったんだけど。


 本人にも不明と。


 謎が多いんだね。

 

 ユニーク職……【強欲王(アワリティア)

 何か特殊なスキルがあるのかは分からないけど、能力適正も異常に高くて、隙の無い構成。現在の環境では無双できるほどの実力だろう。


 Aでも見た事ないのに。


 適正AAって――凄い。


 彼はテクニシャンなんだ。

 曰く【器用】は罠の解除とか、技の正確さ……スキルに補正など、白兵や射撃の強さでは語れないポテンシャルを秘めているとかで。


 使い手次第では。

 

 幾重にも強力に。


 無限の可能性があり、化けるという事だったけど。

 彼は白兵と射撃も並以上に高いし。


 ―――ちょっと、強すぎ?


 バランスが偏ってるよね。


 これじゃ凄く不公平で……いや。

 或いは、早熟という事なのかな。

 流石の運営陣も、こんな強い一次職を更に強化はしていかないだろうし……彼女(トワ)の美学に反する。


 彼がパネルを消すのを見つつ。


 私は、そう考えを結論付けて。



「―――でも。私は嬉しいけど、良かったのかい? そんな極秘情報を見せてしまって」

「ルミエなら、言い触らしはしないだろ」

「………明日の紙面をお楽しみに?」

「「おい、おい!?」」 


「やっぱソイツ縛れ!」


「「無理っす、団長」」

「ルミちゃんを縛れる縄なんて、ウチにはないで芝ァ。あと、入れないで柴ァ」



 軽い冗談さ。



 これでも、口は堅いんだ。


 私たちの秘密にしようね。


 刈るべきは柴じゃなくて。

 この、上から下に伸びる幾本もの鉄製棒だし。



「――でも、やっぱり。居心地良いよね、此処」

「「……………」」

「某たちは別に良いですが」

「マジで入るか? 普通」

「普通、入りませんね。……あまりに自然に会話しててツッコミ時失ってたわ」



 先程から普通に会話してたけど。


 実は、私と皆とじゃ差異がある。


 盗賊さん達は床に座ったり。

 椅子に各々で腰かけたりと。


 思い思いの場所で寛いでいるけど。

 私が居るのは、格子を隔てた向こう側――以前スミレさん達が入れられていた座敷牢なんだ。



「さぁ、まずは100アルからのスタートだよ?」

「「10000アルゥ!」」

「某は20000!」

「魂の30000アル入札だぁ!」

「……四十万」

「「大将汚ぇ!!」」

「ギルドの共通資金着服すんなぁ!」

「うるせぇ馬鹿共。なにオークション開廷してんだ」



 思い付きで。


 彼らの資金を調べてみたけど。


 流石にTPクラスは違うんだね。


 私が及びもつかない額だよ。

 一通り盛り上がり、場が落ち着く頃、私はようやく牢屋生活に満足して。


 

 さぁ、どう出よう。



「わー、わー。出してよー」



 我ながら、すっごい棒読みで。


 気分は、まるで珍獣さんだよ。



「――あ。ご飯は果物以外受け取らないからね」

「……めんどくせェ」

「某が貢ぎますぞ!」

「抜け駆けすんな似非サムライ野郎。俺が献上するんだっての」



 さながら、客寄せパンダ。


 まさかここは動物園だったのか。

 一日中何もせず、ゴロゴロしててエサが出てくるなんて、なんて良いご身分なんだ。



「こんなの、まるで私が無職みたいじゃないか」

「……出して欲しいか? 無職さん」

「出して欲しいなぁ」

「なら、俺達に協力してくれるな?」

「名誉とは言え、団員さんだからね。恩も沢山あるし、出来る限り頑張ってみるとも」



 戦闘は無理だけど。

 諸国漫遊としては、情報通になれそうだし?


 無職なりに頑張るさ。 


 彼等が求める相手は。

 【ノクス】という組織で。

 私は、その情報を提供しつつ、レイド君達と緩やかに連携するんだね。



「俺達は、まだ暫くはこの辺で狩りして遊んでるからよ」

「やり返されないようにね?」

「「大歓迎デース」」


「またヤるだけさ」

「某たちは、常に強者との戦いを望んでおりますゆえ。向こうから来るなら大歓迎ですぞ」



 そんなこんなで、過ぎていく時間。


 どうやら、皆と上手くやれそうで。



 私のちょっとした冒険は。

 無事に何事も無く……はなく、色々あっておしまいという事で―――ね?

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