第8幕:夜の支配者
「………ノクス。ラテン語の夜?」
それは、組織の名で。
つい最近何処かで聞いたような、聞いてないような?
いつだったかなぁ。
護衛……されるクエストが終わり。
数日が経過しているんだけど。
私は再び【傍若武人】のギルドホームへお呼ばれして、彼等の歓待を受けていた。
で、今話しているのは。
彼等の持つ夢、目的で。
「――らしいっすね。【人界領域】に根を張る巨大犯罪組織――その一角だとかで」
「へぇ、犯罪組織なんて」
「「怖いっすよねェ?」」
「うん、怖い怖い」
「某たちの目的は、その組織の壊滅なのですぞ」
大それた野望は。
盗賊の特権だね。
彼等は同業者なのに。
盗賊団が犯罪組織を壊滅させようなんて、抗争みたいで。
「――でも、何でそんな事を? 因縁があるとは思えないんだけど」
彼等は一般通過PLさんだからね。
何かの介入はあっても。
直接的な因縁はない筈。
ならば、やはり欲しいモノを相手が持っている場合だけど――そういう風でもないんだ。
私の疑問に、彼等は不敵な。
攻撃的な笑みを浮かべてて。
「ただ、気に入らねえだけさ」
「――ほう?」
「ノクスの大幹部…その一人は裏社会で【盗賊王】なんて呼ばれてるらしくてな。俺としちゃ、それが我慢ならねえ。盗賊の王は一人で良いのさ」
レイド君、ちょっと現実が心配だよ。
昔のトワみたいな中二病さんで――そういう理由なんだ。
気に入らない……か。
それは確かに、うん。
理由としては十分過ぎるか。
「良いね、とても面白い」
「「ケケケケケケケッ」」
「流石、ルミちゃん。――こんな人がリアルにいねえかなぁ……ぐすっ」
「「グスッ…ううぅ……」」
つい数秒前の集団馬鹿笑いは何処へやら。
チャラオ君が切ない一言を口にし。
すぐさま悲哀に涙を流しながら、互いに肩を叩いて慰め合う盗賊くんたち。
本当に面白いね、君たちは。
最高の観客さんに成れるよ。
―――でも、盗賊王。
確かにゲーム的と言うか。
物語の敵役にはうってつけの二つ名という訳で……仲間たちを見事にスルーしたレイド君の瞳には確かな闘志が宿っている。
―――それも、恐らく。
「やっぱり、レイド君は【ユニーク】とやらを持っているんだね?」
「……………ッ!!」
私がソレを口にした瞬間。
固まり、此方を伺う彼等。
表装のバカ騒ぎやしかし。
その実、決して油断ならない強かな彼等……その長は。
「――どうして、そう思う」
「私の勘」
「「勘かいっ!!」」
「根拠には乏しいけど、コレで自分の感覚には自信があってね」
あの時…尋問の時レイド君は。
私にユニークかと聞いたけど。
彼の反応は、同族に送られるモノで。
身近に、同様の力が存在しているという自負、有用性を知るが故の期待があった。
それ故に、欲しがる。
強力かつ独特な力を。
「大方、その点でもあちらが気に入らないんだろう?」
「……………」
「何で無職なん? ルミさん」
「戦闘職でさえあれば、きっと……はは」
「私、身勝手な平和主義なんだ」
「……ある意味、バランスが取れてんのかもな。まぁ――」
「ご名答」……と。
レイド君はシステムのパネルを操作して。
私へ、その秘密の画面を共有してくれた。
―――――――――――――――
【Name】 レイド
【種族】 人間種
【一次職】 強欲王(Lv.47)
【二次職】 鑑定家(Lv.2)
【職業履歴】
一次:盗人(1st) 盗賊(2nd)
任侠(3rd) 強欲王(――)
二次:鑑定家(Lv.2)
【基礎能力(経験値:0P)】
体力:30 筋力:25 魔力:40
防御:38 魔防:20 俊敏:65
【能力適正】
白兵:B 射撃:B 器用:AA
攻魔:E 支魔:E 特魔:B
―――――――――――――――
……………わぉ。
「――ゴメン、ちょっとコレのせいで見にくいんだけど」
「………ホレ」
「総レベル47? あぁ、廃人の方でしたか」
「おい」
いや、だってねぇ。
こんなステータス。
見たこともないし。
プレイヤースキルだけじゃなくて、レベルという点でも、確かな実力だったんだ。
でも、少しおかしいよ。
確かに彼はユニークだ。
しかし、レベルの方は。
何処か中途半端と言えるもので、【任侠】とやらは途中で消えているみたいだ。
「3rdの上限レベルは60だろう? ユニークっていうのは、成長中でも成れるものなんだ?」
「さあ、な。俺も良く分からん。いつの間にか条件を達成してたんだろ」
てっきり、レベルが成長しきったら。
その時に上位職と一緒に現れると思ったんだけど。
本人にも不明と。
謎が多いんだね。
ユニーク職……【強欲王】
何か特殊なスキルがあるのかは分からないけど、能力適正も異常に高くて、隙の無い構成。現在の環境では無双できるほどの実力だろう。
Aでも見た事ないのに。
適正AAって――凄い。
彼はテクニシャンなんだ。
曰く【器用】は罠の解除とか、技の正確さ……スキルに補正など、白兵や射撃の強さでは語れないポテンシャルを秘めているとかで。
使い手次第では。
幾重にも強力に。
無限の可能性があり、化けるという事だったけど。
彼は白兵と射撃も並以上に高いし。
―――ちょっと、強すぎ?
バランスが偏ってるよね。
これじゃ凄く不公平で……いや。
或いは、早熟という事なのかな。
流石の運営陣も、こんな強い一次職を更に強化はしていかないだろうし……彼女の美学に反する。
彼がパネルを消すのを見つつ。
私は、そう考えを結論付けて。
「―――でも。私は嬉しいけど、良かったのかい? そんな極秘情報を見せてしまって」
「ルミエなら、言い触らしはしないだろ」
「………明日の紙面をお楽しみに?」
「「おい、おい!?」」
「やっぱソイツ縛れ!」
「「無理っす、団長」」
「ルミちゃんを縛れる縄なんて、ウチにはないで芝ァ。あと、入れないで柴ァ」
軽い冗談さ。
これでも、口は堅いんだ。
私たちの秘密にしようね。
刈るべきは柴じゃなくて。
この、上から下に伸びる幾本もの鉄製棒だし。
「――でも、やっぱり。居心地良いよね、此処」
「「……………」」
「某たちは別に良いですが」
「マジで入るか? 普通」
「普通、入りませんね。……あまりに自然に会話しててツッコミ時失ってたわ」
先程から普通に会話してたけど。
実は、私と皆とじゃ差異がある。
盗賊さん達は床に座ったり。
椅子に各々で腰かけたりと。
思い思いの場所で寛いでいるけど。
私が居るのは、格子を隔てた向こう側――以前スミレさん達が入れられていた座敷牢なんだ。
「さぁ、まずは100アルからのスタートだよ?」
「「10000アルゥ!」」
「某は20000!」
「魂の30000アル入札だぁ!」
「……四十万」
「「大将汚ぇ!!」」
「ギルドの共通資金着服すんなぁ!」
「うるせぇ馬鹿共。なにオークション開廷してんだ」
思い付きで。
彼らの資金を調べてみたけど。
流石にTPクラスは違うんだね。
私が及びもつかない額だよ。
一通り盛り上がり、場が落ち着く頃、私はようやく牢屋生活に満足して。
さぁ、どう出よう。
「わー、わー。出してよー」
我ながら、すっごい棒読みで。
気分は、まるで珍獣さんだよ。
「――あ。ご飯は果物以外受け取らないからね」
「……めんどくせェ」
「某が貢ぎますぞ!」
「抜け駆けすんな似非サムライ野郎。俺が献上するんだっての」
さながら、客寄せパンダ。
まさかここは動物園だったのか。
一日中何もせず、ゴロゴロしててエサが出てくるなんて、なんて良いご身分なんだ。
「こんなの、まるで私が無職みたいじゃないか」
「……出して欲しいか? 無職さん」
「出して欲しいなぁ」
「なら、俺達に協力してくれるな?」
「名誉とは言え、団員さんだからね。恩も沢山あるし、出来る限り頑張ってみるとも」
戦闘は無理だけど。
諸国漫遊としては、情報通になれそうだし?
無職なりに頑張るさ。
彼等が求める相手は。
【ノクス】という組織で。
私は、その情報を提供しつつ、レイド君達と緩やかに連携するんだね。
「俺達は、まだ暫くはこの辺で狩りして遊んでるからよ」
「やり返されないようにね?」
「「大歓迎デース」」
「またヤるだけさ」
「某たちは、常に強者との戦いを望んでおりますゆえ。向こうから来るなら大歓迎ですぞ」
そんなこんなで、過ぎていく時間。
どうやら、皆と上手くやれそうで。
私のちょっとした冒険は。
無事に何事も無く……はなく、色々あっておしまいという事で―――ね?




