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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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第7幕:達成のクエスト




「お嬢様。このご恩は、決して忘れません」

「もう名前で良いんじゃないかな?」

「……ぁ。そうでしたね、ルミエール様」

「「誠に有り難うございました」」

「お世話になりました~」

「いや、いや。私もお世話になったからね。こちらからも、賑やかな冒険を有り難う」



 深々と頭を下げる七人。


 侍従のスミレさん。

 職務に真面目で、恐怖にも立ち向かう強い女性。


 護衛リーダーのリドルさん。

 強く、礼儀正しく、皆を指揮する頼れる存在。


 護衛Aのエルボさん。

 背が高くて、実直かつ情に厚い男の子の手本。


 護衛Bのトルコさん。

 やや崩れた言葉遣いだけど、真面目な野生派。


 護衛Cのレストさん。

 声が高くて、特徴的な語尾を付けるけど、気さくで優しい。


 御者のヨハンさん。

 命を捨てる準備オーケーで、何処か護衛さん達と同じ空気を感じる危ない紳士。


 薬師のニャニャさん。

 ほんわかしてて、どんなピンチでも動じない無敵のほわほわ。


 

 皆、とても良い人達だったわけで。

 最初疑ってしまった身としては、若干の申し訳なさがあるね。


 歩きだけで無事に森を抜け。

 都市へとやって来た私たち。

 当然任務は完了という事なので、彼らとはここでお別れで。涙ながらに惜しむ言葉を述べつつ、私たちは再会を約束する。


 とても楽しかったよねって。


 言ったら多分怒られそうだ。


 そんな余裕なかっただろうし。

 私と彼等とじゃあ、命に対する価値観がまるで違うんだ。

 


「――では、再会を楽しみにしているからね」

「「必ず!」」

「また会いましょ?」

「うん、絶対だよ?」



 ニャニャさんと抱擁し……離れていく彼等は。

 いずれ、また会える機会なんてあるのかなぁ。


 この世界は広くて。


 命は簡単に散ると。


 今回の事でよく理解した。

 散っていったのが偶々私に所縁がない人達だったから淡々と見送ったけど、やはりゲームとは侮れない所があるよね。


 遠ざかる影を見送り。


 通された広い控えの一室を見渡しながら。

 ピートでウサギさん、カメさん、竜さん切りとかを披露しながら待っていると。



「――ルミエール様、お待たせいたしました」



 私を呼ぶ声は突然に。

 奥の通路から出てきた新顔の侍従さんだ。

 ……屋敷の中だし、今更だけどナイフとか短剣はしまっておこうかな。


 持ち物を所持品欄へ放り込んで。


 悠々と、部屋から出ると。


 案内の後ろに付いて行く。


 向こうの空間は、見るからに。

 普段はPLが入れなそうな区画。

 侍従さんが着るような燕尾服を纏い…しかし屈強な男二人が守る奥の通路らしく。


 可愛らしいメイドさんも。

 両目をぎらつかせている。


 普通に素通り出来たけど。


 どうも、検問のようだね。

 彼女が測っているのは……相手の前身を包む衣装だ。



 多分、ドレス―――



「――あの……ルミエール様」

「んう?」

「後ろの方々は、少し」



 侍従…執事さんに言われて。


 私は後ろを振り向いたけど。



「御客様、武器の持ち込みは……」

「あーん? 俺っちの剣が不要だと? そりゃ侵害ってもんだぜ」

「御客様、礼服以外での入館は……」

「んん? 某の一張羅が――」



 ……………。


 ……………。


 ああ、これはダメだね。


 ドレスコードがあるし。

 彼等は少し…結構…かなり粗野な格好だから、多分ここから先の入場は無理だ。


 私は借り物を着ているから。


 普通に通れたのだろうけど。



「「助けてルミさん!」」

「此処で待っているかい? 私もすぐに戻るから」

「「助けて大将!」」

「んじゃ、俺も行くからなー」

「「救いは!?」」

「……ですから。礼服以外での入館は――えぇ!?」



 ――ほう、中々の変わり身だね。



 それは【盗人】派生のスキルか。


 或いは、彼自身の得意技なのか。


 みるみるうちに。

 彼の外見は様変わりしていき。


 ボロボロの外套は黒の燕尾服。

 乱れた茶髪はオールバックに。

 撫でつけた前髪は若干アホ毛のように飛び出しているけど、むしろチャームなポイントで。


 あのレイド君が、まるで。


 他所の国の貴公子みたい。



「うしっ……ッと。これで良いのか?」

「――はぃぃ///」 



 でも、纏う雰囲気は。

 女性の侍従…女中(メイド)さんに詰め寄る姿には野性味があって。


 こういうのが良いという人もいるよね。

 メイドさんはそういう手合いだろうし。



「んじゃ、行くぞルミエール」

「レイド君、手癖が悪いんだね」

「処世術よ。これでも、純情なんだぜ? ……あ。お前らは先に帰ってろ」

「そりゃねぇよ!!」

「んんッ――ズルいですぞぉ!」

 

「――では、此方へどうぞ」



 案内の侍従さんもプロだね。


 面子が固まったのを見ると。


 声に取り合わず先へ案内してくれて。

 悲痛な叫びが後ろから聞こえるものの、私とレイド君は案内されるままに歩いていく。



「――おぉ。ルミエール様、よくぞご無事で」

「あ、紳士さんじゃないか」

「……誰だ?」

「私がクエストを受けた人だよ。モノクルがキラリってするんだ」

「………は?」



 通路の向こう側に現れたのは。

 商業都市ゲンマで出会い、依頼を受ける要因となった紳士さん。

 此処に居る所を見るに、彼は相当に位の高い侍従さんなのかな。


 初対面のレイド君に話している間。


 彼は、若い侍従さんを労っていて。



「――えぇ、ご苦労でした。此処からは、私が」

「畏まりました」



 若い侍従さんを見送り。



 ―――キラリ……と。



 再びこちらを向く眼光。

 

 ……否、モノクル光。

 どういう原理かは知らないけど、やっぱり面白いね。



「……では、此方の通りへどうぞ」

「彼も、大丈夫かい?」

「どうも」

「勿論です。お連れ様も、どうぞご一緒に」



 今度は彼に案内されて。

 私達二人は通路を行き。

 ただ歩くだけでは手持ち無沙汰という事で、旅中でスミレさん達に聞いていた話……この依頼の話などを尋ねる事にした。


 商家とか、名家とか…。


 色々憶測はあったけど。

 

 やっぱり彼等が仕えるのはその先。

 もっと上の階級だったんだね。


 ポロリと騎士とか言ってたし。


 

「――そして、こちらは別荘のようなものでして」

「本拠地じゃないんだね」

「こんなに広いのにな?」

「此度の催しは、我々としても決して逃せぬモノで。この都市で開かれる舞踏会へ出席するためには、危険な街道を通る他なかったのです」



「――例え、狙われていようとも」……と。



 上流階級、本当に怖いね。

 危険覚悟で罠に飛び込んで行かなきゃいけないなんて。


 体裁を整えるのに必死で。


 外面を保つのに命を懸け。


 ……いやぁ、怖いこわい。

 今回のクエストも、森の妖精さん達が居なかったら、本当は全滅していた筈だし。


 囮役も楽じゃないね。



「物騒な話だよなぁ。政敵に盗賊を雇う連中がいるなんてよ」

「えぇ、本当に」

「――怖いよね」



 雇われた盗賊さんが何か言ってるね。

 一つ違えば、完全な敵方だったのに。


 でも、そこは言いっこ無し。


 私が依頼を達成できたのは。

 他ならぬ彼らのおかげだし。

 私のせいで失敗してしまったクエストの代わりといっては何だけど、今回の報酬に欲しいものがあるのだったら、譲ってあげても良いね。



 そう思いながら。


 私たち二人が案内されたのは、屋敷の二階にある一室で。



「わぁ――本当に此処から?」

「はい。此方の品々から、お好きな物をお選びください。一つ一つご紹介しますと――」



 所謂宝物庫ってやつなのかな。


 それは凄く煌びやかな部屋で。


 二次職である【鑑定】のLv.1と同様の効果が得られる「眼鏡」とか。

 保有できる魔力が上昇する「指輪」とか。 

 私が着ているドレスと似た…しかし、明らかに上質なモノとかが沢山あって。


 解説してくれた執事さんが壁際に下がる頃。

 私は、目を輝かせながら物色する。



「驚いたね、宝の山だ」

「そうか?」

「そうとも」

「――俺にいわせりゃ、初心者でもなきゃ特筆して良いものはねえぞ」



 キミが廃人なだけと言いたいね。


 でも、言わんとする事は分かる。


 まず、鑑定は転職すれば手に入るから。

 二次職で取得したスキルは。

 転職後も効果が残るらしく。

 現在では、最初に【鑑定家】を取得してから他の職を探すのがメジャーらしい。


 そして、魔力が上がる指輪も。

 実はステータスの中では、「魔力」や「体力」というのは優先度の低いものだと言われているらしく。


 アイテムで回復も可能だし。


 最低限に留めるのが賢い手。


 他の能力値は、身体能力が直接上がるからね。


 ドレスも、あくまで見栄え重視で。

 他の上位防具と比べてしまえば。


 やはり、能力面は。

 若干の見劣りがあるのだろう。

 


 ―――とまぁ。


 色々と種類があるみたいだけど。


 どれも、同じランクに比べると。

 

 やはり、若干性能に劣るようで。

 配布枠とか、参加賞とか……その辺りの褒賞というべきだろうね。



「でも、十分過ぎるよ。レイド君は私が初心者そのものってことを忘れてないかい?」

「………そやったわ」



 だから、宝の山なんだよコレは。



「じゃあ、無職な初心者さんはどれにするんだ?」

「そうだねぇ……あ。何か欲しいものがあるなら、譲るけど」

「いらね。もっと……一番良いのがあるからな」



 ―――そっか。

 

 じゃあ、遠慮なく私が貰おう。

 どれも非常に良いものだけど。


 ……やっぱり、此処は。


 魔力の指輪が良いかな。


 極貧だから回復アイテムを節約したいし。

 MPポーションはいざという時の為に残しておくことにしよう。



「紳士さん? これにするよ」

「ほう、クライト・リングですか。それは一点物でして。流石、お目が高い。……それに、我々としても嬉しい事ですな」

「…………あ?」

「効果は――おぉ?」




―――――――――――――――

【装備銘】  クライト・リング


【種別】

装備・指輪 RANK:C


【要求値】

要求値―― 


【強化値】            

魔力:+20 

―――――――――――――――




「凄い上昇値だよコレ。ほら、ほら?」

「……20、ね。まぁ、初心者には随分な代物だな。同じような効果のある装備は、何度か狩った連中が持ってたことがあるが」

「――流石盗賊、汚い」



 思う所はあるけど。


 それも、RPの醍醐味だろうからね。


 やられて文句があるわけじゃない。



「んじゃ。貰うものも貰ったし、行くか」

「そうだね。皆も下で退屈しているかもしれないし、早く迎えに行ってあげないと」

「……帰ってないの前提かよ」



 だって。

 

 彼等の性格を考えれば、ね?



「ルミエール様。この度は、誠に有り難うございました」

「うん。もしも困ったことがあれば、また頼って欲しいな。一介の冒険家で良ければ、何時でも出張して来るから」

「……………! それは、頼もしい――」

「あ、コレ連絡先ね?」

「……………ほほッ」

「んなの持ち歩いてんのかよ」



「――ほほ……ふふっ。えぇ、その時は、是非とも」



 ……………。



 ……………。



 宝の山……さながら宝物庫を辞して。

 屋敷の外へと向かって行く。


 帰りは案内とか無いんだね。


 泥棒とかもし放題だろうに。



「――その辺、どう思う?」

「……………」

「専門分野でしょ?」

「……まぁ、案外そういう意図があるかもな」

「屋敷をコッソリ探索して新たなクエストのフラグを見つけたり、他のクエストと重複するような情報を調べられるタイミングって事だね?」


「ん、正解」

「――その顔は、やったことあるね」



 色々と、複雑なゲームなんだ。


 凄く自由度が高くて…TRPG?


 昔はトワやサクヤとよくやったけど。

 思ったことが形になる。

 やりたい事が、本当に出来る世界って感じで……おや?



「――これは……ん……んん?」



 誰かが走ってくる。


 すぐそこの角だし。



 ―――ぶつかる、ね。



 でも、避けたらその人が痛い目にあうだろうし。

 すぐ横レイド君(かべ)だし…受け止め覚悟?


 受け止めてあげよう。


 結構小柄な足音だし。



「――あぅ!!」

「成功。……君、大丈夫かい?」



 足音から大丈夫だとは思ってたけど。


 受け止めたのは女の子だった。

 奉公? 侍従さんの一人かな。

 彼女たちと同様の衣装を身に纏い、息を切らせながら状況を確認する少女。


 髪色は珍しい金だし。


 瞳も私と同色の蒼だ。


 親近感を覚える少女。

 そのままの態勢で待っていると、どうやら状況の確認が終わったようで。



「――あぁ……あの……申し訳、ありません」

「気にしなくて良いよ。気付いてて、避けなかったんだ」 

「俺に当たってただろうからな」 



 やはり、ね。


 彼はそういうのを気にしない質だ。


 ちゃんと受け止めていたか怪しい。

 


「でも、まぁ。こうしてはいられないよね? 急ぎの用だろうし」

「……ぁ。はい!」

「気を付けて、ね」

「はい。有り難うございました!」



 愛嬌もあって。


 可愛い子だね。


 でも、小さいながらに。

 その所作は確かな気品と優雅さが同居していて……少々読みを誤ったかな。



「おい、行くぞ甘ちゃん」

「良いとも、貴公子さん」



 答えは得られないだろうし。

 追っていくというのは、余りに恰好が付かないというモノだから。


 彼等が館を占領しないうちに。

 

 戻ってお詫びをしないとだね。

 



  ◇




「――あれ? ……爺や? お客様は」

「今しがた、お帰りになりました。ほほッ……慣れぬ着付けに時間を取られましたな」



 うぅ……そう言われると。

 

 普段はスミレがやってくれるから。

 自分でやらなきゃいけないなんて、思いもしなかったです。


 自分で出来るようにとは。


 何度も言われてましたが。


 こういう時にこそ。

 やっぱり、ツケが回ってくるものなのですね。



「……残念です。直接お礼は言えなくても、贈り物を受け取るところには同席したかったのですが」

「えぇ、そうすべきでしたな」

「――その方は、何を?」

「クライト・リングを」

「……むむ。どのような方でしたか?」

「お嬢様と同じ特徴を持った女性でした。ゲンマでお会いした時は、目を疑いましたが。同行したスミレたちの話では、とても優しく……自由な方であったと」



 同じ特徴とは……容姿で。


 そのような冒険家さんが。


 …………あっ!

 じゃあ、先ほどの方は。



「御嬢様? よもや」

「はい、先ほど回廊で――すれ違ったのです」



 ぶつかってしまった。


 なんて、言えません。

 また小言を言われてしまうに決まってますから。



 ―――では、あの人が。

 


「……でしたら。きっと、また会えます。そんな気がするのです」

「御嬢様の予感ですか」

「ふふっ……はい!」

「それは、当たりそうで」

「当然です! 私は左を歩む者――星の御子(アリ・ステラ)なのですから!」



 ……………。



 ……………。





 【友誼:ララシア伯爵家(小)】を取得しました。

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[良い点] d(˙꒳˙* )ええやん
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