第2幕:やんごとなき?
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【Original Quest】 やんごとなき身代わり
(所要:3時間程度)
貴族家に仕える執事からの頼まれ事です。
森を抜け、パーティー会場へと行きましょう。
・クエスト中、パーティー所属は出来ません。
・パーティー加入状態の場合、自動的に解除されます。
【発動条件】
・二次職【貴族系】を習得している
※又は、いずれか2つを達成
・筋力基礎値が10以下(能力:非力)である
・ソロプレイヤーである
・不特定多数のNPCと親交を結び、【好印象】を取得
【達成条件】
・クエスト終了時の生存
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所要は約三時間との事。
それ自体は大丈夫だね。
問題があるとすれば。
死なないことが勝利……なんて、凄く物騒な目標文面がある事。
それに、発動条件だ。
一つ目は、殆ど無理。
二次職の初期に【貴族系】なんていうのは無かったし、名前からしてなるのは容易じゃない筈。
掲示板や、公式サイトにも。
それらしき情報はなかった。
「……ふむ、ふむ」
「如何でしょうか。安全は、約束いたします」
えぇ? ホントに?
物騒なこと書かれてたけど。
彼は本当にそう思っているだろうけど。
色々と見えている私からすると、どうしようもなく危険な予感があるんだよね。
「それは、どんな依頼なんだい?」
「私が仕える御方の影となってほしいのです」
「……影武者。身代わりだね?」
「左様です。予定としては、この都市の南側にある【ロイバー森林】を抜け、別都市へと行くことになりますが」
森を抜けるというのは。
クエスト文の通りだね。
でも、やんごとなきって文面。
森からは悪路が想定されるし。
影武者ということは、お上品に行くだろうから、自らの足で越えていく……なんてことしないよね。
街道が通っていても。
歩きは厳しいだろう。
……つまり、つまり?
つまり、このタイミングで来ちゃったりするのかな?
「――もしかして、馬車に乗れたりするのかい?」
「馬車に乗れます」
「悠々と景色を楽しめる?」
「悠々と楽しめます」
パーフェクトだ紳士さん。
なら、受けるしかないね。
「その依頼、受けることにするよ。何処へでも何なりと連れていってね」
「これは、有難い」
何ともとんとん拍子に進む会話だ。
でも、私からしても願ってもない。
こんな所で、馬車に乗る機会が出来るなんて。
旅をするのはとても良い事だね。
しかも…話を聞く限りでは、お貴族様が乗るような馬車であることは決定的だし。
良い旅路になりそうだ。
気分はさながらピクニック。
爆発する石だけじゃなくて、ちゃんとお弁当も用意すべきだったかな。
「では、急ぎ出立ですので。此方へお願いします」
「うん。行こうか」
向かう先は、御屋敷だね。
こんな都市の中に在ると。
やはり、上品な邸宅で。
クエストを受託した私は、颯爽と……招かれるままに乗り込んでいく事になった。
◇
屋敷は、作り込まれていて。
とても広い感じなんだけど。
要件を早く済ませるらしく。
すぐに、私は一つの部屋に通されることになった。
「――これを着れば良いのかな?」
「はい、此方を」
「でも、着ると――」
「はい。差し上げますので、遠慮なさらずお召しください」
白の基調で黒の縁取り。
そして、所々にあしらわれた青の装飾。
……良いデザインだね。
やや大人びすぎだけど。
凄くセンスがあって、上品な衣装だ。
来賓としてパーティーに招かれたことは何度かあるけど、向こうの祝宴でも十分に花形を飾れそうな程に美しく、流麗なドレス。
でも、「差し上げる」って言ったかい?
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【装備銘】 セラフ クライト(偽)
【種別】
装備・鎧 RANK:D
【要求値】
要求値――
【強化値】
俊敏:+12 魔防:+6
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……………んう?
……………んん!
「良いのかい? こんな上物を貰ってしまって」
凄く良い装備じゃないかコレ。
俊敏なんて、沢山あがるよ。
物理防御は変わらないけど。
初期に毛が生えたレベルの装備を着ている私からすれば、間違いない何ランクも上の逸品。
しかし、壮年の紳士さんは。
やや戸惑ったように頷いて。
「え…えぇ、依頼完遂の折には。あくまで偽装としては十分な品ですが、そこまでお喜びになるとは」
「いや、いや。とても良い。俄然やる気が出てきたよ」
十分な品ではあるけど、あくまでも。
彼らからすれば、一般的なレベルと。
……しかし、それはさて置き。
依頼達成で…ね。
実に面白いじゃないか。
私としても、負けられない戦いになってしまったよ。
「では、参りましょうか」
「貴方も一緒に?」
「いえ。私は別の街道を用いて参りますので、同行者をご紹介いたします」
そう言って案内された中庭には。
数人の男女が居て…準備が良い。
流石にゲームなのかな。
この辺はとんとん拍子。
「こちらは、御者。そして護衛の者が四人、薬師が一人、補佐として侍従が一人です」
「「よろしくお願いします」」
御者さんと護衛さんたちは男性。
薬師さんと侍従さんは女性で。
良い感じの割合だけど。
皆さん、随分と気合いが入っている様子じゃないか。
「私は冒険家のルミエール。宜しくね?」
「「はい、お嬢様」」
「おぉ、お嬢様になった」
「ふふっ。宜しくお願い致します、ルミエール様」
「うん。頑張るよ」
「作法を気にする者はおりませんので、どうぞごゆるりとお寛気を」
彼女らと挨拶を交わして。
侍従さんと軽く話しつつ。
一応挙動を観察するけど。
およそ、考えていたような問題は無さそうかな?
こういうのって、良くさ。
味方がいきなり背後から…なんていうのがお決まりだから。
さっきのクエスト文からもやや警戒していたんだけど、どうなんだろう。
皆、誠実そうな人たちで。
所作も、とても穏やかだ。
此処にエナが居ればなぁ。
もっと判定しやすいかも。
……あいや? でもゲームだから、そう上手くは行かないのかな。
「宜しく頼みますぞ、スミレ」
「はい、お任せを。――では、御嬢様。出立してよろしいでしょうか」
紳士さんは此処でお別れらしいけど。
侍従さんが補佐してくれるようだね。
彼女に是非を問われた事だし。
こちらも、存分に楽しもうか。
気持ちを切り替えて。
私はにっこりと笑う。
「はい。宜しくお願いしますね、皆様」
「「……………!!」」




