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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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第1幕:ジュエリーな都市



 国とは、幾つもの地方都市の集合体で。


 そうで無い国は都市国家と呼ばれる。


 帝国には4ヵ所の重要都市があるけど。

 これらは特筆された大都市で。

 位の高い大貴族が治めている。


 そして、現在私がいるのは。


 重要指定されていない都市。


 確かに、比較的小さな都市だ。

 でも。だからと言って、小さな都市には全く価値がないという訳じゃなくて。


 ……いや、むしろ。


 価値という点では、この【商業都市】は飛び抜けているだろうね。



「いらっしゃいませ! お客様」

「良い品は入っておるかな?」

「はい。こちらの特注品は――」


「ほう? この品は中立都市の」

「左様です! 秘匿領域から直通の――」

「……むむ…ぅ。【氷晶石】のブレスレットが3万アルで、【焔孔雀】の羽扇が21万アル…? ははは。この街は、ブルジョワさんなんだね」



 聞こえる声に耳をそばだて。


 改めて、自身の場違いさを自覚する。



 ―――此処は【商業都市ゲンマ】



 噴水流れ出る広場に多数のお店。

 街並みは、均一かつ流麗で。

 洗練された、庭園のような技法で形作られている。


 トラフィークも噴水のある街だけど。

 向こうをレンガの街だとするなら、此方は白亜の街だね。


 確かに、これならば。


 貴族御用達というのも、理解(なっとく)だ。


 他都市や北の鉱山都市から。

 中央の通商都市を経由して。

 持ち込まれた貴金属や貴重品の類は、ここで初めて作品へと昇華される。


 このゲンマという都市は。


 加工販売の専門なんだね。



「……予算不足甚だしいよ」

「――落札! 23万!」

「でも、見た目だけのアイテムに、此処までの価値が生まれるのかな?」



 こんな言葉を放てば。

 現実だったらなら。

 あらゆる方面から大顰蹙だけど。


 ここは、ゲームの世界だ。


 プレイヤーも買えるアイテムなら。

 もしかしたら、特殊効果があるのかな。


 ショーケースに納められた装飾品はとても高価で。

でも、中には良く分からないキワモノなんていうのもある。



「らっしゃーい! 珍味珍味の大繁盛だ!」

「……ほぅ…これは中々の寄食」

「素晴らしいモノですなぁ」

「アクダマンの干皮、ロブフィッシュの切り身、マキシムエイプの燻製…? これは、魔物のお肉だよね。やっぱり、好きな人はいるんだ」



 好事家…美食家、通ともいうけど。


 上流階級っていうのは。


 こういうのを食べたがる。


 味じゃなくて。

 食べたという経験が欲しいんだよね。

 でも、魔物って食べられるんだ。

 今まで、食材系の素材がドロップしたことは無いし、全く知らなかったけど……料理系の職業に就いている人が料理するとか?


 食材販売の露店を回し見て。


 抜けた先の新しい店に入る。


 こちら側は…鉱石系のお店だね。

 店内には、無機質な鉱物が沢山。

 その魅力が伝わってくるような、まるで世界中の鉱石が集まる洞窟の中にいるかのような錯覚に陥るような内装。


 やっぱり上品だね、この街は。

 

 まだ磨かれる前の原石。

 でも、不思議な輝きは宝石にも劣らず。

 原石とは言え貴重品には違わないらしくて、そのボーダーは最低でも一万はする。


 思わず、見惚れながらも進んでいくと。


 私みたいに場違いな存在と出くわした。



「これは? ……爆裂鉱」



 そこにあるのは石だ。


 丸い……ただの石だ。


 ただし、割れ目から覗く黄色の光。

 今にも破裂しそうな色味で、名前からも伺える危険物。



「なんか、親近感が。きみ、ちょっと場違いだし、どう見ても悪目立ちしていないかい?」



 ……値段は1000アルか。

 これは私でも買えるね。


 お店の解説文で効果を見て。


 とても興味を覚えた私。

 自決用に、一つ買っておこうかな。



「店員さん。この石を一つ貰おうかな」

「――え? ……か、畏まりました。すぐお包みいたしますので」



 石を注文したのは確かだけど。


 石のように固まる店員さん。

 どうやら、このアイテムは良くないモノみたいで。なら、どうしてそんなものがミカンのように籠一杯に積まれているのか気になるね。


 手早く、しかし厳重に封印。


 石一個を包んだ袋を渡され。


 こちらも、手早く所持品へ放り込む。

 この店自体が貴重品みたいなものだし、変に扱って爆発なんてしたら、一生掛かっても返しきれない被害が出るだろうからね。


 私は、ご機嫌気分で店を出て。

 

 広場で改めて所持品を開き。


 先程入手したブツを確認する。

 手に取って見るのは余りに危険なので、所持品欄からは出さず、そのまま……ほぅ。



―――――――――――――――

 【素材名】爆裂鉱(バルス)


 RANK:D


【解説】 

薄明領域より産出する鉱石。

希少性が低いため、比較的安価である。

使用者たちに15の固定ダメージを与えることが出来る。


・所持者が衝撃を与えることで使用可能。

・射程範囲内の「味方」を巻き込む。


【用途】 

売却用・武器の素材となる。

―――――――――――――――




 ……あぁ、凄いねコレ。


 役立たずこの上ないよ。


 爆発するとは書いてあったから、自決用に買ったけど。

 本当にダメージも存在するんだね。


 しかも、自決用ソノモノだし。


 私が自爆するには十分だけど。


 周りを巻き込むことが出来るのかどうか。

 甚だ疑問で……敢えて【所持者】が、なんて書かれているのは、どう考えても自爆用途。


 ダメージ量も心許ないし。

 初心者にしか効かないんじゃないかな。


 私なら、一撃で吹き飛ぶけど。



「モノは使いよう。大事にとっておこうかな」



 永遠に…ずっと、ずっと。

 懐へ保管しておこうかな。


 起こしてはいけない存在から目を背け。


 私は、再び商業都市の大通りを散策。


 此処には、およそ何でもある。 

 PLに必要なアイテムの大半は。


 見慣れた青や緑の回復薬とか。

 更に上位らしいオレンジの回復薬も。

 でも、それくらいになるとちょっと手が届かないようなもので、回復量もはっきり言って…ね。

 

 使うだけ過剰で……無駄になりそうだ。


 改めて自身の貧弱さに可笑しさを覚え。



 悠々と歩いて行けば。



「――そこな御方」 



 まさかの、キャッチセールス。

 やっぱり、こんな高価な場所。


 宝石だって売ってるんだから。


 贋作を売りつける人もいるの?


 キョロキョロと視線をやれば。

 立っていたのは、上品な紳士。

 壮年の男性で、わざとらしい片眼鏡(モノクル)を付けているけど。お貴族様というよりは、そういう家に仕えているといった風体。


 彼は一人でぽつんと立ち。

 

 間違いなく私を見ていて。


 何かしらの用事があるから呼び止めたのかな。



「うん? どうかしたかい」

「その美しい容姿、優雅な立ち振る舞い…もしや、やんごとなき身分の方では?」



 やんごとなき…やんごとなき?

 それは、ちょっと違うね。

 私は、働かなくても食べていける財があるんじゃなくて、働き口がないだけの無職だから。


 優雅な立ち振る舞いじゃなくて。


 当てなくフラフラしてただけだ。



「私は、ただの旅人だけど」

「……ほう。では、冒険家という事ですかな?」



 紳士のモノクルがキラリと光り。


 私の興味を存分に誘うけど。


 こっちも読めてきた。


 彼は、キャッチセールスではなく。

 何やら、冒険家への頼みごとがある人物。


 クエストのフラグだろうね。


 こういうのは初めてだけど。

 私は、真剣な眼差しでこちらを見る紳士に話を聞く。



「そう、冒険家。何かお困りのことがあれば、相談に乗れるよ」

「おぉ……何という巡り合わせ」

「相談があるんだね」

「……はい。僭越ながら」



 紳士は改めて姿勢を正すと。

 「では」という言葉と共に。

 

 私へと言葉を紡ぐ。



「私共の願いを…「やんごとなき身代わり」を聞き届けてはくださいませぬか」

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