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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第三章:トラベル編

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プロローグ:鋭き刃の盗賊団



 広大な森林で、狩りが広がっていく。


 暗闇より出でし盗賊たちが、奪する。


 巨大な腕をゆっくり伸ばし。

 今にもその命ごと、全てを。

 網にかかった者たちの末路、行きつく先は果たして何処か。



「――ちィ! 何で攻撃が当たらねぇんだ!」



 逃走の中途で不意に反転。


 隙を狙って銃身を伸ばし。


 その引き金を引くも。

 肉眼で追うのも難しい筈の弾丸は、当たらず。


 射出の時点で、既に回避を終えている?

 つまり、能力値ではなく。

 PLの持つ技術的な問題か。



「戦っちゃダメだ! 折角TPになったんだから、ポイントを貯めないと」

「そうよっ。此処は、諦めて逃げるしか――」



 捲し立てていた言葉が止む。

 すぐ傍にいた女性団員は忽然と姿を消し。


 代わりに、耳へと届くのは。


 ガラスのように砕ける何か。


 ただ破砕音のみが。

 不快に耳を撫でる。

 

 それだけが痕跡を物語っていて。



「……ホラ、また一人っと。残りは…お、もう一人。――んじゃ、アンタだけか」



 声すら上げず、目の前の仲間。

 友人の副団長が砕け消え。

 狩人派生3rd【銃士】の男は浮足立つ。


 ギルドランク19位【千銃民族】


 狩人派生…その中でも、銃を主武器とする彼等。


 あぁ、確かな強者である。

 膨大な数のギルドに在り。

 その地位に座するプレイヤースキルは伊達ではなく。


 トップ層に含まれる強者……の筈なのに。


 今は確かに狩られる側。


 レベル差で歯が立たない訳ではない。

 何らかのペナルティで弱体化されているわけでもない。


 ただ、徹底的に自らの長所を潰され。

 逆に、相手は最大限の動きをしてくるという対比に存在している。


 それだけが彼我の差で。


 埋められぬ、圧倒的差。



「――ッッ! “散弾撃ち”!!」



 一発目は樹木へ。


 二発目は相手へ。


 三発目は岩へと。


 都合三発放たれた弾丸は。

 跳弾というべき屈折をもって、規則性のない乱れた軌道を描き飛ぶ。



 が……しかし。


 

「…………っ!?」

「はい、ハズレ。また挑戦してくれや」


 

 今のは、紛れもない必殺の魔弾。

 男が誇る最強のスキル。

 それが、さも当然のように。


 全く当たらない。

 

 かすりもしない。

 ……つまり、逃げられない。



「銃ばっか使ってる連中って、脳死なんだよなぁ」

「後ろでただ撃ってりゃいいだけだから、PSが育たねえって言われてるしな。まぁ、その撃ってりゃいいだけってのも――閉所じゃ案山子(かかし)だな」



 集ってくるのは男ばかり。


 一様に乱れた、盗賊の如き装束。


 だが、何処か武人のような…ちぐはぐな印象。

 一番近いのは、落ち武者か?


 TPは、この世界に生きているとも言えるから。

 ゲームに込める思いも当然に多く。

 危機的状態で、走馬灯然とした思考が過ぎゆく。


 そんな中でも落ち武者たちは。

 続々と集い……集い続けて。


 何時しか、十人以上が。


 銃士の周りに集結する。



「――くそ……くそッ」

「もう、無理だよねー」

「……ま、アンタはそこそこ強かったよ? 【千銃】のギルドリーダーさん。俺たちだって、銃ってやつのロマンが分からない訳じゃないし、格好良いと思ったし」



 まるで、友人のように。


 気安げに話しかける男。


 中心で率いるような挙動。

 では紛れもなく…コイツが、そうだろうか。


 【ギルドシステム】の基本には。

 団長が他PLにキルされると、大きくポイントが減るというものがある。当然その分はキルしたPLのギルドへと渡り、大きくランクを上げる。

 勿論、先のクロニクルのような例は特殊だが。


 既に副団長もやられていて。


 その要素は、非常に重要。


 だからこそ、生還できないのであれば……やるしかない。



「まあ、そこはさぁ――」



 未だに喋り続ける男。

 仲間に囲まれ、敵は一人で。


 完全に、油断している……!


 せめて、せめて。

 俺が、コイツを。



 相打ちに持ち込むことさえ出来れば―――






「――どう思います? 大将」






 ……………。


 ……………。


 この男は、何を。

 まるで、自分より上の者へ聞くかのように。


 銃士の後ろへと。


 小さな疑問を投げかけ……。



「いやよ? 分からなくはないが…ヤルなら――やっぱコレだろ」

「…………は?」



 それが、男の断末魔だった。


 忍び寄る影にも気付かずに。


 間抜けな声のみを残して。

 遂に【千銃民族】最後の一人は消える。


 後に残るは、五体満足の盗賊たち。

 大将と呼ばれた男…一見すると二十代にも満たない容姿の青年は、未だ消えぬ剣の感覚を味わい尽くしながら、熱弁する。


 

「こうやって、刃で直接手に掛けんのが……お、()()()()()()。……って、誰か使うか?」

「「いらねっス」」



 が、今にそれ以上の情報が現れ。


 仲間たちへと共有するが……。


 帰って来るはそっけない声。

 男らはその物体を拾い上げようとすることもなく、いそいそと撤収を開始して。


 ポリゴンの破砕に包まれて。


 消えた男は最早跡形もなく。



 あとに残ったのは。



 銃士が装備していた猟銃のみだった。




  ◇




「――盗賊団…ね。随分と物騒じゃないか」



 新聞の一面に載った記事。


 その文面はちょっと怖い。

 

 どうやら、近頃の話題は。

 PK関連の事件で埋め尽くされているみたいだね。


 ギルドの方針は多種多様。

 

 ソロも同じなんだけど。


 PKも、一つの楽しみだ。

 それを止めることは誰もしないし、システムが許容しているのだから、運営から苦言を呈されることもない。



「ルミねぇ! 私も読みたーい!」

「ちょっくら見せてくれる?」

「勿論良いよ。ゆっくり読むといい」

「……【O&T】も、随分と人気みたいですけど……PKの話で持ちきりですね」



 皆に乞われて新聞を回し。

 熱心に読み耽る友人たちを観察しながら。


 私はもう一口お茶を頂く。


 ご機嫌な休日みたいだね。



「商業都市近郊でプレイヤーキル多発! TPの被害も…ね」

「そんな人たちも倒せるなんて、向こうもかなりの実力者揃いなんだろうな」

「もしくは、スキルの使い方が凄く上手い…ですかね。盗人や狩人の暗殺派生は瞬間的な火力では最高位と聞きますし」

「おうさ、その通りですとも!」



 こういう時、身内に使い手が居ると。

 その力量が分かりやすいよね。

 ナナミは2ndの【暗殺者】で、そういうスキルの扱いに長ける。


 そして、標的になったのは。


 ギルド【千銃民族】さんと。

 ギルド【星の精霊】さん達。

 どちらも、名の知れたTPらしくて、正体不明の狩人たちの噂で一杯。


 特に、前者の方が驚きだね。


 私は【銃士】さんに縁があるけど。


 3rdで随分強いらしいのにね。


 所謂、現環境トップというやつで。

 猟銃やマスケット銃を使って戦う。


 一発一発しか放てないけど。

 敏捷がかなり高くないと避けるのも困難だし、一発当たりの威力も高い優遇された職だとか。



「余程対策を積んでるのかなぁ」

「俺達も、ある程度の回避訓練は積んでるしな。ともあれ、TPでもなし、【商業都市】へは行かないから、関係ない話だが」


「でも、もしもという場合はあるよね」

「それ言ったら全部同じだ」

「――ルミねぇは、これから何処に行くの?」

「……うーん、商業都市?」



 いや、分かっているんだよ?

 

 危ないのは分かっているさ。


 でも、前々から決めていたことだし、近場から観光したいと思うのは当然じゃないかな。だから、そんな目で見ないで欲しい。

 何とも言えない瞳を向けてくるエナ達。

 やがて一人が溜息をつくと、視線も散っていく。



「……まるで危機感が無い」

「南極ペンギンさん?」

「そこはゲームだし、私はPKされて失うものが少ないからね」

「……成程?」

「確かに、貴重品はもってないよね」



 そう、そうなんだとも。


 高価なアイテムとか。

 私は持っていないし。

 武器の類はPKでドロップしないといわれているから、私の持つ唯一の貴重品も安全だと思われる。



「ユウトたちは【ゲンマ】に行ったことがあるんだろう? 私は今のところ前情報無しなんだけど…見所とかがあれば教えて欲しいな」

「見所……みどころね?」

「鉱山都市から流れた貴金属や宝石類を加工することを生業としてるとか」

「帝国貴族御用達の都市だから、そっち関係のクエストが多いとは聞いたな。…盗賊団が発生したのもそっち系のロールプレイかも」


「なんだ、随分物騒な話をしてんだなぁ」



 そんな話をしていると。


 ドアが開いて現れる顔。

 


「――あ、ノルっち? リンゴたべたい!」

「…友情価格で2割増しだ」

「まけてくださーい」

「2割増し」

「サービス悪いよ」

「なら3割増しだ。欲しいなら店の方に取りに来な。配達料なしなら定価で販売するからよ。あと、最近ジュースにしてみたんだが?」

「……ういー、しょうがないね。味見してしんぜよう」



 デリバリーサービスとか。


 やってないみたいだね。


 商売上手な店主君の謳い文句…というよりジュースの誘惑に惹かれて上機嫌に席を立つナナミ。

 何故か一緒にユウトも席を立っているけど、相変わらず甘党なんだね。


 出て行く3人を見送って。

 

 これからの事を思案していたエナが口を開く。



「…私たちは暫く【プレゲトン】ですかね」

「そうだね。やっぱり早く3rdになりたいし、ようやく封鎖が解除されたんだから頑張らないと」

「結局、魔族連中は何やってたんだろうなー」



 それは、先の【クロニクル】の話。

 大迷宮プレゲトンを制圧したことになっている彼等は、その後何をやっていたのか。


 現在では制限が消えたけど。


 確かに、気になる事だよね。


 魔族の目的は分からず終い。

 新聞の情報では占領された場所全ての封鎖が解除されたみたいだし、彼らはもう【人界領域】から撤退したとみて良いんだろう。

 

 まぁ、それはそれとして。



 ―――重要都市欲張りセット。



 値段が張るには理由があって。

 凄く、お得なセットなんだ。


 帝国には重要都市以外も。


 幾つもの地方都市があり。


 その全ての転移が解禁。

 私は、好きな時に好きな都市へ赴けるという訳なんだよね。


 今回は、中でも最も有名処。


 危ないけど、それも一興だ。



「では、行ってくるよ諸君」

「「……マジです?」」

「気を付けてくださいね? ルミ姉さん」


「大丈夫さ。ソロだし」

「無性に心配になるのは、私だけじゃないですよね……?」



 どうやら、そうみたいだね。


 男児さん二人も頷いていて。


 どうにも心外ではある。

 私は、頼れる年長者を目指している筈なのにね?


 ……では、早速行こうかな。


 私は、【商業都市】へ赴くために店を出ることにした。




トラベル編、開幕

わちゃわちゃはいつもなので、トラブルではありません


他作との兼ね合いもあり、更新日をずらします

次回更新は23日

その後は通常通り三日間隔です

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