エピローグ:小さな公演
「あたしゃこれだけが楽しみでねぇ」
「お婆ちゃ――ガフッ」
「なんて? 将太くん」
「……ナナおねえさ――理不…じん」
「でも、本当に楽しみです」
「有り難うね。でも、道具が少ないから、あまり派手なのは見せられないよ」
黒鉄商店二階の自室。
扉を背に、仁王立ち。
対して、ベッドを背にして床に。
または、ベッドへ座り込む五人。
その瞳はこれから始まる小さな公演へ期待を隠しきれていない。
テーマは、ゲーム。
現実では難しく、突拍子もない道具や設備を使って、突拍子も無い事をやる。
「――では、始めさせてもらおうかな?」
「「ひゅー!」」
「……さぁ、開幕だ」
その瞬間、思考を切り替え。
心を込めて言霊を放つ。
まずは、小手調べから。
指を振り、所持品欄から取り出した愛剣【白爛】
現実では指をいくら振ったところで突然物が現れるなんてことは無いだろうけど、この予備動作がある以上、ゲーム世界の【オルトゥス】では至極当然の光景。
だから、この世界であっても。
当たり前では無い事をしなきゃ。
皆の前で取り出した短剣。
この短剣は、凄く鋭利だ。
「「………………!」」
「良いよ…良いペースだ。此処からギアを上げて、上げて」
培った技術で剣舞を披露し。
ゆっくりと手で弄びながら。
徐々に速度を上げていき。
皆が高速の動きに引き込まれている中で、最も適したタイミングを模索して行動に移す。
―――あぁ、今だろうね。
「あ、間違えた」
「「え」」
サクリという擬音が聞こえそうな一幕。
受け止め損ねてしまった短剣は。
すとんと床に刺さり。
おやおや、困ったな。
手が無くなっちゃったね。
「――ぎゃぁぁぁあ!? 右手無くなった!!」
「おおちおちおちついて」
「ゲームだ…大丈ッぶ」
「落ち着け、お前ら。良くある手品…だけど、このゲームだと逆にやり辛いよな。手を切ってもエフェクトしか出ないし」
「……あれ。エフェクト…出てましたか?」
……相変わらず、二人は。
ユウトとエナは冷静だね。
でも、だからこそ。
此方もやりがいというものが出てくるんだけど。
「いけないね。早急に手当てをしないと」
右手のなくなった腕にハンケチを被せ。
ひらりと靡かせばほれ、元通り。
ついでに、私の好きな物も。
オマケで付いて来てしまったね。
手が戻ってくるまでは予想していた皆も、消えた筈の掌に現れたその果実に視線を集中させ。
「さあ、私の大好きな果物だ。今から、これがどうなるかな?」
「……消える?」
「ハトになる」
「じゃあ、爆発とか!!」
「おぉ、素晴らしい。ナナミには花丸をあげようね」
「「え?」」
―――瞬間。
一瞬で煙幕に満たされる室内。
発生源は勿論あの果実…に見せかけた。
【煙玉】というアイテムなんだ。
効果範囲が狭いという制限はあるけど、この部屋の広さなら問題なくカバーできるのは織り込み済みで。
ペタペタと皮を張り付けて。
作った特性【ピート玉】さ。
元々の意味が泥炭だし、そこまで外れた使い方でもないよね。
安物のアイテム故に。
煙は十秒で霧散する。
だから、急いで作業を済ませて皆の様子を確認。
ようやくモヤが晴れ、互いの姿を確認できるようになり始めた彼らは、八つ当たりという訳ではないだろうけど一人に視線を集中し。
「「ナナミさん?」」
「いや、違うでしょ!! たまたま合ってただけ…あれ、ルミねぇは?」
「………あれ、そう言えば」
「もしかして、出てった?」
「無音でドアを開けて出て行くのがトリック…的な?」
「「―――マジでいないじゃんっ!!」」
皆を後ろから観察しながら。
私は悠々とベッドの感触を楽しむ。
声を掛けてあげないと。
此方に気付かないかな。
「ほらほら、皆。私はちゃんとここに居るよ?」
「……歩く音なんてしたか?」
「いや、してないね」
「――と言うより、後ろへ移動したなら誰かが気づく筈なんだけど…はははっ」
ふふっ、ちょっとズルかったかな。
確かに、四人が間にいる以上。
入り口からベッドの上へと。
気付かれずに移動は難しい。
でも、種が分かれば至極簡単だ。
ただ、一度ログアウトして設定地点である下宿先のベッドに戻って来ただけ。慣れれば10秒足らずで出来るし、原始的な方法でも案外気付かないものだ。
特に、難しく考えすぎるとね。
安全エリアでのみ出来る方法。
一応、ペナルティが課される場合もあるけど、気にするほどじゃないし、今回は大丈夫だったようで。
「さあ、次に行こうか――出ておいで」
部屋中が、召喚できる範囲内。
悠々と腰かけて指を鳴らし。
私は、ベッドの下からよちよち現れた二羽のハトを使って………あ。
捕まっちゃった。
「――やっぱり可愛い!」
「「ホホ?」」
「……凄く、ふわふわです」
まさか、こんな罠があるとはね。
これは私も予想外というモノ。
つぶらな瞳の白バト君たちが目の前に現れたことで、理解より本能が上回ってしまったのか、二人の少女が団員君たちを拾い上げてしまう。
これでは元々予定していた演目が出来ないけど。
そういう場合を想定していて。
幾つかの代案は検討してある。
「――なぁ。そのハトたち、次の手品用だろ?」
「「あ」」
「………これは?」
「やっちゃったね」
やれやれだね。
「ルミねぇ! こんな可愛い罠をよくも!」
「そういうのはズルいと思います!」
「抱えたまま言われてもね。でも、その子たちは確認担当だから大丈夫。本命は別に――ほら、きた」
再び、ベッド下の暗闇から。
横並びに現れた三羽のハト。
少女たちは目を輝かせ。
逆に少年たちは次は何だと身構える…が。
特に何事も起こらず。
ズラリと並んだハト君たちが皆に相対しているだけ。
「……普通にハトだな」
「うん。特に身構えるような要素―――はッ!?」
「おい、あれって……」
そして、後ろから。
ようやく表れた最後のハトは黒色。
五パーセントしかいないレア。
準備段階から既に召喚していた厳選ハト君は、黒故に気付かれなかった。
ベッド下は暗闇で。
見えない物なのさ。
本当に今召喚したばかりの子たちと。
遅れてやってきた黒バト君。
皆が目を剥いているのは真っ黒な個体が現れたからではなく、その個体に紐で引きずられるように現れた球体。
記憶に新しいそれは。
先程の、爆発源で。
「「また来た!」」
身構えるのは大変結構。
だが、果物を前にして。
鳥が何を始めるのかは。
皆、予想出来るかい?
……答えは簡単で……三羽の白ハトくんたちは、一斉に。
それをついばみ始める。
「「――いやぁぁぁ!?」」
「大丈…ぐえッ」
「「いやぁぁぁ!!」」
「ゲームだから落ち着……んぐッ――首…絞めんな」
目の前に転がる爆弾を。
刺激する小動物たち。
そりゃあ、まともな精神なら恐慌もするよね。
だが、そちらは正真正銘ただのピートだ。
一度目で爆発する例を見せたことで、次もその可能性が高くなるだろうと刷り込んだのさ。
刷り込みは動物の多くに通用するもの。
今の彼等は、さながら。
生まれたばかりのハトみたいなもの。
そして、今の彼等が。
視線を、まともな思考を奪われているからこそ、場を動かしやすい。
MP回復ポーションを飲みのみ。
私は新たな召喚を行使して。
「さあ、さあ。フィナーレは爆弾探しゲームと行こうか」
「「…………へ?」」
「どんどん来るよー」
「………ぁ……ぁぁ」
「もう良いです! もう大丈夫ですから!」
ベッドの奥で蠢く影たち。
今頃、サッカーをやっていて。
転がり出てくる、出てくる。
黒色に輝く球体が次から次。
ひい、ふう、みい、よう……まだまだ沢山出てくるから、遠慮なく味わってくれたまえ。
「――どれ!? 爆弾どれだ!」
「……分からんだろ」
「これ、普通です」
「こっちも同じ」
「――じゃぁ、コレだッ!」
「多分正解だね、おめでとう。それが本物だよ? ナナミ」
その言葉を最後に、二度目の爆発。
足の踏み場には小さな命がいる以上、踏み込んで動き回る事も出来ず。
彼等は、再び煙幕の中へ。
その身が呑み込まれていく。
「――くそっ、今度こそ」
「入口に――いない!!」
「ふふふっ、何度も移動なんて疲れるじゃないか。それに、即興で考えただけだから、もう品切れさ」
ピートの方も品切れだし。
新しく買い足さないとね。
ベッドの奥に腰かけたまま。
彼等の動きを観察するのは、実に愉快で。
「楽しんでもらえたかな」
「「……………!!」」
うん、その笑顔だ。
それだけ見れれば。
言われずとも、分かるというモノ。
「久しぶりだったけど、驚きには事欠かないな」
「本当に、心臓に悪い」
「……ゲームだって忘れてました」
幼馴染たちは、嬉しそうに。
「ちびるかと思いました…マジで」
「………同じく。でも、凄かったです」
友人たちは、恐々として。
でも、凄く満足気に笑う。
「今回のは、あくまで魔法であって奇術じゃないんだ」
「……違うんですか?」
「同じものかと」
「奇術は、不可能をと思われることを合理性ある計画によって見せかけるものだけど。今日やったのは、その殆どがゲームの中だから出来るようなことなんだ」
そう言って種明かし。
ログアウト機能も。
煙玉も、勿論ハト君の生態も。
箱を空ければ拍子抜けもの。
奇術とは、合理性の塊で。
必ず、種が存在するけど。
突然の転移だとか、本当に何もない所から突然生命を生み出すなんて言うのは、魔法そのモノだ。
魔法を思わせる筈の奇術を。
魔法を使って再現だなんて。
滑稽も滑稽……道化師とは言いえて妙だね。
トワは、本当に楽しい第二の人生を用意してくれたみたいだ。
「――あれ? 最初の腕ちょんは?」
「あれは本物だよ」
「「言い方!!」」
あれだけは、現実でも出来る。
真似すると危ないから人前ではやらないけど。
口々に感想を広げる皆。
その様子は楽しそうで。
「ルミねぇ。次は現実でやってよ!」
「勿論、良いとも。でも、その分皆には頑張ってもらわなきゃね? 今はしっかり勉強。何かの行事の時に、折を見てやってあげるから」
「……先生みたいな事を」
「教師だからな。まあ、いつも通りだ」
「優等生様は言うことが違いますね、優斗さん」
彼等は、今をときめく学生で。
私は無職経由の臨時教師さん。
でも……この世界の中では。
只のPL同士で、対等な友人。
なればこそ、ゲームが終わるか、飽きてやらなくなるその日まで…存分に楽しむとしようじゃないか。
ゲームも、現実も。
私の充実した生活は、まだまだ始まったばかりだからね。
一章と長さが大して変わってない?
……これにて第二章終了です。
お付き合い頂き、有り難うございます。
もっとゲーム感を出したいと思うこの頃…色々と考えていきたいですね。
次章まで、一週間ほどの御休みを頂きたく。
再開は12/19からになります。
宜しければ、お待ちいただければ。
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