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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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第14幕:敵将襲来

「我が名は暗黒騎士アリギエリ・スム。冥国四騎士が一人にして、最高幹部ジュデッカ様が配下よ」

「「―――!」」



 親方、空から暗黒騎士が。


 これは初めての経験だね。

 経験が有ったらちょっと怖いけど。

 

 精巧な世界感でこそ、感じる威圧。

 肌がひりつくような殺気。

 それらは、戦闘能力など持ち合わせていない私から見ても、強大な魔物を思わせるもので。


 口上からしても。


 ……間違いなく。

 目の前に現れたこの騎士こそが。



「明らかに異彩を放ってる感じ…空に居たのと同じ」

「敵将個体…なんだろうね」

「強そうですね」

「というか、勝てる? 私の【鑑定】にレベル90って表示されてるんだけど、バグだよね?」 


「「――はッ!?」」

「マジ? ナナミン」

「うん。まともじゃないんだけど……あ、抵抗(レジスト)された」



 何て言ったかな?


 ……Lv.90?

 なんて羨ま…恐ろしいんだろう。



「大将? 作戦とか用意できやす?」

「斬ればその内動かなくなる」


「うん、その通りだよね」


「……本当に。まともじゃないのは、此方も同じですね」



 エナまで、そんな事を。

 皆、うんうん頷いてるし。

 ユウトはもとより。

 何時もは温厚なワタル君も、血の気が多いね。


 でも、そういう事なら問題ない。


 周囲に意識を傾けると。

 どうやら、上空からは次々に黒の騎士たちが飛来しているようで。周辺には、雄叫びと戦いの音響が戻ってきている。

 ……勿論、明らかに劣勢。

 第二陣らしく、先の魔物の軍勢とは比較にならない強さ。


 やはり、設定ミス?


 というより、これは――負けイベント?


 ちゃんと、確かめないとね。

 私にはその方法がないけど。

 

 皆の注意は暗黒騎士へ向き。

 剣を構え、矢を番えながら機を伺っていた。


 

「では、私が様子見に一矢――」


「――コイツで!」

「――やっちまえーッ!!」


  

 しかし、エナの言葉の途中で。


 全くの埒外から声が飛ぶ。


 大規模な混戦の中だ。

 乱入は当然の権利で。

 そもそも、味方であっても争い合うライバルなんだから、邪魔してはいけないという道理はなく。


 敵だったら危うかったけど。


 幸いなことに。

 漁夫の利を狙ってきたのはプレイヤー側。


 間違いのない、敵将の姿に。

 猟銃のような筒を構えるPL。

 そして、弓を番えたPL。

 彼等は同時に、騎士の無防備な背へと攻撃を放つ。


 その速度は速く。


 威力は、高い。


 絶好の機会と放たれたゆえに。




 避けられるような体勢じゃ―――




「――小癪なり」

「「は?」」



 ―――あぁ、確かに。

 彼は、避けなかった。

 だって、その攻撃は届く前に、破砕して消滅したのだから。

 

 決して通さぬと理解している故の確信。

 或いは、防具に対する絶対の信頼。


 騎士は、静かに言葉を紡ぐ。



「銃器など、我が純然たる五体には通じず。ヒトの武器など、我が五体に傷を付けること能わず」

「おい、冗談じゃねえぞ!」

「一回撤退だ。アイツらに(なす)って――」


「しかし、陛下より賜りし鎧に汚れを刻んだ行為…万死に値する」



 その言葉と共に。

 剣が空気を裂く。

 …ああ、そうだ。比喩じゃない。


 本当に斬撃が宙を舞い。


 大気を震わせ飛んでいく。



「「―――ッ!?」」



 何が起きたのか、理解しているやら。

 並んで走り去ろうとしていたPL達は。


 破砕音と共に消え。

 延長に存在していた戦闘中のPL者たちもかなりの打撃を受け、此方から距離を取り始める。



 完全に戦場を支配する武。



 その眼前に立つ私たちはと言えば。



「……ねえ、優斗。これもしかして」

「航、言うな」

「――もしかして、逃げられないやつ?」

「ですね。背を向けたら…というより、隙を見せたら今のと同じのが飛んできます」



 どうすれば良いか。

 状況を、測りかねている。


 アレとまともに戦う? 

 それとも、逃げる?

 ……逃げられる状況ではない上に、次に彼の暗黒騎士が口にしたのは。



「闖入者など不快よな」

「「え」」

「――全隊! 我が戦闘に乱入は許さぬ。何人の侵入も許すでないッ!」

「「了解(ジュラメント)!!」」



 言葉に呼応するように。


 戦場に響き渡る黒き騎士たちの応答。


 ……完全に逃げ道を塞がれた。

 乱入が無いというのはまあ、良いとして…逃げる道がないというのも困りものだ。



「さて、どうすっか」

「……やるしかないみたいですね」



 ―――それでも。


 こちらだって。

 ただ、その場に立ってたわけじゃない。

 

 聡明な仲間。

 彼等は、この間ずっと。


 機を、伺い続けていたのだ。

 今まさに、閃光の速度で走り抜ける影。


 一見関連性のない合図。


 その言葉と共に、彼女は剣を走らせた。



「行くぞッ!」

「――おっけ! その首貰っ――たぁ!?」



 ……これで、ダメなんだ。

 

 限界まで希薄化された隠形。

 パーティー最速の暗殺者。


 ナナミの暗技は。


 確かに入った。


 矢さえ容易く弾く精密性。

 咄嗟の判断力も持つ彼女。

 背中から鎧の無いうなじへと襲い掛かった彼女の短剣は、何故か吸い込まれるように鎧へ向けられ。


 その刃は。

 黒鎧へと達する直前に止まり、反発するように吹き飛ぶ。



 ―――そして



 同時に光る剣閃。


 両断と呼ぶしかない一撃。



「「ナナミン!」」



 ……また一人。

 破砕音と共に、砕けて消える。


 その衝撃、確かにあっただろう。

 でも、だからこそとばかりに放たれる三矢。


 ……同時打ちなんて、随分な。

 そして、エナの攻撃に呼応するように間合いを詰めたユウトの斬撃。



「――お前を、倒す」

「…良い目だ、人間。だが、未だ不足」



 矢は全て鎧に弾かれ。


 ユウトの攻撃は大剣と競り合いになり、そのまま弾かれる。 



「……マジッ、かッッ! ワタル――助けてくれ!」

「りょうか――ちょ……ッ!?」



 弾き飛ばされ、剣を振り上げられ。

 仲間へと助けを求める剣士。

 救うべく前へ出た軽戦士は敵と刃を交えるも、仲良く吹き飛ばされる。


 彼我の実力差は圧倒的。


 キルされないだけで凄いだろう。

 

 ……にしても。

 戦闘中に考える事じゃないけど。

 あのユウトが、ねぇ。

 それだけ、ワタル君を信用しているんだろう。


 とても、嬉しい事だ。


 

 ―――飛ばされた二人は、しかし。


 

 身体能力が凄くて。

 ユウトが運動神経良いのは知っていたけど、ワタル君も。


 吹き飛ばされた身体で、器用に。

 体操選手のように、回転しながら着地体制を取り……ながら薬瓶を含む。


 その動きは手慣れていて。


 機械的に動く様は。

 まるで、曲芸師だ。



「これは、キツイね。これでも筋力ある方なんだけど」

「あぁ、やっぱり普通じゃない」



 前衛構成の二人でさえ。

 手も足も出ない状況。

 それだけ強大な敵って事だよね。


 どうすべきかと。


 私たちが睨み合う中。


 ずっと私の隣で静観を決めていた存在。

 ハクロちゃんが前へと進み、剣を抜く。



「一撃、入れてみる」

「え?」



 ―――そのまま。


 真横を風が薙ぎ。

 

 ……驚いたね。

 今の動きは、今までに見たどのプレイヤーよりも上。もしかしたら、彼女は3rdに到達している廃人さんの一人なのかな。



「次は、小さき者か」

「んッ!」

「――ッ……ほぅ、中々どうして…これは」


「おい、おい。もしかして」

「3rd? ……あの子、僕より強いよ」



 強みは、俊敏だけに非ず。

 先程ユウトたちが押し負けていた大剣と合わさって尚、引けを取らない筋力。


 相手を翻弄する不規則な動き。

 …あの小さな身体がそうさせているのか。



「……良い動きだ」

「ん」

「力を、己の身体を理解している」



 まさしく、天性の戦闘センス。

 単純な適正値や能力値の補正だけじゃない、元々の才が働いている。


 視覚に頼らず避け。

 

 敵の五体をつぶさに観察し。


 機が訪れたと見るや。

 一瞬の躊躇いもなく勝負に出る。


 最早、皆がその戦いに見入っていて。



「――くく、く。面白いぞ人間」

「ん?」

「その小さな肉体で、我と競り合うなぞ、只人ではあるまい。だが、人間種の剣技で、上位魔族たる我を討滅することなど――」

「入った」


「「―――えッ!?」」

「…な……に!? ……これは、一体」



 剣の一撃が…鎧を――通した。

 間違いなくダメージが入ったのだろう。


 騎士は目を見開き。


 事実を確認する。


 その間に、ハクロちゃんは飛び退り。

 こちらへと戻ってきた彼女は、再び言葉を続ける。



「――入ったぞ」



 それは事も無げに。

 しかし、自慢げに。

 胸を張って私へと戦果を示す。



「凄いね、ハクロちゃんは」

「ん!」

「どういう仕組みだい?」

「【防御貫通】だぞ。武器自体の効果だ」



 …そんな凄い剣があるんだ。

 所謂、特殊効果付きというやつで。


 実にロマンがあるね。


 混乱する暗黒騎士。

 こちら側も驚愕の渦中にあって――ただ一人。


 隙を縫うように。


 ただ一人、見極めて動く者がいた。



 彼は。


 今にも、剣を走らせ。



「“斬鬼零落(ざんきれいらく)”――防御低下だ」

「――ぬぅッ!?」



 埒外の攻撃を放ち。

 それは、確かに。

 弾かれもせず、一閃となってエフェクトを生む。


 攻撃を受けた者も。

 見ていた者たちも。

 思わず、呆気にとられる不意打ちさんだ。



「――いま、入ったよな?」

「………痴れ、者が。貴様、それでも剣士か」



 本当に、その通り。

 今は、待機中じゃないかな?

 変身中とか。

 自己紹介中の攻撃に近いものを覚えて。


 当のユウトは素知らぬ顔で。

 どさくさの技を入れ。


 得意そうに戻ってくる。

 


「優斗。なにか、分かりました?」

「……いや、さっぱりだな。入りはしたが、特異な行動もないし、変な呪文を呟いている様子もない。というか、こういうのは俺じゃなく、ルミねぇの得意分野だ」


「……そうですね」

「そうなんですか?」

「ちょっと過大評価かもね」



 でも、そう言われると。


 私も頑張りたくなるね。


 現在は無職だし。

 働ける機会は、こういう時だけだ。


 ユウトの武器は、長剣。

 銃器……ナナミの短剣。


 不意打ちなら攻撃が通る?

 いや…ナナミの攻撃も当たらなかったし。



 ―――なんの差異があるというんだろう。

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