第11幕:来たる鐘の音
祝日、何と素晴らしい事か。
今日は四月の末。
多くの仕事はお休みで。
家でのんびり過ごせるだろう。
ゲームの運営さん達も。
配慮が有難いね。
こういった日を重要なイベントの発令に充ててくれると、俄然やる気が出てきて。
仕事もキッチリ終わらせて。
休憩もちゃんと摂ったから、気分良くログイン出来る。
集合地点でぐるりと見まわし。
四方へ視線をやれば。
大別して、二種類の人たちが居る。
一方は、正しくごちゃ混ぜの様相。
装備などの恰好や。
種族もバラバラで。
武器を片手に、今か今かと談笑している者たちは、PL。
そしてもう一方は、揃いの装備で。
正規軍のように。
統率の取れた整列を行う、人間種たち…NPC。
「――冒険家、傭兵の諸君。よくぞ集まってくれた」
「「……………」」
「大きな手柄を上げた者には、思うままの褒美を約束しよう。諸君らの働きに、期待しておるぞッ!」
一際大きな高台の上で。
朝礼のように檄を飛ばす兵士さん。
その身なりは良くて。
彼が、此処の防衛隊の隊長さんらしい。
或いは、将軍様とも言えるのかな?
今回のイベントにあたり、都市フォディーナは既に状況を察知しているらしく、私たちを集めたのは領主である【鉄血候】という設定。
つまり、傭兵の扱いだ。
此方が前線でナニカと戦い。
彼等は、後方で防御を固める。
果たして、敵は何なんだろうね。
未だ公式情報で秘匿されているクエスト詳細も、クエスト発生時に現れるウィンドウもなく。
ただ、ここに集まるようにと。
告知で導かれてきただけ。
「――ホンットにさぁ?」
「何があるんだろうな」
「……魔物の大量発生、とか?」
「レイドボスじゃね?」
「案外、竜とかが出てくるんじゃないかなぁ」
周囲のPL達もそれが気になるらしく。
様々な憶測が飛び交う。
でも、最初のクエストだし。
魔物の大発生とか。
そのくらいが関の山かな。
………私からすれば。
「そのくらい」なんて言っても、十分厳しいね。
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【Name】 ルミエール
【種族】 人間種
【一次職】 無職(Lv.12)
【二次職】 道化師(Lv.4)
【職業履歴】
一次:無職(1st)
二次:道化師(Lv.4)
【基礎能力(経験値0P)】
体力:10 筋力:10 魔力:24
防御:10(+5) 魔防:0 俊敏:20(+2)
【能力適正】
白兵:E 射撃:E 器用:E
攻魔:E 支魔:E 特魔:E
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これが、現時点でのステータス。
同行という名の寄生行為で上がってしまったレベルが目を引くね。
戦闘系のスキルなんてなく。
武器術なんて論外で。
唯一の武器は、無抵抗のリンゴを断ち切ることに定評がある業物。
――果たして。
――何秒持つだろうか。
「――ルミねぇ、もうちょっとで時間だよ?」
「うん。ありがとうね」
でも、今更逃げるという選択は無いね。
既に舞台には上がっている。
放送事故だとか。
凡ミスだとか。
練習の所為には出来ないから。
あるモノだけで、窮地を乗り切ることにしようか。
私の隣には。
【一刃の風】所属メンバーも揃っている。
そして、当然な事に。
広大なフィールドには。
数百? ……いやいや、コレは。
軽く千に達しようかというプレーヤー達が居て。
【鉱山都市フォディーナ】
【要塞都市カストゥルム】
【海岸都市リートゥス】
【古代都市アンティクア】
帝国と王国から、それぞれ二つずつ。
四つの重要都市が今回の主役。
こんなのが他に三箇所もあるというんだから、驚きだ。運営は今回のクエストで、いったい何を始めようというのだろうね。
驚嘆を禁じ得ない心中に対し。
同じく緊張している彼等は。
仲間内で、談笑して張りを和らげているようだ。
「こんなに密集してんのは、迷宮解放の時以来だな」
「ああ、アレね」
「コミケかってくらい、ぎゅうぎゅうに集まってたよなぁ」
「全然入れなくって」
「僕たち、ずっと立ち往生だったもんね」
……そんなに?
迷宮には行ったことは無いけど。
彼等の情報曰く。
コンテンツ的には、まだまだ先に有るらしくて。
【薄明領域】という未攻略の地域を進みながらレベルを上げつつ、ゆっくりと探索していく必要があるとの事。
現在では、完全攻略は夢のまた夢。
只のレベル上げスポットらしい。
「どうですか? ル姉さん」
「うーん、私は大迷宮に入ったこともないんだけどね」
「「あ」」
――うん、やっぱりね。
皆は、私が無職だって忘れてないかな。
文字で書く通りだけど。
レベルが違うんだよ。
もしも大迷宮になんて言った日には、次の瞬間魔物の餌なんだから。
ファストフードが近い。
……ふむ、ふむ?
あと、一分程だね。
時間が迫っているにも拘らず。
不気味なほど静かで。
これから、何かが起こるという気配は無く。
「……本当に、始まるのか?」
「でも、ここが戦線で間違いはないよね。広い平原だから何が来たって対応できるだろうし、同士討ちの心配も少なそうで」
「確かに、良い立地ではある――けどなぁ」
ユウトの言いたい事も分かる。
前々から気になっていたけど。
この平原。
この立地は。
皆が思っているように、余りにも――
「「良い立地過ぎるッ」」
考えが同じなら、当然意見も一緒。
皆が、異口同音と呟く。
このために用意されたように。
駄々広い平原は。
見通しが良くて、地盤もしっかりと安定している。
だからこそ、やっぱり。
生半可なクエストじゃない予感があって。
得体の知れなさもあるけど。
とても、心が躍るんだよね。
「――うしっ! …準備良い? みんな」
ナナミの言葉に。
仲間たちは笑みを浮かべる。
「存分に戦果を挙げてやるか」
「忘れ物したって言っても、取りにいけないぜ? 航」
「はは、そっくり返すよ将太。MP回復アイテムせびっても、僕は渡してあげられないからね」
そうだ、回復アイテムね。
私には無用みたいなものだけど。
持てる限りの回復系と。
便利系の品を完備。
援護くらいなら出来るね。
特に、ポーションなんかは。
所持数の制限が厳しいらしいから…支援なら、何とか他のプレイヤーの助けになってあげられそうだ。
それも、自分がやられるまで。
流れ弾でキルされないと良いんだけど。
そうこうしているうちに。
ようやく、予定時刻。
「じゃあ、カウントダウンと行こうか」
「「うっし」」
私達がこうして準備しているように。
言うまでもなく。
フィールド中から響き渡ってくる声。
初のクロニクル。
PLは、皆沸いていて。
仲間たちも、その声に負けじと空を仰ぐ。
「「3」」
「「2!」」
「「1!!」」
…………。
……………。
『―――ワールド・クエスト発令』
『システムアナウンス:進行度Ⅰを開始』
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【World Quest】 始まりの進撃
【概要】
現在、魔族軍の先遣隊が襲来中。
人間国家の重要都市4か所を襲撃しています。
プレイヤー間で協力し、総力を挙げて撃退しましょう。
個人の挙げた戦果に応じて【ギルドポイント】及び【戦果ポイント】を獲得可能。
引き換え対象賞品は、クエスト終了後に公開されます。
【勝利条件】
・敵軍の殲滅(main)
・敵将個体の撃破(sub)
【敗北条件】
・防衛戦線の壊滅
・参加プレイヤー8割以上の死亡
【備考】
・本クエストは【人界領域】【秘匿領域】開始のプレイヤー専用です。
・参加プレイヤーは、都市周辺に待機中のみカウントされます。
・一度死亡した場合、再参加は不可となっています。
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