表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
最終章:フィナーレ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

274/280

第3幕:人種さらだぼうる




 部屋の中には人間種もいれば半魔もいるし、獣人もいれば南蛮人もいる。

 この小さな世界はまるで人種のサラダボウルだね。

 多様性に乾杯だ。



「エホン、エヘン。じゃあ始めさせてもらおうか。第一回、人界魔界仲直り作戦提案会議……、はい拍手~~」

「「……………」」



 おや。

 拍手が聞こえない。

 参加放棄かな?



「いやぁ……厳しいでしょ。そんなノリ? 今」

「今にキルされるかって状況だぞ、マジで。あと南蛮人は取り消せ」

「あ、そっか」



 確かに部屋中にこんな沢山の暗黒騎士さん達が監視してたらノれないか。



「バディスさん、人払いできたりしない?」

「んなバカな……」

「良いだろう」

「「え」」

「―――ミーア、皆も。少し外で待っていてくれ」

「「了解」」



 ぞろぞろ退出。

 


「さ、これでイケイケに乗れるね? はいこれ知り合いの花火師さんが作ってくれた特製クラッカーと、賑やかし用のタンバリンと……」 

「そうそう。いや悪いね。囲まれてると恥ずかしくて―――ってちがーーう!」

「他の奴らがいるからって話じゃないんだが!! ってかこんなん、それこそ魔族側がノリノリで参加してくれるわけ―――」

「構わない、しよう」

「構わないんかいぃぃぃ!!」

「さっきから聞き分けが良すぎるよ……! もしかしてヴァディスさんって思ってたより話しやすいの!?」



 言いながらクラッカー鳴らしてくれるねお二人さん。

 ………。

 誰も入ってこない所を見るに、聞き耳は立てられてないのかな。


 (元)前哨基地内部の一室……部屋中に集まってくれたのは、先の防衛戦に参加していたレーネ君やビーンさんといった面々。

 あとは魔族側からバディスさんもいる。

 彼女以外のNPCである将軍さん達は元々多忙らしく、国をあまり長く離れている訳にもいかない立場という事で帰宅。

 現在この砦には魔族側のPLやらNPCやらが占拠している状態で、指揮官は彼女だ。


 で、何の話をしようとしているかと言えば。

 まずはここまでのあらすじ―――もとい、状況を整理させてもらおう。

 そうだ、あれは首元ツンツンの―――。



「違うね。多分そこじゃないね、お姉さん」

「あれ?」



 ………。



『―――。成程、理解したよ。君たち魔族側が知りたいのは、私たちと君たちの違い。具体的には……そうさね。見えているものが違う。ということについてかな?』

『『!』』

『ほう……、知っているのですか、人間』

『勿論。そっか、ようやく君たちも気付いたんだね?』



 あ、バディスさんが胡乱気な顔してる。

 


『ああそうだとも。おそらく、この場で最もソレを理解しているのは私かもしれないよ、確かに』

『『―――――』』

『……、成程。確かに』

『これは僥倖というべきだ。では―――』

『待ってほしい、ラースさん。ここからは、同じ異訪者である私が。真偽を判断するにも、実際に経験のある私が適役だ。私たちが見るべき、真なる黒幕を追うために』


『成程。えぇ、良いでしょう』

『ジュデッカさまの信頼を置く貴方なれば、問題はありません』

『―――引き上げか?』

『目的の多くは既に達しています。では、その前に人界側の者たちの処遇を決定づけてしまうとしましょう、手短に』

『今回の作戦はじきに起こる戦いに備え人界側の要所となるこの拠点を壊滅させる意図もありましたからね。この場にいるのは人界の最精鋭の一つ。のちの障害になるのであれば……』


 

 あからさまにテンションの低いアリギエリさんが武器を抜き、それに合わせるように残りの二人も。

 どうやら適当に数を減らしておく方針らしく。

 


『あ、待って。武器で減らすのはちょっとやめてほしいな』

『あなたに止める権利などありませんよ』

『だね。けど私、君たちの知りたい事に全力で協力できるよ? あと、彼等前哨基地にいる人界側の人たちも全員引きあげさせるからさ。抵抗もないキレイな状態で渡してあげる。だから、皆このまま返してあげてくれないかな』

『―――む?』

『ただの異訪者に過ぎない貴女にそのような事が出来るのですか?』

『私に力はないけど、私の知る人たちならその力があるよ。お願い。もうこれ以上犠牲を出したくないんだ』



『聖女だ……』

『くッ、俺たちなんかの為に……!!』

『きっとこの後あんなことやこんな事をさせられる! 俺は詳しいんだ! くそぅ!』



『というわけだからハクロちゃん。どうにかなるよね?』

『プシュケに報告』

『あと皇国と帝国にも連絡入れないとね、身元引受人』



 ………。

 ……………。



 そうだ、こっちだ。

 っていう流れだったよ、確か。

 そういう事があって、前哨基地は陥落しちゃったけど結果的には最小限の犠牲で皆を人界に帰すことが出来た。

 上弦騎士たちを始めとするNPCさん達も情にではなくあくまで上からの命令であるのならばと理性的に判断して戻ってくれたし。

 けど、私の頼れる騎士さんまで指揮の都合でいなくなっちゃったのは痛かったな。

 あの時も言ったけど私個人には何の力もないから協力者がいないと羽を捥がれたも同然だ。


 この場においては唯一のリア友である彼女も味方ではないだろうし……。



「あれは多分考えうる一番穏便な方法だったと思うよ。問題にもならない……いや、なるけどならないだろうし。ともかく問題はこれからなんだよね? バディスさん」

「そういう事になる」



 他の目もあるからこのロールで行くらしい。

 私も新鮮で良いと思う。



「先ほどの一件はある種の芝居ではあったが、事実として君たちが何処まで知ろうとしているのかを判断させてほしい。それがこの場に残した理由だ」

「何で僕達?」

「トップギルドの団長たちなのだろう? 背景ストーリーにも通じている筈……」

「知らねーよ。俺ァ俺よりツええ奴に会いに来てるだけなんで」

「戦争あるところの行ってるだけだから」

「……………」

「仕方ないよね、トップギルドってバトルジャンキーな人たちばっかりだからさ?」



 仕方ないんだ、こういうの。

 むしろ攻略は程々、趣味で色々と散策しているような二次職メインのPLの方が詳しいまであるよ、そういうのは。



「まあまずは私達何も知らないわけだから。そちら側から色々と聞かせてほしいな、ヴァディスさん」

「―――あえ?」

「ついさっき意味深な事色々行ってたじゃねえか、姉さん」

「あぁ、あれ? 無論出まかせだけど」

「「……………」」



 お察しの通り、バディスさんが口パクしてたことをそれっぽくオウム返ししただけ。

 だからこそ、本当に思い出すために情報が欲しいんだ。



「思い出す、か。良いだろう。我々と君たちの違い……私たちが求めているのは、まさにその言葉通りだ。―――ここ最近では、特に乖離が多い。……メア」

「えぇ、団長」

「―――! てめえは!?」

「やっぱり来てたんだ!」

「盗み聞きがないか外で確認させてもらったわ。安心して頂戴」



 扉を開けて―――出たね、ぬるりと。

 ところでお二人さんの反応……。



「あ、そういえば以前手ひどくやられたんだっけ」

「「うぐッ」」

「理解したよ。じゃあ今回参加してたのもやり返すチャンスだと思ったからなんだね? この有様だけど」

「「うぐぐぅッ」」

「こら、聖女様。事実だとしてもいじめは許さないわよ」

「どの口!」

「俺たちの拠点次々襲撃しやがって! 蹂躙しやがって!」

「水に流して欲しいわ。大人数で少数を虐めたんじゃなく、少数で大勢を虐めたわけだし―――ってそういう話じゃないわよ」


「見えてる景色が違うっていうのは、そのままよ。一番近い記憶で言えば―――未知領域。そう呼んでいるんですって? あなた達は」

「本当に新しい記憶だね、悪夢さん。で、あそこが?」



 なんかおかしなことなんてあったかな。



「まさにあなた達に関係してるわ。あの時、私たち魔族側がどうやってあなた達の必死こいて作った隠れ場所を次々に襲撃できたか―――まるで、結界に隠された場所を知っているみたいに。簡単よ、あなた達には見えていたっていう結界は、私たちには見えないの。精霊石を護ってたっていう、結界が」

「―――なに?」

「え? それって……え、何で?」

「疑問に思うわよね。当然。だからこそ、思ったわ。逆に、私達に見えなくてあなた達に見えているものもあるんじゃないか、ってね」

「なければ好都合ではあるが。それを抜きにしても、ではなぜ私たちと君たち、同じ異訪者であるにもかかわらず見えているものが違うのかを知りたいのだ。無論、これは上からの命令でもある」



 当時、私達人界側は未知領域の各地に隠された精霊石の争奪戦をしていた。

 それらを奪い合う戦いが長期化していたのは精霊石の周囲に広大な結界……認識疎外の空間が出来ていた事も大きかったんだ。

 けど、それは彼女たちには……。


 理解が追い付いてきた。



「……うーん、確かにおかしな話」

「異訪者って事に違いはないのにな。……けどクエストの仕様だったってだけかもしれんだろ?」

「単にそれだけの可能性、ね。でも、四騎士全員が動いてるとなると、それってかなり大規模で、確信のある調査なんじゃないかな?」

「クエスト的な……?」



 視線を騎士さんに送る。



「そうだ。我々のクエストと言える」

「軍部指令さんの命令? 例の、四祖魔公さんの」

「「……………」」


「もっと、上」

「魔神王陛下からの勅令だ」



 ………。



「確かに大きな秘密がありそうだね。理解した。なら、ここは私に任せてよ」

「信用ならないな」

「信用できないわ」



 あ、酷い。

 


「良いさ、わたしにも考えがある。まずはこれを見てよ―――そら、これが古代都市の傍にある遺跡内部とか壁画の模写、これが秘匿領域の遺跡調査書で、これが未知領域の―――」

「わぉ写実的ぃ」

「―――え。考古学専攻してる先生だったりするの?」



 ばら撒いたのは手慰みに描いた絵。

 お金に困ったらこれを売って生計をたてようと思ってたんだけど。

 皆、私のセンスに脱帽らしいね。



「―――で?」

「これが何の意味があるんだ? 今の話と関係なさそうだが」

「最近も未知領域に出向いたりしてたんだけどね? 私。その不可視の領域になってる場所……精霊石のあった地点って大体が遺跡跡なんだ。もし、もしさ? その結界を作った人が真に隠したかったものが精霊石とかではなく、遺跡そのものだとしたらどうだろう」

「……遺跡か?」

「そ。具体的には遺跡の壁画とか。最近も遺跡を壊してまわろうみたいなクエストが多いらしいんだ」



 皆、何かを考えるようなそぶりを見せる。

 説得力を感じたらしい。



「あと、見えなかったものが見えるようになった―――ソレに関しては、他にも思い当たる節があるんだ、私。多分レーネ君達もあるんじゃないかな?」

「お?」

「てーと?」

「秘匿領域。世界喰らいの大穴を抜けた先さ。声が聞こえたんだ。私たちをこの世界に誘った、神さまの声が」

「「!」」


「そうだ! 確かにあの時」

「声の通りにしたらいきなり見えるようになって……」


「確かバディスさん向こうで会ったよね。同じような経験は?」

「……いや」

「なら、その時の状況を詳しく」

「……。当時は任務で向かっていた。大精霊に関するな。飛竜に乗ったまま直接穴に飛び込み……」



 そのまま、偵察と探査を進めたと。

 やっぱりワンクッション置く事すらなかったんだ。


 聞けば分かる。

 私たちと彼女たちでは、あの世界を認識できるようになった経緯すらも異なるって。



「それって、世界一つ丸々を覆うくらいの認識改変があったって事じゃないの。途轍もない規模の」

「そうなるね。いきなりビンゴだ。つまり、鍵を握るのは神様の力による何かしらの干渉―――加護、とでもいうべきかな?」

「……うっそぉ」

「カールの旦那が警戒するわけだな。バリバリに頭回る」


 

 ここまで来れば私の術中。

 ここまでは私のターンで、ここからも私のターン……やり易いように手を加えさせてもらおう。



「そういうわけだから、その手のことに詳しい人たちも呼んで良いかな? 色々知ってる筈なんだ」

「誰だ」


 

 いや、盗賊さん。



 ………。

 ……………。



「あ? んだよ」

「てめぇこそなにガン飛ばしてくれてんだ? あ? 吹き飛ばすぞゴルァ!」

「ちょっとーー!」



 レイド君とビーンさんがメンチ切り合ってる。

 まるで不良さん同士の交流会だ。

 けど、それにしても随分と。


 ………?

 あ。



「そういえば前に戦ってたんだっけ?」

「おう、一方的に(なぶ)ってやった」

「昔の話だ!」



 レイド君達【傍若武人】は今日のオルトゥスにおいて最悪のPKギルドとされていて、ランク圏外であっても有名な集団の一つだ。

 単純な個々の実力は勿論、連携が卓越しているっていうのもあり、こと対人戦においては最上位ギルドすらも喰らうとされている事、団長である彼が要塞都市の一件で12聖【深緑の穿弓】サジタリスを討ち取った事などもあるけど。

 それより前の時点で、実際に彼等は上位のギルドを幾たびも壊滅に追い込んできた。

 確か私が彼等と最初に出会ったのも彼等が新聞を沸かせていた騒動の真っただ中で、確かにビーンさんの【千銃民族】も被害に遭ってたっけ。



「いまこの場で雪辱戦をやっても良いんだぜ!?」

「はっはーー、そうこなくっちゃぁナ!」


 

 ………。



「ヴァディスさん」

「メア」

「了解、団長」


 

「最初に仕掛けた方から消していくわ。そのつもりでやってちょうだい」

「「……………」」



 いや、誤算だね。

 野蛮人と南蛮人で波長が合うと思ったんだけど、ちょっとした因縁があったことを失念してた。

 話したい事も色々あるし、どうにか場を落ち着かせられれば良いんだけど……。



「レーネ君。ビーンさんの好きなものとか分かる?」

「えーー? うーん、と。辛いものと」

「それっ」

「レアアイテムと……」

「それは誰でも好きなやつだね」

「うーん、そうだなぁ……」



「おい誰だ今これ投げたやつ!!」

「んだ? これ。ルミエールのいつものフルーツ―――からッ!?」

「あ、ディアボリカンじゃん」

「我が国原産のフルーツだな」

「種が激辛のやつよね?」


 

 辛いもの好きって聞いたから。



「あ、音楽聞くのも案外好きって言ってたかな。ライブとか」

「―――お?」 



 ………。



「というわけで紹介するよ? 業界人のマリアさん」

「いえ、いきなり馬車で拉致されて紹介も何も……」

「言わなくても知ってる野蛮人の盗賊さんと、有名ギルド長の獣人レーネさん、南蛮人ビーンさん」

「どういう状況なんです? 何でさっきから人の部分を強調してるんです?」

「で、冥国四騎士で半魔人ヴァディスさんと、その副官のメアさんね」

「だからどういう状況なんです!?」


「ね、聖女さん? 自分の意見が通った隙に乗じて手札を増やすのも良いのだけれど、ちゃんとやる気出さないと掻っ切るわよ?」



 あ、バレてる。

 やっぱり10年来の相棒は誤魔化せないか。



「勿論冗談や盛り上げの為だけにやってるわけじゃないんだ。色々と当てはあるよ。それに関しては私も調べてたからね―――ヨハネスさん」

「えぇ、お呼びで」

「言ってる傍からまた増えた!」



 まずは今来たばかりの人たちの為、軽くおさらいさせてもらって……と。



「では詰まる話、私たちと彼等魔族側とでは、見えている景色そのものが異なってくる場合があって、世界そのものの見え方が全く異なる可能衛がある。だから齟齬を互いに認識して、何故そうなっているのかを調べたい―――そういう話で良いのですね?」

「さすマリ」

「「さすマリ」」

「帰っていいかしら」



 まぁ、待ってよ。

 マリアさんがいてくれないと探偵助手としての調子が出ないんだ。



「もう着替えちゃったしさ。だからね、ね? ね? お願いだよ私の頼れる相棒さん」

「相棒……もう。しょうがないですね」

((チョローー))

 


「それで? 僕達全員行くみたいな雰囲気出してるけどさ? 結局何から始めれば良いのかな」

「行先はほぼ決まったようなものさ、レーネ君」

「「決まってんだ」」



 決まってるよ?



「さっきの絵でも見せた通り、この世界における遺跡って、大体の構成が似通ってるんだ。で、全部壁画の中央とか、下の部分とかが欠損してた」



 それらは誰かが意図的に壊したからでほぼ確定。

 今現在も、PLにソレをさせるようなクエストが度々発令されているらしくて。


 けれど、あそこは。



「この世界において唯一、殆どそういった破壊痕がない、或いは少なかった地域がある。一先ず、敢えて世界喰らいの大穴を通って秘匿領域に行こう。そこから、例の完全な状態で残ってる遺跡へ―――よし。



「ヨハネスさん、コピーお願い」

「お任せを」

「「……………」」



 ―――これで。



「しおり出来たよ。一人一部ずつ持って行ってね」

「うん、ボク理解した!」

「この聖女変人だァ!!」

「判断おせーよ」

「やっぱり行く先々で意味の分からないことしてますわ」


「本当にこの人は……」

「こっちでもずっとこのテンションなのね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ