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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
最終章:フィナーレ編

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272/280

第1幕:最前線ティータイム




 薄明領域。

 帝国と王国、皇国の三国が支配する人界領域と、最後の地底神である魔神王が支配する魔族領域のどちらにも属さない狭間の地上領域はそう呼ばれて。

 その総面積は、双方の領域を足したものの軽く十倍以上に跨っている。

 実質的な未知の領域はあまりに多く、PLの多くはこの領域の攻略に全力を注いでいる訳だ。


 およそ、聖剣とかの激レアアイテムとかユニーク職とかも、その殆どはここが出どころらしくて、むしろ人界とかで見つかる事の方が珍しいとか。

 ムーン君のユニーク職や幻想都市とか、ロランドさんの種族である竜人とか、そういうのも薄明領域で手に入れたって聞いたよ。

 最前線で戦う方が当選確率は高いって事だね。


 ……で、キャリーケースを引いた私が今から向かうのは、そんな領域の中でも最前線。

 魔族領域に最も近い位置に立てられた、人類側の前哨基地というべき場所。

 私の馬車は確かに便利だけど、何処にでも行けるわけじゃないから。



「然るべき場所へ行くには然るべき案内人さん、頼れるボディガードさんが必要―――」



「あ、ルミ」

「あ、ハクロちゃんだ」



 ………。



「ルミー」

「ハクロちゃーん」



 待ち合わせ場所である都市の一角。

 不意に出会った私と彼女は、再会を喜び合うかのようにひしと抱き合い。



「おーー」

「わーー」



 で、そのままくるくる回る……出迎えてくれた彼女を回す―――じゃない、逆に私が回ってるよ。

 そのうち地面から足も離れて、ハンマー投げみたいにぐるぐる回されてる。



「あばばばばばばばばば」



 身長140センチ程度しかないような女の子が、170を超えているような相手を持ち上げ、更には宙を舞う程に振り回す。

 あっちの世界だったらまずあり得ない光景だよ、サクヤ以外で。

 


「ほい」

「えええええーーー」



 しかも投げ飛ばされた。

 本当に宙を舞ったと思った瞬間、腕を掴まれてまた何回転か。

 最終的にお姫様だったみたいな形で腕の中に納まる。



「かんぺき」

「「おおおおぉぉぉぉ~~」」



 拍手。

 見物人さん達が凄い物を見たと言いたげに感嘆の声を上げて。



「ハクロちゃん、さては私で遊んでるね?」

「賢い」



 最近の彼女は色々な経験を積んで自信がついたことで昔よりずっとアクティブかつアグレッシブになってるみたいだ。

 やっぱりティーンの子たちの成長っていうのは数日、数か月単位で劇的に変化するものなんだね。

 


「本当に何の準備もせずに来ちゃったけど、ここからどういうルートで向かうのかな。やっぱり徒歩? 街道を」

「あるかなくて良い。一歩も動かず目的地に行ける」



 なんと、そんな便利なアイテムが。

 もしかしてユウトたちの言ってた激レアアイテムの転移系……。 


 ―――あ、凄い、四連双車だ。

 彼女が指し示す先にはこの世界でも進んだ技術が使われているという、次世代の乗り物があり。

 速い話が自動車だ。

 既に運転席には人が乗り込んでるみたいで―――けどこの車種? 帝都ラヴールで見た車と比べて明らかにタイプが違うね。 

 ドライブ用っていうより、銃弾飛び交う戦場のなか散歩する時に乗りたくなるタイプっていうか……。



「お迎えあるんだ。おぉ、六人乗り? 良いね。ところでなんかこの人たち顔怖い―――」

「特権階級?」



 どういう意味だろ。

 首を捻りながらも促されるままに後部座席に乗り込み、彼女も私の隣に。

 前の席も後ろの席もNPCらしき人たちが既に乗っていて、何だか護送だか護衛みたいな雰囲気だよ、まるで。

 あ、途中まで目隠ししないといけないの?

 え、耳栓も?


 じゃあ猿轡(さるぐつわ)とかも、―――いらない? あ、そう。



 ………。

 ……………。



「すっぺくたくるだったね」



 徒歩よりも明らかに速いペースで悪路を進んだお車。

 本当に速くて、しかも段差程度ならものともしない……何なら崖から飛び降りたりとかしてたし、魔獣轢殺(れきさつ)してたし、途中何度か回復薬お口に突っ込まれたし……道理で猿轡はいらなかったわけだ。

 端から異訪者とかの肉体強度基準で運転してたね、あれ。


 それに、今更思だけどこれやっぱりただの四連装車じゃなくて装甲車の類だ。

 で、軍用のお車が入っていくは当然に軍事基地―――巨大な石材を無数に組み上げて造られたような基地だ。

 壁の上には要塞都市でも見たような巨大な砲塔とか、飛竜でも迎撃するのかなって感じのバリスタ砲が用意されてたり。

 はためいている国旗はどうやら王国だけに限らず、三国のもの全てが翻っている。


 門の前で何かを待つようにしていた騎士さん達が一斉にこちらを向く。

 なんか仰々しく一礼される。

 均一かつ特徴的な、白と青で構成された鎧姿の彼等は。



「あーー、月光騎士団の上弦騎士さん達、だね?」

「ん、ナカーマ」



 一昔前の基準なら、PLじゃとても太刀打ちできない程の実力者たちで構成されている人界きっての怪物戦力……。

 実際、眼鏡越しに見えるレベルは最前線でも全然通用するだろう高さ。

 およそ全員が4thの半ばにある。



「定刻通りだ。諸君、これより副団長がお客人を案内する。配置に付け。第一隊はそのまま護衛を続行して差し上げろ。決して粗相があってはならぬぞ」

「「は!」」



 思ってた観光と違う。

 案内してくれるって言ってたから、もうちょっとこう……自由度の高いものだと思ってた。

 もしかして護衛付きじゃないと見て廻ったりできない決まりなのかな。

 


「二人で勝手に見て回りますよ? ね? ハクロちゃん」

「んーー」



 城塞の上では盛んに行ったり来たりと忙しそうな様子。

 砲台の整備とかも念入り、かつ迅速に行われているみたいだし。


 私達に構ってられる程暇にも見えないんだけど。

 なんて言うか、物々しい?

 軍事基地なら納得だけど、まるで警戒態勢が敷かれてる真っただ中みたいな雰囲気だ。

 いつもこうなわけじゃないよね? 絶対。



「ルミエール殿は()()()のご友人であると同時に、我らが主であるリアール侯爵さまのお客人です。そのような無礼を働けよう筈もありません」

「だって」



 融通が利かないって感じ。

 軍人として、仕える主人の友人を危険に晒せるはずもないって思考になるのは当然か。

 ………。


 ………。



「んう? 副団長?」



 ところで気になる言葉なかった?

 私の疑問に、彼等の視線が下がる。

 そこには誇らしげに胸を張る女の子。



「ん!」

「特権階級……成程。遂に人を顎で使う立場になっちゃったんだね」

「権力の味」

「覚えちゃいけないやつだ……!」



 こんなにたくましくなっちゃって。

 いや、逞しさで言えばがっしり全身鎧な彼等も負けてないんだけどね。


 古代都市アンティクアが誇る上弦騎士。

 個人差あるらしいけど、私の眼鏡で見た彼等のレベルは70~80くらい。

 ……強すぎ?



「私のレベルまだ58なのに」

「……でも凄く上がってる?」

「実はね。私だっそろそろ何かしないと乗り遅れちゃうと思って。これで、色々やってるんだ。メア―――サクヤに効率的なあげ方教えてもらったんだよ?」




―――――――――――――――

【Name】    ルミエール

【種族】   人間種

【一次職】  聖女(Lv.58)

【二次職】  道化師(Lv.20)


【職業履歴】 

一次:無職(1st)聖女(――)

二次:道化師(Lv.20)


【基礎能力(経験値0P)】            

体力:21 筋力:19  魔力:100(+50) 

防御:24 魔防:10(+12) 俊敏:50(+24)  


【能力適正】

白兵:E 射撃:E 器用:B 

攻魔:E 支魔:A 特魔:EX

―――――――――――――――



 一時期は復活魔法の乱用でストップ安に落ち込んでたレベルも、コツコツの努力でご覧の通りさ。



「そして、道化師もレベルキャップ。使える技も増えてる。私の最終奇術……trick or trick……。見てみたい?」

「別に」

「そうだろう、そうだろうとも。いいとも、ハクロちゃんがそこまで言うなら―――そんなー」



 そこは嘘でも見たいっていうもんじゃないかな。



「凄いんだよ? それはもう凄いんだ。脱出転移以降、道化師のレベル20でようやく覚えた最後で最強の手品なんだよ?」

「ルミの手品怖いからいい」



 彼女って他の皆と違ってあんまり私のソレを見たいって言わないんだよね。

 むしろ、怖がるっていうのはかなり稀有な部類で……余程爆裂鉱(バルス)の件を根に持ってるみたいだ―――え? 頭?

 


「大丈夫。何も出来なくても友達。親友。よしよし……」

「おぉ……。これが母性」



 身体を屈めた私の頭を撫でてくれるハクロちゃん……おませさんだね。

 おそらく、これも月光騎士団の副団長になった影響。

 責任ある役職や重要な立場に立つことで、人はその役割にふさわしい人間になろうと努力し、成長するという考え方―――「役職が人を作る」ってやつだ。



「そっか。遂にハクロちゃんも大人としての自我が芽生えてきたんだね」

「ん。友達沢山。バーにも行った」

「む……む」

「もう子供じゃない」



 なんてことだ。

 本格的にませちゃってる。

 そんなに急いで大人になろうとする必要なんて何処にもないのに。


「治療が必要かもだ」

「?」

「……しょうがないな。ほら―――“小鳩召喚”」



 おませさんな彼女には有り余る魔力を用いてポッポの絨毯爆撃。

 何処まで持つかは実際見もので。



「ホ?」

「ホホッ―――テー、デー」

「ぽっぽーー……!」



「ふ、ちょろい」



 ふわふわもこもこピンクなあんよ。

 この完成されたフォルムを見るがいい。

 この世界の誰も、こんなに美味しそうなコットンキャンディちゃんを可愛がらないって事は出来ないんだ。

 今に列をなしてそこらを歩き回る白に、白の彼女も続く。

 

 なんて平和な光景。

 思わず私の食指も動くね、ご飯が進むってやつだ。



「「ホホッ、ホホーー」」

「ほほーー、とて、とて……お?」

「もぐもぐもぐもぐ」

「……………なに食べてる?」



 え? やきとり。

 玉ねぎだけどねぎまだよ。



「ルミ最低」

「誤解だ。違うんだよ。これって店主君の所の新商品でね? 秘匿領域産の大振りなネギは焼くとジューシーかつ甘みが増して、濃厚な脂を持つ肉の味を引き立てる。今回はそんな一串を贅沢に10本セットで急速冷凍したこだわりの逸品なんだ。一セット1500アルだけど、初回限定二セット購入で何と2500アル」



 やきとり美味しいよ。

 で、勿論私は鳥さんの前で鳥さんを食べるなんて残酷な事はしない。

 「焼き鳥」って言えば鶏肉なんだけど、これが「やきとり」になると牛や豚も含めたものって意味になるんだよね、面白いことに。



「ふふふ……これがtrick」

「鳥食う?」

「じゃないんだな、これが。実は羊肉なんだ。味付けは塩かジンギスカンタレ味から選べる。残念だったね、トリックだよ」

「ヒツジ……もこもこ。食べる?」

「大人になるっていうのはそういう事さ。すいも甘いも知ってるんだよ。お吸い物はシンプルな程に美味しいんだ」

「大人……難しい」



 そう、大人って難しいんだ。

 だから無理して早くなろうとする必要なんてないんだよ。



「っていう事でこちら、皆様で召し上がってください。やきとりセット20セットと、一口ピート飴6袋入り10ケースと……」

「頂戴いたしま―――」

「ホールケーキ10箱と、ジュースと、果物の詰め合わせと……」

「多!?」

「隊長! これは我々の手には余ります!」

「増援の要請を!」

「許可する! 焼き台と炭の手配も―――」



 ………。



「さ、行こうか」

「ルミ策士」



 まさかお客人の出したお土産を無下にはできないよね。

 っていうか、純粋に興奮してたり喜んでる人たちも多い気がする。


 じゃあ、私たちはボロボロ散らかさないように一口サイズのお菓子にしておこうね。

 ティータイムは座ってやるものと相場は決まってるけど、食べ歩きという言葉もあるくらい食事っていうのは場所を選ばないものだ。

 ティーカップ持ちながら歩くわけにもいかないから、この世界では画期的なボトルに入った紅茶を片手に観光へ。



「一口えくれあどう? 歩きながらのティータイムも乙なものだろう?」

「ここのご飯より良い」

「この基地って食事出たりするんだ」

「量は多いけどあんまり美味しくない」



 あ、だからか。

 道理でさっきの騎士さん達が喜んでいたわけだね。

 

 けどいい機会だ。

 店主君達の喜ぶ顔が目に浮かぶ……。

 


「けど、結構色々な所の人が来てたりするんだね。帝国兵も結構いるっぽいし、皇国の神官さんとか」

「連合軍?」



 って感じだね。

 皆、お昼時だからそこかしこで急いで食事をとってる様子が見られ、軽く談笑している様子は国家の垣根とかはないみたい。

 

 PLの人たちも沢山いて―――普段からこんなに?

 もしかして何かクエストとかあったりするのかな。



「色々いる。最近、帝国も皇国も来てる。旗増えた」

「最近なんだね。やっぱりこの前の騒動があってからって感じなのかな」



 人界三国はかつてない程に結束してるみたいだ。

 それが私たちのお陰とかは特に感じてないけどね。

 物語とかこの世界って、本当にそれ単体で動いているもの……私達異訪者が来た事でクエストとして色々な物語が生まれたけど、それって結局この世界で起きた事のごく一部でしかない。



「私達異訪者は、あくまで歴史の立会人に過ぎないんだ。恐らくそれは、人界側も、魔族側もね」

「……ん」



 大戦争なんて盛り上がっちゃって、やっぱりメインは私たちではない。

 そう、脇役。

 だからこそ気に入ってるんだけどね。



「……シアに聞いてみた。クオンたちもシアが呼んだの? って」

「―――。いい質問したね」


「で、何て言ってた?」

「覚えてないって」



 ………。

 そっか。

 私が受けた返答と同じだね。

 ところで何でいきなりその話が出てきたのか気になる―――。


 ―――。

 関係ないかもしれないけど、空に浮かんでるぁの影って、もしかして飛竜?



「こっち向かってるけど、魔族領域から来てるなんて言わないよね? まさか」

「来てる」

「軽く百以上いるけど、攻撃してくるとか言わないよね? まさか」

「言う」



「様子見で結構くる。倒して送り返してる」



 物語上の話だとばっかり思ってたのに、本当に結構小競り合いとかしてたんだ。



「今日は、偶々大規模クエストの日。ルミが来る日と被ってた」

「え?」

「ルミがいてくれたら頑張れるから、黙ってた。いま時間通り」

「え?」



 ………。



「敵襲! 敵襲!! 敵影確認―――強襲部隊です!!」

「魔力特性照会急げ! 威嚇射撃開始ィ!」



 軽い気持ちで来たのになぁ。


 

「でも、大丈夫。私にはハクロちゃんがいるから―――」

「ん、さがって」


「いたぞ! 白の剣聖だ!!」

「情け容赦なくやっちまえ! やられる前にやっちまえ! 斬られる前にやっちまえ! 頼むから大人しくやられてくれぇぇぇぇ!!」

「よくも前の俺を!」

「剣聖だ! その首級をあげろぉぉぉぉ!!」



 ………。



「お友達?」

「いつも真っ先にこっち来る。皆」



 本当に皆じゃん。

 飛び込んできた竜騎士さん達、漏れなく皆ハクロちゃんに向かって突撃して来るんだけど。

 むしろ一緒にいない方が良いパターンだったりするのかな。


 今更になってヴィオラさん達の言葉通り気を付けておけばよかったかもって若干の後悔。



「敵将確認―――魔力反応識別―――怒れる兜エルゴ・ラース、無垢なる剣ガラティア・コギト!!」

「魔神王直下の煉獄騎士団! 四騎士が来ます!!」



 ………。

 それって12聖でも分が悪いって言われてる魔族側最強格のNPCさん達の名前じゃなかったっけ。 

 ちょっと周囲を見回してみて……。 



「一応聞くけどいまってこの基地に12聖さん達いたり」

「しない。私だけ」



 皆お家ってわけだ。

 ほーむ。



「もしかして―――これってヤバい?」

「ん、ヤバいかも」

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