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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第十章:パレート編

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エピローグ:黎明へ向けて




「えぇ、えぇ。やっぱり、こういう集まりに参加できるのってステータスですからね。この前転売しようとしたけど断られちゃって」

「まっこと、こ奴めは……!」

「うふふっ……。こういう方ですからね、ルミエールさまは。えぇ、そもそも売買できるものではありませんけれど」

「権利を貰ったと声を上げた所で、その輩は気が狂ったと神使に連行されていくだけだろうな」

「あ、あの……皆さん? テンバイとはどういうものなのですか?」」



 集まった人々が何かを飲みつつ歓談したり意見を交換したり。

 目的がなかったりゴールがなかったり、会話そのものに意味がなかったり。

 或いは、単に参加していること、それ自体に意味がある場合もある。


 俗にいうステータスってやつだね、能力値じゃない方。


 お茶会とは非常に面白いもので。

 悪役令嬢ものでもよく見るよね、こういうの。

 リアさま主催のそこにはお友達のステラちゃんもいるけど、王国からはプシュケ様や海洋伯などが参加してる豪華なもの。 

 どちらかというと今度やる本会議に向けた準備みたいな集まりらしいんだ、本当は。


 現在地は王国古代都市―――いつからか脱線してるけど、本当は国同士の決まり事とかを再確認するとか何とかで―――え? どうして私がいるのか?


 ………。



 ―――さぁ?



「そうだ。深くは存じ上げないですけど、三国間で正式な話し合いの場を作るとか」

「む、異訪者の耳にも入っておったか」

「そうですね。今回の件も踏まえ、今までの禍根を忘れ先へ向けた話し合いを……と。近々……近日中には場所も決められることでしょう」

「けど、今なら事前に話したい放題ですから……!」



 あの時は12聖が全員、三御子も揃った状態だったからね。

 あそこで裏表なく協力出来た結果、今までギクシャクしてた関係に修復の兆しが見えてってるし、こんな機会本当に二度と無いかもしれないし。

 今のうちに仲良くなっておくのが良いのだろう。



「うーん。けど私、王国ってあんまり関わりないんですよね」

「おい、ルミエール」

「忘れられているかもしれないが。我々の所属も王国なのだが」

「いえ、そういった意図では無くて……」



 リートゥスとかアンティクアは記憶に良く残ってるけどね。

 けど、帝国で言うと帝都ラヴール、皇国で言うと皇都シャレム……そういう、中央へ行った経験がないから。



「あとほら、王さまとかとも顔見知りじゃないですし」

「君はまず皇女と皇太子に顔が利くことに疑問を持つべきではないか?」

『私がいるじゃないか、ルミちゃん』



 海洋伯はともかく耳元でなんか言ってる人がいるね。


 今にテーブルの上に浮かび上がる、僅かに20センチほどの……何処か私に似たような姿のミニミニ女性はケーキスタンドに載っているそれらを物欲しそうに見ているけど、食べようとしても手はすり抜けるばかり。

 ホログラムの身体だ、然もありなん。



「だけどさ? 今のシアちゃんには何の権力もないよ? 権力のない王族って只の小娘だよね? しかもミニミニ」

「「―――ブーーーッ!!」」

『言うね、君。暫く画面のど真ん中に居座っててあげようか』

「む……。厄介な」


 

 このアシスタントさんああ言えばこう言うし結構自由だよ。

 オフにも出来るみたいだからその切り口で脅してみようかな。

 

 叡智の窓って私たちPLは個人用として使ってるけど、本当は情報とかを保存する魔法的なツールなんだ。

 莫大なコストは掛かるけど、この世界のNPC……えらい人達も大体持ってるイメージ?


 で、シアちゃんこと元御子様兼元神さまは叡智の窓内なら好きなように移動できるわけで、この空間にも当然の権利のように自由に現れる。



「……どうなっておるんじゃ、近頃の世の中は」

「まこと意味の分からない世界になってきたものだな」



 世界の変化には、王国に仕えてる貴族さん達ほど心労を感じてるみたい。

 騒動の原因だった人がなんか意味の分からない状態になってるんだからさもありなん。



「まぁ……、何じゃ。其方等異訪者には感謝しておるよ、ルミエール」

「……お?」

「それに関しては私も礼を言うべきだな。長き封印の守護の任を解かれ、こうして別都市へも赴けるようになった」



 地底神ヨグノスが居なくなったことで、海洋伯の仕事も減ったって話かな。

 仕事が少ないのは良い事だね。


 世界が変化していくように、皆生活が変わってるんだ。

 


「それと、……アルバウス。其方からも」

「む、儂ですかな」



 と、まるで老執事のようにプシュケ様の背後に付いていた老紳士が、主から急に水を向けられた事で思い出したように頷く。



「……と、そうでありました。ルミエールよ。儂はこの一件をもって引退する事になった」

「おぉ、ご隠居……。って事は?」

「正式にあ奴に引き継ぐ、という事よ」

「遂に異訪者が12聖に加わる訳じゃな」

「―――皇国的には良いんですか? そういうの」

「既に正式に受理しています。異訪者に12聖の地位を継承するということに関して様々な意見は出ていますが、中央議会にも好意的に捉えている者は多く。これも、ルミエールさまやマリアさまのお陰ですね」



 皇国の人たち、異訪者に好感度高いんだよね。

 彼女自身が言うように、リアさまの件が効いたんだろうけど。


 ……ハクロちゃんもNPCの好感度とか高いんだろうな。



「失礼致します、皆様。新しいお茶をお持ち致しました」

「しました?」



 と、噂をすれば影。

 ワゴンを押してやってきたメイドさんはソフィアさん。

 彼女はハクロちゃんが一番仲のいい、領主館に勤めてるNPCさんだ。

 私も過去にお世話になってね。


 で、あとから付いてくるメイド服のハクロちゃん。

 とても可愛いね。

 先輩に付いて色々お勉強中の研修生みたいな……厳しい場でもないから、ちょっと覚束なくても誰も文句を言う筈もない。

 対人訓練にも良い。



「……12聖が侍従の役割を楽しむ。これもまた異訪者の在り方か……」

「自由ですねーー」

「うふふっ……。ささ、ルミエールさまもお茶のおかわりを」


 

 こちらへ向けられるティーポットの先。

 ホストの殿下御自ら淹れてくれるらしい。



「いただきますよ。ただ、時間になりましたら……」

「えぇ。予定取りのお時間に」



 私はもう暫くしたら帰る予定だ。

 ゲームじゃなく、現実の方で大事な用事がね。

 


「ハクロちゃんもそのタイミングで一緒に、ね?」

「ん……。ルミ、ちゃんといる?」

「うん。君たちより先に。時間通りに待ち合わせ場所に行けばいいよ。帰りも送っていくから」



 そう、お疲れ会をやる事になってるんだ。




   ◇




 ………。

 


「朔夜、さん……?」

「ええ。初めましてね、スミカ。うふふっ……。慣れないのならメアでも、何でも……。好きに呼んで構わないわ。だって、貴女は私のご主人さまなんだから」



 肩よりやや長いふんわりした黒髪の女の子。

 向き合うは、いかにも私キャリアウーマンですよって顔をした、パンツスーツの女性。

 初めて会う筈の二人……その邂逅は緊張や愉悦などの異なる形であれ、嬉しさの感情で埋め尽くされているようだった。



「主人って……。それってゲームの中の話ですけど……」

「あはっ。ゲームも現実もそんなに大差ないわよ。特に私にとってはね。10年以上もそこのちゃらんぽらんのボディガードやってたのよ? 私。リアルで」



 ちゃ、ちゃらんぽ……?



「ボディーガード……? ソレに関してもゆっくり聞きたいですけど……、本当にこっちで。世界って狭いなぁ……。あの。結局二人はどういう関係なんですか? ルミ先生」

「「お、さ、な、な、じ、み」」

「あぁ、納得……」



 分かってくれたみたいで嬉しいよ。

 けど私はちゃらんぽらんじゃないよ。



「うむ、む……ぅ。こんなに素敵でこんなにナイスバデーなお姉さんなのに……。マスター、ポート・ポーターおかわり。あと、何か適当に……」

「どうぞ」

「はっや! 言う前には既に準備してたような……!」

「分かる? スミカ。これがちゃらんぽらんと配慮できる大人の違いよ」

「成程……。ところでポートポーターって……?」

 


 イギリスの黒ビール(ポーター)とポートワインからなるマスターオリジナルのカクテル、港のお洒落鳩(ポート・ポーター)は私の好きなカクテルの一つ。

 ポートは港、或いは赤ワインの事。

 ポーターは黒ビール、そして皆さんご存じだろう世界一の美脚を誇る鳩さんたちの事だ。

 


「……いや、ご存じあの人みたいに言われても知らないですけ―――……え?」

「このハト。ポーターっていうのよ」

「えぇぇ!? なにこのハト!」

「そういう品種なの。きもかわ、っていうのかしら?」

 


 かわかわの間違いだろうに。

 サクヤの差し出した携帯の画像を覗いたスミカちゃんは跳びあがるように跳びあがる。


 で、かわかわと言えば……。



「………ふむ」



 ………。

 マスターが出してくれたおつまみ……、クルミだね。

 大粒で、しかもかわかわの殻付き。

 成程? 確かに剥いて食べるというひと手間があるから待ち時間に摘まむには良いのかもしれない。

 オフ会だし、この後色々食べるだろうし。


 ………。



「ね、マスター。クルミの旬って秋じゃなかったっけ」

「大量生産の国では今頃が市場に並ぶ頃合いなんだ。中でも殻が一番固い品種でね。日本産顔負けさ。だから、専用の道具で割る。美味しいよ。黒ビールの香ばしさにも負けないだろう」

「ほう。……道具は? あ、どうも……。ハンマーとカナヅチと玄翁とトンカチと……色々あるね」

「全部同じじゃないですか!」



 あ、くるみ割り人形もある。

 けどこれって実用じゃなく鑑賞用っぽいな。

  

 コンコン、と。

 取り敢えず色々試してみるけど、本当に硬いんだこれ。



「参るね、これは。……うん、魔法の杖の出番だ。―――サクヤ」

「んーー? はいはい」

「え? ………ちょ!?」



 そうそう、わたしには最終兵器彼女が―――……、お?



「……。このクルミは割りこそないだ。食べられないよ」

「注文の多い客ね」

「こな……ごな……? え? ―――えッ!?」



 手に取ったクルミがまるで全粒粉じゃないか。

 めんどくさそうな溜息をついた彼女は、やがて山の頂点にあるクルミを中指と親指でつまんで、人差し指をチョン。

 ―――パカッと。



「これで満足?」

「しめしめだ。流石はサクヤ―――ぁぁぁぁあ」



 食べられた。



「うっそぉ……いや―――もしかしてこれも何かの? メアさ―――サクヤさんも手品使えるんですか!?」

「手品っていえばそうかもね。フィジカル専門だけど」

「フィジカル専門の手品って何よ」


「そういえばスミカちゃんに詳しい取り扱い説明はしてなかったね。彼女はサクヤ……。人呼んで最強生物。百メートルは五秒で走って、視力はダチョウ並みの20くらいあって、聴力はコウモリ、握力は―――何キロだっけ? 500キロ?」

「ツッコミ待ち……、しかもそれゴリラの……」

「600よ。500は高校生の時」 

「ゴリラ以上だった!」



 だからね、ゴリラは言う程サクヤじゃないんだ。

 確か数十年前まで握力の最高記録って200行かなかったんだっけ。

 


「本当に意味わからないね、サクヤって―――あも……ん、美味しい……」

「って結局自分で割ってるし!? どうやって!? いつの間に!?」



 だって意地悪さんがくれないんだもん。


 どんどん顔色が悪くなってくるスミカちゃん。

 心配するように伸びたサクヤの手が額に触れると更に青くなっていく……あれはアイアンクローを心配している顔だ。

 クルミ全粒粉と同じ運命は誰だっていやだもんね。

 

 

「………。あ、あの……?」

「何もしないわよ。だって、貴女は私の主様。むしろ私にできる事なら何なりと、よ。大体のことだったら出来るわよ」

「ひ、ひぅ……」



 只の女子高生ちゃんに途轍もない軍事力を持たせてしまった。

 護衛の着てるスーツも相まって、スミカちゃん自身がただの女子高生じゃなく何らかの要人がお忍びで来てるみたいになってるし。



「待ち合わせの時から気になってたんだけどさ、サクヤ。その恰好どうしたの?」

「私も就職活動よ。ハクホウワークス」

「ハクホウワークスって、オルトゥスとかON作ってる大企業の!? メアさんそっち方面も出来ちゃうんです!?」

「あー、無理無理。そういう頭の分野は小人さんに任せてるの。警備部門の枠が空いてるんだって話を聞いてね」



 あーぁ。

 警備とは名ばかりの私設部隊みたいなところね。

 ライバル社のスパイと戦ったりするのかな。

 


「アニメとか漫画の見過ぎじゃないですかね。スーツ姿のメアさん確かに格好良いですけど……」

「ばっちり決まってるでしょ? あ、面接官はトワと社長さんだったわ」

「アピールポイントは?」

「操縦士免許と明槻流免許皆伝。銃の使用とかのことも聞かれたわね」

「アニメとか漫画の話です?」



 思いたくなるのは分かるよ。



「今は時代が時代だからね。ああいう分野って、ゲームに応用されてりもするけど実際は医療用の最新技術だとか、大都市の管理システムをそのままデチューンして使ったりしてるから。そっくり流出とかして悪用なんかされたら、都市の機能を簡単に麻痺させられたりとか」

「……アニメとか漫画の話……。何処まで本当なんです? さっきから」



 私たちの話聞いてる人たちって大体こうだ。

 目の前の全てを疑い始めるんだ、何故か。

 普段慣れてる子たちも―――おっと、噂をすれば。



「やほーっすルミさん」

「時間通りですけどお待たせしました」

「きったよーー!」

「真打ち登場です」



 賑やかになってきたね。

 今に貸し切りのお店に入ってくるのは、若々しさ全開の学生さんたち。



「お邪魔しますわ―――っと。相変わらずいいお店ですね、マスターさん」

「ルミ……。―――と?」

「ハクロちゃんだ……、絶対」

「あはっ、やっと会えた……」



 毎日のように学校で顔を合わせている人たちに混じり入って来るは大学生さんと、やや警戒、或いは気後れするようにゆっくりと歩み行ってくる小、中学生くらいの女の子。 

 麻里(マリア)さんと寧々(ハクロ)ちゃんだね。 



「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」



 迎え入れられる面々。

 マスターが磨き専用のコップを磨きながら店内へ促して、と。

 楽しい時間になりそうだ。



 ………。

 ……………。



「いやさぁーー。本当に大盛り上がりだったよ、前線は」

「マリアさんは絶対後方の壁から援護だっただろうけどね」

「後ろも楽しかったですよ」

「むぅ……共通の話題……。私だけ参加できなかったの、本当に悔しい……」



 乾杯後、そこかしこで盛り上がるオフ話。

 中心となるは、やはり先の件だろうか。

 マリアさんはリアルの都合で不参加だったんだけど……彼女が居れば、それは凄い力になっただろうに。

 私達も残念だったよ。

 


「ユウト、目立ってた。聖剣?」

「ハイドゥグラム。属性不一致な水の聖剣な。本当は目立ちたくないから隠しておくつもりだったんだが」

「はーい出た主人公ムーブ」

「いけ好かねェー」

「私もびっくりしちゃったなー、あれは。だって聖剣って現状サーバーでも数えるくらいしか見つかってないんでしょ? 確か、リアルマネートレードで凄い値段つくとか……」

「って話もあるよねー」

「お金に困ったら高値で売って山分けしましょうね」

「おい」



「―――ってあれ? スミちゃんあの戦い参加してたん?」

「……あ、確かに。言い方的に、見てたって事だよね。言ってくれればよかったのに」

「そんなに私たちとゲームしたくないんですか?」

「友達なのに!」

「あ、あはは……」



 ………。

 カウンターでお酒を飲んでいるふりをしながら耳を傍たてる。


 バーの雰囲気にあてられたとて、彼女がこんな初歩的なミスをするはずもない。

 つまりは。



「じ、実は……ね? 皆に謝らなきゃいけない事があって」

「「?」」

「皆とは戦場で何度も会ってる。話もしたよ―――人間種」

「「……………」」

「―――へ? に、にんげ……」


「うん……私がヴァディスなの。冥国四騎士、暗黒騎士ヴァディス・クォ。だから、一緒にゲームしようっていえなくて……」

「というわけだな。一緒にごめんなさいだ」


 

 ぺこり、と。

 並んで頭を下げるスミカちゃんとユウト。



 皆黙っちゃった。



「……ルミねぇ」

「ルミ姉さん」

「―――んう?」



「「今度は何(ですか)!?」」

「え、私?」



 知らない、わたし知らないよ?

 知ってるけど知らないよ?

 内緒、内緒、内緒の話はなんとやら……。



「知ってたんだ! やっぱ知ってたんだ!」

「改めて考えたらやけに仲良かったような気がします! なんか、こう……気心知れてるような、何かが!」

「僕たちってどうしてこういう役回りなの?」

「いつも驚かされてばっかりかよ」


「ハクロちゃんも……、ゴメンね?」

「ん、気付いてた。クオンだって。―――許す」

「ありがと。ごめんねのハグ、しよ?」

「ん?」

「ハグ。ハグ」

「「したいだけだ!!」」

 

 

「ふ……。やっぱり人を騙すのって罪だね」

「存在自体罪って事ですね、貴女は」


 

 なんか聞こえてきた。

 当事者だったら今にハンケチを噛んで「キーーッ」となるだろう麻里さんは私の隣でおしとやかにお酒を飲んでいる。



「大人だね、麻里さん」

「驚きはしますけれどね。まさか、第一次からずっと謎に包まれてた暗黒将軍の正体が皆さんのお友達……しかも可愛い女学生さんだったなんて。けど、私は当事者じゃありませんもの。うふふ……。ところでルミさん私の髪三つ編みにするのやめてくださる?」

「大人の女性だ……」

「遠くを見てるのもしとやかだな。目死んでるけど」

「てかやっぱマリアさん出てない?」



 三つ編みはお気に召さない。

 じゃあ四つ編みで……。



「はぁ……本当にこの人は。―――マスターさん? おすすめの飲み物をくださるかしら」

「畏まりました」



 カウンターの奥ですぐさま取り掛かる紳士。

 彼が取り出したのはシャンパンにブランデー……、果物では大きな葡萄……その他少々。

 最初にグラスへシャンパンを注いでおき、残りをシェーカーで……。



「「おおぉ!!」」



 始まるパフォーマンス。

 寡黙でもサービスを欠かさないのが流石だ。

 華麗にシェークされたソレが端正なグラスに注がれてススと差し出される。

 

 秘匿領域の空を思わせる色合いのカクテルは……。



「こちら、ルミ・エールです」



「「ん?」」

「ルミエール……さん?」

「ルミ?」

「ルミねぇの応援、って事……!? のみたーい!」

「お酒ですよ、バナナ」


「これは新作でね。元の創作カクテルを私なりにアレンジしたものだ。配合に使ったお酒と果物を少しいじってある」

「―――おいしい……!」



 麻里さんの反応を見るに、結構いけるらしい。

 けど中々度数もありそうだし、のみすぎ注意だね、色々と。



「色々と?」

「これかなり良いコニャック使ってるよ? 高いんじゃないかな、マスター」

「閉鎖された蒸留所のだね。デネシー・ハイのXO。シャンパンには―――見せた方が早いか。これ、配合表」



 どうもどうも、家で真似しよ……いや、予算オーバーかも。

 まぁお酒は似たもので補うとして、単純計算で……えっと。



「ルミさん? いきなりどうして定規でグラスの長さ―――」

「んーー。ん。このグラスだと一センチ9000円だってさ」

「……………ぴぃ」


「「……………」」

「きゅう、せん……? これが?」

「一息で飲んじゃえそうなのに……」

「やめておいたほうが良いわよ、そういう飲み方は」

「朔夜くん? さっきからグランデサイズのコップでやってる君が言っても……」 



 周りの会話はさて置き、ルミ・エールをちびちび飲み始める元悪役令嬢。

 没落後だったみたいだ。



「会計は私達が持つから遠慮しなくて良いのよ?」

「そーだそーだ」

「ルミさんと朔夜さんから溢れるかねもオーラ……」

「なお非正規雇用と現在無職なもよう」

「ルミは先生だぞ」

「えぇ、非常勤の……ね。本当に意味が分からない……」


「あの。前々から言おう言おうとは思ってて。私自身隠す側だったから思った事なんですけど……。金髪だし、手品凄いし……。もしかしてルミ先生って奇術師ルーキスの親戚か何かだったりします? だからお金持ってるとか」

「ごっほ!!」



 あーー、高いお酒がぁ……。

 隣でむせた麻里さんの肩をトントンしつつ様子を伺い―――ちょっと静まり返った面々の顔を見回す。

 マリアさんといい、スミカちゃんといい、どうも私の周りには鋭い女の子が多いな。

 女の勘ってやつかな。



「ふふん。さーーて、どうでしょう?」


「……えっちだぁ」

「うーん、せめて否定して欲しかった……」

「ご想像にお任せ、ですね」

「あー! 麻里さんなんか知ってそうな顔だーー」



 はぐらかしつつ、皆の反応を楽しみつつ。

 いつの間にか隣に来て麻里さんと同じお酒を注文していたサクヤとグラスを合わせる―――グラス大きくない? それって幾らなの?



「そう……。巡るのをやめて、出会いなんか減っちゃったと思てったのに。こんな子たちと出会ってたのね」

「世界はね? 広いんだ」

「そう、ね……。ね、ルミ。実はね、面接行った時に聞いちゃったのよ。もうすぐで終わる予定だって、あの世界」



 ふーん。



「そっか」

「そっけないわねェ」



 いつかは終わるものだからね。

 永遠なんて、そんなモノは決して存在しないし、在ってはならない。

 光るべきところで最高に煌いて、そして忘れ去られていくのみ―――最も輝く時こそ、最高の散り時なんだから。



「それでいい、それが良いんだ」

「そ……。まあ、ルミならそう言うわよね」



 ………。



「ところでルミ? あの件、私まだ負けたとは思ってないわよ?」

「お?」

「確かにしてやられたけど、別に倒されたわけじゃないもの」



 まぁ、確かに?

 あのまま続けてたら、およそ有利なのは彼女だっただろう。


 

「良くて一歩リード、といった所だね。……世界が違えば、最高のパートナーは最高の好敵手……。本当に面白いものだと思わないかな? サクヤ」

「ねーー」



 私たちの巡り合わせに乾杯、と。

 今一度互いにグラスを合わせ。


 ……そして、もしもまた再び私達が相対するような状況になるのならば。



「結局勝つのは私達だよ」

「あはっ、上等―――全力で行かせてもらうわ」

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