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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第十章:パレート編

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第21幕:叙述とりく




「あは―――あはっ、あはははははッ!!」



 ……。



 ……。



「はぁ……」



 高笑い。

 最早同じPLとは思えない程の暴虐の限りを尽くす彼女は、ひとしきり笑い終えたと感じたのか、やがて溜息にすら近しい行動を見せ、大仰に肩を竦めた。



「攻撃が来ないようだけれど―――どうしたの? 降参? 試合放棄かしら……ね?」

「ホ……?」

「「ホホホッ、ホ」」



 ………。



「こ……、このぉぉぉ!! やぁぁぁぁぁあ!!」



 ソレは明らかな挑発行為。

 舞い踊る無数のハト君達の中心で双剣を弄び、天女のようにくるりくるりと舞い踊る黒髪紅眼の騎士。

 間違いなく頭に血が上るのは、一瞬のうちに仲間を二人もキルされたユーシャちゃんで。



「やる気充分、良いわね」



 舞うような回転と剣舞が止まる。


 「けれど」、と。

 おそらく瞳を閉じたまま―――、どころか、恐ろしい速度で肉薄したユーシャちゃんにすら背を向けたままの状態でピタと止まった騎士が、只一動作、双方の剣を一回ずつ振るった。

 


「全部全部見えてるのよ、勇者さん」

「ぅ……!? ―――ぁ」



 たったそれだけ。

 それだけで、趨勢が決してしまう。

 最初の一撃が防がれる事など見越したうえで連撃に移行する筈だったユーシャちゃんの切り返しは、その起こりすらなく始まる前に潰される。

 あとに残るは無防備となった彼女と、既に武器を構え走らせている存在。



「それじゃあ、さんに―――……!」



「ぐ……ッ、うぅぅう!!」

「あらあら」

「……! あおさん!?」

「―――いや、だから青さんって呼び方は……」



 青騎士くんだった。

 彼もまた、サーバーでも屈指の攻撃速度を誇る事で知られる存在。

 そんな彼が、片腕を思い切り斬られつつも、本来致命にさえ到る筈だったユーシャちゃんを庇い、こちらへ飛び退る。



「っし……―――無事? 野生の勇者ちゃん」

「ごめんなさい……! 青さん……私のせいで」

「……。良いや、もうそれで。致命じゃないから無問題。僕、これで体力はそこそこあってね。……というか完全に避けるつもりだったんだけど……どうなってんの? 武器伸びたりするの? 如意棒なの? 悪夢さん」

「伸びるのは腕よ。ゴム製。半魔ってそうなの」

「「!」」



 ―――そうだったのか。

 じゃあクオンちゃんも出来るんだね。

 凄いね人体。

 


「すご……半魔種」

「ん、ズルい」

「いや、なわけ。純粋すぎるのも困りものだなぁ……。ところで僕達逃げた方が良い? 一応僕もキルされる訳にはいかない立場なんだけど……おっと。剣聖ちゃん?」

「私がやる」



「―――……。ゴメン、ハクロさん。情けないけど……多分、私じゃ勝てない……!! お願い……! 二人のかたきを!」

「あ、じゃあついでに僕の腕のかたきも!」

「任された。友達だから」



 やがて進み出る小さな身体。

 けれど、彼女を知る者たちにとって、その背中は見た目よりずっとずっと大きいものであるという事は既知。

 本気も本気……完全にスイッチの入った彼女は……、やるよ。



「ん……。ルミ」

「……………」



「“小鳩召喚”」



 だね、そうだね。

 同じ能力を持つ者同士の戦いにおいては、より多くの手札を持つ側が勝利するのは当然。

 であれば、敵に合わせて味方を同じ条件にしなければならないのは当然。

 ………さて。

 この状況で何処までできるか、何処まで守れるか……。



「……良いわ。今の私の興味はあなた。何処までやれるか、見せて頂戴。本当にその資格があるのか、そこまで信頼されるだけの力があるのか」

「……負けられない。任された」



 ………。



「「……!!」」



 沈黙の一瞬を経て、同時に動く両者。

 まさに、最早私の眼では理解できない程の応酬。

 白の閃光が、まるで硝子のひび割れのように……一瞬にして空間に銀の亀裂を数十と走らせ。

 黒の霧影がまさにピタリと、それらの亀裂に対応するように、影のように追いすがり、飲み込む。


 ポイントをジャストで叩いてくタイプのリズムゲームみたく。

 攻撃、潰す、攻撃、潰される……。

 以前ユウトとムーン君が武術大会で見せた戦い―――数ある可能性の中から一つを選択するってアレの全く逆……選ぶのではなく、そもそも全部やる。


 浮かんだ全てが、既に実行された後。

 明らかに人間の反応速度を振り切った斬撃の応酬。



「―――あはっ」

「最短、出来なくなった?」

「分かり切った事なんて聞かないでちょうだい……! 可愛い顔して煽り厨なのかしら! あはははっ」



 それまで、常に最短最速の動作で皆の攻撃を封殺していた悪夢さん。

 しかし、今の彼女はハクロちゃんが一回の攻撃をする間に2回は動き……それは、単純に彼女の方が早いからではなく。

 そうでもしないと、もはや追い付かないから。

 単純に。武器の性質の差。



「“夢殉”」

「“双刃殲風”」



 一方が大剣を半月に薙げば、もう一方は上体を逸らし回避……、瞬間にがくんと暴落する刃。

 振り下ろしの瞬間には既に間合いの外で……ええ、と。


 ………。

 ちょっとよく分からない。

 これ以上の解説は無理だ。



「やっぱり……、あなた……」

「ん?」

「―――いいわっ……! いいわ! 認めてあげる……。あなたは、私の初めての同類!! こんな時間がずっとずっと続けばいいの! ずっと、あなたを待ってた!」

「難しい。けど、楽しい? ……一緒」



 もはや、現時点で二人の差は殆どない。

 悪夢が大きければ大きい程に、それに呼応するかのようにヒーローは覚醒するんだ。


 むしろ、目の前に前例がいるからこそ、それを参考に次々と答えを増やしていく。

 さながら、師匠が暗中模索……10年とか長い年月を掛けて編み出した技を、要点だけ抑えて教えてもらえる弟子が一か月で修得するような。

 目に映る全てを参考に、輝きを増す。



「脳が柔らかいから……? 成程―――あなた、見た目通りの年齢ね? 覚えが良すぎるわ」

「ぷらいばしー?」

「詮索なんてしないわよ」

 


「名前。聞いてない」

「メアよ」

「めあ」



 まさに、両者は戦いによって互いを表現している。

 挨拶よりも、質問よりも、一斬の切り合いが互いを最も知り得る手段で。



「……っ!!」



 剣が舞い踊り、更にその周囲を二人の術者が呼び出した大量のハト君が舞い踊る舞台。

 その中で、黒髪の騎士が身体に刻まれていく朱の被弾エフェクトを意識した。



「めあ……、まだ慣れてない?」

「……………」

「違う……。持て余してる?」

「……正解よ。というか、情報量が多すぎる。こんなの十全に扱える人間なんてそれこそトワか……、ルミくらいかしらね。それに……流石。死角を作る……そういう事!!」



「さっきから―――視界が遮られる……! 小道具さん達を召喚したのはこの子の補助じゃなく、あくまで私の眼を潰す為ってこと……!」

「焦ってる? 勝機―――“夢殉”」



 絶対切断の白閃が空を切る。

 外れたのに反撃がなかったのは、単純にその余裕がなかったから。

 ………。

 


「対応してきてるのは、これが初めてじゃないから……?」

「ん、ルミに付き合ってもらって、偶にやる。回避訓練。知らない事、楽しいから。めあ、無理にそれで戦おうとしてる。慣れてないのに」

「……………」

「アドバンテージ? これ、私の方が上……。だから、焦ってる」

「―――。焦る? これが―――……えぇ、そうね。私は焦ってる。でも、焦るのなんて、いつ以来?」



 ほんの一つの分野とは言え、他ならぬ自身の領分で自分より上がいるということに焦りを覚えた。

 それが彼女にはあまりに新鮮だったんだろう。

 その表情には、今までとは明らかに異なる感情の色がある。

 


「勝てない」

「……!」

「焦ったら、もう絶対。そうなったら、ルミには勝てない」

「知ったような口で言ってくれるわ。私はまだ―――」

「もう、勝ててない」



「ルミは……、いないから」

「……………」



 目を見張るような強力な一撃を互いが繰り出し、反動のままに大きく距離が取られる。

 グリン―――と。

 まさに、今まで感じていた微かな違和感が大きな疑念に変わったかのようにこちらを向いた朱の瞳は。

 

 


「あなた……」

「……………」

「―――はぁ……。やられたわね……」



 ………。



「あなた―――……だれなのかしら?」




   ◇




 人界三国―――帝国領。

 要塞都市カストゥルム近郊である広大な平野には、今や小都市の規模にさえ錯覚される簡易的な拠点が構築されており、PLにとっては都市同然の状況にすらなっていた。

 リスポーン地点に設定できる、行商らによって都市部と遜色ない売買ができる、何より巨大な戦力が存在し、その中心に権力が集う。

 

 最早一つの都市。

 増え続ける両陣営の参加者。

 誰もが戦いの行く末を夢想し、しかし思い描く全てが現実味を帯びない状況下。


 この現状において、もっとも大きな変化といえば―――答える必要すらないだろう。



「まさか……、皇国が……!?」

「何で……? 動かないって話じゃなかったのか?」



 戦争のために集った異訪者たちの興味は、まさにその渦中へ注がれている最中。

 今まさに目の前で起こっている、一糸乱れぬ行進にこそ。



「コイツ等……、どっから……」 

「中隊規模の軍が忽然と姿を現す―――そんな事が可能な者など……まさか!!」

「空間跳躍―――鉛海の双鎌!」

「双角の軍神アレスだ……! 皇国の12聖! 皇室直属……神使の長だ!」

 


 彼等の言葉通り、その影は忽然と平野に現れた。

 長距離の行軍の様子なく、100~200余名になろうかという、均一の装備を纏う者たち。

 

 儀仗兵、と表現できるだろうか。

 全身、或いは顔に到るまで全てが西洋の祭服に類似したものを纏い肉体の要素を消し。

 金属質の鎧が欠片として存在しない、純白の衣のみによって構成された一団。


 彼等、皇都シャレムにおける近衛衆の役割を持つ最高戦力【神使】らによって周りを固められ現れる白樹の質感を持つ馬車。

 掲げられた太陽を象った旗は、紛れもなく皇室の証。

 

 

「エディフィスの紋章―――、リアール候……!! 侯爵さま!! ―――陽の御子が最前列を!」

「何じゃと!?」

「馬鹿な……。エディフィス聖下……」



 そして、現れたのが皇女本人となるならば、それ相応の相手が伺うのは当然。

 割れる人の海……護衛を伴い前へ出るは進軍の主を握る古代都市領主、そして海岸都市領主。


 現れた王国重要都市の主たちの前に降り立つ影は、紛れもなく。

 白の髪に、太陽の如き黄金の瞳。

 線の細い体躯に、病的なまでに蒼白い肌。

 公的な場における装いである祭服をまとう彼女は、紛れもない―――。

 


「お久しぶりです、シュトラント・ドラコ海洋伯。そしてリアール侯爵」

「リア・ガレオス殿下……」

「よもや、あなた御自ら……」



 他国とはいえ、王族……実質的国家元首。

 ましてやこの状況下で取るべき礼を間違えるわけにはいかぬと、両者は最敬礼に近い作法を取り。

 やがて、その視線が新たに馬車から降り立った影にも驚愕と同様、注がれる。



「お初にお目にかかります。帝国ララシア伯爵家、ステラ・クライト・ララシアと申します」

「―――よもや、アリステラの御子……!」

「帝国の……。では」



 帝国の中でも重要な立ち位置……帝室の懐刀とされるララシア伯爵家の令嬢であり、星の御子でもある彼女が、同じく御子である皇女と共に現れる。

 誰しもこの現状が齎す意味を理解するのに時間はいらず。

 簡易的な挨拶。

 それが終われば、早々に始まるは。



「―――交渉、であるか。星の御子……、否。帝国の使者よ」

「はい。ですが、その前にもうおひとり……私だけでは決して出来なかったことを。この場へと導いてくださった方を……」



 二人の御子の視線が向けられた先へ、同然に注がれる注意。

 停止していた馬車。

 その御者席に座る、神使同様の装いを纏っていた者ががひらりと平野に降り立った。



「わーたしだ」

「「………!」」



 ………。

 ……………。



 ………。

 ……………。



 うん、うん……。

 プシュケ様も海洋伯も、大分面食らってるみたいだ。

 前に古代都市で会った時、私がどうするかの方針は伝えてあったはずなんだけど、流石にこうなるとは思わなかったんだろうね。

 私も思わなかったし。



「ルミエール……!! そなた……」

「君か! 君が皇国を動かしたのか……!?」

「いいえ?」



 別に、私が主導したんじゃない。



「私はあくまでクエストを受理しただけですよ。依頼者は、こちらの御方」

「私です」

「「……!」」

「―――わぁ、何と」

「ルミエールさま? 今ご紹介してくださったのは貴方の筈なのですが」

「どうして一緒に驚いてるのですか」



 いや、場の空気に合わせようかと。

 



――――――――――――――――――――

【Original Quest】 星が巡りて陽は照らす



 (所要:不明)


帝国貴族「ララシア伯爵家」の令嬢「ステラ

・クライト・ララシア」からクエストの依頼

を受注しました。

あなたの行動が戦争の行く末を左右するかも

しれません。


指定された条件を達成し、NPCの信頼に応え

ましょう。


――――――――――――――――――――



 幻想都市のお城で作戦会議していた時。

 いきなりクエストの受注状況が更新されたのは面食らったけど……これは私にとって必要なものであると理解してからの私の行動は実に速かったと言えるだろう。


 馬車を駆使して皇国へ……そのままメールを駆使して依頼買収影武者暗躍裏工作エトセトラ……。



「……私の事はどうでも良いんだ。―――さぁ、ステラちゃん」

「はい……!」



 進み出るは星の御子様。

 今回の主役は彼女だ。



「リアール侯爵さま。シュトラント・ドラコ伯爵さま。12聖を擁するあなた方が最前に立つこと……そして三国、人へと矛先を向ける意味。それを理解されていない筈はありません。それ程の覚悟、幾多の苦渋をもってこの場に存在する事も重々承知しております」



「その上で、お引きください。他ならぬ……人々の。人間種のために」



 相手が好きでここにいるんじゃないのは承知。

 むしろ、ステラちゃんもリアさまも国と貴族、君主と臣民の関係を深く知っている。

 

 理解した上で言ってるんだ。

 


「しかし……、星の現身よ」

「私達は……」

「三御子とは、単一の国家ではなく、人界三国全ての護り手。そして12聖とは、本来三御子を守護する眷星として選出された者たち。これは背信行為ではありません。人を―――世界を救うための選択です。そして、帝国側の戦力は決して自ら打って出ることはしません。王太子殿下の名に誓って……私が約束いたします」

「ステラさまの言葉を、皇国皇女として保証します。―――私が。皇国が見届け人となりましょう」

「「……………」」



「というわけだから……後の12聖さん達を説得すれば良い感じ? っていう事で? 何とかできないですかね」



 今この場には調停者となり得るリア殿下もいる。

 それに……私見えてないけど、多分皇国最後の12聖さんもいるんだよね? 鉛のどーたらって凄い人。

 あとは、灰燼の拳仙と翠玉の霊杖さん……王国の中核をなしているであろう彼等をどうにかできれば、そもそも王国側は戦う以前の問題になる、しちゃう。

 


「それも、私達異訪者にお任せいただきたく」

「……。国同士の戦いではない、と」

「えぇ。そういう体にします。早い話が―――帝国と王国の戦争は、起こらなかった」



 起きるのは只の小競り合い。

 それも、異訪者とのだ。

 王国の矛先は全く明後日の方向を向いたまま、行き場なくぐるりまわって……で、やがて霧散するんだ。



「人と人とは繋がるもの。共に手を取り合うものです。共に見守る私達御子がいる限り……、戦争など、決して起こしません。どうかお引きください」

「「―――――」」



 ………。



 こっちは問題ないかな。

 この場にいる全員を知っている身―――交友関係広いな、私……じゃなくて。

 皆を知っている身としては、戦わなくて良い理由を提示されればプシュケ様たちは止まると確信できた。

 完全な退却とはいかずとも、静観は確実だ。 



「脱帽だ……。本当に言った通りになるかねェ、しかし……。確かにこれはいう事聞いておいてよかったわ。さんきゅ、ルミエールさん」

「だろう? だろう? 話が分かる人で助かるよ、リカルドさん。これからもスパムメールが来たら頼むよ」

「一秒で16以上送って来れるのスゲーよ。どんな指だ」



 いつの間にか馬車中から現れた古龍戦団の副団長さんへご機嫌な言葉を返す。

 最初凄く嫌そうだったけど話自体は聞いてくれるし、聞いたうえでそれの方が利になると考えれば乗ってくれる。

 ほんのすぐ前まで圧倒的敵同士だったのに、異訪者っていうのは本当に理想的な利害関係の巣窟だ。


 ところで―――。



「……うぅ、うぇぇぇ……!! 偉い人怖いよぉ……」



 まだ泣きモード中か。

 本当に一旦入るとなかなか抜けないと見る。

 ここは一つ、精神安定の隠し効果がある私の魔法で……。



「おお、よしよし。頑張ったね、魔王さん。偉いえらい……ね。突然だったのに信じて付いて来てくれてありがとうね」

「ふぁ……。やっぱこのお姉さんしゅきぃ……。お姉さんのウチの子になる……養ってもらう」

「ちーちゃん。見境ないよ……」



 困るな、私も下宿なのに。

 穀潰し二人をも養うだけの財力は店主君にはないよ。

 しかもこれから彼女さんと同棲できるかもって時に……。



「でさぁ、聖女のおねーさん」

「うん?」

「結局どういう事なの? どうして私達がやられちゃう前まで未知領域にいた筈のおねーさんがこっちで暗躍してるの? 偏在してるの? ドッペルゲンガーなの?」



 あ、それね。


 

「あっちにいるのは、メモワールさん……。ほら、ちょっと前に新聞を賑わわせてた怪盗さんだよ。怪盗だから当然変装できるんだ」

「……当然の権利なの?」

「あと技もコピーできる」

「「当然の権利なの!?」」



 まぁ、出来るって言ってもコピーできるのはあくまでも初期から覚えてる基本の基本であるスキルだけだけどね。

 一次職で言えば“光華耿々・初灯り”で、二次職で言えば“小鳩召喚”

 だからソーナちゃんやリエルちゃんも、皆も復活させてあげられなかったし……。



「で、あとは私の二次職のスキルで怪盗さんと視界を共有……。あっちの状況を覗かせてもらったよ。発動さえしてしまえば、魔力が切れるまでは回線も繋がったまま。今も見えてる」

「「……………」」



 だから大体の状況は理解してるんだ。

 


「ぶっ壊れかよ」

「私よりよっぽど黒幕してる……」

「実のところ、メモワールさん魔力多いからスキルの使用可能数多いし、威力も実質私より強化されてるしで、もうどっちが偽物なのっていう話で……じゃなくて。ね? ね? ミツルさん。協力してくれないかな。交渉次第でギルドポイントも帰ってくる可能性はあるんじゃないかな。ほら、私暗黒将軍さんとも知り合いなんだ。聞いてみるよ? あっちには無用の長物だろうし」

「ほんとぉー?」



「……ってーー、協力するしかないじゃん。こんなメンツ揃えられちゃったらさーー」



 そういうものかね。



「そういうもんだ」

「ほうほう……」



 リカルドさんが言うならそうなのか。

 まぁ、確かに……。 



「では、12聖二人を擁する敵軍を、私達がどうにかする、と。そのような話で良いんだな? ルミさん」

「軍勢との戦い……それも風流であるか」



 ………。

 壮観だね。

 ロランドさん、チズルさん、ムーン君……。

 三大ギルドの最強さん達がこうして一堂に会しているだなんて。

 一体何が始まるんだい?



「ところでさ。君たちが呼びかければまだどちらにも属してない人たちを纏めて一気に最大派閥に躍り出られたりしないかな。どう? どう?」

「やってみよう。出来得る限り」

「今やってる。石集めの負け犬な俺らは着々と向こうから撤退、あと今から回せそうな戦力には手当たり次第に声掛けてる」



 さっすがぁ。

 ……ふふ、面白くなってきたじゃないか。

 地上では帝国対王国改め、王国(半分)対異訪者連合ってわけだ。

 


「……ふふふっ」

「ご機嫌だな、ルミさん」

「それはね。戦争も止められそうだし―――何より……」



 彼女の面食らった顔。

 してやられたって分かった時の顔といったら、ね。


 

「今回も私が上さ。試合にも勝つ。勝負にも勝つ。どっちも取るのが私のやり方だよ―――サクヤ」




『―――システム』




『承認されました。第七の条件を確認、終末シナリオが発令されます』




「「……………」」

「え―――なんて?」



 あれ。

 もしかしてなんかさらに予想外の方向行っちゃってたりしてるのかな。

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