第16幕:開幕騒乱
未知領域東部―――活火山地帯。
「暑そうだなァ、こりゃァ……。高温なんてわかりゃしねえのに肌がひりひりするぜ」
「都市内部の作物に影響すら与えそうですが……本当にこの地点で良いのですね? 重ね、よくここまで来れましたね、魔龍連合の彼ら。ついでに探り当てたブンヤも」
「ブンヤではありません、記者です。こういう見晴らしの良い場所だからこそ生きるのですよ、囮とは。既に門は開け放っているのですよね? 騎士王さま」
「あぁ。予定通りだ」
「O&Tの独占号外―――円卓の本拠、敵陣の只中に建つ……ねぇ。いつからゲームのジャンルがタワーディフェンスに変わったんだ? ロッカ」
「はは……ッ。私好きですよ、TD。惜しむらくは、母数が少ない事ですが。最前線は頼みますよ、ゴードン」
「任せろや」
彼等円卓の盃が、誰もが認めるトップギルドであるのは知られた話。
かつて最強の名を冠していた騎士王を頂点に、本来であれば最上位ギルドの長でもおかしくない青騎士や韋駄天、その他にも斧騎士ゴードンや弓騎士ロッカ、老師など名の知れたPLを擁する精鋭中の精鋭。
―――その上で、彼等には他のギルドとは一線を隔する更なる強大な武器があるのだ。
それは、彼等のギルド拠点である【幻想都市】そのもの。
本拠点を持たぬ弱小ギルドとは異なり、大規模ギルドにおいてそれらを持つ利点は大きく。
護る範囲が大きい程に、拠点は一定期間毎にランキングに影響を及ぼすポイントを生み出す。
半面、そのデメリットとして、ギルド拠点というものは常に襲撃に備え万全の防御態勢、人員の適宜配置などを吟味したうえで、秘匿されるべきもの。
不動産である故に、最新の注意をもって護り続ける必要があり。
しかし―――彼等は違う。
幻想都市は拠点であると同時に、可動産……根城でありアイテムでもあるゆえに。
展開する必要がないのであればしまえばよく、必要とあらばどこへでも顕現する。
彼等が一度として拠点陥落の憂き目に遭わなかったのは、そのあまりの特異性と秘匿性ゆえのことで。
「―――おっと、来たかねェ」
「千載一遇のチャンスですからね。あの、幻とさえうたわれた円卓の拠点を攻撃できる機会―――逃すわけが……おっとと」
「ぼさっとしているでない……、防壁展開!!」
しかし。
ことこの状況で、その円卓が自らの拠点を晒し、餌とぶら下げた。
罠だと分かっていて、喰らいつきたくならない訳もなく。
火山地帯の山々が噴火したように次々と降り注ぐ攻撃魔法の雨。
城壁の上で、対応するように盾を構えるもの、魔法の障壁を形成するもの―――PLもいれば、NPCもいる。
「俺たちはともかく、NPCの衛兵が何処まで使えるかって話だな」
「軽く蹴散らされるのは勘弁ですね、折角リソースを注ぎ込んでいるのに。まぁ、我々がどうにかするしかないでしょう。頼みますよ、リラ卿」
「わてにお任せ! どんな攻撃がこようがこの神槍リモナールが―――……わひぃ! 魔法は弾けぬでござる!!」
まさに火山岩、火砕流のように激しくなる遠距離攻撃の雨。
4thに到達した者たちの攻撃となると、その範囲、威力共に爆撃に近いものがあり。
「―――当然私か」
狙いを絞るかのように一人へ注がれた爆撃。
その爆煙に混ざり、弾丸の如きあり得ざる速度で距離を詰めてきた大影。
「王ッ!!」
「王さま!?」
「問題ない……、想定内ではある……が」
「待っていた。待っていたぞッ」
まるで未来予知のように穿たれたソレ等を回避した騎士王は、そのまま眼前に現れた巨躯を見やり、兜の奥で目を細める。
「騎士王―――ムーンッ!」
「竜人……ロランド。君とは戦場で会ってみたいと思っていたんだ、私も。互いに、最強の称号を得る機会は喪失してしまったが―――」
口上の途中で放たれた紅蓮の刀身を持つ大剣の剣舞が巨大な爆裂を纏い、周囲を吹き飛ばす。
「……二位争い、と行こうか」
「笑止!! 上を諦めてなどおらぬ……! 剣聖は、倒す! 貴様もだ、吾が好敵手……輝ける騎士王!!」
最上位においてすら隔絶された軍の力を有する【円卓の盃】と【古龍戦団】
その象徴と呼べる者同士は……、かつて最強の評価を二分した彼等は、今ここに初めて直接刃を合わせるのだ。
「騎士たちよ、我が聖剣と共にあれ! 円卓の盃ッ! 出るぞ……!!」
「「御意に!」」
「おっしゃァァあ!! 王さまに続け!」
「防衛戦線開幕です……!」
「飢えたる竜の戦士たち、同盟者たちよ! 鋼の鎧を喰らい裂け、そのアギトにて!」
「「おおおおぉぉぉぉおッッ!!」」
………。
……………。
未知領域北部―――大森林地帯。
「こーーれは本当に運がないっていうか……いや、良いのかな? どっちだと思う?」
「さて、な。この分だと向こうにはロランドさんが行ってんじゃねえか? どちらにせよって感じだろ」
「……最悪なのだわ」
防衛側へ回った戦力を除く風精円卓連盟の主力。
その彼等を今に引き摺り込まんと動き次々に襲い来る不死の尖兵、或いは死霊騎士、或いは使役獣たち。
朽ちるべき肉を持たない髑髏が、虚ろな眼窩のままに標的へと迫り。
「アンデット系って弓の攻撃が効きにくいから―――、本当に嫌いなのだけ、どぉッ!!」
「っていう割には次々倒してくじゃん」
「しかしですねー、青騎士殿。高いんですよ? アンデット特攻の鏃。これ経費で出ます?」
「出るんですーー?」
「出すわよ! ギルド資金から! けど姉さんは定職についてから文句言うのだわ!」
………。
「さぁ、さぁ……!! 短期決戦など面白くない。物資が尽きた時が君たちの年貢の納め時なのであーる!」
「大丈夫かァー? 墓掘る手伝いくらいならしてやっても良いぞぉ」
「―――ねぇ! 思ったんだけど、あんなデカい海賊船どうして操れるのさ! そんなスキル4thにはないんじゃないの!?」
「あの船自体がギルド拠点なんだろうな。おさかな辺りの」
「最上位ギルドってすんげーー……」
己の身体を戦場へ躍らせる彼等風精円卓連盟に対し、魔龍連合はスキルで生み出した使役獣やタコ足、術師が使役する死霊兵ばかりが前線へ。
より少ない犠牲で、より相手を損耗させる定石であり、当然相手が背を向けて逃げ出せば全力で攻撃を仕掛けても来るだろう。
重ね、単に静観しているというのが性に合わない者は、既に手綱を引きちぎり、飛び出している。
「おい、レーネ。何処行くッ」
「言った筈であーる、序盤の内には慎重に慎重を期して―――」
「様子見……? 関係ないねっ! ボク達は先に行かせてもらうよ。行こう、皆!」
「「おおおぉぉぉお!」」
地上との差が5メートル近くもあるであろう海賊船の甲板から降り立つ、小柄な影を先頭とした一団。
それらの容姿は一様に特異性があり―――尻尾や頭頂部の耳など、所謂獣の特徴を持ち合わせる。
「……、新手は―――猫耳、犬耳、その他耳。ランキング9位、獣の挽歌。獣人の身体能力に傾倒したフィジカルエリート戦闘狂集団……航、動物好きだろどうにかしろ」
「無茶いうなぁ……」
「取り敢えず片っ端から燃やすしかねえなぁ! そーらゾンビも来る! 汚物は消毒だー!」
「けど、数が多すぎますよ!?」
「どーにかするしかないでしょ! 遠距離班頑張って―――妖精さんたち! 左翼、ゾンビ来てるよ!」
「ヶ……、ヶ、ヶ」
「―――ァーーウ」
「なに、心配してくれるな!」
「我らとて、死霊術師との戦い方は理解している! 距離を取って、単一の動きでは対処しきれぬように翻弄し続ける事……!! そして、逃げ道のない大火力!」
「その通りよ! ―――放つのだわ!!」
手数の多さこそ使役された不死者の特徴であり、脆弱性もまた同じ。
数十に達する死霊の軍が新たに出現……それと共に吹き飛ぶのは、大火力が当たり前となったオルトゥスでは当たり前の光景。
妖精賛美の狩人たちが一斉に放った範囲攻撃は、まさに戦術級の威力を持ち。
―――しかし。
死霊の軍の中で、吹き飛ばされた方角が異なるモノが、数匹。
「な―――ァ!?」
「……ばか……、な……!?」
放たれた矢を先んじて一足飛びに回避した死霊の兵が、斬撃を置き去りにする程の速度で間合いを詰め、二人の妖精の頸部を一度に刈る。
致命攻撃―――即死だ。
「この、動きは……ッ」
「本当に使役されてるだけなの!? 中の人とかいるって!」
「あははーー。屍兵だから弱いっていう考え、今の環境では時代遅れっていう認識―――そういうのを全部消してきたからこそ、私達は此処にいるんだけどなー」
「「………!」」
「そういえば、まだ妖精賛美の人たちとは戦った事なかったっけ。私達のこと教えてあげなかったのー? 青騎士くん」
「……っと、もう来ちゃったかぁ」
続々と、続くようにやってくる戦力。
一際異彩を放ち降り立つ、二つの影と、その背後に影のように伸びる黒衣のPL達。
或いは、悪魔崇拝者のような風体。
「ちーちゃん? 今日こそ行けるよねー?」
「だだだだだだじょうぶだもんだいないわたたたったわたしはいける」
「なんてーー?」
………。
「海魔ガタノトアに南蛮銃ザ・ビーン、獣軍レーネ……、極めつけに魔王チズルと黒幕ミツル……。うーん……ボクたちの相手としてはかなり役不足ってところかなぁ」
「え、マジ?」
「どんだけ自信あるのさ、青さん」
「逆だ。役不足っていうのはエース級の人を前座で使うようなことだからな。力不足とかと混同されやすいが」
「「博識」」
「重ね、本来は役に割り当てられた人自身の不満を表す言葉として使われるけどな。今の使い方も微妙なとこだ」
「まぁ、言わんとする事は分かるでしょ? つまり何が言いたいかっていうと―――激やばだね! 今! テキツヨカズマシマシガンジガラメってところ!」
「胸やけ!!」
「さーぁ、みんなー? 合言葉はー?」
「「青騎士は、排除ッ!!」」
「……あはは。人気者はつらいねぇ」
「言う人が違うだけでここまで変わるもんなんだなぁ」
「なァ、ラントさん。今からでも亡者に魂首差し出してお引き取りしてもらってくれないか」
………。
……………。
………。
……………。
「真の主戦場は、君たち精霊石奪取側。我々都市防衛組は、あくまで囮……。狙わない訳にもいかず、生半可な戦力で包囲するというわけにもいかない、最高の囮になる」
「鶏肋―――敵にとっても頭が痛いわけだね。どう来るか、魔龍連合の参謀……リカルドさんのお手並み拝見だ」
「敵方も、多くの戦力は己らの精霊石の防衛に配備する筈……。故に、防衛側の戦力がギリギリまで削り、大多数は攻めに、だ。……私は防衛側だがな」
「本当に大丈夫なのかしら……? 盟主であるムーン様がやられたら……」
「それに関しちゃ問題ねぇだろ」
「えぇ。私達ですからね」
「うむ。儂らがやられる筈もない」
「いっそ清々しいまでもの傲慢ですね。流石円卓」
「どれだけ少なく見積もってもフルのギルド二つは来ると思うぞ?」
言葉通りの意味で攻城戦。
攻め手をどれだけ少なく見積もっても、幻想都市を攻める敵の総数は100人は超えるだろう。
最後の会議の中。
各ギルドの中核となる者たちは顔を見合わせ議論を交わし、同盟の盟主たる騎士王が先を続ける。
「この拠点には、防衛機構を知っている円卓の団員が主に残る。加え―――グーテンモルゲン殿」
「私達も、ですか?」
「拠点防衛の要と言えば士気の高さ……、つまりそういう事だ。一つ。頼めるか」
「―――そう来ましたか……、ふふ。えぇ、構いませんよ」
「では、防衛は数にしてPL60人あまり……。攻めは先に伝えた通り―――ラント、君は彼等と共に行け。10名ほど選出し連れて行くんだ」
「え、良いの? 僕まで行っちゃって」
「指揮役は多い方が良いだろう。妖精姫、どうだ」
「―――無論、心強いのだわ」
「決まりだ。12ある精霊石の制覇。そこへ我々が王手をかけた今、敵は死に物狂いで戦力を投入してくるだろう。私達の勝敗は攻撃側に掛かっている。―――行けるな? ユウト」
「信頼が痛いな。ま、出来る限りはやるさ」
◇
「……………」
大森林遺跡群の北部……最後の精霊石の在処を目指し、やってきた皆。
一応隠密行動だったんだけど、見つかってからが早いね。
どうやら、敵方には本当に優秀な参謀が居るらしいよ。
おさかな天獄、千銃民族、轟の一矢、メタ盛るレギオン……。
ユウトとムーン君の睨んだ通り、魔龍連合さんは精霊石の在処である領域の守護に多くの人員を割いてるみたいで。
ざっと、主要なものだけでも四つものトップ層に、他複数のギルド戦力。
数にしても、多分総数は200に届くだろう。
広い範囲を護ってるのもあって、その全部が出て来たわけじゃないだろうし、今はゲリラ戦闘に秀でた妖精賛美の面々が抑止力になってるから彼等の本隊が直接大攻勢に出てくることはないけど、物資が切れたらそれが終わりの時。
重ね、時間との勝負。
ホント、数も質も圧倒的なんだ、敵方。
むしろ三倍くらいで済んでいる現状が有り難いくらいだろうね。
「―――ルミねぇ、回復行けるか!?」
「早急にお願い!」
いいとも。
「―――“光華耿々・初灯り”」
仲間たちの要望に応え、広がるほの灯り。
中央に光が降り立つと同時、一瞬で彼等の調子が戻っていくのが分かる。
「「!」」
「範囲回復……! 成程、これが回復系ユニークの……!」
「やっぱり厄介だなぁ! 銃士隊、よく狙って撃て!! あのPL―――聖女をだ!!」
「先住民共に負けるな! 轟の一矢を喰らわせてやれぇ!」
激しくなる飛び道具の数々。
回復薬を潰すのは定石だからね。
「させる訳ないです―――“磁力砲”!」
「銃も矢も打ちおとーす!」
ただ、得てして定石っていうのは対処策が作られるもの。
元々貧弱この上ない私を護るため、配置された護衛さん達も一級品で―――砲撃に吸着される金属の鏃、弾丸……それ以外も全て暗器や鋼の糸に撃ち落とされていく。
【雷砲士】エナの磁界操作に、【傀儡師】ナナミの操糸術。
まるで飛び道具の方が避けていくみたいで。
「なァ……ッ!? 弾丸を糸で撃ち落とすって、どんな―――」
「んなバカな防御の仕方が―――ぐがぁ!?」
「回復役さえいれば俺たちだってアンデットの軍勢ってな! そら、巻き返すぞ! そもそも俺たちが攻め手だ!」
「ほらショウ、出すもん出して……!」
「おうともよ! ―――アトミック!」
「お、これ良いね! そら、天騎士奥義―――”聖斬撃”!!」
「ラントさんに続くのだわ!! 総員突撃!」
人数の差があっても、一度にぶつかる両軍の数に差はない。
本物の戦争とは違い、持続的かつ絶対的な回復手段があるのなら臆する必要もない。
攻め手は精霊石を狙う皆の側なんだから、こうして攻勢を仕掛けるのも当然で。
「これは―――」
「どうなってるんです!? これは!」
「ちょっ!? なにその光っ!! そんな豆腐みたいにスパスパ斬れる骨っこじゃないんだけど! 精霊の能力か何かなの!?」
「はっはっはーー! こういう時の特攻装備ってやつよ!!」
「姉さん! 追加よ!」
「はいはーい。みんなーー? 沢山付与してあげてくださいねーー」
「「―――――」」
朱、蒼、翠、橙……次々と鏃に灯される精霊の力。
ショウタ君がやってるのと同じように、ルイちゃんの精霊さん達も仲間の武器に属性を付与する事が出来るらしい。
「そら……! “焔閃・斬鬼零落”!!」
「はーーい、一列にぃ! 火葬のお時間ですよーー!!」
「よし、このまま前線を押し上げて目標エリアまで―――ッ……ぅ!!」
「やるね……、君たち」
「ボクが好きなのは小動物であって肉食の大型獣じゃないんだけど―――なぁ!!」
「わぁーー!」
凄まじいまでもの速度で真正面から飛び込んでくる影。
まるでライオンの鬣を思わせるもっさりした癖のある茶髪を伸ばした、青騎士くんくらいの背丈の子―――強いなぁ、あの子。
真っ向からの肉弾戦でワタル君と真正面から競り合って、圧してる。
もしかして、あの子が獣軍のレーネさん?
たしか、要注意PLの1人で……。
『―――リカルド君の言った通りだ。本当に強いね、あの人たち』
………真正面。
私達が向かう先で……目が、その口元を捉える。
確か、彼女たちもまた―――いや。
あの二人は、ロランドさんと並ぶ最重要警戒対象だったっけ。
『そろそろ起きて、チズル。私達の魔王さま』
『……………ん、いい。もう、覚めてる』
この数分で幾度と見た、使役物の召喚―――地面が盛り上がり、立ち上がる複数の影。
……違う。
ここまでで襲い掛かってきたアンデットさんたちとは、明らかに。
「殲滅だよ。死者が生者を狩り、また新たな死者を形作る。私達は魂の拠り所を与えるもの。さぁ、行って、眷属。千年の安らぎを、闇の中で」
「「永遠に!」」
黒髪で、漆黒の西洋法衣……所謂シスター服ををすっぽりと纏った女の子―――チズルちゃん。
やっぱり、彼女ってそういうタイプか。
いつものオドオド口調はどこへやら―――その瞳は、あまりに冷たく、そして無感動。
役を羽織っている間完全にそのロールを自身に貼り付け、内面の性格さえ根本から捻じ曲げるのは私達の世界にも通ずる手法。
そのままの意味で思考回路を丸々だから、それこそ人格そのものを変えてるみたいな感じだ。
彼女の声に、最前線に飛び出してくるは、明らかに質の違う武装を纏った死霊騎士達。
その数は6匹……聞く通りの不死者の特性なら、吹けば飛ぶような戦力の筈。
しかし―――たったそれだけの人数が、最前線で剣を振るっていたユウトと青騎士くんを弾き、続いていた複数人を吹き飛ばし……何人もやられた。
「―――ち、ぃ……!」
「来たね、彼女の真骨頂……!」
全ての死霊戦士が別々の術者に操作されているかのように異なる動きを、なのにそれでいて一つの意識を共有しているかのように集約された攻撃を。
あれを……、六人分の軌道をたった一人の人間が考えて出力だって? ……まるで人間コンピューターだ。
「ハッキリ、人間業じゃねえだろ!? 本当にどうなってんだアレの頭の中!」
「よっぽどラスボスで良いと思うんだよねぇ、彼女」
「ムーンさんとかどうなるんだよ!」
「いや、王様は味方陣営の最強キャラみたいな? ロランドさんとかも」
後者、今は敵陣営になっちゃってるけどね。
よくある、味方だと思ってたら最終的に色々あって敵対しちゃうパターンってやつだろう。
今に、前方に塞がる獣の挽歌と妖精賛美が激突。
円卓の部隊、一刃の風、O&Tの傭兵さんたちは不死の軍勢との戦いに手一杯。
戦いは激しさを増していく。
その上で、ビーンさんやガタノトアさんらは動いてないし、相手はまだ余力をかなり残している状態……更に集ってくるだろう新手。
常に回復を展開している側だって、いつ流れ弾を受けてもおかしくない状態だし。
皆の為にも、私は―――……。
―――っと、視界がぼやけて。
スキルを使い過ぎだね、魔力が切れそうだ。
気を逸らすのも良いけど、私だって今は私に出来ることをやるのみさ。




