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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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第8幕:狩りと奪い合い



 クロニクルクエスト対策会議。

 ……という名の茶会が明け。

 クエストの発令までは、未だ期間があった。


 そういう訳なので。


 皆で数日おきに集まり。

 楽しく、ゲームに浸る日々。


 ……なんだけど。


 気になっていた事があるんだよね。



「――改めて考えると。私も、参加方向なのかい?」

「「今更ッ!?」」

「…むしろ、どうするつもりだったの?」

「了承してるから、一緒に来てくれてたモノだとばかり」



 気が付いたら前線送りになってたけど。

 やっぱり、そうなんだね。


 皆は、最初からそのつもりで。

 

 私も同行予定らしい。


 クロニクルの内容的に。

 戦闘系であることは間違いなく。

 私が介入しようものなら、間違いなく数秒でやられちゃうと思うんだけどなぁ。



「大丈夫だよ。私達が守るし」

「ここの森だって、トラフィークの所に比べれば、レベル高いけど。全然問題なく話せてるでしょ? 大丈夫だってッ!」



 まぁ、ここまで言われればね。

 急ぎの用もないし。

 皆と一緒にゲームを楽しもうかな。


 現在位置はフォディーナ傍の森林。

 森とは言うけど、あちらの森とは違い、全体的に暗い雰囲気で、敵も多様。


 狼さんはいないね。


 あと、ゴブリンやオークも。



「そうだよね。クロニクルもお世話になるよ」

「やったぜッ!」


「じゃあ、そういう事で」


「ほい、アイテムドロップした――よっとッ!」

「「………!」」



 完全に和やかムードの狩りだったけど。

 

 パーティー最速の【暗殺者】

 ナナミが短剣を走らせ。


 飛翔してきた矢が、砕け散る。


 ……一体何処から?


 まぁ、それよりも。

 とても凄い瞬間を目にしてしまったね。



「……驚いたね」

「えぇ。俺も、全く気づかな――」

「飛んできた矢を短剣で弾くなんて」


「あ、そっちすか」


「ふふんッ! 凄いでしょ?」

「付き合ってる俺たちとしては結構見る光景だけど、確かに凄い技ではあるな」



 やっぱり、そうだよね。

 

 ナナミもそうだけど。

 他の皆も、それぞれが高い技術を――



「あの、皆。そろそろ関心向けてあげましょう?」

「「あ」」

「そう言えば、結局さ?」

「矢って、何処から来たん?」



 気を取られて忘れてた。


 そういえば、攻撃されたんだ。


 今まで、多くの敵と戦ってきて。

 人型の敵…弓矢を使ってくるような敵モブ(エネミー)なんて居なかったし、味方側の誤射もあり得ない状況。


 そう考えるのであれば。


 これは、よもや。



「――ほら、おいでなすったぞ。…PK集団だ!」



 プレイヤーキル。

 私たち、プレイヤー同士の戦いだね。


 ゲームに認められた正当な権利…ではあるけど。


 今まで見たことは無い。


 やはり、良心の呵責(かしゃく)だろう。 


 それを進んで行うってことは即ち。

 魔物と戦うだけでは満足できないような、血の気の多いプレイヤーたちという事。対して、狙われているこちらの仲間たちはと言えば…。



「陣形は今まで通りだ」

「前衛宜しくぅッ」

「後衛のやる事も、ちゃんと考えてね? 火力だけは高……はぁ、またか」


「では、返り討ちにしましょう」

「身の程ってやつを教えてあげないとね」



 ……あぁ、やはり。

 こっちもこっちで、血の気が強いね。


 躊躇いなく武器を構え。

 矢を番える幼馴染三人は予想できていたけど、普段温厚なワタル君まで……あれ? 一人足りないような。



「――がんばえ~。後ろは任せろ」



 ショウタ君は後衛だから。


 木の後ろに隠れたんだね。

 

 嘆息するワタル君と。

 何時もの事だと肩を叩くユウト。

 

 良いパーティーだね。

 色々な意味で。…苦労もありそうだけど。



「おい、ガキだから楽勝っつったじゃねえか」

「……マグレだろ、多分」

「初手で矢弾かれてんだが? 明らかに戦闘センスバカ高い連中だろ」



 辺りを警戒しながら待っていると。

 現れたのは、三人のPL。

  

 ―――しかし、その瞬間。



「お兄さんたち? 短剣の錆が良い?」

「あと、長剣と」

「大剣も」

「後は、冷たい矢の選択肢もありますよ?」


「「…………ははッ」」



 剣が走り、(やじり)が飛散し。

 身体を掠める。

 敵も慌てて飛び退るけど。


 私も、思わず後退りしそうな圧だ。


 本当に、彼らは強いんだね。

 とても格好良いじゃないか。


 相対する三者は背後を確認。

 逃走経路を見ていて。

 如何にも焦っていると言った()()の声色で話し始める。


 ……これは?



「――おい、どうすんよ」

「確かに、ヤバい?」

「だからこそ、報酬(ドロップ)の方も期待できそうだが…俺達だけじゃ難しそうっすな。――どうすか? リーダー」


「――問題ないさ。もう、こっちのもんだ」


「「ッ!?」」

「……やられたな、コレは」



 仲間の呼び声(おおごえ)に呼応して。

 その良く通る声は。

 全く別の所から響いてきた。



「ひょぇぇぇえ!? “断幕炎(だんまくえん)”!!」



 そして、次の瞬間。

 一帯に轟く大音響。

 それは、何らかの魔法による爆発で。



「「まさかッ」」

「この情けない声はッ!」



 敵に回り込まれた?


 いや、これは。

 元々、二手に分かれていたんだ。

 

 あっちも、かなり手慣れてる。

 今まで何度もPKをやってきたんだろうね。


 聞こえてきたのは、私たちの後方。

 叫び声と共に。

 自身の放った魔法の余波で吹き飛んできたショウタ君は、丁度私の足元に。


 ……自分の魔法で?


 凄いユニークな発想だね。



「明らかに使い方を間違えている気がするけど、大丈夫かい? ショウタ君」

「ゼェ、ゼェ……うす」



 とにかく、彼を助け起こし。 

 非戦闘員な私たちは。

 内側に退却――しようとしたんだけど。




「縛れ“緊箍児(きんこじ)”」


「……むッ、危ない」 

「――ちょ! ルミさん!?」 




 後ろから回り込んできた敵の一人が。

 遠距離から、何かを投擲し。


 ショウタ君の前に出た私は。

 避ける間もなく、それをぶつけられる。


 しかし、ダメージは無く。

 まるで、何らかの力に絡め捕られたように…絡め捕られてるね、コレ。



「これは、捕縄術?」

「「………えー」」

「「ルミさんッ!」」



 瞬く間に縛られてしまったね。

 技で言えば【盗人】とか。

 或いは、名前的に【僧侶】の職業だろうけど。


 そういうスキルがあるのかな?


 時代劇宜しく。

 あーれー……なんて言う暇もなく。

 大人しく、引き摺られてしまう私。


 そして、見事に捕まって。

 総勢六人のPLさん達の弾除けとなった。



「動くな、てめぇらッ! この美人さんがどうなっても良いのか?」

「……これ、なんか良いな」

「「おい」」

「馬鹿やってねぇで、牽制しろ」



 ―――人質に取られちゃった。


 何をするのかな。

 アイテムを巻き上げるつもりとか?


 新たな扉を開きそうな子がいるけど。

 女性を、余り乱暴に扱うモノじゃないよ?


 私はよく有る事だし。

 別に構わないけど。

 みんなが皆、縛られてばかりの人生を送り慣れている訳じゃないんだからね。


 

「――おいッ! あれ、ヤバいだろ!」

「うん。早く助け――ねぇ、皆?」



 あぁ、やっぱり二人は良い子達だね。

 ショウタ君とワタル君。

 彼等は、必死に私の事を助けようとしてくれて。


 それなのに。


 対して、悪い子達は。



「なぁ、エナ。あれ、どう思う?」

「……ええ…と」

「ルミねぇ、ダイジョブ?」



 大丈夫に見えるかい? ナナミ。

 お姉さんが悪い盗賊さん達に捕まってるんだよ?



 そんなの……。



 大丈夫に、決まっているじゃないか。

 


「じゃあ、盗賊君? 交渉の時間なのかい?」

「そりゃあ、お仲間次第だろ」



 捕まっている私が訪ねてみると。

 彼は、手慣れたように答える。


 リーダーさんかな。

 

 最も自信があって、空間を把握できている。



 それはさて置いて、やはり交渉。

 ユウトたちを脅して。

 ここで得たアイテムを捲き上げたいらしい。


 もし、それが無理でも。

 キルして手に入れようって魂胆なんだろうね。


 プレイヤーがやられた際。


 ドロップするアイテムは一つ。


 それも、武具や武器以外の手持ちからランダムだ。


 だから、出来るだけ戦果が欲しいなら。

 交渉して、レートを釣り上げる。

 

 ギルド故に怖い。

 

 デスペナルティとの天秤に掛ける訳だ。




 ―――でも。



 今回は、その判断が仇だね。




「――ねぇ、みんな。首尾はどうかな?」

「「問題なしッ!」」


 

 それは重畳。

 ゲームの中でも、幼馴染(わるいこたち)の信頼は著しくて。

 とても、嬉しくなってくるね。


 盗賊くんの「喋るな」という声も。


 今は、虚しく響く。


 まだ、人質は必要だから。

 私をキルすることは出来ないよね?


 残る心配事としては。

 事後処理でヘマしなければいいんだけど…ね。


 私は、無職で。

 最弱のプレイヤーだし。



「ねぇ、盗賊くん。良い提案……というより、教えたい事があるんだ」

「……何だ? 言って――」



 こんな風に。


 注意を逸らしてしまっては。



「奇術師の思うつぼということさ。…では、諸君。“縛鎖透過(おさきにしつれい)”」

「「はッ!?」」



 縄をすり抜け、すぐさま屈み。


 その瞬間には。 

 既に着弾している矢。

 クリティカルヒットの一撃は余りに重く。


 一人が倒れ…砕け。


 一瞬だけ思考が抜け落ちる彼等。


 そこに飛び込んで行くユウトとナナミ。

 二人の見るも鮮やかな剣捌きによって、正気に返る暇もなく、残る者たちも倒れ……数秒のうちに、立て続けに消えていく。


 人がキルされると。


 魔物と同じように。

 ガラスみたく砕けるんだね。



「――やっぱ。ルミねぇを縛っておける縄なんて無いよな」

「さっすがぁッ!」

「ゲームでも変わりませんね」



 無職をおだてるものでは無いよ?

 照れちゃうじゃないか。


 調子に乗らせたら。


 本当に働かなくなってしまうし。



「今のは、あくまでスキルだけどね? 本当に、手品じゃなくて魔法なんだよ」

「……二次職の戦闘応用」

「【道化師】ってのも出来るんだな」



 ゲームで関節を外すなんて。

 そんなの、難しいからね。


 現実のようには。

 上手く行かないもんさ。


 完全に敵を制圧し、辺りを確認。

 一息ついたところで、消化不良のワタル君とショウタ君が口を開く。



「ルミさんのスキル。みんな知ってたの?」

「俺たちにも教えててくれれば――」


「「いや、知らなかった(です)」」


「……おかしくね?」

「どうして、大丈夫だって分かったの?」



 では、何故と?


 当然のことだし。


 疑問をぶつける男子二人。

 やがて、ナナミが散々勿体ぶった末に。


 ようやく口を開く。


 

「――実はね? ルミねぇは手品の天才なんだよッ!」

「……あぁ、うん。それでね?」

「納得できるかッ!!」



 ……うん。だよね?

 同じ立場でもそうなる。


 でも、言うより。


 やった方が早いし。


 ちょっと、時間を借りようかな。

 丁度、一回戻ろうかとも思っていたし。



「じゃあ、この際だから【道化師】の解説をしようか」

「「おぉッ!」」

「――見せるような、華やかな物じゃないけどね?」

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