第11幕:波乱の幕開け
現実では一週間たった。
となると、ゲーム内だと二週間……本当にあっという間だったよ。
季節も二月に突入してるし、私の体重も一キロ減ってるしで……。
「増えるんじゃねえのかよ」
「そこは増えてなきゃおかしい所でしょ。寝正月してたのにどうして逆に痩せてんのよさ」
「美味しいもの沢山食べて、ゲーム三昧で、リアル充実させて。そんな悪い大人が更に綺麗になってくのはズルいです」
「ふふ。毎日のストレッチは欠かしたことがない私さ」
「―――ルミさんはもう少し脂肪を乗せてもいいかもしれないがな」
「そう?」
「あぁ。その方が私の好みだ」
「「このっ!!」」
「落ち、着けッ!」
好みの問題だったか。
ユウト団長も大変だね、自分も殴りかかりたいって顔してるのにさ。
折角の同盟関係に罅はいれたくないんだろうね、わかるよ。
「もう良いかしら」
「あ、うん。満足したよ」
「してない!」
「してません!」
「は な せ!」
「収拾ッ、付かなくなるだろうが……! アミエーラさん、こっちに構わず続けてくれ」
「そ……。いい加減私もあなたがいい加減な存在だって理解出来てきたのだわ、ルミエールさん」
「照れるね」
「勿論褒めてないのだわ」
相変わらず冴えてるね、彼女も。
……円卓に座るアミエーラさんの背後には、最上位ギルド【妖精賛美】の主要メンバーが待機している。
彼女自身の傍らには、勿論PL最強の弓術師との呼び声も高いティリネルさんの姿もあり。
「騎士王殿……これは、件の大会以来ですね」
「―――へんっ、戦う前に逃げ出しておいてよく言うねー」
「そうだそうだァ」
「悔しかったら私達のギルドに入ってくださーい」
「文脈おかしくないか? 其方ら」
円卓ズからのヤジも飛ぶ。
いかにもな騎士団って服装でばっちり決めてる筈なのに、このレイド君達を思わせるような三下感。
あ、勿論彼等が三下って話じゃないんだけどさ。
まあ、これに関しては自業自得なのかな。
第一回統一大会のおり、本選の戦いでムーン君と当たった彼は出場を辞退……不戦敗のままベスト16に名を連ねたんだ。
騎士王と妖精公子のカード……両者をよく知る事になった今なら、私も見たいと思うよ。
しかし、今は大事な会議中でね。
再試合という空気でもないだろう。
「勧誘と腕試しは次の機会に回すとしてだ。さて……良いんだな? 妖精姫」
「……えぇ、騎士王さま。私達も、あなたたちと組めることがどれだけの利なのは、幸運なのかっていうのはよく分かっているのだわ。この一週間で、少なくとも私は良いチームだなっていうのが理解できたし」
団長同士顔を合わせた後、彼女は背後の団員たちへと振り返って。
「きっとみんなともうまく親和できると思うのだけれど、私に付いて来てくれるかしら?」
「「無論!!」」
「ふふッ。……姉さん、返事!」
「は~~い! ところで私団員じゃな―――」
……三チーム。
その共通点として、団員同士の仲が非常に良い事、かな。
「うん、うん……良い感じで纏まりそうだね。最高の形だよ! 他所の状況も含めて……ね! ユウトクン!」
「一々振るな。陽キャか。確かに状況はすこぶる良いが……鎮まれ、鎮まれ」
「「ガルルルルル……」」
本格的に攻略に向けた会議が始まる。
同盟の仮締結期間でもあったこの一週間で、状況的に変化している事は多く。
まず、先に皆が未知領域の秘匿されたエリアを駆けずり回って集めていた精霊石……アニマ・ラピス。
嘘か真か、風の噂でその総数が12つであるとされていたんだけれど……。
「じゃあ、円卓会議における司会進行はボク青騎士が務めるよ。まずは他二つの勢力の状況を見ておこうか」
その、精霊石の事も含めた勢力図について。
一つ目の巨大勢力。
つい三日前にO&Tが発行した新聞における名称として【三界連合】
多数の最上位、上位ギルドからなる巨大連合だ。
盟主はギルド【亡者の千年王国】から魔王チズル。
副盟主に海魔ガタノトアと南蛮銃ザ・ビーン。
この勢力は運が悪い事に、ここ一、二週間で増えている魔族領域からの襲撃者の影響を大きく受けて、主要な戦力が大打撃を受けたっていう可哀想な所。
しかし、盟主の名の通り、何となんとでビックスリーの一角である彼女たち死霊のギルドが参戦を表明したことで、文字通り地獄から舞い戻ってきた。
三界っていうのは、海も地も天も網羅する多様性の塊っていう素晴らしい理念から来てるらしい。
あと、サブクエスト的な理念として「魚人と死霊も亜人に入れろ」と「青騎士は見つけ次第〇せ」があるらしい。
で、二つ目の巨大勢力。
当初から名前は変わらず、O&Tが広く浸透させた名称として【百獣の一派】
盟主は言わずと知れた竜人ロランド。
副盟主に獣軍レーネと奏者リカルド。
トップとナンバー2に当たる役職どちらにも古龍戦団の二人が出てきている事からも、この勢力は実質的に彼等が握っている。
三界連合に比べたら、おおよその連携力も強そうって話。
それがなくても、名前の通り亜人系のPLが多く在籍していて、その分肉体的な能力、戦闘技能は折り紙付きって話だ。
で、重要な事。
双方ともに、握っている精霊石の数はおよそ6~8程。
これは、情報が錯綜している中でもある程度信頼できる情報だと思われる。
というのも、つい数日前に二つの勢力が衝突し、大規模な戦闘に発展……互いが所持していた精霊石を取り合う中で秘匿エリアの情報も取り合ったらしく。
どちらも、陣営に所属しているギルドの数は多い。
どうしてもブラフじゃなく、想定外として外部に流出してしまうのは避けられず、彼等の握っている拠点のデータもが拡散されてしまい……と。
およそ、互いに握っている情報は多くが同じ。
「実際、斥候が視てきた限りでは間違いなく秘匿エリアだったらしいからね。僕達が先んじて見つけてたところも幾つか奪われちゃってるのはまぁ、情報代だったって事で……」
「このまま食い合ってくれればと思うたが、その旨味たる精霊石の場所も、殆ど握っているものが同じとあらば誘発は難しいであろうな」
―――で、三つ目の勢力。
当初から未知領域入りしている筈の円卓が動かなかったのはどの勢力からも警戒されていたけど、そこに最上位ギルドである妖精賛美や大迷宮攻略のトップランカーである一刃の風も加わったことで決定的に第三勢力として認知されるに至ったここ。
私達の三ギルド混成【妖精のお姫様が騎士に恋しちゃったのは風の所為だよ大作戦】が集めた石の数が―――。
「ちょーーーーぉぉおっと待つのだわっ!!」
「んう?」
「―――おい、ルミねぇ。誰だこのふざけ……前衛的な名前つけたのは」
「私とルミちゃんでーす」
「「却 下 ! !」」
そんなー。
………。
じゃあ、代案は?
無いならこの名前で確定させ―――え? あるの?
しかも届けて出るの!?
―――えー、と。
じゃあ、名称変更しまして、我らが三ギルドからなるレイド【風精円卓連盟】(新聞社届け出済み)……。
盟主は騎士王ムーン。
副盟主に妖精姫アミエーラと生還者ユウト。
声を掛けてすぐに集められる所属メンバーこそ100に届くかといった数だけど、質という面、何より情報漏洩という点では心配は少ないのが特徴な勢力。
現在所持している精霊石は6つ。
そして、このうちの3つは現在も他勢力が見つけられていない場所のモノ。
大元となる精霊岩には元々の欠けもなく、斥候さん達が警戒している現在とあっても未だ他勢力が見つけに来たという事もなく、情報的に結構なアドバンテージ。
そういうわけだから、現状としては非常に良好、という事。
その状態で、こうして三ギルドからなる同盟を正式に締結できたのだから、実際とても良い状況なんだろう。
「……で、さっきの名前申請済みだって話さ」
「蒸し返すのそこかよ。本当だよ、ホラ吹いてねえから」
「嘘だと思うんなら新聞見てみれば良いと思います。もう発刊されてるんじゃ―――」
「持ってきたでござるよっ!」
閉ざされた会議室の扉を開け放ち現れたのは、黒い忍者みたいな装束を纏った男の子。
けど、顔は隠れてないし得物は背中に装備した大槍だし、本当にガワだけで。
彼はリラさんっていう、彼等円卓の中でもムーン君と青騎士くんの次に白兵に強い……俗にいう三番手のポジションらしいね。
二つ名は韋駄天……PLとしての評価はS。
荒々しい槍捌き、強力な連続攻撃はまるで一度に十の槍撃が繰り出されているかのよう……っていうのが私の見た彼の評価。
―――新聞を片手に握りしめるようにしてお城の円卓の間へと入ってきた彼は、迷うことなくそれを主であるムーン君へと。
……あ、一刊だけなのね。
「助かる、リラ」
「うむ! 一等の権利は常に王にあるでござるヨ」
「―――……。ん……。ルミさん」
「はいはい、次私ね。……」
……。
………ふむ。
「はい、次のかた―――」
「「はえーーよ!!」」
「だから読むのはええよ! そういう競技じゃねえからこれ! ていうか要点かいつまんで説明してくれたって良いだろ! 全員分ねえんだよ!」
「数秒ずつ回し読めばいいだろう。なあ、ルミさん」
「だよね」
「この……ッ、化け物共……」
「ね、ユウトクン。あれも出来るの?」
「マジかよ生還者」
「ウチ来るか」
「妖精から耳寄りな情報。実はこちらも団員募集中」
「まぁ、入れてあげても良いのだわ」
「勘弁してくれ」
罪だね、もてる人間っていうのは。
「自然、団長不在でギルドは解散だね。じゃあワタル君も欲しいな、けど斥候としてはナナミンちゃんも捨てがたいんだよね」
「悩むのだわ。第二順でエナリアにするか超火力のショウもありね」
「勝手に大ギルド間でドラフトされてる!?」
「嬉しいけど人身売買会場だ!」
「……。で、実際どうなんだ王様。当然本格参戦する俺たちの事は一面で紹介されてんだよな? な?」
と、皆の注目が別の事に集まる中で頼れる益荒男ゴードンさんが。
やっぱり自分たちが新聞に載るっていうのはうれしい事だもんね。
一面に載ったときなんか、それはもう素晴らしいだろう。
トワなんかはスクラップブックを作ったってよくPDFで送ってくれたっけ……全30冊分くらい。
で、記事の内容?
「あ、うん。ゴメンね」
「「?」」
「―――え、もしかして表紙じゃないの!? 僕達の同盟が締結したっていうのに! それじゃ宣伝効果が……」
「まさか、他勢力で何か異変でも? 同盟など組まれても厄介ですが」
「いや、どちらかと言えば戦争であろう、あの二つならば。手を組むにしても、我らの情報は今回が初出。共通の敵もなく、いがみ合っている巨大勢力のあれらが今この瞬間合一化など、そもそもあり得ぬ」
ロッカさんも老師さんも良い予測だね。
実際、二人のソレはどちらも的を射ている。
「確かに異変であり、戦争でもあるだろうな」
「だね。一言で纏めると……王国が未知領域の領有権を主張して、帝国に宣戦布告した」
「「―――――」」
「「は!?」」
……だよね。
「―――って、おい!? それどういう―――まるで意味が分からんぞ!? 新聞今どこの辺に……」
「王国って―――あの王国だよね? 人界三国の!」
「どういうことじゃ! そんな脈絡も……小僧、はよ!」
「待って、待ってよ老師。僕だって……あ」
「子供が新聞に興味をもつ必要はありませんよ、副団長」
「ちょっとロッカ! まだ読み始めた所! 見せて見せて!」
最終的には全員で周り込んでのめり込む形に。
円卓なんて言って、ホールじゃなくてピース……扇形じゃないかこれじゃあ。
「あの……もう一刊あるでござるが……」
「あぁ、リラさん。それはこっちにくれ。俺たちが読む。てか最初からくれ」
「んむ……! ユウト殿! であれば是非わてはあの時の雪辱を晴らしたく!」
「はいはい、くれたら考える……サンキュ」
「ナイスだよユウト」
「流石リーダー!」
あっちもうまくやる。
いたいけな武人からうまく黙くらかして奪い取ってるね。
精霊石の取り合いがいつの間にか新聞という情報の取り合いになって……然るべき場所に行けば幾らでも手に入るものをなのに、それすら取り合うっていうのが、自然界の持つ無慈悲さっていうものを表しているみたいだ。
「ところで妖精さんたちは?」
「私達はムーン様とルミエールさんから要約したのを聞くから良いのだわ」
「ですねーー」
「そういうわけなので、どうぞ」
「「はよです」」
「ふっ……。既にこの連盟の空気に溶け込んでいるな、君たちも」
ムーン君笑ってるけど、皆は私らの事を便利なアイテムか何かと勘違いしている節があるね。
そもそもこの同盟で私とルイちゃんの立ち位置って……。
「まぁ、簡単な話だよ。文章的にはともかくとして、要約すれば本当に宣戦を布告したっていうだけなんだから」
「だからそれが意味が分からないって言ってるの。どういう名分なのかしら? そのくらいあるんでしょう?」
言葉で言うと意味わからないね、自分でも。
「名分、というのならば。王国の主張として、そもそも未知領域に所有者は居ないというのが第一」
全ての道は何とやら。
入口は確かに帝国の要塞都市にあるけど、だからと言って帝国が全ての領有権をっていうのは確かに無理がある。
流石に埋蔵資源とかじゃないし。
けど、それは当然王国や皇国のモノっていうコトにならなく。
速い話が、「平等」に分けようよ……先住民さん達の意見を無視した、昔ながらの方法さ。
「交渉するっていうならそれもありなのに、もう既に動き出してるっていうのもね。王国は、全ての都市政府の上に中央政府が立ってる形らしくて、全ての軍の指揮権は王と月の御子にあるっていうんだ。両者が共に声明を出したのなら、それは完全な決定であり軍事行動……」
何処まで事が進んでるのかっていうと、もう全てが動いてるって。
「動員される兵力の中にはアンティクアの月光騎士団もリートゥスの鋼殻騎士団もある」
「まさか!?」
「……剣聖の翁に海洋伯もが動員される、という事ですか……!?」
「少なくとも、新聞の上ではそうなっている。というより―――」
およそ、王国所属の12聖が揃って出てくる。
更にはPLでも一筋縄ではいかない大勢力たる上弦騎士、その他の最強格たる軍が動き、既に進軍に向けた準備を開始……未知領域に続くゲートの存在する帝国要塞都市を目指す……と。
……おかしいな。
海洋伯はちょっとした面識程度だけど、プシュケ様はそんなおかしな命令にハイハイ従う人じゃない。
そもそも、いまの未知領域の戦いですらこの後の激戦は必至。
ここにNPCの率いる国軍もが参戦し始めたら目も当てられない。
勿論、その代わりに地上……人間の領域で戦争が起こるっていうのも、正直な話絶対に起きてほしくはないわけで……。
第何勢力まで現れるの? そうなったら。
―――これは、かなり途轍もない話になってきたみたいだね。




