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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第十章:パレート編

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第9幕:それぞれの主従




「あ―――あた……当たらない!!? そんな……すり抜けッ!?」

「チーター、なのか!?」

「当たってないだけ。言いがかりよ」

「「―――――」」



 ガラス質が落ちて砕けるかのように、解けて消える人型。  

 送り火のように消えていくそれらを見送っていた彼女は、両手にそれぞれ握っていた剣を同時に腰の鞘へとしまい。

 私も、剣に収束させていた黒焔を解除する。



「ふぅ。……―――メアさん」

「えぇ。ここでもないかもね。残念」



 近くの敵性反応は完全に消失。

 全てのPLをキルできたであろうことを確認し、周囲を見渡す。


 果たして、これで幾つの拠点を破壊しただろう。 

 森林の中だったり、洞穴内部だったり、地下だったり、或いは遺跡だったり。

 本当に人間ってどこでも住処にしちゃうんだ。

 


「さ、この後はどうするの? チキチキ破壊活動ツアー続行? 私はまだまだ時間あるわよ」

「私もまだ大丈夫ですけど……むしろ、メアさんがログインしてない時を視た事ないです」

「隠居後の楽しみだもの」

「無職の間違いでは?」

「ふっふーん。もう一生困らないくらい稼いだのよ。本当よ?」

「うっわぁ……」



 一度で良いから言ってみたいな、そんな台詞。

 進学に就職活動……折角進学校で勉強を学んでいるんだから、いい大学を出ないとっていうのも当然だし。

 諸々、こっちはまだまだこれからなのに……どうしよ、この世捨て人ゲーマー。

 多分本当なんだろうなぁ、だってメアさんだし。



 ……。

 私達がこの新たなる世界―――未知領域へやってきたのは、上司であるジュデッカさまの指令に起因するけど。

 じゃあ、どうしてPL狩りなんて非道な真似をしているのか。


 それは、今現在人界側のPL達が目標としている事に由来して。



「光の神の復活を絶対に阻止する……ノクスの排除にも優先する最重要任務……、ね。正直、気乗りしないんじゃないかしら? クオンは。積極的にプレイヤーキルしなきゃいけないんだし」

「……仕事ですし」

「いつの時代も上からの命令って逆らい難いものなのねぇ」

「あはは……」



 どのみち、私がやらなくても他の誰かがやるだろうしね。

 

 何せ、未知領域入りしている魔族側のPLの数はどんどん増えている。

 これも、上からの命令によるもの。

 私達以外にも続々と命令が下ってる。

 それもあってか、あちら側の人たちの「私達」に対する意見に食い違いが生じてるみたいで。

 


「認識の齟齬。その辺は好都合ですけどね」 

「えぇ、良い陽動だわ。他の子たちが掻き乱している間に私達二人が確実に潰せるんだもの」



 そう。

 先のPLさん……ティリネルさんが言っていたように、あちら側の人たちは襲撃者である私達の事を測りかねていた。

 大人数であったり、少数であったり、或いはたった一人であったり。

 それは全てが正解でもあり。

 事実として、私達は総数において圧倒的に勝っている筈のあちら側へ大打撃を与えることに成功している。


 時には、私にとっての予想外もあったけど。



「まさか皆までいるなんて……」



 見間違いじゃない。

 あれは、間違いなく―――というか運転したことあるし、あの馬車。

 世界跳躍できるとんでもアイテムだし。

 逃がしたら追えないよ、あんなの。



「偶然、なのかなぁ。それともルミエールさんの陰謀?」



 あり得る。

 ルミ先生なら本当に何があっても不思議じゃないよ。

 それこそ……。



「……。ルミエール。光……ね。知り合い? もしかして、さっき取り逃がした人たちの誰かなのかしら」

「あ」




 ゆっくり側方を向けば、綺麗な真紅の瞳と―――ギラギラと煌めくソレが私を覗いている。


 そうだ。

 メアさんが超人なの忘れてた。

 本当に小さく呟いてた筈なのに、どうして聞こえてるの?

 それとも口元見て分かっちゃうものなの?

 そんな人前にも見たな。


 世界って広いね。

 ……ここまで聞かれちゃったら誤魔化すのもちょっとなぁ。



「フレンド、っていうか……まぁ、色々あるんです」

「へぇ……。ね、クオン。私はあなたの騎士なのよ? 強固な信頼関係の構築のためには、言える事は出来る限りいうべきだと思うのだけれど」

「あはははっ」



 言えるわけないじゃん。 

 多分メアさんが興味を持っちゃう感じの人だし。

 個としてなら間違いなくメアさんだけど、集団戦となったら……どうなるかは私にだって全くわからないし……、それより何より、どっちが勝っても、というか生死を賭けて戦うだけでも私自身複雑な気分になる。


 あと……えっと。

 もしかしたら……。



「なぁに? もしかして私が興味を持っちゃうのが怖いとか考えてるの? 私が、あなたを置いて行っちゃうって。乗り換えるかも、って」

「……………」

「それこそまさかよ。こう見えて一途なのよ?」

「と、ともかく! これで結構あっち側の勢力は潰しましたけど……―――際限ないですね、コレ」

「そうねぇ。話逸らすわねぇ」



 正直ドキッとした。 

 ……皆が好きな、取り繕った(だれか)じゃなく、奥の……ありのままの私を見てくれる。

 メアさんは、私を見てくれる、気付いてくれる。


 けど、だからこそ、私は彼女が仕えるに足る団長になりたい。

 甘えてばかりはいられない。



「ふぅーー。……メアさん」

「えぇ。主さま。伺うわ」

 


 私が切り替えたのを察してくれたんだろう。

 彼女は畏まったように腰を折って。

 ―――大精霊の捜索。

 詰まる所私達がその存在を捜索しているのって、向こうに見つかってナニカサレルより早く始末するって事だから。


 人界側のPLは天上の神の復活の為に。

 ノクスは地底の神の復活の為に。

 そして私達は、その双方を阻止するために……。



「全員が全員、異なる最終目的のために同じものを探してるっていうのが現状なんだ。当然、私達は彼等よりも早く見つける……或いは、奪取する必要がある」



 人数に劣る私達。

 だけど、決定的に有利な点は存在して。



「多分、彼等は把握してないのよね?」

「です、ね。これも、私達異訪者の性質による違い……なのかもです。私と彼等とでは……」



 決定的な違い。

 それは、即ち。



「「視えているものが違う」」



 ……私達魔族側と、彼等人界側。

 その違い。

 決定的な差異だ。



「―――じゃあ、それを踏まえてどうするの? 私は全て任せるけれど。その、お友達。割り切れないっていうのなら、次会ったら協力を打診してみるのもありじゃない? どのみち目的が違うから見つける時まで、だけれど」

「……」



 ………。

 いや。

 今の私には、その資格はない。



「ううん、止めておく。行こう。大精霊の巣を、探す。光の神の復活を阻止する。それがミッションなら、ただ遂行するだけだよ、メアさん。敵とのなれ合いなんてなし。仮に、もし次あの人たちと会うようなら―――仕留める」

「了解よ。仰せのままに……我が主さま」



 油断ならないって分かってるからこそ―――倒していくよ、ルミエールさん。




   ◇




「むふっ……むふふふふふふふふふふっっ。むふぅーー!」



 ………。



「なぁ……あれ上司だろ? どうにかしろよ」

「どうにかって……どうするよ」

「連勤のし過ぎで頭おかしくなっちゃったのかしら、主任」

「聞こえてるぞ」



 都内某所―――立ち並ぶオフィス街の中でも、一際異彩を放つ空間。

 事務員が在庫管理をするでも、営業が日報整理をするでも、電話対応をするでもなく。

 離れた専用の区画では世界一個をそのまま内に秘めた巨大サーバーが駆体を冷却する暇もなく稼働を続け、その稼働時間ごとに途方もない金額が動いている。

 オルトゥスレベルの世界を維持するとなると、億万長者の道楽みたいな金額が消える―――まさに金食い虫の見本だ、あれは。



「―――まむっ……。はぁ……」

「笑ってたと思ったら今度は溜息を……」

「飯食いながらため息つかないでくださいよ、主任。ビニ弁がマズくなる」

「というかまた小さくなってない? このお弁当」

 


 何日連続かもわからない幕の内弁当を食べる、この虚しさはお前等も分かるだろう。

 ここは〇の内だけどな。



「丸が仕事してませんよ、ボス。一昔前のピー音みたいです」

「うるさい、解説に口を挟むな」

「誰向けの解説ですか」



 私の脳はデリケートなんだ。

 こうやって認識と認知の時間を分けて稼働させないといけないんだ。

 飯時だって仕事の事を考えてるんだから、サーバー同様稼働しすぎなんだよ。



「さ、その辺にしておきましょ。ぼちぼちお昼も終わりなうえ、同じ金食い虫でもサーバーは替えはきくけど、主任は替えがないんだし」

「「……………」」

「ところで、どうして溜息ツイてたの? ついでに笑ってたの? トワさん」

「……手料理が食べたい。幼馴染の。激突してた。幼馴染が」

「全部同じじゃないですか」

「頭ん中オサナナジミか」



 世界に名だたる大財閥白峰グループの一部門ハクホウワークス……私の一族が任されている管轄だが。

 その更に一部の一部……電子遊戯課は、ここ二十年程で発達したフルダイブ型のVRゲーム事業をメインに業務を展開している。

 中でも私が主任を務める管理隊は、途轍もないエリートチーム。


 それは間違いじゃない。

 一般に言う少数精鋭―――どちらの意味でも通用する化け物たちが、私のチーム。

 ついでに言えば絶賛30連勤中。

 詰まる話、ルミの家に行ったあの日以来ずっと連勤してるわけだが。

 何なら家にも数回しか帰ってない訳だが。

 


「……はぁ」


「また溜息―――っと。噂をすれば、また申請が来ましたよ」

「ん……それも送れ」



 ズルズルズビズバー……空の弁当箱をガサガサ捨て、手を伸ばしたカップ(トムヤムクン)を啜りながら専用の巨大コンソールに転送されてきたPLからの申請……もとい、苦情を確認。

 インスタントを啜るたびに、この間の燕皮麺の濃厚な味が忘れられない私が確認しても……時間の無駄だったな。



「チーター……ねぇ」

「気持ちはわからんでもないけどなぁ。不可能って点に目をつぶれば」



 バックドア、というべきか。

 確かに選りすぐりのクラッカーが上手いことやれば、この世界のシステムへの微々たる介入は出来るだろう。

 あくまで微々たるもの、だ。

 


「私達のセキュリティの主導権を奪って好き放題出来る奴が居るなら呼んで来い。今すぐにでも最高待遇で雇ってやる。世界の神にだってしてやってもいい」

「最高待遇と書いてブラックと読むー」

「給料高くないとやってらんないわ、こんな○○企業」



 チーターというのなら、瞬間移動でもしてみろ。

 すり抜けバグを多用しろ。

 何処に目が付いてるんだってくらい全方位に視点を持たせろ。

 不可能を可能してクエストを破綻させろ。

 それくらいやって初めてチートだ。

 ちょっと自分が絶対に敵わないと分からされたくらいで管理者に泣きつきやがって―――今更だが道化師のスキル設定ミスったか?

 

 ともかく、ここ暫く送られてくる運営へのお気持ちメールは、その8割がたが特定のPLに対するものだったりする。

 所謂、チート疑惑……はやく対策してBANしろって事だ。


 はははっ……。



「ったく……少しは加減しろって……。相手は人間(パンピー)だぞ。いや、加減してアレなのか」

「人間って書いて一般人って何すか? ……あれも主任のお友達なんですってね。リアフレ」

「やっぱ類は友呼ぶんだな。リアフレ気が触れ」



 誰が気が触れだ。

 気が触れてるのは私以外の二人だけだ。



「まぁ、確かにゲーム始めて一か月足らずでレベル80になった化け物は気が触れてるかもしれんが。ついでに化け物。よっぽど強制ログアウトした方が良いんじゃないかって思ってましたけどね、俺は」

「けど……異常ないのがねぇ」



 そうだ。

 管理者、運営側がプレイヤーを強制的に世界から引き剥がすのは一定の指標が存在する。

 そのどれにも抵触していないのなら、そもそも出来ない。

 暴飲暴食大酒飲みヘビースモーカーであっても、身体がすこぶる健康な意味の分からない手合いに医者が何も言えないのと同じだ。


 身体機能が全くの正常値であるのなら、どれだけログアウトせずにニートでゲーム三昧であろうと、何かを言う事は出来ない。

  

 上位職の強化値により、限界を超えられぬモノと、超えられるものが現れている状況。

 むしろ、そういう手合いこそ、私は求めていた。

 そんな化け物こそ、居て欲しいと。

 世界の何処かにいるだろうかと、上位者の視点で視ていたのだから。



「是非もない。今回のイベントで、世界は塗り替わる。夜は、明けるんだからなっ」



 長い夜が終わり、光がのぼる。

 世界は動き出し、最早止まらない。

 やがて、焔は消えるだろう。


 グズグズしていると置いて行かれるぞ、凡愚共。

 元より、これは私が求めていた結果なんだ。



「世界は新たなステージに行く。人類は新たな領域へ到れる。今ある全てが箱庭のテスト。私達人間が先へ到る為の、実験でしかないのだからな。はっっはっはっ」


 

 ふるい落とし上等、落ちこぼれるだけ落ちこぼれておけ。

 そうしてる間にも、人の位階は上がる。

 自覚していなかった者たちが自らの能力を理解し、全力を引き出し、やがて共に生きてくれるものと巡り合うだろう。


 かつての私がそうだったように。

 


「こーれは最終章で主人公に倒されるタイプの神系ラスボス。いやぁ……メインストーリーは一年を目安で畳む……本気で言ってたんすね」

「上層部の意向でもある。私の望みでもな。既に予定が倒れまくってるわけだが」



 そうだ。

 終わる……オルトゥスは、終わるんだ。

 それは最初から決定路線で……昨今のゲームの風潮というべきものもある。



「既に第2部の準備だってしてるだろ。一つの終わりに固執してたら創作なんてできん」



 先の事は、先の事。

 それより、今の私の興味は目先の事にこそあった。

 作為でも、必然でもない。

 

 本当に我々の意図が介入してはいない、あり得ざる邂逅。

 ……気付いたか?

 否、あの二人が目を合わせて互いに気付かなかったわけがない。

 相対した瞬間には、認識し合った筈だ。



「ルミと、サクヤが……あの二人がぶつかるのか……?」



 夢にまで見たというのは誇張じゃない。

 絶対に敵対し合わない筈の主従は、最早ない。

 本来ならあり得ない事が、こうして起きているのだ。


 どれだけ私の夢を叶えてくれれば気が済むんだろうな、この世界は。

 ……さて。



「月島」

「如何しました?」


「星野」

「はい?」


「陽子」

「はいはーい?」


「遊びは終わりだ。私と一緒に過労死(しん)でくれるな?」

「「―――了解」」

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