第4幕:妖精姉妹の関係
「そうだね……、ウィンドフルールズリンゴ風味とか、どう?」
「フルール……花ですかぁ。良いですねー、自然っぽさが全面に出てます。では、次の私のカードは……ミックスまじかるずまじしゃんず……MMMというのは?」
「素晴らしい。素晴らしいよ。前衛的であり、呼びやすくもある。完璧じゃないか。なんて手強い」
「ふふーん」
―――あ、いま?
ルイちゃんと一緒に、彼女を加えた現在のパーティーの名前をどうするかを考えてたんだ。
ほら、やっぱりあると嬉しいだろう?
冒険と言えば、だよね。
皆も気に入ってくれるといいなぁ。
「頼む、誰かあの二人を黙らせろ」
「ははは……」
「助けてください。この世界で最も不名誉な名前のパーティーが出来ちゃいます」
「噛み合ってないのにどうしてネーミングセンスは同じくらいなのよ、あれら」
「差し当たってはどうやって命名を辞めてもらうかを考えんとな。てかなんで一緒に行動する流れだ」
さて、どうしたものか。
「いっその事、候補の中から選んでもらおうか。折角人数いるんだし、奇数だから絶対に決着がつく」
「ふふふ……。お互いに最も自信のある名前でも、勝敗は必ずハッキリするわけですね?」
「そして何で互いに自信満々だ……」
「ここ地獄? もしかして。間違えてあの世への穴に飛び込んでたオチ? 僕ら」
「究極の選択だってここまでどっちも嫌じゃないです」
「下手に認めてみろ、声高々に触れまわるぞ。絶対に首縦に振るなよ?」
「ね、皆。パーティーの名前について色々考えてみたんだけど―――」
「あー、あー、それよりさ!」
「そう! それより、優斗が二人に話があるんだって!」
「―――おい?」
……お?
皆も重要会議でもしていたのかな。
「でもそれって命名より大事な要件なの?」
「ですー?」
「圧……! そりゃ、それに比べたらこの世の大体の事象は優先されるだろうが……あーー、もとい、えーー、ほら、あれだ。今向かってるのがPL達が作った前哨基地だって話はしただろ?」
「うん。地図もらったんだよね?」
「招待状な」
―――そうだ。
実のところ、この冒険の発端になったのは、一通の手紙と地図。
彼等と私のもとへ速達でこの地への招待状が届いたことに起因していて。
「ユウトたちには円卓の盃さんから……、私のほうは匿名さんから……」
別々の場所へ、同時に同じ要件の手紙。
内容は「未知領域へこないか」というもの。
今現在、最前線を行く大ギルドが連合を組織して大規模攻略を行っているという話は新聞で見たけど、それが私達へ……それも、同時に招待という形で来る。
……気にならない筈はなく。
普通に考えれば、どちらもかのサーバー第一位の大ギルドからなんだろうけど、ではなぜ私の方を匿名にする必要があったのかという疑問も残り。
速い話が、興味マシマシアブラカタブラ。
「んま、そろそろ最上位ギルドさん達も俺らの事を無視できなくなってきたってわけやな!」
「自意識過剰……でもないのかな、今なら」
「ねーー」
……けど、そんな大ギルドからの招待に対し、彼等は全然恐縮なんてない。
むしろ凄い自信。
あなたの自信は何処から?
「―――そうだ、最近のランクの変動とかを聞いてなかったね。前は……三桁と二桁台を行ったり来たりって言ってたけど、今ってどうなの?」
「「……………」」
もう結構前の話だけど、彼等がギルドランクで一位になったら私も正式に加入するっていう勝負を提案されたんだよね。
特に期限も定めてなかったし、皆のモチベーションになるのならと……楽しそうだったから乗ったんだ。
このゲームの仕様上、人数が少なくても上位になれる可能性はあるって事は聞いてたけど……。
「聞いて驚くな、ルミねぇ。―――現在36位!」
「「どやー!」」
「わぁ~~」
何と……!
それって、つまり……。
「36って事は……36って事……? 凄い……。ところでちゃんと勉強してるんだよね?」
「してますぅーー!」
「メッチャ頑張ってます」
「その上で、だ。両立ってやつだな。むしろ、学生だからこそ無茶効く面もあるぞ」
「成程」
確かに、成績さえ維持するなら何やってもどれだけ遊んでても生活不規則でも許されちゃうからね。
無職だと世間体が悪いのに学生にはそれがない不条理。
何という理不尽だ。
「道理だよ。この世の摂理だよ」
「あ、声出てた?」
ともあれ、本当に若いってバイタリティが凄いよね。
睡眠時間短く一日活動してたりとか、普通に徹夜してゲームして学校行ったりさ。
「けど、どうやってそんなにギルドポイントを? お主もワル?」
「悪代官さんですか~~」
「そうそう管理者に山吹色の菓子を―――ちげぇよ。ギルドポイントの取得条件的な問題でな。現状実装されてる迷宮深層の到達度とか未発見エリアの探索とかでも稼げるんだが……そっちの方で既に1位だからな、俺らは」
「―――――」
月別大迷宮攻略ランキング―――。
………。
………。
5位、勝節三昧
……。
4位、グリルドチキン
……。
3位、本気狩ステッキ
……。
2位、北部防衛遺跡攻略探検隊
……。
……。
1位……一刃の風
すかさず大迷宮の攻略ランキングを確認―――疑いようもなく、真っ先に名前がある。
本当にこの子達は。
いや、解ってはいた。
理解してはいたんだけど、やはり目の当たりにすると……。
「流石だよ……本当に」
「どややーーん!」
「こんにちは、カリスマです」
「けど、それを言ってくれてれば、私も相応のお祝いとかしたんだけどなぁ」
「いえ、あくまで通過点なんで」
「目指す場所が違うんよ。一位は一位でも、もっと高い所、ね」
「……まあ、そういう事でだ。だから、今回の招待にはそういう理由もあるんじゃないかってな。ある程度知った関係でもあるわけだし……両方で」
「んう?」
「皆さん、凄いんですね~~」
にしても何でも褒めてくれるね、ルイちゃんは。
自己肯定感をあげる天才さんだ。
「……そういえば、ルイさんって何処かのギルドに所属しようとか考えた事ないですか?」
「私ですか~?」
ワタル君の振った通り、確かにだ。
彼女は、どう見てもソロ。
勿論、彼女の周りには常にふわふわほわほわがわちゃわちゃしている訳だから、本当に一人なのかと言われれば疑問の余地があるけど。
どう見ても攻略重視! って風体でもないし。
或いは、ゆったり系で二次職メインで活動している人たちのギルドとかなら可能性あるのかな。
「実は、妹ちゃんのギルドに所属してたんですー」
「「ちゃん」」
「聞いて良いか分からないんすけど、もしかしてリアル姉妹すか?」
「ですよー」
「ほほう……ルイちゃんみたいな子がもう一人いるのか。それは素晴らしいね」
「ヤベェよ、ヤベェよ」
「更に増えたらもう手ぇ付けられんよ」
「妹ちゃんは私と違ってとっても凛々しくて頑張り屋でしっかり者なんですよーー?」
「……プレイスタイル的には? 活動内容とか」
「ギルドですか? 私がいた頃はエンジョイ勢、みたいな感じでしたかねー」
「じゃあ、やっぱりもう脱退してるんだ」
「ですですぅ。ちょっと違うなって思っちゃって、もうだいぶ前の話なんですけどねーー」
口ぶりから察してはいたけど、やはり。
……曰く、彼女が元々所属していたギルドは、現実での友達を含めた四人で立ち上げたもので。
方針としては、今の彼女のスタイルのような感じ。
森林浴とか。
のんびりと、釣りをしたりだとか。
まるでアウトドア系社会人の休日のような、ゆったりとした毎日を楽しんでいたんだとかで。
「けどーー、少ししてから……なんていうか、軌道に乗り始めたっていうんですかねー。色々とうまく行き始めちゃって、知らない人がどんどん増えて、ちょっと大変になっちゃったんですー」
「……何処かで聞いたような話だな」
「元四位ね」
「元歌姫な。……今でもか」
「それで、嫌気がさした、みたいな?」
「平たく言うとですねー」
穏やかなルイちゃんの顔に、少しだけ寂寥感のようなものが差す。
けど、それも一瞬。
彼女自身、そこまで尾を引いている様子はない。
「勿論、今でもこっちで偶にあったりはします。妹ちゃんも、私の為に色々と冒険の事を教えてくれますし、ついでみたいにやる事ないならいつでも戻って来いって誘ってくれたりはしますし……」
「そりゃあ精霊大行進してるような人は味方にいる時の広告塔としちゃネームバリューもヤバそうだしな……」
「―――それだ。どうして今までそういうPLの情報ってなかったんだ? これだけ目立つんなら知っててもおかしくない筈なんだが」
「確かに?」
「わたし、人見知りなので~~。普段はあんまりイベントとかも参加しないですし、森の中でゆったりしてるんですーー」
だからかな。
それこそ、大精霊祭の時みたいな……。
「という事は、もしかしてあの時のルイさんってイベントに参加してたわけじゃなかったんじゃないんですかね?」
「「あ」」
「あの時はどうしてか人が沢山いましたねーー。追いかけられて怖かったですねぇ~~」
―――本当に偶々居合わせただけ……!
イベントがやってるから行ったんじゃなく、行ったところで急にイベントが始まったってコト……?
それは確かに、いきなり大人数に追いかけられる恐怖だ。
「だから、今回この場所へ来たのも、ただ妹ちゃんに誘われたからなんですー」
「精霊が出たって聞いてノコノコ現れたわけだね」
「言い方」
「誘われたって事は、じゃあこの後合流か」
そうなるの?
フレンド登録はしたからいつでもやり取りはできるけど、まだまだ話したりない気分。
一緒に歩いたり、ご飯食べたり、敵と戦ったり?
是非話の合う彼女とそういうイベントを楽しみたかったんだけど……。
「―――ぁ」
「どうかしました? ナナ―――」
「しっ」
斥候役としての役割なのか、ナナミがゆっくりと振り向きざまに人差し指を口元でたてる。
何か、いる?
……。
あ、いる。
深い、倒木の沢山ある森の中……それも倒木かと思ったけど、本当にそっくりな……倒れた大きな木と勘違いするほどの威容がある、茶色でそれ自体も苔むした……肌、毛皮?
それが、僅かに動いていて―――今に、こちらを向いた。
「ブモ……。ブモモモモモモモ!!」
猪っぽいかな、外見。
メガネ、メガネ……。
―――――――――――――――――――――――
【Name】 カリュドン・レジェンド (Lv.85)
【種族】 獣亜綱 大猪種(Boss)
【基礎能力】
体力:4000 筋力:180 魔力:50
防御:100 魔防:60 俊敏:100
―――――――――――――――――――――――
わぁお、レベル高い。
具体的に言うと私の三倍近くある。
あ、私?
いまは32だよ。
皆が世話を焼いてくれたっていうのもあるけど、穀潰しなりにちょっと頑張ってみたんだ。
ほら、流石にレベルシステムがある世界で長らく活動してるのにいつまでも低レベルっていうのも―――。
「わーー」
「秘技、米俵持ちです」
「次私ーー!」
何かをしようとするよりもずっと早く、既にエナに担がれて運ばれている私。
また、これなんだ。
どうやら皆の間で私を取り扱う時はこの持ち方が定着しているご様子。
―――あれ? ルイちゃんは?
「ルイさん!?」
「だいじょーぶ、足止めなら私もお手伝いしますよーー“従木促進・四根縛り”」
「モモモモモ―――ブモッッ!?」
「「おぉ……!」」
あ、凄い。
彼女が流木そのままみたいな両手持ちの杖を振ると、周囲に緑のオーラが。
猪さんの四足を同時に縛るかのように一瞬で出現した木の根が、猪突猛進に突き進んでいた巨体をつんのめらせ、勢いを殺した隙をついて拘束。
その間にも、前衛であるユウトやワタル君が畳みかける。
「やるねぇ、ドルイドのスキルって地と水の複合な木属性なんだっけ? ルイさんの事戦えるほうの不思議ちゃんって呼ぶ?」
「アリですね」
「―――戦えない方がいるのかい?」
「誰だろーねー」
「―――“焔閃・斬鬼零落”」
「“掌撃乱舞・二ノ白打”……いまっ!!」
「―――――決めるぞアトミック、フレイムエンチャント……“焔帝焦土”!!」
相も変わらず素晴らしい連携、凄い威力の魔法攻撃。
ロマン砲って言われるのも納得の炎属性攻撃が、アトミックちゃんの補助でさらに増幅……金色の炎が、【陽属性】の攻撃として全てを薙ぎ払う。
「ォォォォォォォ―――、ォ―――」
最後には、猪さんの断末魔も聞こえなくなり。
煙を上げ、晴れた視界……。
「ブモモッ」
………。
倒木?
けど、何で?
晴れた視界に、今だ立ち続けているもの。
そこにいたのは―――さっきのカリュドーンさん……?
いや、にしてはあまりにピンピンしすぎっていうか、居る場所も若干奥の……。
「わあ。最近の魔獣さんは分身のスキルなんて使えるんだ」
「「?」」
「あら? 倒しきった筈なんだが。経験値も……んお?」
「ブモ……」
「ブモ」
増えた。
また増えた。
むしろ、そこら辺に見えていた倒木全部がガサガサ動き始め。
―――あ、別個体?
でも名前の所にボスモンスターって。
凄く強い敵だったのに、更に二匹も。
まさか複数現れるタイプの―――んう?
……装着していたメガネが、周囲一帯で次々に情報を捉える。
猪が3匹。
猪が6匹。
猪が9匹。
次々、次々……現れていくそれらは、レベルが同じだったり少し高かったり低かったりの個体さはあれど、その全部が同じ名前で。
「―――……へっ?」
「ブモオォォォォォォォォォォォォォ!!」
「「ォォォォ!!」」
「よし―――全力で逃げろ!!!」
「「!」」
ヤバいよヤバいよ。
一匹でも凄く強そうだった猪さんが、それはもう数えきれないほどに視界を埋め尽くし、進撃してくる。
全てがボスモンスター。
まるで毛皮の津波。
「ナナミ、エナ。もうダメだよ。米俵はそこに置いていくんだ。穀物なら多分イノシシさん達も気に入って―――」
「だまる!」
「米俵は喋りません」
「ごめんなさい」
けど、このままじゃ……皆が危険だ。
木の上に逃げたとて、根こそぎなぎ倒されるような勢い。
あわや、もうダメか……と、誰もが思ったかもしれない。
………。
―――その時だった。
「儀仗部隊、かく乱展開!!」
「「イエス、ユアマジェスティ」」
猪大行進を、まるで防波堤のように巨大な―――しかし一瞬に築かれた根の大壁が防ぐ。
一帯に轟く大轟音と、砕けてポリゴンと吹き飛んでいく木片、樹根のあめあられ。
凄いのは一瞬でもアレを足止めできた防壁か、一瞬しか止まらないような進撃か。
「―――男爵」
「仰せのままに。術師隊、放てェ!!」
息をつく暇もなく、次々、つぎつぎと放たれる攻撃の雨。
波状攻撃と言える、相手にスキを全く与えない連撃が森の大地を焼き、薙ぎ。
最も先行していた数匹をまた食い止め、押し返し、押し出されては押し返し。
みるみる弱っていくイノシシ団。
「―――公子、フィナーレ」
そして。
目に見えてイノシシさん達が一か所に集まった頃、これまでにも数見たような極大のレーザー光線が、猪の群れへと放たれる。
宙を舞う、大型動物の巨体……目を焼く閃光。
―――そうか。
今までの攻撃は、単なる足止めとかじゃなく、あの猪の群れを一か所、かつ攻撃の延長線上へ集めるための布石……。
あくまで逃げるためじゃなく、仕留めるための狩人の戦い方だったわけだ。
「―――すげぇ……!」
「これは……手慣れてます」
「んな。まあ、専門家っていうか、流石っていうか……。分野のトップ、最上位掛け持ちともなればこんくらいはするんだろうなぁ。ヤバ」
「単純に全てが高水準だね、あの人たちは」
逃げるのも忘れ、その一方的な戦いに賛辞を贈る彼等……知り合い?
いや、けど本当に凄いよ。
何とも鮮やかな手並み。
一人一人の練度が高いのもそうだし、連携の質が高いのも勿論だし……何より、的確な指示がそれらをくっきりとまとめ上げている。
それを成したのは、木々の上に突然姿を顕した、迷彩のような緑系の旅装で身を固めた……長耳の一団。
当然にPL。
「―――彼等、さぞ名のあるギルドだね? ユウト」
「ん。ルミねぇも知ってるぞ」
「んーー? ちょっと時間頂戴」
私の知ってるギルドで、こういう戦いが得意そうなところ。
……皆がエルフっていうのも最たる特徴か。
「いや、流石に分かるね。元じゃない方の四位さんだ」
「合ってるけど覚え方!」
「常にランキング形式で物事視てるんですか? ルミさん」
またの名を―――ギルド【妖精賛美】
入団条件として、種族が妖精種である事が必須とされているらしいギルドで、サーバーでも一桁台の上位に君臨している最上位ギルドの一角。
そうか。
思い返してみても、あのレーザー染みた技を出せる人って……。
「そうか、そうだ。何処かで聞いた声だと思ったら、ティリネルさんか」
「はーい正解」
「妖精公子。生きる嫌味な」
ともあれ、彼等のお陰で私達を襲った危機は去った様子で。
けど、どうして助けてくれたのかな。
単純に良い人達だったからと思えばそれまでだけど―――お礼しなきゃ、まずは。
えー、と。
責任者の方は。
「―――姉さん、けがはないのだわ!? あなた達も無事かしら!」
「あ。妹ちゃんですぅ」
「「あ?」」
………。
全てが終わった頃、木々の上から優雅に降りてくる彼等。
最初に走り寄って来るのは、一際目立つ薄桃色の髪と翠の瞳、とりわけ長い耳を持つ妖精種の女性。
そのすぐ傍にはティリネルさんの姿もあり。
……声からして、先程から指示を飛ばしていたのは彼女だろうけど。
「……。成程、ルイさんの妹さんって……妖精賛美の団長だったのか……」
「「!」」
「そういう……いわれりゃ納得」
「そう、私が団長。よく知ってるわね。初めまして、かしら? ギルド【妖精賛美】のアミエーラよ。……ところで、何処でかしら。男の子。貴方、覚えがあるわ」
「どうも、光栄です」
「まただ、またユウトなんだ……! やっぱり顔か……顔なのか!?」
「単純に一番公に知られてるからでしょ、うちのリーダーだし」
ルイちゃんの妹さん……アミエーラさん?
良い名前だ。
彼女とユウトたち同士は初対面の様子だけど、そんな彼女……アミエーラさんに傍のティリネルさんが耳打ちをして。
「―――――」
「そう、そうだわっ。統一武術大会の本選でムーン様に負けた子! 大迷宮攻略専門の!」
「仰る通り。……ところでなんて耳打ちしました?」
「はははっ」
前々から彼等は交流があるからね。
けど、団長さんを見るのは初めて―――むしろ、ティリネルさんがそうじゃないかと思ってたけど、そういえば一度も団長だとは聞いてなかったね。
……ん。
「……ムーン様って? ルイちゃん。騎士王くんの事だよね、それ」
「うふふ。妹ちゃんはその人の大ファンらしいんですーー。今回の遠征も、会えるかもって期待してるんじゃないんですかね」
「あーぁ、おっかけってやつだね?」
いいとも、いいとも。
ファンが応援してくれているっていうのは、誰しもうれしいものだ。
「ところで貴方たち、未知領域のフィールドは今日が初めてよね?」
「分かりますか」
「あの対処を見れば、まあわかるわよ」
「はいすんませんなめてました」
「激やばでした」
「感謝感謝」
「良いわ、こっちも姉さんを護って貰ってたみたいだし。それに、初めてにしては悪くない対応と連携だったわ。だから助けたの。流石は迷宮攻略の第一人者ね」
「「どや」」
ところで完全に天狗さんだね。
あちらは耳が長い、こちらは鼻が長い……良い対比だ。
「……助けてもらったうえで厚かましいかもなんですけど、これも何かの縁って事でその辺教えてもらえたりとかできますかね。ご存じの通り、俺ら初日なんで」
「えぇ、えぇ……」
………。
ちら。
ほんの一瞬、私の方を一瞥した彼女は……。
何の邪心もないとでも言うかのような笑みを浮かべ、彼等へ両手を広げる。
「勿論。ゆっくり話しながら教えてあげる。元より姉さんの恩もあるし、私達が見つけた遺跡拠点にご案内してあげてもいいのだわっ」




