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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第九章:パースト編

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第22幕:レベルの違う戦い




「まぁ―――そういうわけでね?」

「「……………」」



「レベルが1になっちゃったんだ」

「「ばかっ!」」

「なんっ―――加減しろバカねぇ!」



 ば、馬鹿ねぇ……?


 成程……反抗期だね?

 あんなに良い子たちだった皆が、人の顔を見て何度もバカバカ罵って来るんだ。

 ―――いいとも。

 ここは、昔からずっと生意気ちびっ子たちの相手をしてきた私の弁舌力ってものを見せてあげようか。



「馬鹿っていう方が馬鹿なんだー。ばーか、ばーか」

「―――こっちはこっちで退行期!」

「子供かい!」

「ばーかばーか」

「……くッ。何かに目覚めるッ!」

「そもそも私たち全員を復活させるなんて真似をしなければそんな事にはならなかったのでは?」

「知性までレベル1になりやがって。俺たちなら別に放っておいても良かっただろ」



 ばーか、ばーか……。



「頑張った子たちには頑張った分だけご褒美をあげる。大人として当然のことさ」

「急にスンって大人に戻るな」



 そうとも。

 子供の相手というのは、この緩急こそが大切で……。



『『オオオォォォォォォォォォォォ!!』』



 ………。

 そういえばまだ戦争中だったっけ?

 地の底から轟き渡るような何かの咆哮で我に返り……城塞の階段を駆け上る。

 今もなお世界観に似合わない武器を連射している軍人さんに声を掛ける。



「バベルさーん。状況どう? 景気良い?」

「見て、分からぬか……ッ!」

「「つかれたぁぁーー!!」」



 双子ちゃんも、ずっと変わらない作業に不満のご様子。

 子供ってジッとしてるの苦手だからね。


 現在、クロニクルも七日あるうちの五日目……終わり。

 二分された勢力……片や、大神オグド・アマウネトが強化した魔獣の軍勢。

 片や、人界、魔族領土の異訪者連合。

 普段敵同士のライバルが共通の敵を前に共闘するっていう熱い展開らしくて。



「……異訪者のみに、非ず」

「え、そうなの?」

「―――あれらは……違う。或いは、我らだけであったのなら……」



 バベルさんは口惜しそうに、或いは逸るように唇を噛み……実際重厚な黒鎧、その兜の下でどんな表情をしているのかは分からないけど、苦い顔をしているらしく。

 彼、そしてつられるように空を見上げた私達の視線の先。

 飛び回る魔獣……そして魔族領域の騎士達が駆る小型飛竜による制空権の奪い合い。


 その中で。


 空の支配権を奪い合う両戦力。

 取り分けすさまじいのは、数においては明らかな劣勢にある筈の彼等。

 武器の一振りで空を駆ける魔獣を八つ裂きに、また這い上がろうとする魔神の腕を押しとどめている。

 混戦の中で―――明らかに異質な存在は……三人。



「先を征くあれらは、半魔などではない……魔族。暗黒将軍」

「「つよそう」」

「……。あぁ、てかあれバディスと同じ大将首か」



 編隊を組み飛行している暗黒騎士の中で、突出した一回り大きな飛竜。

 その背に乗る騎士が、武器の一振りで10の魔獣を切り裂いた。

 


「あれなるは、輝ける鎧―――アリギエリ・スム」



 ロランドさんより更に二回り大きいような、金色と黒色に彩られた鎧の騎士。

 兜は付けてないみたいで……あの人知ってるよ。

 第一次クロニクルで私達―――主にハクロちゃんやユウトたちが戦った魔族の将軍さんだ。



「怒れる兜―――エルゴ・ラース」


 

 不意に空から投擲された槍が家屋を数多貫通し、まるで裁きの一撃のように市街の一帯を吹き飛ばす。 

 それを成したのは兜で覆われていて見えないけど、細身で……3メートルはありそうな光の槍を持つ騎士。



「無垢なる剣―――ガラティア・コギト」



 最後の騎士さんは、目立った動きをとっていなかったけど……その人こそが指揮官、中核に位置する存在だとすぐに分かる。

 銀色の長髪……女性?

 ここからだと詳しい容姿まではみて取れないけど、その人の指揮に沿って、彼等は空を侵略しているんだ。


 彼等の援護なくして、今の激闘はない。

 人界側の戦力だけなら、たちまち戦線は崩壊する筈で。



「三者―――たった三匹の将軍にて、先の大戦で天の祝福を受けし12人と渡り合った、魔族側の怪物たち。即ち、冥国三騎士なり」

「じゃあ……十二聖より強い―――ってコト!? あの時はまるで本気じゃなかったとか?」

「そうだとしたら……マジヤバだな。……分からないのが、そんなのがどうして人界側に協力してくれてるのかって話だっけど」

「―――協力、なの? そもそも」



 どちらかというと利害が一致しているからのが近いね、確かに。


 でも、確かな事は。

 現状陣営関係なく、協力しないとマズいのが今回のボスさんって事。


 今や市街は半壊どころか全壊。

 もう要塞都市の復興っていうより、一から立て直しって感じの様相で。

 半径だけで数百メートルはありそうなほどに広がった深淵から伸びる魔神の腕は十を超え―――明らかに、人でもタコでもイカでもない事が分かる。

 今はまだバベルさんの物量と空からの支援、備え付けの砲台の攻撃で出る杭を打つように突出したものを撃ち墜とし、また次を撃ち墜としで何とか出来ているみたいだけど。

 もしも、このペースで腕そのものが増え続けるようなら。



「ルミねぇ。俺らはどうするべきだと思う」

「さても、さても……。じゃあさ? 今ある腕をバベルさんの例の最強砲撃で全部吹き飛ばして、次増えるまでに盗賊王さん倒すとか、どう?」

「……………」

「出来そうかな」

「―――……我が機銃に不可能はない……、と言いたいところだが」



 難しい、と。

 ポール君とトール君が生み出し続ける神器を次々に弾として撃ち放しながら鎧を顰める彼。

 如何に天下の12聖でも、今回は相手が悪そうだ。


 ………。

 どうしよっか。

 目的も達成したし、私的には既に終わった気分でいたんだけど。



「舞台仕掛けの神さまがどうにかしてくれない? 適当に」

「適当に世界が滅びる系の神さましかいねえんすわ」

「終わりの舞台装置は今まさに上がってこようとしてるんですけど」

「実際、これで俺らが負けたらどうなるんだ?」

「こら馬鹿リーダー」

「現実逃避やめてください」



 それ私も興味あるけどね。

 うーん。



「じゃあさ。私達は……」



 適当に幾つかの案を出して今後の方針を採択しようとした―――その時。

 すぐ目の前を、銀色で人間大の何かが吹き飛ばされたように通り過ぎて……それってつまり人間だよね。


 しかも知ってる人間さんじゃなかった?



「―――うッ……!!」

「「ハクロ(ちゃん)!?」」

「びぇぇ……。ひぃぃぃん……」

「とーー、マリアさん……?」

「人をオマケみたいに言わないでくださるかしらッ!?」



 いや、だって抱えられて一緒に吹き飛んできたらさ。

 身体の大きさ的にふつう逆じゃないかな。


 ……マリアさんも、よくよく米俵ごっこが好きみたいだ。

 もしかしてアレ気に入ってたのかな。


 

「―――どうした。終わりか、英雄候補ども」

「「……!」」



 ……察するところ。

 あの時の私と同じように、後衛から狙った相手から庇ったハクロちゃんごと飛ばされたって感じかな。



「んのッ……バケモンかよ!!」

「む……ぅッ」

「きっつくねぇぇ~~!?」

「厳しいですなぁ……ッ」


 

 ハクロちゃん、ロランドさん、レイド君……チャラオ君やタカモリ君だって、現環境における最強格と、それに準ずる戦力たる精鋭の筈。

 そんな人たちがマリアさんの超強化を受けて尚劣勢を強いられる。

 盤石な支援職がいてその状況なんだから、確かにいま彼女を取らせるわけにもいかない……か。



「マリアさんがいなくなれば更にきつくなるのは自明の理。良い判断だ。流石だよ、ハクロちゃん」

「……ん。まりあ守ればルミが褒めてくれると思った」

「勿論。護ればまもる程褒めてあげるさ」

「がんばる……!」

「人をボーナスゲームみたいに言わないでくれないかしら。ルミエールさん? あなたに言いたい事は幾つかあります!!」

「マリアさんも後でご褒美ね?」

「……………まぁ」



「「ちょろ……」」

「聞こえてますわよ」



 ……出方を伺う両陣営。 

 共に動かないのは、いつしかバベルさんの構える巨大な機銃の銃身が盗賊王さんに向けられている故。

 誰しも、蜂の巣は嫌だからね。

 互いにうかつには動けなそうだ。



「……。異訪者も、強くなっている。このバベルが、恐ろしさすら、覚える程に。だが、貴様は。―――サジタリスよ……キサマは、何に成ったのだ……!?」

「……………」

「12聖とは、天より神器を授かった当代最強の使い手たち。それぞれが自国の祀る光の神々より祝福を賜っている」



「―――だが。貴様は……」

「……既に人の身ではない、か? 古き友よ」

「ぬぅッ!」



 機銃が火を噴くより早く、弓の弦が震える。

 打ち出された矢は祝福っていうよりは呪いって感じの赫黒いオーラを纏って飛翔する。


 機銃の銃身でそれを弾いたバベルさんは、発生した途轍もない衝撃波で私達が仰け反る中一瞬で態勢を立て直し、射撃―――同格の放った砲撃にすら思える一撃を……盗賊の王は手に持った短剣を軽く振っただけで捌いた。



「かるい―――あまりにも。老いたか? バベル。わが友よ」

「………ッ! サジタリス……ッ」



 彼……盗賊王さんのレベルは前人未踏の100。

 各基本ステータスは全てがA以上という異常。

 よく12聖天は最強のNPCであるって言われてるけど、それのわけが本当によく分かる……と思ってたんだけど。

 一つ、疑問が氷解した。

 既に4thの上限……レベル80に到ってすら、異訪者が押されているわけ。

 どうやら、同じ12聖のライブラさんをして彼の力は埒外らしく。



「―――知らなかったのか。我は、簒奪者。生者も、死者も。全てを喰らうもの」



「盗賊王シャア・リ・サジタリス。簒奪を是とする狩人の王なり。この戦場より、光も、闇も……神も喰らってくれる。天上も深淵も、遍く全てを討滅する。神の、存在せぬ世界。それこそが我が宿願……ゆえに」



 彼の身体から黒いオーラが溢れ出て……まるで三対の翼のように広がる。


 時を同じく、頭頂部にはまるで天使みたいな光輪が浮かび。

 ……けれど、明らかに聖なるって感じの雰囲気でもない。



――――――――――――――――――――

【Name】  ■■王■■■・■・■■■■■

【種■】   謾ッ驟阪?菴ソ蠕

【■■■】  天魔――手(Lv150)

       12聖天 ■■■閃弓

       謾ッ驟阪?逵キ螻


【――歴】 

一次:■t) ――士(2nd) 

   士(3、d) 天■■士(4th)


【キ礎  】            

体力:■■ :■0* 魔力:―― 

防御:50 魔防:■■ 俊敏:


【■力■■】

白兵:AA 撃:■■ 器用:AA 

攻魔 支魔:A 特魔:A

――――――――――――――――――――




 今や能力値も異常だね。

 ステータス画面はこの世界に定着する枠組みの一つ……それが完全に化けちゃってるっていう事は、彼が既に理から逸脱しているということか、最早人ですらなくなっちゃったって事の暗示なのか。



「……ルミねぇ。俺たちはチマチマ誰かさんのレベル上げに勤しんでる。そっちは宜しく頼めるか」

「え?」

「あの面子じゃ、下手に人数増やしても良さを潰し合う。なら、あと入れる職分って言えば……な?」

「かもね。……世話をかけるね」



 今の私が何処かの戦闘に参加した所で、弾避けにすらなりはしない。

 ならば、彼等がせめてサポートできるレベルまでに上げてくれるというわけで。



「ま、元よりイベント報酬の為っスし。そのついでなんで」

「魔獣狩ってた方が絶対報酬は良い筈ですし。全然感謝なんかしなくて良いですよ」

「私達は恩着せがましくないので」

「何とは言わないけどお年玉欲しいなーー」



 そう言えばまだあげてなかったっけ。



「良いよ。これが終わったら好きなだけ落としてあげよう」

「―――話通じてるか? これ。……行くか」

「「おーー!」」


 

 思い思いに言葉を言い残し、砦の防衛に合流していく皆。

 私は―――ともかく、あっちか。



 ………。



「やーぁ諸君。あーそーぼー」

「遊びでやってるんじゃないんですけれど!! もう肝が幾つあっても足りませんわ!」

「ハクロが護る。大丈夫」

「安心ですけど!! いまなら12聖の方々もいらっしゃるし―――」

「あぁ。バベルさん達には大神さんの対処お願いしてるからこっちには参加しないよ?」

「なんでぇぇ!!」


 

 どっちかというと世界の危機ってあっちだし。

 一度、私達がやるって言っちゃってるし? 



「来やがったな無職」

「我らが聖女さま!」

「回復役きた! これで勝つる!」

「レベル1だけどね」



「「……ん?」」 



「―――おい、ルミエール。いっそ、指揮を頼めるか」

「え?」



 私?

 レイド君、本気で言ってるのかな。

 


「冗談だろう? 皆の動きも見えないような私が出来ると思えないけど」

「ん……ルミなら別に全部見えなくても予測できる」

「それは……出来るけど」

「おかしいよこの人」

「出来るんですか……」



 なれば……そうだ。

 ここぞと、服の見た目を初期装備からこの状況へ連なる全ての始まり……件の探偵助手ファッションに変える。



「つまり、レイド君達は確かに最上位レベルの力を持ってるけど、互いが互いの長所を潰し合ってうまい事噛み合わないから、君たちの戦法戦力を一定理解しつつ外側にいる私に指揮して欲しいって話なんだね?」

「まさに」

「私はロランドさんの戦いを知らない。だから、彼の動きに皆を合わせる形で組み立たせてもらうけど、それでも良い?」

「……マジで説明不要だなお前」

「―――む? 何の話だ」



 初歩的な事さ。

 ……さて。



「―――ル、ガ……、カヶ」



 闇色のオーラを纏い、こちらの出方を伺っている盗賊王さん。

 その姿は……時間が経つほどに人間の形から離れているみたいで。

 今は既に、単に人の形をしただけの黒影でしかない。

 これが本当に最後の戦いであれば良いんだけど……と。


 そう祈りながら、今回二度目の出勤である愛剣を突き出す。



「じゃあ、まず最初の指令。皆、好きに動いて―――取り敢えず。おいおい考える」

「「オーケー!!」」

「……? どういうことだ」

「理解しなくて良い。アンタは取り敢えず普通に戦ってろ、竜の旦那」



 ……何で。

 どうしていつの間にか私がこんな最前線の戦いの一端を担っているのか。

 色々と思う事はあるよ。


 けど、同時に実感するよ。

 この戦いの勝敗が、今回の幕引きに大きな影響を与える―――ってね。



「……はッ。クロニクル終わりのO&Tには、俺たちの一面が載るだろうな」

「フム……?」

「またあのブンヤですの……」

「ちな、題名は? ボス」

「12聖を初めて殺せた異訪者たち、だ」




「―――来、がい、次だ、の、英雄候補ども」

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