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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第九章:パースト編

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第20幕:総力戦





「ひぃぃぃいーーん……」

「ちーちゃーん。いい加減泣き止んでよー」

「だって私可哀想だよ!? 可哀想じゃん! ログインしたと思ったら意味わからないくらい大きな化け物はいるわ、目の前で凄い戦闘起きてるわ、なんかやっべー戦力が味方にいるわッ! 挙句魔族側のプレイヤーたちもお空飛んでる! なーぜか協力してると来たよ!! なんなのコレ!? 一体何が起きてるのか誰か説明―――」

「必要か。するぞ」

「………ぁ、……あィィィケメ……、結構ですぅ……」



 人見知りか。

 しかし、気持ちは分からなくはないな。

 暫くぶりにログインした者たちにとって、この状況の変貌ぶりはあまりにも理解が追い付かないものがあるのも事実なのだ。


 最早、完全に砦の中と外は別世界。

 総力戦とばかりに、或いはゾンビ映画の終末期のように砦には何処からともなく集まってくる魔獣達がわらわらと纏わりつく。

 当然、例の深淵からは巨大な影がうごめき、こちら側の攻撃が途絶えようものならすぐにでも這い出てくることは必然。


 外側は当然に地獄だが、砦の中だから安全というわけでも断じてなく。

 空は初日の比ではない程に鷹型の魔獣が飛翔し、地上の魔獣達も流石に高レベル帯……遠距離の攻撃手段など当然に持っている。

 油断などしなくとも、少しでも集中力を欠いた者が一瞬で吹き飛び、その空いた穴から二人三人と命を散らす。


 ………。

 そんな中でも、補充要因とばかりに都市外から次々に人がやって来れているのは……。



「さっきは本当にびっくりでしたーー!」

「やっと復帰」

「ただいまですぅ。騎士のお兄さんも有り難うございましたー!」


「おうよ。んじゃ、またジャンジャカ運んでくるからなーー」

「スマン、助かるッ!!」



 制空権の争奪戦―――そのついでと言わんばかりに次々と人材を補充していく竜を駆る者達。

 一様に黒鉄の鎧に身を包んだ……半魔。


 ……そうだ、コイツ等だ。

 何と、ここにきて人界、魔族側の共闘。

 外側の人員を飛竜に乗せて運んでくる、地上部隊の掩護、何でもござれ。

 それがクエストだから……という事だが。



「―――な。うすら寒いものがあるな、ユウト君や」

「です、ね」



 だが、今は紛れもなく味方だ。

 他のイベントでは命を奪い合いような間柄だった者同士が、また別の機会では背中を預ける仲間になる……この世界に生きる者たちからすれば得体のしれないものに映るだろうが、それこそが俺たちPLだ。



「しっかしまたどっかでかち合うと思ったんだが、まさか全力共闘になるはなぁ。アンタらが残っててくれた事には本当に感謝してるんだぜ? 小回り効く上に連携も申し分なし、おまけに個々人も充分に精鋭と来た。お陰で全体の指揮がやりやすくて……」

「べた褒め気持ちィ……!」

「力が溢れるぅ……!」

「流石に大ギルドのブレーンは褒め上手です」

「厄介な事させてる自覚はあるからな。お前等サイコーだぜー!」

「「いえーー」」



 ………。

 

 実際、一番危ない役回りの一つではある。

 一つは当然、上からも下からも無数に遅い来る魔獣どもの対処をしなければいいけないこと。

 一つは戦域全体を見渡し、リカルドさんのサポート。


 そして、最後に最も危ないのは―――。



「ぬるいぞ、英雄候補ども」

「「ッ!!」」



 怪物同士の戦いが、すぐ近辺で起きていることによる余波へ備え。

 精神削られるって。


 あのハクロとロランドの攻撃を容易く往なし、捌く。

 恐ろしいなんてモノじゃない。

 4th……そのレベル上限である80まで鍛えているであろう、本人のプレイヤースキルもサーバー再航行クラスの猛者たちが、だ。



「逆に考えれば、あのレベルの面子ならいよいよ12聖相手にも食い下がれるって話なんだよな」




――――――――――――――――――――

【Name】  盗賊王■■■・■・■■■■■

【種族】   堕落■■■ 

【一次職】  魔弾之射手(Lv100)

       12聖天 緑化の閃弓


【職業履歴】 

一次:狩人(1st) 霊弓士(2nd) 

   精霊弓士(3rd) 天霊弓士(4th)


【基礎能力】            

体力:300 筋力:100 魔力:―― 

防御:50 魔防:50  俊敏:120


【能力適正】

白兵:AA 射撃:EX 器用:A 

攻魔:A 支魔:A 特魔:A

――――――――――――――――――――




「あんな化け物とも……な」

「ホント化け物で草ァ」



 ある意味では、PLが目指すべき完成形。

 5th……最上位職に到った職分。

 実際、あれが本当にランクアップの果てに実際に成れる職業なのかは分からないが、自分達の目指す先にあれが存在していると思うと何か良いよな。


 ……とはいえ、見惚れていたら秒で死ぬ。

 距離を埋めても地獄、離されるともっと地獄。

 現状最も有効な手立ては、前衛が入れ替わり立ち代わりで懐に潜り込みゼロ距離で斬り合うのみ。

 そうでもなきゃ一瞬で距離離されて確実に射抜かれ、切り取られる。



「―――ところで優斗さんや! こっちもそろそろ魔力もポーションも無くなりそうなんだが!?」

「そうは言われてもな」


 

 彼女に()()()()以上、素知らぬ顔で裏方をしなければならない。

 裏方っていうのはそういうもので。



「やはり、手ぬるい。貴様等には真なる危機感が足りん」

「しまッ!?」

「マズいですぞ!」


「―――ひぃぃ!?」

「まりあ……!」


 

 苦戦を強いられる中、向こうの戦闘でも変化が訪れる。

 チャラオさんとタカモリさんの間を縫うように、まるで雷のように駆ける盗賊王……後衛の基盤たるマリアさんに刃が迫り。

 


「やら、せない」

「……覚悟やよし。―――であるが」



 ギロチンのように石畳へ突き立つ刃。


 瞬時に大剣が壁となって立ちはだかる。

 大剣使いでありながら、あり得ざる小回りを持つハクロだからこそ割り込めたが、それでも無理な体勢だ。



「それが甘さだ、次代の英雄候補」

「ハクロさん!!」

「「ハクロ!」」



 今に、盗賊王はもう一方の腕に握った短剣を―――。



「“獄・焔刃滅却”」

「む……」



 ……重なるような重厚な落下音と共に、明らかに尋常な攻撃じゃない黒の炎が視界を覆う。

 盗賊王がその場から大きく飛び退る。



「これも任務の為―――助けがいるか、剣聖」



 ……。

 皇国の時に共闘したアイツ―――魔族側PLの中でも特に異彩を放つ、暗黒騎士ヴァティス。

 第一次では騎士王とも互角以上にやり合ったって化け物。


 あり得ざる助太刀に、ハクロは二、三秒ほど何かを確認するように騎士を上へ下へと観察していたが……。

 


「………? くお―――」

「助けが、いるか?」

「……ぁ、い、いる」



 どうやら異文化交流は成ったらしい。

 


「―――これは、中々どうして……。魔族。否……半魔。なにゆえ貴様らが……いや。それは愚問であった、愚問であったな、魔神王の尖兵よ」

「魔王陛下の命により、大神は滅する。それが私の任。早いのは黒幕の排除だ」



 暗黒騎士達が味方として動いてくれていたからもしかしたらとは思ったが……これは。

 なら……あっちはまだ大丈夫そう、か。

 危ういのはやはりこっちだ。



「―――城門の耐久値半分切ったよ!? バベルさんにさっきの頼めないかな!?」

「使い、どころが……否。それが求めとあらば」



 放出された熱線によって薙ぎ払われる魔獣の群れ。

 恐るべき破壊力やしかし―――波が再び押し寄せるように、少しずつ集まり始めるエネミー。



 4thに覚醒した俺たちでも、容易じゃない。


 城壁に取りつかれないように次々と上から削っていく。

 ただ、それだけの仕事。

 しかし、単純作業っていうのは続ければ続ける程に緩慢になり、集中力を欠いてしまうのは当然。



「―――埒が明かねェ……! ポーションくれ、ありったけ!」

「とっくに譲渡完了だ、飲んどけ」


「こっちも、欲しい」

「すみません! リエルの魔法消費って凄くて、私達備蓄が……」

「僕のまだありますよッ!」


「死霊使いさんたち、眷属火葬してよろし?」

「ふぇ……? 良い訳―――」

「一思いにやっちゃってくださいなー」


 

「“紅蓮八方陣―――大炎葬”」

「“凍銀凍土”」



 八か所で極大の火柱が上がる。

 白銀の氷晶が咲き乱れる。

 こういう時、マップ兵器として運用できる術師は良い。

 


「いいねぇ、良いねェ……ウチ来るか?」

「いや」

「キミら、レベルを度外視しても、全員のポテンシャル自体高いんだ。ウチ来るか?」

「それしか言わんの?」

「はははっ。アンタ達にはあん時からとっくに目ェ付けてたんだ。ウチ来るか」



 大会と大迷宮攻略でそこそこ名が売れてるとはいえ、サーバー第二位にとは光栄。

 だが―――。



「オタクの大将見てると自信なくなってくるからな。却下で」

「……まあ。あれが傍に居るのは確かに」

「「却下」」

「はいはい」



 当の本人は、まさに獅子奮迅。

 ハクロ、レイドさんも勿論だが、こと破壊力においてあの竜人は化物。

 


「ふ、ははは―――ははははッッ!! これが13聖! これが!!」

「十二聖な。増えてんぞ兄さん」

「ん? ろらんど、また光ってる」



 盗賊王の攻撃を一手に引き受け、一歩も引かないどころか前線を押し上げ―――攻撃を何度喰らっても怯まないってどういう?


 何で死なない?

 いまに身体が赫灼とばかりに紅色に輝いているが、最近は自分の身体を光らせるのがPLのトレンドだったりするのか?



「大会で見ただろ。ロランドの奥の手―――魂の燃焼」

「……まさか」



 ルミねぇと同じ。



「経験値消費して体力を1残したまま生存するってやつを……」

「正確には0だな。今のロランドは生きてるが死んでる状態だ。文字通り、存在を燃やして食いしばってんのよ……」



 現在系で団長がレベルダウンしてるってのに、まるで誇らしげに。

 だが……。

 タンクに竜人、アタッカーに剣聖と暗黒騎士、中衛の遊撃に強欲王……バフ要員に歌姫。



「そして補充要因兼賑やかしに武人と遊び人……と。これだけの怪物戦力で尚拮抗どころかじり貧とは恐れ入ったな」

「誰があっそびにんよ!!」

「ついでみたいな紹介は納得できませんぞ!」



 いや、まだ余裕あるな。

 こっちの会話が耳に入る程度には周囲の状況も理解しているらしい。



「発射ーー!!」

「どんどん撃て!!」

「弾は、無限。気張れよ、異訪者。我が付いている」

「「うってーー!」」



 進撃する魔獣が、秒で十は屠られる。

 異訪者が、数秒に一人消える。

 都市上空は飛竜と非行型のエネミーが入り乱れて制空権を争い、無数に空へ放たれるバベルさんの狙撃、PLの遠距離攻撃が深淵から這い出ようとする神を押しとどめる。


 総力戦、だな。

 現在の戦闘区域で言うと、城塞中央の砲撃台を拠点として対魔獣・対大神の勢力が数十人。

 黒幕である盗賊王への戦力。



 だが、毛色の異なる戦場は―――もう一つ。



「―――――」

「―――――、―――?」



 ………。

 あっちもあっちでやり合ってるな。



 ステッキとも言える棒状の武器を片手、或いは両手に握って操る敵方に対し、彼女は初期武器のような……否、初期武器を手に応戦する。

 一応テツが何度も何度も強化してくれてるとはいえ、その性能はお世辞にも高いとは言えない。

 白爛……適正レベル的には……まぁ40くらいか。


 怪盗メモワール……ここ暫くO&Tを賑わわせていたPLだったが、その本性は敵方の協力者だったわけで。

 恐ろしい事に、その姿はかつて世界一と称された奇術師のそのまま。

 どころか、一時はルミねぇのお爺さんの姿にも変身してたとか。



「知り合い……いや」



 ともかく、奴の職はユニーク【怪盗】

 ルミねぇに曰く、「道化師の一次職ばーじょん」

 種が分かっていないとはいえ、その動きとトリッキーさにはPK大好き集団の傍若武人が丸ごと翻弄される程の力量。

 詰まる話、彼女単体では勝ち目がないって事だが……さて。



「そろそろ―――か」

「んーー、下降りる?」

「頃合いですか」


「あ? お前等―――」

「っていう事なんで。僕達、ちょっと下の方に降りてきますね」

「は? お、おい……」



 下に―――砦の外に降りれば持って数分……。

 それが不足か充分かは……俺たちには分からないが、まぁ何とかなるだろう。

 

 無いものねだり、弱音はなし。

 今あるものだけでどうにかしろ。

 暴論も暴論だが、それで何とかなってしまうのが俺たちの大好きな年長三人組だからな。



「ごめんな、リカルドさん。ちょっと魔獣やり続けなきゃならん理由があって、俺たちはこの辺で自由にやらせてもらう」

「―――本当に意味わからないな、お前等」

「あの人に関わるとそうなる。覚えておくと良いぞ」



 ………。

 まぁ、じきに分かるさ。


 元より、怪盗……アイツは。

 アイツの目は。

 ああいう手合いは、()()が一番嫌いなタイプだ。

 あの自称平和主義……どんな相手であろうと、対話を全とするルミねぇが、本気で嫌う手合いだ。


 なら、あの人は負けないさ。

 元より、あの人は非戦闘職でようやく平等なくらいなんだからな。



 さて―――怪盗さんも、そろそろ異変に気付いた頃合いかね。

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