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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第九章:パースト編

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第16幕:かりょくしえん要請




 今日で新年は三日目……つまりはクロニクルの開始からも三日が経過した。

 あの人はまだ来ていない。

 昨日は元々ログインの予定がなかったというのは知っていた。


 けど、もしかしたら。


 ………。

 もしかして今日も。



「―――いえ……今日は絶対多分おそらくログインするって言ってたんですけれど……」

「どうだかな」

「ルミエ殿レベルまでなってくると、正直リアルもありえないくらいに充実してそうですからなぁ。某が思うに、あれ絶対金持ってますぞ」

「まいいじゃねえか。あっちはあっちで楽しい。こっちはこっちで楽しい、でよ。双方の良い所見つけようぜ? ここは」



 盗賊風情が良い話風に纏めないでほしいモノですね。



「それじゃ、まるで私がリアル充実してない上に、私とあなた達が仲良しこよししてるみたいで嫌なのですけれど」

「違うんか……?」

「パンツにサインした仲ではないですか、マリア殿」

「どんな仲です!!」

「まあまあ……マリア姫―――楽しもうぜッ!!」

「「うえぇぇぇ!!」」



 私のユニーク、【歌姫】の新スキルで自己強化が出来るようになったとはいえ、そもそも私自身は戦闘が好きじゃない。

 どれだけ身体を強化しても、そもそもの運動神経が悪いからだ。

 元々、個人のセンスに大きな影響を受けるのがこのゲーム。

 人間がいきなりゴリラの運動神経を手に入れたとして、それを十全に使えるかといえば、勿論そんな筈はないという話で。

 当然に持て余すという結論。


 ……だからこそ、分かる。

 こんな、本来は自由に行動することも許されないような戦場の中で、私がこうして会話に注力できる理由。

 それは、紛れもなくこのどうしようもないロクデナシたちのお陰。


 実際、彼等は強い……。

 それだけ……本当にそれだけだけれど、本当にそれだけは疑いようのない事実。


 それこそ、対人に関してはランク一桁代の最上位ギルド、更にその中の精鋭にも全く劣ってはいない。

 どうしてこれだけの実力者たちがギルドランキングに載ることもなく、何処かにスカウトされる事もなく活動し続けているのか……。



「パンツ食い競争しようぜ! うえぇぇぇぇぇ!!」

「「―――ェーーい!!」」



 ……スカウトはされる筈もないか。

 けど……。



「―――三秒ごとに、一匹ずつ確実に仕留めた数で競うというのはいかがでござる? だんびらこ―――からのだんびらこ」

「どんぶらこみたいに言うじゃーん。あ、断平(だんびら)ってのは幅の広い刀の事、タカちゃんの持ってんのは長脇差……長ドスだからちっと違う。これマメな?」



 目にも止まらない白閃は、その全てがスキルですらないただの斬撃。

 それが、無数に存在し飛び掛かってくる蛇を次々に両断しポリゴンの飛沫を生む。


 戦士、盗人共同派生……4th【剣鬼】タカモリ。

 闘技都市ラニスタで行われた月次大会において、魔術やスキル一つ使うことなく優勝を果たした唯一のPL。

 ギルド所属より前、個人(ソロ)時代から名が売れている一人。

 そんな彼がどうして多くの巨大ギルドの勧誘を蹴ってここにいるのか。

 


「ははッ……良いねタカちゃん!! リズムに乗ってずんちゃっちゃ……これで行こうぜ! 負けたやつオフ会で奢りなッ」



 空を舞っているとすら錯覚する歩法。

 射程の短い武器を用いながら、確かな一撃が全て致命の一撃として宙を舞う鷲を切り裂いた。 


 副団長、盗賊系3rd忍者上位派生【大天狗】チャラオ。

 名前も性格も行動も一次職も……何もかもがふざけた、声に出して呼びたくないナンバーワンでも、憎らしい程に強い。

 チャラオなのに……むしろチャラオだからなのか、空間の把握、間合い、仲間との連携……何処までも相手を陥れること、己らの利益に繋がる事だけを常に……まるで俯瞰しているかのように全てを捉えている。 


 ………。

 その他、団員一人一人が精鋭中の精鋭。 

 全員が1st【盗人】の流れを汲む派生でありながら、特化型ではなく、各々が全く別のパーツとしてものの見事に噛み合っている。


 ならば、それを主導しているのはやはり……。



「―――そら、また一狩りだ」

 


 傍若武人団長レイド。

 彼の持つ戦闘系ユニーク【強欲王】は能力値の中でも器用度に特化した職業。

 他にその能力値を極めた職というものも少なく、総合力においてどうにも掴み切れない印象を持っていたけれど……。


 くるりと回転したマスケット銃―――銃士派生専用アイテムの武器が火を放ち、大熊スウグの眼を捉える。

 それを単なる「使い捨て」に、左手に短刀を持ち切り込む……そう思わせた刹那、次の瞬間には忍者刀というべき丈の短い刀が大熊の腹部に突き立ち、首筋へと斬り上げられる。


 今までに見た事もない、あまりに多彩な戦闘技術。

 全ての動作が別々の攻撃に繋がる、恐るべき並列思考。

 


「……まるで」



 まるで、戦闘版のルミエールさんみたい……と。

 思わず息を呑んでしまう。



「―――……んだ? マジマジ見て。惚れたか?」

「ふざけてください」

「んーー、俺が連続六キル、タカちゃん八キル……団長一キルな」

「では長のおごりという事で」

「「ごち」」

「―――おい?」



 ……今もなお次々に周りのPL達が消えていく戦場で、飽きを回避するかのような突発的な遊戯が。

 まるで片手間に命を散らす墜ちた武人たち。


 

「………やっぱり住む世界が違いますわ」

「いや、待って! 身分違いもアリだって……」

「お黙りなさい下郎」

「それでも好きだ!」

「こっちがめまいしてきますな」



 どうしても会話を曲解したい者達。

 猶更ロールプレイ重視の私とは馬が合わない。


 ……疲れから、思わず上へと向ける視線。

 ―――その先に、私は大きな壁を視た。



 ………。

 あれって、要塞都市の象徴たる人明の城塞……なんで?

 確かに初日の、クロニクル発令時に完全に砕けて崩壊した筈。

 でも、今遠くにある壁はまるで動いているように見えるし、前の白寄りだった配色に比べて明らかに黒々と、しかも光沢が……。



「……はれ? いつの間に壁が復活……」



「……うっっわ……きも」

「―――?」

「あ、見る? 姫さん。見ない方が良いと思うっすけど」



 丁度、傍で同じようにソレを見ていた男。

 海賊派生の団員さんが差し出した望遠鏡……海賊映画に出てきそうな単眼鏡を覗く。

 

 ……その壁は、確かに黒く。

 滑らかというよりは……否、滑らかには違いないけれど、何故か今この瞬間にも波打っているかのような、模様の変化する不思議な。



「………? ~~~~~!!」

「耳塞げー」

「「アラアラホイ」」


 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」



 なにあれキモ!!

 巨大な壁かと思ったら全部波! へびの波!!

 数万どころか数十万はいそうな蛇たちが固まって波になって壁に見えて―――何十メートルあるとおもってるんです!?



「光沢って、ありゃ鱗が光反射してな? 言うなれば……」

「言わないで!!」

「というかですが。某の眼が確かなら―――迫って来てませんでござるでござる?」

「「……………」」



 本当だ。

 まるでスパイ映画の壁みたいに、連立した壁が各方から迫ってきて……。



「おいおいおい……。再参加オーケーだからって戦況リセットでもさせるつもりか!? ―――おい姫様! バフ……てか巨大化カモン」

「むひゃ言わないでください!!」

((噛んだな))



「―――わはー……凄いねあれ」

「―――あれ全部蛇なんだー! すっごーい!」



 と……上を見上げていたところに、今度は斜め下から声が。


 ……そこにいたのは、子供。

 しかし、PLですらない。

 中性的な顔立ちの男の子……男の娘? が二人……。

 本当に、ハクロさんみたいに小さい子達がどうしてこんな所に―――いえ、彼女なら大丈夫なわけだからこの子達も多分大丈夫……あれ?



「あ、そうそう。ねえねえ、お姉ちゃんがまりあさんなんだよね? 茶髪だし、縦ロールだし」

「あと目が緑だし?」

「―――え? え、えぇ……私ですけれど」

「ヤッタ!」

「やっと見つけた!」



 この子達、私の事を……?



「いえ、とにかく! ぼくたち!? ここは危ないから……」

「僕が紫で」

「僕が紺!」



「「妖星よ、紫紺の星天よ。四十八宿星―――四魂暴乱」」

「―――へ?」



 子供たちが背中合わせに、互いの手を握り合うままに前に突き出す―――瞬間、雨が下から上に落ちるように、紫とも青とも取れる寒色の光線が天へと駆け上がる。


 よく見れば、それは一本の線ではなく、ゴルフボール大の細かな弾の粒……礫。

 無数の光弾が、数百メートルと飛翔し、黒の大壁にまた無数の穴を穿っていく。


 まるでミサイル爆撃。



「―――――」

「マジかよ……。お前等……」

「ん……んん? お兄さん……うわぁっ、あの時のお兄ちゃんだ!」

「トールを泣かしたお兄ちゃんだ!」


「どうする? 通報する?」

「待ってください! まだ壁が―――」



 無数に穴を穿たれて尚、黒の大壁は―――大蛇の行進は続く。

 先の、目を疑うくらいの大魔法が焼け石に水としか思えないくらいに、規模を縮めるどころか、都市の瓦礫を吸収し、更に巨大な波となって私達のいる中央部へと押し寄せる。



「盗賊! 盗賊ならどうにかなさい!」

「無茶ぶりは悪役令嬢の特権か?」

「盗賊を何だと思ってるんでござる?」


 

 これだけ余裕ぶってるんですから奥の手の一つや二つあるでしょう?

 流石に今だけはコントよりあちらを―――そうだ、この子達を。



「さぁ! ここは汚い大人に任せてボク達は今のうちに避難して―――」

「んーー。おじさんいるし大丈夫でしょ」

「大丈夫だよね。ほら、もう貯まったみたいだし。どーんだよ、どーん」



「いやドーンって―――……ふえ?」

「―――おい……、こらぁ……!?」



 一瞬、周辺の視界全てが暗転する。

 まるで一瞬だけ世界に夜が訪れたかのように、全てが闇に染まり―――そして。


 全てが吹き飛んだ。


 今に降り注がんとしていた瓦礫が。

 襲い掛かろうとしていた魔獣の軍勢が―――或いは空間さえも。


 全てを呑み込んだ黒星の熱線は大空に消える。

 空を舞っていた大鷲……巨大な蛇の波……舞い上がっていた瓦礫……全て、全て……。



 そして、一連の全ての引き金を引いた存在は―――私達のすぐ傍に今まさに歩み寄っていた。



「やほーマリアさん。レイド君達も一緒で探しやすかったよ。あ、この人? ……それともこの子達? そうとも。助っ人三銃士を連れて来たんだ」

「「……………」」

「助っ人……三銃、士?」



「ぼくはポールで」

「ぼくがトール!」

「「二人合わせて紫紺の斧槍!」」

「我、黒鉄の、機銃……ライブラ・バベル。リア・ガレオス殿下の命に、より。異訪の聖女の指揮下に、入っている」




   ◇




「じゃあ、改めて紹介するね?」

「「……………は?」」



「まずは紫紺の斧槍……お兄ちゃんのポール君と、弟のトール君」

「「よろしくー!」」



 私の紹介に合わせ、紫髪の男の子とやや濃い青色の髪を持つ男の子が声を上げる。

 二人の恰好はまるでお遊戯会。

 トール君のボーイスカウトみたいな恰好、ボール君の水兵さんみたいな恰好はよく似合ってるし、それでいて同じ丈の短パンは元気な印象を与える。



「で、黒鉄の機銃ライブラ・バベルさん」

「……………よろしく……、頼、む」



 で、もう一人。

 まるで蒸気機関車みたいに黒光りして、同じく蒸気機関車みたいな重厚な……分厚い鉄板を何枚も束ねたみたいな装甲に身を包んだ二メートルを超える騎士さん。

 話し慣れていないような印象を与える声色で……素顔は伺えないけど、その体躯と声質から男性であることが分かる。



「どちらも、皇国所属の12聖さん達だよ。今回のクロニクル限定で私達に協力してくれることになったんだ」

「「―――――」」

「あと私の個人的な護衛として一刃の風の皆さんもいるよ」

「「よろー」」



 ………。

 何だか反応芳しくないなぁ。

 私の言葉にもユウトたちの気さくな挨拶にも反応してくれないし、もしかしてあんまり嬉しくない感じかな。



「―――……お前何やってんの?」 

「んう? ……言わなかったっけ? 助っ人を……」

「本当に連れてくるやつがあるか。マジモンの12聖じゃねえか」



 だから本物だって言ってるじゃん。



「ほら、かりょくしえんってやつ」

「街消し炭にする気なん? 只でさえ荒廃してきてんのに……本当にあれ潰したんだ。しかも秒で」

「下手なレイドボスなら瞬殺すら出来そうですなぁ、今の」

「てか、あれ全部潰したってなったら戦果ポイントとかどえらい事になってんじゃねえか?」

「あ、その事なんだけどね」



 一つだけ留意点なんだけど。

 彼等、別に協力してもらってるだけでパーティーとかじゃないから、彼等の武功はあくまで私達とは別枠なんだ。

 その辺だけは注意ね。

 流石に今の彼等の戦い分の経験値まで入ってきたら凄すぎるし。



「だから、そういう報酬目当てならあんまり一緒に行動はしない方が良いのかも」

「……猶更もうアイツ等だけで良いんじゃないん?」

「俺ら帰ってよくね? なぁ、坊やら」

「それに関しては僕達も同意です」

「けど、まぁこれはこれで楽しそうって事で。12聖と一緒に戦えるし?」


 

 まぁまぁ。

 彼等には彼等の、私達には私達しか出来ない役割がきっとあるよ? 私は除くけど。

 前々から知り合ってるから、ワタル君やショウタ君も盗賊さん達と普通に会話できてるね。 

 


「あぁ、そうだ。一応目的が目的だし、あんまり派手に動いて欲しくないとは言ってあるよ? だから心配しなくて良い」

「「どの口」」

「ほら。それに、この後来る人達の分もとっておかないと可哀想じゃない?」

「だからどの口……って―――え?」

「え?」

「「え?」」



 ………んう?

 何をそんなに疑問符浮かべることあったかな。

 最初にマリアさんが首傾げ、それに私が首傾げ、その次皆が首傾げ。



「あの……ルミエールさん? もしかしてまーだ応援要請してる感じで?」

「だってほら、夢のお城暮らしが掛かってるし。それに国の危機かもだよ? 戦力はいるに越した事ないだろう?」

「お前戦争でも始める気か?」

「大丈夫、大丈夫。ほんの数人さ」

「その数人が国家戦力並みだから怖いって言ってるんですけれど?」



 さて。 

 皆も納得して話も一段落着いたところで、私はまだこの都市に戻ってきたてだ。

 色々と状況を教えてもらわないと。

  


「―――まぁ。全然今の説明で納得はしてないですけれど。現在の戦況としては、初日の開始時点とほとんど変わってませんわ。さっきのやつまでは」

「んだな。説明すんのもめんどくせえから、近況については解放中の都市の広域マップを見てくれ。行けるエリアと行けないエリアが明確に分けられてる」



 ……おぉ、確かに?

 この中央区を含め、要塞都市の八、九割がたが自由に移動できるらしい。

 けど、現在PL側が制圧しているゾーンと未だ魔獣が跋扈しているゾーンも明確に分けられているらしく。



「戦況は五分。領主館はやっぱり駄目そうだ。この三日間うんともすんとも言わねえ」

「政府所属の正規軍もどっか行っちゃってるしな」

「……ふーん。解放待ちって感じかな。皇国の時みたいにフェーズ2がありそうにも思えるよ」



 広域マップを見るに、まだまだ前哨戦に思える。

 盗賊王さんの陰も見えないし、肝心の真竜さんの目撃情報もなく、現状としては単に発生した敵を狩って、リソースが尽きたり分断されたり、はたまた集中力が減ったり運が悪くてやられちゃうとか。



「―――そらッ―――“紅蓮災禍”」



 ………。

 爆発なんて日常に溶け込んでるくらい頻発してるけど、この辺は殆ど私達が制圧中。

 一方的に蹂躙できるボーナスタイムには違いないんだろうけど、ある種の物足りなさを感じて―――すぐ近くで大爆発が起きて、耳がキーンってなる。


 ショウタ君の火力全振り大規模炎魔法だね。



「―――良い腕、だな。異訪、者」

「どうも……そちら、良い銃ですね、バベルさん」

「で、あろう」

「羨ましいです……」



 機械的な人と、ショウタ君。

 正反対に見えて、大火力持ち同士話が合うのかな。

 同じ銃は銃でも、スケールの違いにエナが指をくわえて物欲しそうにしてるのも印象的だ。


 バベルさんの武器はその名の通り、凄い大きく砲身の長い機銃。

 明らかに手に持つんじゃなくて設置して使うタイプの筈なのに、彼は両手で抱えて歩き回ってるらしい。


 ともあれ彼等がどんぱちしている間に、レイド君とマリアさんとユウト、こちらの首脳部が方針について会談してて……。



「……いっそのことコイツ等使ってエリア制圧にでも行くか? 今後の方針とかどうするよ」

「一応は目的あるんだろ? レイドさん。ほら、ルミねぇの城暮らしを賭けた戦いがどうとか……」

「もうその呼び方やめません?」



 お城の何処とは言ってないからね。

 けど、今時地下牢にも床暖房くらいは通ってるかもしれないよ?

 

 私は最後の最後まで希望を捨てる気はないんだ。



「私に力はないけど、回復スポットにはなるよ?」

「最早エリア扱い」

「どっちかってとギミック扱いだな」

「―――そうですわ。あと、ルミエールさん。さっき言ってた増援というのは?」

「んー? パーティーさんが一つと、私が一番信頼してる強い人が―――」



 ………。

 と、話題にした傍から。



「白刃―――さざれ」



 斬撃が走り、魔獣ごと虚空が二つに分かれる……逆?

 とにかく、大気が裂けたみたいに全てが斬れる。

 あれって確かアルバウスさまがアスラ・シャムバラ戦で使ってた絶技……。


 それは、先の双子やバベルさんみたいな戦略そのものと言える暴力はないけど、それとは対極に存在する別種の凄みがあって。

 もう物語の登場人物みたいになってきたね、彼女。



「―――剣聖ハクロ!!」

「統一武芸大会優勝―――PL唯一の12聖……!!」


 

 もはや芸術の域に達している剣術が注目を引いたか、にわかに辺りが賑やかになる。


 ……現状、最強のPLは彼女って事になるのかな。

 元々の圧倒的な実力に反し、本人の内向的な性格、お世辞にも社交的とは言えない部分が災いして表立って噂になる事はなかった彼女だけど、例の大会を境にして一気にその名は轟いた。



「最強議論のツートップどっちも一対一で捻ったらそりゃそうなるよねぇ」

「騎士王と竜人なぁ」



 あれから暫く何処のギルドからも追い回わされてたから引きこもっちゃってたんだよね。

 けど、流石に我慢の限界だったらしい。

 つい先日一緒にあそぼってメール来たんだ。



「やぁ。待ってたよ、ハクロちゃん」

「ルミは私が護る……まも、まもまも……ぅ」



 流石に有名人になり過ぎると注目の的になってしまうのも仕方がないこと。

 けど、より視線を集めればその分耐性も付くさ。



「無理はしないで良い。けど、取り敢えず頑張れるところまでやってみよ。ね?」

「頑張る……」

「どっちが護ってるのか分かんねえなコレ」


「護るって言えばねぇ……そろそろ白黒つけない? ハクロちゃんだけに。どっちがルミねぇの騎士なのかって話で。ね? 優斗」

「は?」

「……ん?」



 なるほど。

 ハクロちゃんは元より王国古代都市所属の上弦騎士……ユウトも今は職業で炎魔騎士。

 確かに、二人共騎士だね。

 ナナミの突発的な言葉に、二人が向き合う。

 


「ユウト……、やるか?」

「やるかっ。勝てる気がしないぞ」



「剣聖に20万アル」

「俺は25万アル」

「―――大穴でユウトクンに1万アルだ」

「某も、それがしもっ」



 賭け試合始まったね。

 万年金欠の身には羨ましい話だ。



「良いなぁ。胴元として一枚噛ませてもらえないかな……」

「聖女の言葉とは思えませんわ。というか人が集まり過ぎるとやっぱりカオスに―――わわ!?」

「「!」」



 その時だった。

 それこそ先のライブラさんの撃滅に匹敵する熱波を伴う大爆発の衝撃が、やや離れた位置からこちらへ波及し。

 今まで頻発していた魔法由来の爆発じゃないね。

 あまりに規模が大きすぎるし、そもそも―――。


 ………。

 見るからに、戦場に変化があった。


 最早世紀末染みてきた、荒廃した巨大都市に空から舞い降りる影。

 巨大な一対の翼をもち、牡羊を思わせるような捻じれた双角を持った灰色の生物。

 驚くのは、その巨大さで。

 10メートル以上の生き物って皆見たことある? マッコウクジラとかザトウクジラ……生物界でも他を引き離すくらいに巨大な生物だけがその領域に踏み入られるんだけど。



「……成程。真竜。あれが……」



 そうだ。

 間違いなく、アレがそうなんだ。



「ユウト? あれ先に倒した方が勝ち?」

「だからやらんって。何でそんなにやりたいんだよ」

「ルミが言ってた」

「なんて―――……! おいッ……」



「真竜って一匹じゃなかったのか!?」

「「!」」



 ふたたび……そしてみたび。

 幾つもの攻撃魔法を束ねたみたいな巨大な爆発音、紅蓮の光とともに、空に投影される巨大な影。


 一つは雄牛のような巨大な角を持った西洋竜の特徴。

 もう一つは、まるで人毛のようなたてがみを持つ東洋龍の特徴……ゆえに、単純な体長は20メートルはありそうで。


 先のもう一か所で発生したもの合わせれば、十メートルを明らかに超える巨大な影は―――都合、三つ。

 これ……同時に三ヵ所で真竜が発生してるの……?

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