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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第九章:パースト編

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第12幕:鐘はなる




 情報を整理しよう、されよう。

 そもそも、全ての事の発端となったのはO&Tの発行した一刊の新聞。

 一面へ大々的に取り上げられた記事によって、私は私にそっくりな偽物がオルトゥスを震撼させる怪盗として幾つもの盗難事件を起こしていたという事を知り、興味を持った。

 そして、それと同時に完全な濡れ衣によって仲間たちから糾弾され、その対応策として事件の解決を提案された私は面白半分―――ではなく義によってこの騒動に身を投じる意志を固め、外の世界へ。


 秘匿領域を経由し、世界一の博物館で遂に怪盗本人と相対するも……、盗難と重なるようにして発生した殺人事件に巻き込まれてしまう。

 そして様々な出来事の末、名探偵の活躍により事件は解決―――するかに見えたんだど、それこそが全ての始まりだった。



 今、ここに世界を巻き込んだ第三次クロニクルクエストの幕が開かれた……と。



 ………。

 ……………。



「とまぁ……、そんなこんなで色々とあってね。事件は解決したけど、結局怪盗さんと協力者だった盗賊王さんには逃げられちゃったんだ。で、その時の同行者……皆ご存じ、事件を解決した名探偵。そして無様にやられてたのが彼だよ」

「……………」

「ご紹介どうもッ」



 怪盗に逃げられたことで不貞腐れる刑事さん。

 思い出して心底ご立腹の様子だ。



「てかアンタだけなのか。他の連中は?」

「こんな狭い店にゾロゾロ押し掛ける訳にもいかねえだろ。家宅捜索じゃねえんだぞ」

「される側だろお前は」

「だよな」



「―――狭い店で悪かったな!!」



「「……………」」



 ご立腹は伝播するんだ。

 言う程狭くないけどね、このお店。


 ……あれから時間は過ぎて。

 なんでだかクロニクルも発生しちゃったことだし、折角だからと今回も協力してもらいたいなって事でいつもの皆に集まって貰ったんだ。

 諸々、こうなるに至った経緯自体の大筋も今話したところだし、ここからは全体的な今後の計画といった所かな。



「では、改めてだ。年末の忙しい所で突然集まって貰って悪かったね、諸君。経緯を粗方話したところで、始めさせてもらおうか。第三回クロニクルの対策会議ってやつをね」

「「おー!」」

「お前等いつもこんな事やってんのか……?」

「みたいですわね」



 ……。

 クロニクルっていうのは、皆さんご存じで文字通りオルトゥス世界全体に影響を与えるような大きな戦いの舞台が用意されるようなイベントクエスト。

 下位には古代都市の一件みたいなシティクエストとか、都市そのものを争奪するイベントがあるけど、概ねその更なる大規模版と考えてよく、相手も強大な傾向。

 

 現状、クロニクルで敵対が示唆されているような、人界側のPLが長期的な討伐目標として掲げている勢力は二つある。

 一つは当然、ゲームの配信当初から言及されている魔族領域を支配する神様、魔神王。

 二つ目は、ストーリーが進んでいく程にその存在を目にする機会が増えてきた……人界の深く深くに根を張る闇の組織、ノクス。


 

「予想される今回のクロニクルの黒幕は、ノクスさんの方……また組織の最高幹部が一枚噛んでるって事で良いんだよな? その話的に」

「だね。目的は分かったようなものかも」



 ―――盗賊王シャア・リ。

 現状複数人が確認されている組織の支配層……王の名を冠する者。

 今までにも、ノクスという組織で同じように「王」の名前を持っていた人たちは居た。



「皇国の一件で立ちはだかった枢機卿の一人、死刻王ノワールさんでしょ? 大迷宮の件で皆が倒した不定王アートルム君でしょ? そして、今回の盗賊王さん……」

「攻略板の話だと、無明王とか鋼鉄王とかいうのも居るらしいな」


 

 聞きかじったような名前だ。

 その大半は確か、あの組織が崇拝してる地底の神々さまの名前。



「大体は神さまと同じ名前なんだよね?」

「ん。盗賊王さんだけ別口って感じ。何故か」

「盗賊神とかは聞いたこと無いしな」

「おう覚えとけ。いずれ俺が成るやつだ」

「はいはい、貴方は静かに聞いててくださいねー」



 今回の一件でマリアさんのレイド君に対するあしらい方が完成されたように思えるね。


 ……他とは違う異質さがあると言えばそうで。

 今回明らかになった過去背景からしても、彼の立ち位置と言うべきものは未だ見えてこない。

 

 神の名を冠するわけでもなく王に座し、組織の実働を務める最高幹部。

 結局何者なのかな? 彼って。



「告知文でも、意味ありげに全領域のプレイヤーが参加できるって書いてあったし。多分魔族領域の連中も出張ってくるんだろうな」

「―――協力もあり得るよなぁ、また」



 成程、総力戦だ。

 皇国の一件ではクオ―――例のPLな暗黒騎士さんと共闘したりもしてたし、今回もそういうのがあったら私も嬉しい、彼女も嬉しいウィンウィンの関係かも。



「皇国って言えばさ。例の、死刻王さんは倒したんだし、ノクスも着実に切り崩せてはいるのかな」

「いやさぁ、ルミねぇ。それがおかしな話なんだけどねー? 皇国の話の後でも、死刻王さんがクエストの文章だとか依頼者で現れてるって話もあんのよ」

「あの時確かにトドメ刺した筈なんだけどな。特にアートルム」


 

 大迷宮最深部での戦いだね。

 あの時は現状で考えうる最強の異訪者たちが集まって、かの十二聖天さん達の三分の一が手を貸してくれたかつ、三国の象徴たる御子さんの二人が頑張ってくれた上で何とか大神さま一柱の再封印へ漕ぎつけたんだ。

 けど、一柱でそれって考えるとやっぱり強大過ぎるかな。

 恐らく、今後ストーリーで不定神アスラ・シャムバラが関わってくることはないだろうけど……。


 或いは、決着の日が近いのかもしれない。

 トワもメインのストーリーはダレないうちにキリよく終わらせたいって言ってたし。



「―――えっとね。ここで一つ、色々と聞きたいんだ。私ってこれまでちょっとした観光とかでしか行った事ないんだけど……、皆の経験から見た要塞都市ってどんなとこ?」



 一つ、尋ねる。

 人界三国の領土的観点から最も西側に位置している帝国だけど、流石に三国最大とされる国土面積。

 その領土は大きく東にまで及び……というか、唯一国内で未だ人類の探査が進んでいない未開拓の地―――薄明領域へと隣接しているのが【要塞都市カストゥルム】


 つまり、今回の目的地で。

 


「要塞都市は元々薄明領域に生息する強力な魔獣だとか、或いは魔族の脅威に対抗するために建造された都市だって言われてます。初代領主様が行った最初で最後の大規模事業って」



 出たね、ワタル君の地方解説力。

 二次職に考古学者を持つ彼はオルトゥスの神話や民俗に対して並々ならぬ探求心を持ってる。

 こういう時は非常に心強いよ。



「それで、ここがミソなんですけど。曰く、要塞の建設には元々そこに在ったものを利用した……とも言われてて……」

「学者先生。早い話で頼むわ」

「―――……今回の告知にもある情報。無明の要塞、そして終末イベントの表記。それに、ノクスの最高幹部。敵も確定している事ですし、大体の予測は付くと思うんですけど……」


 

「要塞都市には地底四神の一柱……無明神オグド・アマウネトが眠ってるって言われてるんです」



 無明の城塞……無明神。

 しかも、相手は神様の復活によって世界の転覆を目論んでいるとされる組織の最高幹部。

 ここまで役者がそろえば、確かにその辺はカタいだろう。


 ところで……オグド・アマウネトって……?



「アマウネトって……エジプト神話の女神の?」

「知ってるのかルミねぇ!」

「ちょっとね」



 よく行ったし。

 写真を撮ってくれたりモノを持ってくれたり、周りの世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる人たちが多くて素晴らしい国さ……頼んだ覚えないけど。

 ともあれ小銭を切らさないのが良い観光客だ。



「僕も一通り調べて来たんですけど―――エジプト神話における神々、オグドアドの一柱。曰く、不可視の神」

「ハゲってコト……!?」

「そら見えねェんじゃなくてねぇんだよ」

「不可視の髪じゃねえよ」



 また髪の毛の話してるね。

 皆、若いのに好きものだ。

 ……確かに、あの神様は不可視の神や隠されたものなんて呼ばれたりもする。

 隠しもの、探し物……どこか今回のイベントに接点が多いようにも。

 


「無明神に関しては他の髪と比較して意外なほどに色々な所で情報が出るんです。……地上でも、秘匿領域でも」



 隠された神様に、隠された領域。

 秘匿領域の博物館トゥリス・アウルムで知った情報だけど、要塞都市の建材と秘匿領域の遺跡を構成する石材などはその性質に類似性が多く、学者たちの間でもその関係性は注目されているという事実。



「今回のクエストには秘匿領域の謎も絡んでくるっていうのが僕の見立てですけど……どうです?」

「確かに……偶然では片付けられないきな臭さがあるね」



 俄然興味が湧いてきた。

 これはヒストリーの予感だ。

 


「けど、そうなってくるとやっぱり私達PLだけじゃ荷が重いこともあるかもね。今回もどうにかして十二聖さん達の協力とか得られないかな」

「……例えばどうやって?」

「それは勿論―――偉い人のお家にごめんくださいして? 今回は帝国以外」



 本当はそっちにもごめんくださいしたいんだけど、今回ばかりは仕方がない。

 エトワール王太子殿下と鉄血候様に対してあれだけ大見得切ったのに今更助けてなんて言いに行ったら笑いものも良い所だ。

 だから、今回は帝国以外……王国だったらプシュケ様、皇国だったらリアさまに頼めば或いは力を貸してくれるかもしれない。

 あちらだってみすみす地底神を復活させるようなことは避けたいだろうからね。



「……まぁ、ルミ姉さんならいけますね」

「なー」 

「お前の人脈どうなってんだ」

「えへへー」

「褒めてるわけじゃねえからな」



 じゃあなんだって言うんだい。

 さてはいつも私が一人で旅をしてるからって友達も少ないだろうっていう当てつけなのかな。

 これは高度な駆け引きだ。

 そっちがその気ならこちらも友達沢山いるアピールを……。

 

 

「取り敢えず私は個人的に掛け合ってみるよ。皆も誘えるなら今私達が話した情報餌をにして仲間に誘っても良いんじゃないかな?」

「サラッと何言ってんだこの姉さん」

「今回は結構楽しむつもりさ。私自身、怪盗さんとは幾つか話したいこともあるし……レイド君達も勿論来るんだろう?」

「元より乗り掛かった舟だしな。―――当然借りは返す」



 やる気だね。

 ここまで鋭く真剣な彼を見たのは初めて。

 或いは、盗賊王さんは敵に回したら最も厄介な手合いを刺激しちゃったのかもしれない。



「―――さても、じゃあ……皆?」

「「……………!」」



 良い目をしているね。

 各々、成したい事があるが故……実に良い、けど。



「今日はここまでね」

「「えーー?」」

「これで一日に色々あり過ぎたからね。体力を残しておかないと明日の身が持たないんだ」



 あからさまに残念そうじゃないか。

 けど、明日は大晦日で明後日はお正月だよ? ポロリはないけどクロニクルも寝落ちコロリあるよ?

 運営はよくもこんなシーズンに最重要な日程を組んできたものだよ。



「年末年始だ。ゆっくりしたいじゃないか。リアルとゲームのバランスを取るのも出来るオトナだよ」

「大人ってすーぐそうやって」

「ま、この時期忙しいのもいるしな」

「……有り難うございます、ルミ姉さん」

「うん。皆で行くからね」



 そうそう、恵那とかは家のお手伝いで年末年始のログインが自然と減っちゃうだろうし、この際皆でお手伝いしてあげるとか。

 神社での年越しは中々に良いものだよ。

 


「それじゃあ、今日の予定は―――」

「あの、ルミエールさん? ところで……」

「話題に出てなかったが解散前にコイツ等にあっちの可能性は離しておかないのか?」

「んう? あぁ、そうだったね」



 結構大事な事を忘れる所だった。

 そう言えばここまでの経緯を話しただけで、彼の真の正体には触れてなかったんだ。

 今に寝る準備……ログアウトするかというところで、何らかの重要な空気を感じ取った熟練PLさん達の注意が向く。 



「ルミねぇ。あっちの可能性って?」

「うん。これもあの場に居た人たちだけが握ってるかもしれない情報なんだけど……盗賊王さんって要塞都市の初代領主さんなんだ」

「「―――は?」」



 館長さんの正体はずぅっと昔の伝説に語られる英雄。

 帝国四大貴族家の初代、その一人。

 

 その上で、長年未解決だった事件の犯人でもあるという事は、当初からして彼本来の目的は帝国と異なる位置にあるという事で。



「だからね? 帝国の始まりから今日まで、もしも彼がずっと今回のクエストに向けて歴史の裏で暗躍して準備していたとするのなら―――今回の舞台。要塞都市の政府そのものがあちらさん側の可能性も大いにあるって話だね」

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