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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第九章:パースト編

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第3幕:本日盗賊日和




「マリア姫に、サイン! 凄く嫌そうな顔されながらパンツにサインしてもらえた……! 凄く嫌そうな顔しながら、パンツにサイン! もう死んでもいい……!!」

「本当に死んでくださらないかしら」

「辛辣ぅぅ! でも好きだッ!!」


 

 ………。



「すぐに復活するだろうに。……ああいうのをとくしゅせいへきって言うんだろう?」

「―――あぁ」

「チャラオ君の意外な一面だね」

「あれでな。オタクに優しいギャルの逆みたいなもんだろ」

「絶対逆にしてはいけないものでは?」

「……? お宅に……、ぎゃる?」



 それなに?

 聞いたこと無いね。

 調べてみた方が良いのかな。



「うひょ~~、毎日履こっと」

「「洗え」」



 ところで、今のチャラオ君をショーケースに入れて展示品にしたら受けると思うよ。

 多分展示するなら動物園の方だろうけど。


 ―――ワイワイ……、がやがや。

 賑やかで良いね。

 勿論そういうのは好きだけど……まぁ、場所が場所だ。



「ところでさ? やっぱりちょっと騒がしいと思うんだ。君の所の副団長だろう? どうにかしてよ」

「いや、本日付けで除名しておいた。……てかなんでブリーフなんだよタカモリ」

「あ。ボクサーパンツなら許されてたでござる?」

「あぁ、トランクスでもな」

「許されないんですが?」



 許されないらしい。

 ジャンルの問題ではないっていう事だ。



「おいおい。マリア姫……だったか? 好きな女のパンツ、欲しくならないのか? 普通」

「サインの話ですよね? というかどうして女性なんですの?」

「そこは……変態性の問題? 流石にモラル的にNGだろ」

「同性の方が倒錯的ですが。盗賊風情がモラルを語らないでくださるかしら」



 さっきから話の内容が理解できないのは私だけかな。

 同じ言語の筈なんだけどな。


 この二人……存外に漫才適正が、高い?

 流石にマリアさんもオトナの女性……レイド君の放つギリギリのソレも、冗談を冗談と理解して対応しているらしく。

 


「あ、チャラオ。そもそもソレは拙者のパンツでござる。返して頂けるか?」

「―――なァ!?」


 

 で、あっちもやってる。

 取り合い……パンツの取り合いだ。

 パンツ悔い競争だ。

 この後の人生で悔いが残ること請け合いの言い合いだ。



「てめェ! 落ち武者ならふんどしでも履いとけよ! てーか良いだろパンツの一枚や二枚! パンがなければパンツを食べれば良いじゃない! 幾らでも作れるお前にとっちゃ一山いくらのモンだろ!?」

「高く買い取ってもらえる。欲しがるものがいる。例えそれが外的要因だとしても、欲しがる者が目の前に居るというのが問題なのでござるヨ。―――三万アルでどうでござる?」

「……くッッ、きたねぇ!」

「パンツだけにな」

「いや、パンツは汚くないだろ―――え、使用済みなん? アレ」



 ………。



「帰って良いかしら?」

「そうだね。まだ途中だし、鑑賞の続きいこっか。案内するよ?」



 ………。

 ……………。



 ………。

 ……………。



「というわけで。彼等、ギルド【傍若武人】の面々ね?」

「「よろ~~」」

「帰って良いかしら」



 結局引き留められて自己紹介した。


 すり抜けて他人の振りしようとしても、しっかりと連携して追い詰めてくるのも流石のスキルだ。

 図太さとバイタリティが凄いんだよ、彼等。

 伊達に大ぴらな暴虐PKをしてない訳で。 



「傍若武人……。まぁ、知ってますわ。ランキング上位のギルドばかりを狙ってPKを繰り返す札付きギルドの頂点みたいな無法者の集まりですわね?」

「そうそう」



 で、流石に札付きギルド。

 マリアさんくらいの情報通になってくると、或いは名前がそこまで通るくらいの厄介者たちなのか、既に知っている様子で。

 彼女は声を潜めるようにして私に耳打ちしてくる。



「一桁台の最上位ギルドも幾つかやられたことありますし。それでいて圏外ってことは、そもそもPKが手段じゃなく目的な狂人集団……」



 理論上、ギルドポイントを稼ぐ最高率が他ギルドの団長副団長を倒す事なんだっけ。

 そのギルドの総ポイントから割合で簒奪できるとか。


 

「ルミエールさん。何であんなのとお友達に?」

「クエストの最中で捕まっちゃったことがあってね。友達を人質にとられて、椅子に縛り付けられて……それで仲良くなって……」

「なんで?」

「そら色々あったんよー」

「本当に色々あったんでござるよ」



 ヒソヒソ話の延長に彼等も参加してくる様相。

 声を潜めつつも、展示品をあっちこっちと見回りながら進んでいく。

 マリアさん、あまり彼等と近寄りたくない雰囲気を出しつつも、何だかんだで話しはするらしい。


 まぁ、彼等も話してみれば悪い人じゃない……思ったほど話の通じない悪い人じゃないからね。

 悪い人だけど。



「あ、ルミエ殿。貴女の為に拵えたブツ……新作が出来ておりますゆえ、宜しければ是非ここを出た後にでも」

「ほほう……」

「裏取引の話なら私のいない所でお願いしますわ」



 ところで、いつの間にか私の株価もストップ安に……。

 もしかして麻薬カルテルの一員みたいに思われてたりするのかな。


 確かに私はやくぶーつの調査とかも色々していたけどさ?

 結局、皇国の一件であの辺が有耶無耶になって最後まで追えてないけどさ?

 今回は完全に誤解だよ。

 人を見かけで判断しちゃダメだよ? この人たちは中身も悪人だけどさ。



「―――そう言えば、マリアさんには言ってなかったね」

「何をです? 今更ルミエールさんがマフィアだって聞いても不思議だとは思いませんけれど」

「それも面白そうだけど、残念ながら違くてね。実は、タカモリ君は二次職で【仕立屋】を取っててね? 裁縫のスキルで……ほら、ご存じ私の海賊貴公子セットを作ってくれたのも彼なんだよ?」

「―――は?」



 衝撃の顔だ。

 多分私の身の上話した時と同じくらい衝撃受けてる。



「な……ぁ! ―――衝撃の事実……! こんなちゃらんぽらんたちの一人が……」



 マリアさんの中で元から低かったであろう彼等の株価もストップ安だったことが明らかに。



「―――あ、ジオラマ。真竜の全身骨格もだけど、私あの展示も気に入ってるんだ。皆も見たかい? 細かくて凄いだろう? 特にこのロートスの果実がびっしりと実った世迷いの森の様子なんかが良くて、よくよく見れば精霊さん達が……」

「そしてこのマシンガントークよ」

「展示の内容が入ってきませんわ」

 


 ジオラマは私も目を惹かれたものだ。

 これ、本当に細かくて良く出来てる。

 

 広い大部屋、並んだガラスケース……箱庭の世界。

 大まかには、年代順に並んだここ秘匿領域のイメージ情景があって。 

 今よりずぅっと昔……この地下世界に根付いた種族。

 初めのうち、この地域に住む妖精種さんたちは狩猟によって暮らしを発展させていたんだけど、魔物の脅威はあまりに大きく……狩る筈が、逆に狩られる日々。

 ある時どう文明が発展してしまったのか、まるで一夜城のように 巨大な城塞が築かれ。

 天が与えたかのような防壁の中で、彼等は農耕を生業として歴史を築いた。

 

 近年の研究では、秘匿領域で出土したこの城塞跡を始めとした遺跡と、帝国の要塞都市に存在する長城の材質が全く一緒という事実が分かり。

 この辺も人界最大の謎の一つって言われてるらしいね。


 果たして、古代のエルフさん達はどんな生活をしていたのか。

 長城は一体どういう文明が作ったのか? そもそも膨大な材料は何処から?


 古代ピラミッドの謎が判明する前みたいに考察が捗って。

 疑問は沸き出てくるばかりで。

 


「ところで、さ」



 話の延長と、ぞろぞろと付いて来ているレイド君達へ振り向きざまに話しかける。



「んあ?」

「今更かもだけど、君たちはそもそもどうしてこっちに来たんだい? 怪盗さんに用事があるっていうのなら、次の予告地点の方に行くのが良いと思うんだけど」

「えぇ、帝都の方ですわね」



 本当に今更だ。

 さっきの私達に同行したいっていう話もそうだけど、彼等にとってリーダーであるレイド君の命令は大きい。

 けど、その彼自身はあまり外部の人と群れることを好まない筈だし……。



「―――んまぁ……別に、隠すような事じゃねえしな。今回の怪盗騒ぎ……裏でアイツ等の実働部隊が動いてんだよ」

「「あいつら」」



 彼は語る。

 今回の遠征の目的を。

 そして、私が知る限り、彼等がここまで熱意を燃やす対象となれば……。



「―――ノクス……。怪盗が盗みに入った場所ってのは、大抵ソレに前後して奴らの姿も確認されてる。しかも、それを率いてるってのが……最高幹部。盗賊王シャア・リ」



 そんな名前だったんだ。

 リってアレだろう? 何処かの国の言葉で王様って。

 勿論、Re……再生の意味もあるし……。

 シャア……焼け焦げた、炭……炭の王? 再生する炭?


 何でも再利用できて便利そう。


 最近思ったんだ。

 このゲームって、案外名前に大きな意味があったりするのかもって。

 ほら、クオンちゃんの通り名ヴァディス・クォもラテン語で言う何処に行くのか~~みたいな言葉だった筈だし。

 ロールプレイ……何かそういった役割を与えられてるんじゃないかな、NPCさん達も。

  


「盗賊王―――……って、何ですの?」

「あ、うん。レイド君達はね、その人を倒したいらしいんだ。逆恨みで」

「逆恨み?」

「人聞きわりィ!」

「せめて義憤と呼んでほしいものですな」

「盗賊団が人聞きを気にするのやめてほしいのですけど―――盗賊団? もしかして……」



 流石名探偵。



「そ。キャラ被るから消えて欲しいんだって」

「逆恨みじゃないですか」 

「「……………」」



 ぐうの音も出てないし。

 実際、レイド君のユニークは【強欲王】で王様が被っているというのもある。

 


「ふふ。闘志を燃やす相手の名前が焼け焦げた……なんて、面白いね。既に燃えてる」

「やかましい」

「「?」」

「Charって言葉にはいろいろな意味がありますからね。キャラクターの略語とか……何の話でしたっけ?」

「―――そもそも、きな臭ェ話なんだ」

「燃えてるからね」

「だからやかましい、聞けッ。……怪盗と奴らが同時に、だぞ? NPCとPLが、だ。この時点で何らかのクエストが動いてるってことが予想できる。おおよそ、ろくでもない」

「「……………」」

「んじゃあ、それが果たして、奴らは協力しているのか、敵対しているのか……ってことになるわけだが。実情を紐解けば、俺らにも付け入るスキが出来るだろ? 実際」




「……小ギルドの規模でそこまで情報仕入れてますの。案外やりますわね、コレ」

「もはや名前すら呼んであげないんだ。……彼ね? 結構やるんだ。コレで切れ者だよ」

「コレコレ言うなコレ」



 会話を交えつつもやがて辿り着くは、大きな博物館の中には大抵ある、中途の休憩スペース。

 座席や自販機が置いてあったりして、ある程度の声量なら許されるオアシスだ。


 スペースもかなり広いし……。



「―――フム? ここなら……。あ、タカモリ君?」

「うん?」

「ちょっとお願いがあってね。お耳拝借ごにょごにょごにょ……」

「ほう……、ほほう……」



「相分かり申した。では―――当初の予定からは変更して、ルミエ殿にはこちらを……無論、こちらも自信作ゆえ。さ、ささぁ! どうぞお召しを!」

「これはいい仕事だ……それっ」

「「!」」



 服を翻し打つ、一回転する間に早着替え。


 それは、恐らく現代社会の街中に居ても不思議じゃない格好だ。


 ばっちりと決まったロングネクタイと、白のワイシャツをピチリと包むスーツベスト。

 重厚な質感の黒地でほんのり光沢のある革手袋を付ければ―――おっと、紳士の象徴……忘れちゃいけない堅木ステッキ。



「ばばん。どうだい、これ」

「「かっけー!」」

「イギリス紳士って感じですわね」



 そうとも。

 かの名探偵らの活躍の舞台……皆が創作で浮かべるような19世紀ロンドンを思わせる、まさしく紳士服。

 でも、これは完全に助手さんファッションで。


 ―――と来れば……。



「さーぁ、マリアさん……?」

「「ぐへへ……」」

「ちょっ!!?」

「良いではないか、よいではないか。よいよい、よいではないか」

「またこの流れですのぉぉぉ!?」


 

 大勢で寄ってたかって……は、聞こえが悪いから、私が丁寧に、紳士然と手伝ってあげる。

 ポカポカ、キャーキャー。

 たちまち、お忍び貴族さんみたいな恰好だった彼女は姿を変えていく。

 


「―――うぅ……。これは……?」



 数十秒して。

 私達の目の前には確かに探偵さんがいた。

 茶のコートに身を包んだ、まさしくかの名探偵を思わせる服装。



「インバネスコート……所謂男物の外套ですな。かの有名なシャーロックホームズの服です」

「……むむ、ぅ。どうして私が……」

「口では抵抗してるけど身体は正直だよ、マリアさん。さ、ちゃんと咥えてね」

「言い方!」

「で、こっちの帽子はディアストーカー……鹿撃ち帽だね?」

「流石ルミエ殿、よくお分かりになる。―――あ、マリア殿。パイプはしっかりと咥えてていただかないと」

「ふぇ……。なんで私がこんな目に……」



 でも、さっきから結構楽しんでるよね、実際。

 くるりと一回転してみたり、パイプを手にポージングしてみたり。



「名家の令嬢がお忍びで探偵……良いね、実に良い」

「似合うものですなぁ……」

「ところでクビにした副団長は?」

「清らかな顔で召されてる」


 

 まぁ、よく似合ってるから仕方がないね。

 元よりキリっと整った緑の眼差しに、茶の探偵服が映える同色の髪……本人の知識量も充分。


 探偵にも多くの推理形態が存在するだろうけど、彼女はまさしく行動派。

 実際に現地へ赴いて聞き取り調査、身を粉にしたカーチェイス……。

 安楽椅子の探偵とはいかない訳で。



「私? 勿論安楽椅子が良いね。自宅でのんびーり」

「とんだマイクロフト・ホームズだな、こりゃ」

「マイクロソフ……?」

「ま、調べてみな。―――んじゃ、俺らも着替えるか」



 どうやら今回は全員分あるらしい。


 ガサゴソ、ゴソゴソ……。

 十余人の彼等はたちまち均一の制服に特徴的なヘルメットを着用した集団……警察官の風体に身を包む。



「スコットランドヤード、ってな」



 これは模範的な盗賊団。

 このガラの悪さを見れば、誰でも彼等が普通のお巡りさんだとは思わないだろう。


 名探偵に、その助手。

 そしてそれをサポートする警察さん達。

 これはまさに、探偵団の結成―――公的権力と民間の癒着もかくやという所で。



「ま、友好の証ってことで。コレで許可して食えねえかなぁ、姫様よ」 

「―――結局、あなた達もご一緒するってことなんですの?」

「まぁ……」

「お許しいただけるのならば」



 先程までの彼女なら、一も二もなく断っていた筈だった。

 けれど、今の彼女は……。


 まるで悩むように自身の風体と天井を見比べ、私と見比べ、逡巡し。



「……あの。この服、くださる?」

「も、勿論!!」

「……何でチャラオが了承するんでござる?」



 どうやら本当に気に入ってしまったらしい。

 


「勘違いしないでくださいね。お揃いが嬉しいからってワケじゃないんです!」

「―――ぐッッはぁぁ!!?」

「元・副団長ぉぉぉ!」

「事件だ! 館内殺人事件だ!」

「迷宮入りの香りしかしないな」



 ………。



「ふふ……これにて結成、だね。怪盗の正体暴き隊」

「絶望的にダサい……」

「却下だ、却下」

「ささ、名前が決まったと来れば次は色々今後の計画とか、親睦を深める場が必要になってくるよね、そうだよね」

「あ、その名前で既に決定路線なのね」

「意地でも話聞かないのホント流石ですわ」



 ……探偵のお仕事対象は、事件解決のみに限らないんだ。

 迷子の犬猫探し、浮気調査、張り込み。

 古代のロマンを解き明かす……考古学者の専売特許じゃないんだよ?

 


「そうだ、折角だし、皆で遺跡観光行こうよ。ほら、城塞跡。そうだ、それが良いね」

「「………?」」

「折角博物館まで来たんだからさ? 例のジオラマの所、行ってみないかなって。博物館と並んで観光名所になってるらしいし―――魔物出るらしいし」

「―――あっ、てめェ」

「それが本音ですわね」



 だって一人じゃ危ないし、怖いし、寂しいし。



「おやつも持ってきたんだ、ホールケーキ。お紅茶もあるよ? ちゃんと全員分ある。おかわりもある」

「「おぉ!!」」

「それは手作りでございまするか? お姉さん」

「無論、美人店員さんの手作りさ。キャリアウーマンさんだよ? お店に来てくれたら紹介するね」

「「おぉ……!!」」

 


 大多数の承認は貰った。

 ふふ……。

 お金と人脈で人を動かす……探偵助手っていうのは、裏方として多くの事をしなきゃいけないものさ。



「おい……おい? おーい……。何か趣旨変わってね?」

「ふっ……。貴方もあの人に関わった事があるなら分かるでしょう?」

「―――……今更だったか」

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