第16幕:創世の妖塊
『warning―――、warning―――、warning……』
警鐘染みたアナウンスが続く。
一体、どれだけ続いたんだろう。
少なくとも、緊張の時間は一分近くずぅぅぅぅぅっと続いて……。
でも、誰もが気を緩めることは決してなかった。
そのアナウンスが現れてからというもの、立っているのもやっとな地響きがずっと続いているのもそうだけど……。
これは。
先のタウラスさんの一撃とまでは行かないけど、ハッキリと感じることが出来る程度に続く揺れ―――全てを包み込むように収縮する大空洞。
皆、その可能性が脳裏を過る。
みんな、一度くらいは想像したことがあるんじゃないかな?
ずっと昔からある空想だ。
そう、例えば―――。
今いる場所が、生きている世界が、空間が。
自分より遥かに巨大で強大な、何かのお腹の中かもしれない……って。
「「……!」」
「―――溶……、岩?」
誰かが呟いた。
大迷宮最深部の奥……私達が踏み込んだ更に先から、方々の地面を突き破って噴出する液体。
ドロドロで、熱気が感じられて……融けた金塊みたく黄金色に輝くその溶岩は……。
「わぁお、凄いねドロドロ。中東で油田掘り当てた現場に居合わせたの思い出すよ」
「言ってる場合じゃねえ!!」
「滅茶苦茶気になるけど聞いてる場合じゃねえ!!」
「黄金―――止まらない……!?」
「ヤバいって!! アレ―――あれ、マジで―――本当に、アレが……ッッ!!?」
皆の狼狽が止まらない。
確かにそこかしこからマグマって、一般に途轍もない恐怖だけど……ん。
違うね。
皆と私とでは、違う何かが見えているみたいで。
傍ですぐ反応したのはユウトと、ナナミ、クオンちゃん……鑑定持ちの子?
つまり、これは。
―――あ。
こういう時の為の秘密道具、鑑定メガネがあってだね……。
「「撤退ぃぃぃい!」」
「しかないよねッ。皆転進! 取り敢えず走ろう!」
「同意は癪だが仕方ねェ、逃げるは恥だが役に立つ! ってなわけで逃げろぉぉ! 古龍戦団転進ッ!!」
ギルド関係なく、みんな我先に逃げてくね。
あぁ、ちょっと待ってちょっと待って。
眼鏡が。
「ルミねぇ!! 逃げるぞッ!!」
「ちょっと待って。めがね、めがね……」
「呑気……! もう担いでいきましょう、頭持ちます!」
「足もつ」
「腕持つわ! マジでヤバ過ぎだろあんの―――」
皆ちょっと取り乱し過ぎじゃないかな―――あ、メガネあった。
「装着……―――ぅ? ……お?」
画面いっぱいに何か表示されてるね。
これ、ステータス画面……溶岩の?
まさかあれって魔物なの……あ。
あぁ。
これは、確かに。
――――――――――――――――――――――
【Name】
不定神 アスラ・シャムバラ (Lv.***)
【種族】 地底の水 創世の妖塊
【深層位階:**級】
地底の大神が一。
貪り、平らげ、世界を覆う。
地底の水は特定の形を持たず、大海に溶けた全てが神の肉であり、骨であり、力である。
溶け落ちた精神は**。
自身の欠*を補うため、冷たい**を続ける為、生ける全てを呑み込み続ける。
顕現時、自身へ■■の****を付与、状態異常無効を付与、物理攻撃無効を付与。
【権能】
・古の遺骸(能力値喪失)
・眠りの水魔(超速再生)
・***(レベル喪失)
・■■■(不死属性)
・******(物理攻撃無効)
・******(状態異常無効)
・******(貫通無効)
・******(眷属強化:特大)
【基礎能力】
体力:****(――) 筋力:****(――)
魔力:****(――) 防御:****(――)
魔防:****(――) 俊敏:****(――)
――――――――――――――――――――――
「「バケモノぉぉぉぉぉぉぉおッッ!!」」
言い表すなら、その一言で十分だ。
ここから今までの全部ナーシ、全部演出でしたって言われても信じるよ? 私。
この件の話全部白紙に戻して今から決勝戦の観戦に戻らないかな。
あの読めない部分―――多分鑑定のレベルが低すぎるからだと思うんだけど、三桁あるって事は間違いなくレベル100以上って事だろうし……。
「レベル300って何!? バカなの!? バランス考えろ、ばか!」
あ、三百らしい。
やっぱり鑑定レベルの問題か。
「ごめんなさい神様なめてました! なに? 何なの!? 冗談じゃないくらい化け物なんですけど!?」
「権能多すぎぃ!!」
「ソレと、溶岩なら物理法則に従ってもちょいゆっくり進んでくれませんかね!」
本来、普通の溶岩が流れる速度っていうのは非常に遅々たるもので、徒歩で逃げられるくらいの筈だけど―――自転車くらいありそうだね、アレは。
「退避ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「「―――――」」
当然に全員が逃げ出していた。
誰も文句を言わずに逃げていた。
コケたりして倒れたら、まず間違いなく飲み込まれる。
戦う戦わない以前の問題で。
地震に立ち向かおうとする人間が居ないように、津波に逆らおうとする人間が存在しないように……人間は、自然災害には勝てないのだから、こうなるのは自明の理で……。
「―――“紅蓮鎚魔”」
「―――刃閃」
………。
もし災害の巻き起こる渦中で立ち向かおうなんて考える者がいるのならば、ソレもまた同時に発生した災害の類なのだろう。
くぐもった高い声と、しわがれつつもハッキリと重厚感のある声。
金色の大海が左右へ割れ、大津波となって吹き飛ぶ。
皆の足が止まり、御輿のように担がれていた私も頑張って首を動かす。
「―――とことん自由な者たちめ。いっそ羨ましくなってくるわ。何の為に地の底までやってきたと思っておる? のう、若き鎚」
「……………」
白刃の剣聖。
紅蓮の戦鎚。
彼等が武器を手に、前へ出ていた。
「怖いのならば、下がっていれば良い。後方から支援してくれるだけでも良いさ。なに、君たちには、私達12聖が……天の守護者が付いている」
「それでは不服ですか? 異訪者」
金壁の天盾。
銀閃の刀姫。
人の枠を超えた超越者たちが、前へと進み出て。
およそ、それに触発されたのだろう。
「「―――――“破弦”」」
不意に放たれた弓が、波打っていた黄金を貫く。
濁流と押し寄せていたソレの速度が僅かに鈍る。
「……む。案外、当たるものですね?」
「ふむむ……えぇ。当たるのならば、殺せるという事ですとも。物理は無効のようですが―――先の試合の汚名を返上させて頂いても? 公子殿」
「―――弓兵どもに越されたな。……ロランド。当たるみたいだから取り敢えず切ってみろ。話はそれからだ」
「……良かろう」
「ゴードン、溶岩割れる? 進みたいんだけど。ロッカは射撃、老師は後方支援。いつも通り」
「―――あい、あい」
「「承知」」
最初は、後衛が。
彼等が12聖の存在を頼みに、自ら攻撃を始め。
続き、前衛が。
溶岩にダメージが通る通らないはさて置いて、攻撃を行う事で侵攻を妨げられるという事が分かり。
「先があるのならば、進むべきだ。征けるものは、征くべきだ。―――戦法は定まったか。ゆくぞ、騎士達よ! 戦え、英雄たちよ!」
「「おおぉぉぉぉぉぉ!!」」
剣を抜いた騎士王くんの号令で、騎士達の身体に金色の光が宿る。
揺らぐような、オーラ。
「……騎士王のスキル。仲間の能力強化だな」
「聞いたことはあるけど、本当にマリアさんのと似てるんだ」
対象が制限されている分、補助的な効果とかもありそうだ……と。
動き始めた戦場。
前衛達が溶岩の行く手を阻み、遠距離から放たれる攻撃が穿ち、十二聖が武器を一振りするごとに大きく後退する。
ゆっくりと道が開かれると同時に、この広大な地下空洞を幾重もの思考と策謀が交差しているように思う。
ヨハネスさんなんか、まさに典型。
生き残り優先で立ち回っているであろう人たちもチラホラ……。
さっきまで逃げ戦だった大空洞が、今や。
戦争でなく―――無謀も無謀な、自然災害へ挑む人間達の話に変わる。
「「―――――」」
熱気は今や、灼熱のマグマを凌駕して。
分泌されているだろう脳内麻薬による高揚感が、皆の恐怖を忘れさせているみたいだ。
伝染する熱さ―――感化されてきた……興奮してきたね。
私も何かしたいな。
「ねぇ、私にも何か出来れば―――」
「ルミ……!」
「ルミエールさんッ!!」
不意に、ハクロちゃんとクオンちゃんが私へ飛び掛かる。
視界の半分が塞がると共に、私には視認すら出来ないような、コマまわしにも近しい速度で破城鎚、千年クラスの大木を思わせる触手が後方の壁に突き立って―――触手?
金色のソレは……。
え、流動のマグマでそれやっちゃう?
溶岩っていって、やっぱりあくまで生命なんだ。
さっきまで私が立ってた場所も軌道内だったから、二人が護ってくれたのか。
……ところで、拓けた視界と共に、ショーウィンドウが幾つも粉々になったみたいに飛び散り、消えていく欠片は。
今ので何人……何十人死んだ?
サーバー最高峰の、レベルカンストで名のあるPLが……こんな呆気なく?
「ともあれ助かったんだね。ありがと、二人共―――」
「ん、足手纏い」
「何で来たんですか? 本当に」
私も思った。
どうして私は此処に居るんだろ……。
「うーん……」
「悩むくらいなら、せめて後ろで応援しててくだ―――さいッッ!!」
「おーー」
飛んでる……わたし宙飛んでる?
投げられた、本当に投げられた。
クオンちゃんは私に何か恨みでもあるらしい。
けど心当たりしかないよ。
まさか人に投げ飛ばされて、弧を描いて飛んでいく漫画染みた経験をするなんて―――どう着地するんだろう。
誰かブーケトスみたいに受け止めてくれないかな―――ぁ。
「うわぁあぁぁ!!?」
「回避ッ―――間に合わな……」
「「―――――」」
断末魔の悲鳴が聞こえる。
あの一撃を皮切りに、激しさを増していく触手の連撃。
恐るべきは、その速さ。
たった一撃でトッププレイヤーを塵芥と消滅させる程の一撃の癖して、私じゃ残像しか映らないくらいに速くて……それが数十と、次々に、ジャブのように……ジャブジャブ?
カメレオンの舌みたく、次々打ち出される。
一撃ごとに石壁が抉れ、轟音。
最早戦域に真に安全な場所なんてどこにもないらしく……私の着地予定地点に居た後衛さん達が纏めて消し飛ぶ。
今までと同じ……ううん、比にならないくらいに命が軽いよ。
ここにいるの、私以外トップクラスのプレイヤーばっかりなのに……あ、地面激突―――。
「―――やわらかっ」
地面に落ちる刹那、クッションのように柔らかい衝撃に包まれる。
「ルミエールさまっ。大丈夫ですか!?」
「……ステラさま」
「ご無事、ですか……」
リアさまも。
随分青い顔して……こっちがソレ言いたくなっちゃうじゃないか。
―――ドゴッ。
そうか、当然だよね。
二人が前衛に出るわけにはいかないもんね。
後ろの安全な場所に居てもらうのが……。
―――ドゴッ、ドカドカドカドカ……。
本当に安全?
「……わぉ」
顔を青くしているステラちゃんと、同じような顔ながら額に汗を浮かべているリアさま。
今この瞬間にも、何度も何度も目の前に叩きつけられる溶岩触手。
衝突音と共に灼熱の金が飛び散る。
取り敢えずリアさまの汗は拭いてあげて……。
どうする? 手伝う?
私、無言劇には自信あるんだけど。
「凄いね、この壁。一流のタンク職でもひとたまりもなさそうな攻撃なのに……」
「結界術は……、得意分野、です……!! けれど……ッ!!」
「あわわあわ……罅が!」
入ってるね。
どれだけ頑丈でも、この波状攻撃にはどうしようもないらしい。
「―――ッ……、ぅ!!」
リアさまが呻く。
それらが叩きつけられるたびに罅は大きくなり。
やがては、轟音と砕け。
と―――パルテノン神殿の石柱の三倍もありそうな太さの触手が一刀両断されて左右に割れ、それが更に上下に割れる。
都合三連撃。
熱風と共に視界に映り込む、大小の剣閃。
「まだじゃ。その程度、本領とは言えん。もっと……更に力を込めい」
「難しい……」
「人智及ばぬ上位存在……或いは、神と戦う。聖剣は本来そのために創られた―――相手が神なればこそ、十全に力を振るう事が出来るのじゃ。儂と同じようにやってみるがいい。あ奴を護りたくば」
―――ちら。
「ルミ。見てて」
「あ、うん」
護ってくれてるんだよね?
アルバウスさま、私達可哀想な非戦闘枠を都合のいい訓練教材にしてないよね?
剣を振るう姿さえ目に映らないまま、既に細切れになっている触手。
剣を収めた剣聖はハクロちゃんに同じ動作を促す。
教育ママ……パパ? お爺さん?
厳しいながらも、しっかり抽象ではなく具体的に言葉を連ねるアルバウスさまの姿がお爺様と重なる。
蒼白く、月光のように輝きを増す聖剣ムジュン。
同じく、薄く輝くアルバウスさまの長剣。
……あれ?
「―――ステラちゃん。アルバウスさまの持ってるアレも聖剣なの?」
「ちゃん! ……あ、いえ。あれは……」
「普通の剣、ですね……力を感じません。ところでルミエール様? 私にも「ちゃん」と呼んでいただきたいのですが……」
だよね。
私からもそう見えるんだ。
「どうして普通の剣で聖剣と同じ攻撃が出来るの?」
「「……さぁ?」」
「ルミねぇ、無事か!」
「さっきは投げてごめんなさい!!」
ユウトたちがこちらへ走ってくる。
……見た感じ、皆いるね。
大人数―――数の力っていうのは、歴史を見返しても大正義なのは間違いないけど。
幾ら広いとはいえ、ここは地下の閉所。
最適な人数や向き不向きはあるのだろう。
そういう意味では、人数が減って、ある程度触手の動きに適応できた今の戦況こそが戦場本来の姿。
同時に、余裕が出来ているという証拠。
「「―――――」」
「押しているぞ、殲滅せよ! 王断ッ」
「―――焔轟乱舞ぅぅうッ!!」
斬撃、打撃、刺突、射撃……属性付きの武器攻撃によって切り離された溶岩の欠片が、魔法による攻撃で消滅する。
短い戦いの中でPL達が優位に立ち始める。
蒸発していくように。
数十のTPたちの攻撃が嵐となって、金色の溶岩の大元が小さくなっていく。
「もうひと押し、皆ファイトだよ!!」
「最後まで油断なく叩けッ。戦術の基本よな」
………。
当初、足場全てを埋め尽くし、なお押し流さんばかりだった金色の濁流は、既に一か所へ纏められ。
群がるPLに対し、敵の方が足りていないくらい。
前衛にも暇な人が出来るくらいの戦力差で。
「……なんか―――ふたを開ければ案外呆気ないんだね。半数以上死んでてアレだけど」
「……な。嫌な予感しかせんのだが」
「起きたてで寝ぼけてたんじゃない?」
「「―――寝ぼける」」
………。
……………。
「油断などしてくれるな。武器をしまうには早すぎるぞ、諸君。盾を構えろ」
「剣を抜いてください」
勝利のムードというより、不可解という考えの方が多数派だったのだろう。
辺りを見渡していた彼等へ、リオンさんとパルテノさんが促す。
………。
洞穴内の振動は、未だ続いていた。
戦いの最中も、ずっと続いていた。
―――ずっと、ずっと。
膨張し、収縮し、膨張し、収縮し……膨張し、収縮し。
まるで、胸が上下するように……吐息を漏らすように、大きく、緩やかに空間は震え続ける。
その、えも言われない違和感に。
不可解さの正体に、ようやく思い至る。
「―――なぁ、皆。嫌な考えが頭過ったんだが」
「奇遇だね」
「俺もだ」
「……我々の考えが確かならば、よもや、これは……」
………。
……………。
「―――ね、ユウト。ナナミ。この能力値の虫食いって、何だったの?」
「この二文字の後か?」
「状態異常……だね」
「じゃあ、この虫食いは?」
「「……………」」
「例えば、睡眠……とか?」
不定神さまの、説明文。
「戦闘開始時、自身へ■■の****を付与」……つまり?
「もしかして―――寝てるだけ? これ。ずっと……今も」
「「!」」
考えたくもない話だけど。
もしかして今までの……、戦いですらなかった?
必死の抵抗も、激戦も。
アリさんたちからすれば天変地異にも等しいものだったとしても、寝返りを打つ人間側からすればまるで考慮する必要もないくらいの些事なわけで……気持ち悪いから振り払いはするけど、本当に只それだけ。
「……ふふふ。気付かれましたか、皆様」
「「!」」
ここにきて、大空洞の奥から人影が現れる。
同時に、12聖の皆が武器を構える。
―――けど……私は、その人影の二人……一方に見覚えがあって。
「まさか……。アールさんじゃないか」
「何と! あの時のNPC……!!」
「「ノクスの伝令者さん!」」
そんなこと言ってたっけ。
じゃあ、やっぱり封印を解いたのって。
「―――はは。よもや、12聖が四人も! そして―――異訪者様らがこんなにも。見知った顔も、チラホラと……ふふ」
一瞬こちらにもチラリと向けられる視線。
金髪青目の美青年さんは、薄く微笑み。
隣には、ハクロちゃんと同じくらいの子供が……子供?
にしては随分と。
「「―――ッ!!」」
その時。
再び、大地から黄金の溶岩が噴き出す。
……さっきよりも明らかに大量に……河川が決壊したみたいに、一気に。
噴き出したソレは、獲物に食らいつくかのように手近にいたアールさんと、子供に雪崩れかかり……。
「―――ダメだよ、パパ」
寸前で停止し、割れる。
二人を避けるように……海が割れるように、左右に分かれる。
「アールは伝令だからね。君たちと会う機会もあっただろうけど。僕とは、皆初めてだよね? 僕も、素の顔を晒すのは初めての筈だし……ね」
「「……!!」」
子供の纏っていた外套―――フードが取れる。
その下にあるのは、焼け爛れたような、貌のない顔面。
眼も、鼻も、口もない。
「う……ぇ」
「……これ、は―――SAN値が……」
「にらめっこ最強だ……」
「「……………」」
衝撃を受けたように固まるこちらへ対して、彼は意にも介さないように「ところで」と呟いて。
「ね、聞いたことはないかな? 君たちは。今ある世界は、全て神様の夢の中の出来事に過ぎないって御話。君たち人間が考え、喜び、苦しむ。けど、ソレは……それら全ては、神様が目覚めればはじけたように消えてなくなる、一睡の夢に過ぎないんだって」
「……ルミねぇ」
「聞いたことはあるね。よく言う、思考実験の一つだ」
「―――あなた達は……ッ!!」
と……握りこぶしを震わせていたリアさまが、叫ぶ。
「そのような戯言を謳い、何をするつもりなのですか! ―――ノクスッ!!」
「あ、御子様。元気になったんだ。良かったね。ノワールが心配してたよ?」
「「!」」
事情を知ってる側からすれば明らかな侮辱に、アルバウスさまたちが武器を構える。
国は違えども、やっぱり12聖は御子の守護者らしく。
「おとと……何の話だっけ―――何をするつもりか? ううん、別に? ちょっとした、世間話」
「地底の神を―――不定神を復活などと! 貴方たちは一体何を考えているのですか!? オルトゥスを―――世界をどうするつもりなのですか!?」
「別に? どうとも?」
「「!」」
「深くは考えてないよ? ただ、強いて挙げるのなら―――遊んでほしいのさ。休日に寝てる親を起こして、一緒に遊んでもらう。ただ、それだけなのさ。だから、別に何を成したいわけでもなければ、名乗る必要もないのだけど―――おっと、怖い怖い」
ステラちゃんとリアさまの意思に応えるように、皆が武器を抜いた。
皆、やる気だし、どうすべきかは分かっている。
彼は……敵だ。
彼こそが、クエストのsub討伐対象―――黒幕。
現金な話だけど……皆、報酬が欲しいんだ。
「そっかぁ……。やっぱり、君たち異訪者もそうなんだね? 純然たる僕達側の癖に。まぁ、それがお望みなら、別に良いよ? どうせ、世界は終わるんだから。それまで楽しもうか、精々」
「―――僕は、アートルム。ノクス六王が一、不定王アートルム」
「さぁ、始めようか。世界の終わりを」




