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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第二章:マニュアル編

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第3幕:協力、素晴らしきかな



 ……約束の時間には。


 ちょっと、早すぎたかな。


 ここは、トラフィークにある何時もの噴水広場。

 他都市を知らない私からすれば、彼らがこの場所を待ち合わせに選んでくれたのは非常に僥倖だったんだけど。


 困ったことも、一つだけあって。


 ちょっとくらい早くとは思っていたんだけど…。

 少しばかりか。

 随分と、早く着いてしまったようだ。



「どうやら、自分でも気づかない程ワクワクしているらしいね」



 まさか、現実での友人。

 それも、大切な幼馴染たちと一緒にゲームが出来るなんてね。

 果たしてどんな格好で、どんな姿形をとって現れるのか。

 あらゆることが楽しみになってしまって。


 とても待ち遠しい。


 奮発して買った装備も着たし。

 能力値とか、持ち物の点検でもしていようかな。




―――――――――――――――

【Name】    ルミエール

【種族】   人間種

【一次職】  無職(Lv.6)

【二次職】  道化師(Lv.4)


【職業履歴】 

一次:無職(1st) 

二次:道化師(Lv.4)


【基礎能力(経験値4P)】            

体力:10  筋力:10 魔力:18 

防御:10(+5) 魔防:0  俊敏:10(+2)   


【能力適正】

白兵:E 射撃:E 器用:E 

攻魔:E 支魔:E 特魔:E

―――――――――――――――




 防御の補正は装備分だね。

 本当に、雀の涙ほどしかないけど。

 

 ……あれから、また狩りもした。

 【無職】は本当にレベルの上昇が早いね。

 せっかく経験値が4も余っていることだし、もう振り分けてしまおうか。


 …ここは、俊敏と。

 魔力に割り振るのが良いのかな?

 俊敏はいくらあっても良いし、魔力は20になるし。


 【縛鎖透過】が四回も使えるじゃないか。



「…な、なあ? お姉さん。良ければお茶でも」

「いや、こんなブ男よりも私と」



 …近くで声が聞こえるね。


 随分と、人気な女の子がいるようで。


 もしかしたら有名人かも?

 とても気になるね。

 近くで聞こえる男性達の声に、私は何が起きているのかと顔を上げ…。




「「いえ、貴方です」」 




 彼らの視線が。

 真っ直ぐ私に向けられていることを確認。

 後ろに誰かが居る可能性を考慮して振り返ってみたけど。

 どうやら、私で間違いないらしく。

 


「すまないけど、友人を待っているんだ。でも、それまでの話し相手で良ければ、大歓迎だよ?」

「「はい! よろこんで!!」」




  ◇  




「…さて、何処にいると思う?」

「ちゃんと正確な場所も聞いておけば良かったですね」



 皆で集まってから。

 すぐに行動を開始し。


 俺たち【一刃の風】は、特別任務を遂行していた。


 任務は簡単。

 ある人物を発見して、合流するだけ。


 噴水がある広場は【通商都市トラフィーク】でもここだけだから、探せばいるのだろうけど。


 それでも、そこそこの面積がある場所だ。

 現実とは容姿も違うだろうし。


 …いや、本当に。


 プレイヤーも沢山いて。

 姿形も様々なのがこのゲームだ。


 彼女が現実そのままの姿だったら、どれほど探しやすいか―――



「……なあ、みんな」

「ん?」



 それは、将太の声。

 何処か気が抜けたような彼の視線は、俺たちとは別の方に向いていて。

 声も、呆けたような感じ。


 しかし、確かな意思を持ち。


 指を突き出している。


 

「もしかして――あれじゃね?」



「え? どこに――へ?」

「……いや…え? 何かの間違いじゃないか?」



 皆の視線の先。


 そこに居たのは。


 流れるような金の長髪。

 宝石のような蒼い瞳。

 女性としてはやや長身で、無表情だが優し気な雰囲気。


 ちょっと、待て。

 いくら何でも、流石にこれは…。




「……現実、そのまま過ぎないですかね。騙されている気分になります」



 あぁ、全くその通り。


 本人としか思えないんだが。


 声を掛けて他人だったら、凄く恥ずかしいレベルで。

 けど…ほぼ間違いなく、ルミねぇそのものなんだよな。


 視線の先。

 見渡しの良い広場では。

 ベンチに座って楽しそうに会話をしている女性と、それを取り囲む人たち。プレイヤーもNPCも混合で、周辺には何羽ものハトが歩き回って……なぜハト?


 現実では当たり前だが。


 ゲームで湧いているのは、見かけたことも無い。



「…カオスだ」

「――で、どうするの?」

「行くしかないだろ。人違いだったら困るけど…」

「フレンドメールを送れれば良かったんですけどね。直接話しかけるしか…どう話しかけましょうか」



 ああ、どうするかな。


 とにかく、人の固まりが凄いから。

 あそこ割って入るのは至難の業だろう。


 それこそ、本当に人違いだった場合。

 割って入った俺たちに対する心証が最悪になるのは間違いなく。無理にどうにかするという事を度外視した場合…うん。

 どうにもならないな。


 誰もうまい意見を出せず。


 その場で立ち尽くしていると。



 女性の視線がこちらへと向き…固定された。



 …心なしか嬉しそうに。

 ゆっくりと手を振るのもセットで。



「――あ、いま」

「こっちに気付いたみたい。手振ってるし、やっぱりルミねぇだよ!」

「……なんで分かるんだ?」

「ルミ姉さんですから。仕草とか、挙動とか…動きを見たんじゃないですかね」


「…はは、まさか」



 言うな、将太。

 その気持ちは、俺たちだって分かる。


 でも、これが冗談じゃないんだよ。


 仕事柄と言うか。

 天性のものというか。

 俺たちの幼馴染は、誰よりも深く人間を観察して、その人物の癖を覚えるのが得意で。


 未だ様子を伺っていると。


 ベンチから立ち上がる女性。

 そのまま人だかりに断りを入れると、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。



「やあ、初めましてだね? 人違いではないと思うんだけど。私はルミエール。まだまだ新米のプレイヤーで、【無職】な残念プレイヤーさ」

「「……え?」」



 驚きの次は困惑。


 無職って。

 

 相変わらず、この姉は…。

 【人間びっくり箱】の二つ名は伊達ではない。

 もはや遠慮しなくて良いと分かった皆は、口々に反応を示し、疑問をぶつける。



「ルミねぇ無職なの!?」

「もしかして、あの時濁したのは」

「…恥ずかしかったから?」

「その通りなんだ。先日までは現実(リアル)も無職だったし、君たちに言うのは恥ずかしいだろう? だから、隠しちゃったんだ」



 ……可愛い。


 本当にシュンとする女性。

 その仕草も、俺達が知っている幼馴染のままで。

 早く一緒に行動を開始したいところだけど…けど。


 先に聞かなければ…ふッ。


 いけないことがあるよう…くくッ。



「――で、ルミねぇ?」

「何だい?」

「そろそろ…プッ。突っ込みたいんだけど…」

「ふふっ、そのハトさんたちとは、どういうご関係なんですか?」



 彼女の後ろに。


 とことこ付いてくる六羽ものハト。


 俺たちが話している間にも、あっちをウロウロ、こっちをウロウロ。思い出したように飛び立っては彼女の肩に止まり、頭に止まり。


 転がり落ちては手でキャッチされる。


 そんなことをしながらも。

 ルミねぇは、自然体で話を続けて。


 みな、吹き出すのを堪えるのに必死だった。



「二次職で【道化師】というのを選んでね。この子たちは、私の眷属なんだよ」

「おおっ! 召喚っすか!」

「戦闘では無力だけど。…ショウタ君も、随分雰囲気が違うね。同じ黒髪のままだけど、その魔術師みたいな服装も似合っているよ」


「あざっす!!」


 

 たしかに。

 服装が違えば雰囲気は変わる。


 でも、容姿という点では。

 皆、あまり変化ないんだよな。


 大体黒とか茶髪で。


 身体付きも、リアルと大差ないし。


 俺たちが話している間に。

 先程まで彼女と会話していた人たちは、ある程度解散していて。

 しかし、まだまだ残っている人も多い。


 何かを話し合っている者たちもいるみたいだな。



「ルミねぇ、あの人たちは?」

「一人で居たら声を掛けてくれてね。ユウト達を待つ間、話し相手になってもらったんだ。それで、何時の間にか知り合いも集まってきたからあんな感じに」

「……さりげなくナンパされてねえか?」

「というか、ルミねぇ有名人?」

「どういう訳かね。でも、トラフィークから出たことは無いから、他都市での知人がいないんだ」



 まだ始めたてって言ってなかったか?

 

 でも、彼女なら。

 そういう事もあるのだろうと、納得してしまう。

 荒唐無稽な人だというのは、既に将太ですら理解し始めているだろうし。


 ナンパは…まぁ。 

 ルミねぇが下衆に付いて行くはずはない。



 だから、心配はいらないな。



 合流も出来たし。

 取り敢えずは、これで良しとするか。



「…じゃあ、ギルドホームに行くか」

「賛成! ルミねぇの護衛ミッションしようよ」

「戦闘は苦手らしいし、俺たちで格好良い所を見せてやろうぜ」



 直接行ったことが無いというのなら。


 未だ、転移装置も使えないのだろう。


 だから、街道を使って【フォディーナ】まで行く必要がある。

 まあ、俺たちのレベル的には対象を守りながらでも問題ないだろう。簡易的に装備の確認をしている間、恵那がステータス画面をルミねぇに共有する。



「ルミ姉さん? まずはフレンド登録とパーティー申請をしましょう」

「おお、パーティー」



 抑揚のない声。

 しかし、興奮しているのだろう。


 

 指示通りに指を動かし。

 彼女の名が追加される。

 パーティーが同じになれば、獲得経験値も共有できるし。


 ルミねぇの成長にも繋がる。


 ま、良い事づくめって事だ。

 E級の領域難度なら苦労はないだろうし。






 問題は全く―――


 




「「ひゃっはー!!」」



 無い…と思ったんだが。

 

 前言撤回。

 やっぱ不安だな。


 というか、護衛…護衛か?



「おーい、あまり先行しすぎんなよ?」

「「ほーい」」



 分かっているやら。

 多分、ルミねぇに良い所を見せようとしているんだろう。

 こちらが手薄になるとあれ程…おい。


 恵那。


 まさか、お前まで…?



「では。私も行ってきますね? ユウト。護衛はお任せします」

「……あのなぁ」


「楽しんでおいで、エナ」



 普段は落ち着いているが。


 ルミねぇが絡むと。

 恵那も、こうなってしまう。

 良い所を見せようとしているのは彼女も同じなんだろうが、それを止められる立場の護衛対象が快く送り出してしまい。


 とうとう二人だけだ。


 まだ敵は出ないだろうに。

 …なんか、話題でも振るか?


 二人きりは久々だし。



「ルミねぇは…楽しんでる?」

「うん、すごく楽しいよ。ユウトたちと一緒にゲームが出来るのも、こうして知らない世界で色々な出会いと経験を繰り返せるのも」



 俺の言葉に。

 彼女は、嬉しそうに頷く。

 その瞳は、現実とほとんど変わらず。


 無表情だけど、優しさが伝わるもので。


 緊張が解される。



「ねぇ、ユウト。君は前線…エナは何処か行っちゃったけど、定位置には付かないのかい?」



 確かにその通りだろう。


 俺の戦闘職は2ndの【剣士】だ。


 普段なら最前線で戦うし。

 バランスの良い構成にしている。

 しかし、だからこそ。どんな状況にも対応できるし、このスタイルも間違いじゃない。



「俺は、護衛だからな」

「ほう?」

「言うなれば、ルミねぇを守るための騎士だ。離れるというのは、ちょっと難しいな」

「ふふっ…。そうなのかい。とても嬉しいサービスだ。ゲームの中とは言え、恰好良くなったね? ユウト」



 …不意打ち止めてくれないか?

 凄くドキッとくる。


 彼女は、小さい時からの憧れであり。


 俺を救ってくれた恩人であり。


 帰ってくるのをずっとずっと仲間たちと待ち続けていた、大好きな幼馴染だから。

 こうして、隣で会話できるのが、凄く…。



「――俺も、嬉しいよ」

「皆と遊べるのは、いい物だろう? トワに感謝だね」

「……ああ、本当に。…でも、そのアバターはなんかしらの職権乱用が働いているんじゃないか?」


「ははは、実はそうなんだよ。前に問い詰めて――」



 性に合わないんだけど。


 皆と一緒なら。

 俺も凄くワクワクしてくるんだ。



 ―――何より。



 この人と一緒に冒険できると思うと…な。

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