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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第八章:フォール編

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192/279

第8幕:貴賓席ゾロゾロ




『さぁ、皆様。大変長らくお待たせいたしました……。本日より開催されますは、長らく続いた第一回統合闘技大会、その決勝トーナメント』


『実況はワタクシ、運営部のホッピーめが担当させて頂きます……』



 皇国へお茶会に行ってたはずなのに、何故かここに戻ってきてる不思議。

 日を跨いだんだから、別に普通かな?


 ……あれから一日が経ち。

 帝都が誇る大闘技場へと舞い戻った私だけど、いつの間にか実況席に座っているのがヨハネスさんじゃなくなってたよ。 


 会場を見渡せる実況席に座る女性。

 ウェーブの掛かった茶褐色の髪に銀縁眼鏡。そしてこの世界にも珍しいパンツスーツで決めた彼女は、さながら出来る秘書さんという風体だけど。


 ホッピーとは、また色のある名前。

 話を聞く限り彼女、何でもO&Tに三人いる編集長の一人らしく。


 あのギルドは運営部、攻略部、広報部からなる。

 つまり、広報部編集長のヨハネスさんとは同僚……この大会における実況って交代制なのかな。

 


『では。まずは恒例、来賓の紹介から参りましょう』



 間延びしている訳でも、張り詰めている訳でもない。

 拡声器を使っているとて、大声を出している訳でもないのに聞き取りやすいって、実はすごい事なんだ。

 侮れないね、流石新聞社。 

 で、編集長さんの紹介により、矛先が向くは貴賓席。


 読み上げられる、賓客たちとその肩書。



 帝国から、一次二次に引き続き観戦を続ける皇太子、エトワール・アルバ・クリプトセント殿下。

 同じく帝国、鉱山都市領主クラウス・フォン・ビスマルク侯爵。

 ララシア伯爵家令嬢「星の御子」ステラ・クライト・ララシア。

 

 王国から、古代都市アンティクア領主プシュケ・リアール侯爵。

 

 皇国から、皇国皇女「陽の御子」リア・ガレオス・エディフィス。

 そして枢密院所属オルド枢機卿。

 

 ……。

 改めて、凄く豪華だ。

 為政者は当たり前で、国賓級の人も複数って感じ?


 

『えーー、異常……あ、以上……。豪華すぎる顔ぶれと相成りましてございます、えぇ』

 


 ………。

 


「殿下」

「………ぅ」

「殿下」

「……えぇ、と」

「殿下? 私に黙り教皇庁を抜け出し、国外へ向かわれたとの報を受けた時は生きた心地がしませんでしたぞ」

「……あの。ごめんなさい―――」

「ご無事で、良かった。本当に……、良かった」



「久しいな。ララシアの御子」

「お久しぶりです、皇太子殿下」

「そして―――このような場に出てくるとは珍しいな、爺や」

「ふふ。公には、です。闘技鑑賞は我の趣味の一つなのですよ、殿下」

「そうか。……爺やの事。令状を同伴というのは今更ではあるが、それにしてもララシアの御子は私でも引くぞ? 歳の差を考えろ」

「今回は誤解です、殿下」



 ……ふむ。

 一緒に来た人たちが皆他の人たちと話してる時の手持ち無沙汰感。

 リアさまは勝手に出てきたことをオルド枢機卿に怒られて、ステラちゃんと鉄血候様は皇太子様とご挨拶。


 帝国の皇太子さん―――間近で見れるなんてね。

 凄い美形だよ。

 藍色の髪に、蒼の瞳……背もすらりと高くて、これは確かに王子様だ。

 で、後ろに控えてるお二人―――銀髪で、狼のような鋭い視線の女性と、金髪で獅子の眼光を宿した男性。

 どっちも凄い美男美女だけど……タウラスさんと同じ十二聖さんなんだってね、凄いね怖いね。

 やっぱり十二聖って国家権力とズブズブ?



「ルミエールよ。其方という者は……」

「あ、お久しぶりです、プシュケ様。今日はハクロちゃんの授業参観に? アルバウスさまはお留守番ですか」

「……少し外しておるだけよ」



 世界って狭いんだ。

 こうも知り合いが多いと、いっそ面白い限りで。


 そう……、今更だけど、私がいるのは一般席じゃなく貴賓席なんだ。

 天幕の影響とかもあって、会場の一般席からは見えないくらいの端っこだけどね。

 ほら、これだけ豪華な人たちが集まってると、この場に何故かいる異訪者に視線が集まるだろうという推測は簡単だろう?

 しかもヨハネスさんと先のホッピーさんが私も一緒に賓客として紹介しようって言ってたから、流石にそれはダメって頼んだんだ。

 当初の予定では、私やマリアさんを招待するつもりだったって。


 私只の一般人だよ?



『では、早速本選へと歩を進めた32人の精鋭選手を紹介いたしましょう』



 ―――っと、選手紹介が……。

 知り合いの二次予選の結果は大体聞いてるけど、こうして出場選手が一堂に会するのはやっぱり良いものだ。

 大会の醍醐味っていうのかな。


 レイド君達も参加すればよかったのに。

 なんでも、ルールが決められてて、よーいどんで始まる戦いは好きじゃないんだって。

 


『言わずと知れた力の代名詞。ギルド【古龍戦団】より、団長ロランド選手』



『大迷宮攻略ランカー。ギルド【一刃の風】より、団長ユウト選手』



『無所属でありながら、その凄絶極まる剣技は既に周知でしょう。今大会のダークホース。大剣使い、ハクロ選手』



 ………。

 ……………。


 

 読み上げられると共に、続々現れる影。

 私の友人だと、ユウトに、ハクロちゃんに、ユーシャちゃん……んう?

 ユーシャちゃん?

 あ―――騎士王くんに青騎士くん……あれ?

 遅刻なのかな。


 まぁ、後は私でも聞いたことのあるような名のあるギルドのメンバーかな。

 特段、これといって琴線に触れるような人は―――……ん。


 あの人……。



「……ルミエールさま。気付かれました?」

「ステラちゃん」



 いつの間に隣へ。

 ここ凄く端っこだけど、見えにくくない? 


 ……。

 確かに、ステラちゃんなら知ってるだろうけど。

 まさか、ね。


 私達の視線の先。

 参加選手の列に並ぶその人物は、全身を灰色の外套で隠しており、背には大弓。

 どのような人相かは伺えないけど。

 けど、やはり私の知ってる通りの人物で間違いはないのだろう。


 でも、どうやって出場を?

 

 

「―――三十二人。数百の出場者から選ばれた、と。成程。確かに、良い面構えよ」

「……爺や。目は確かか?」

「人数、少ないですね。二人ほど」



 並ぶ出場選手たち……形作られる五×六の陣形。


 ……。

 30人?

 それに、やっぱり改めてよく見て、私のお友達の姿がない事に気付いて。

 ……ユーシャちゃんの姿は何処へ?



『えーー、非常に残念な事なのですが、出場選手であるチズル選手、並びにユーシャ選手は私用により出場を辞退されました』



 えぇ?

 そんな筈。

 彼女、決勝トーナメントも頑張るぞーーって意気込んでたのに。

 これもしかして、何らかの陰謀が……。



 ―――あ、フレンドメール入ってる。



『NPCさん達からクエストの依頼が沢山入っちゃいました! ごめんなさい!』

『決勝戦までには観戦に戻りますぅ』

『ユーシャはユーシャ』



 あーー……。


 らしいね。本当にらしいよ。

 やっぱり勇者パーティーだよ、あの子ら。

 恐らく、自分の力比べよりも常に誰かの為になる事、人助けとかを優先している。

 だからこそ、あの子たちはあんなに強いんだろう。 

 強さっていうのは腕っぷしだけじゃなく強固なポリシーと確固たる意志も影響するんだ。


 本気のユーシャちゃんを見れないのは残念だけど、そういう事なら仕方ないのかな。



「もし。無色の聖女さま」



 ―――んう?

 でた、無職。

 初対面の時に確かに自分から名乗りはしたけど、どうしてそれで定着しちゃったのかな。

 今の私は既に脱無職……脱職してるのに。


 脱職はダメか。

 それって色落ちで結局無職だ。

 考えながら、私を呼んだ人物……ぴしりと礼服を着こんだオルド枢機卿へ向き直り。



「先の件で殿下のお命を救って頂いたばかりか、このような我が儘を聞いて下さり……」

「あぁ、良いんです、良いんですよ。私も止めなかったわけですし……」



 やっぱり彼、お父さんみたいだね。

 子供が喧嘩した友達のお家に一緒に誤りに行くお父さんみたいだ。

 申し訳なさそうに頭を下げる彼と、隣で小さくなるリアさま。

 

 会話は、他の賓客の注意を引いたらしく。

 皇太子様がこっち見た。



「―――やはり、そなた。伝え聞く異訪の聖女であるか」

「はい!」

「命の恩人です」

「ご慧眼です、エトワール皇太子殿下。この御方こそ、無色の聖女様」

「今はそうらしいな、このおなごは」



 ―――マズいよ、マズいよ。

 このままじゃ本当に無職で定着しちゃうよ。

 客寄せパンダみたいに見られちゃってるよ。



 誰か、味方……私はもう無職じゃないって弁明してくれる味方は。



「―――ほう。あの技は、……どう見る、タウラスよ」

「……………」



 戦鎚さん、鉄血候さまの耳へごにょごにょ。

 さっきから微動だにしない他陣営の護衛さん達。

 ……味方いないね。 


 早速闘技場で行われている第一試合は、ロランドさんと戦斧使いっぽい戦士さんの戦いで。

 明らかに筋力特化な相手を、同じく筋肉凄そうなロランドさんは圧倒している。

 単純な膂力だけじゃない、技術も併せた動きだ。


 これが、ユウトたちの言っていた竜人って種族の力なのかな。

 戦闘スタイルはユニークっぽさもなく、どう見ても普通の戦士寄りだけど、その規模が桁違いというか―――多分基礎値となる筋力のパラメーターがおかしなことになってるんだろう。



「竜人……か。話には聞いていたが、やはり。よもや、異訪者が……とは」

「―――竜人、ですか? おじ様。 あの、物語に出てくる? ―――あ! 本当です!!」



 情報通で間違いない侯爵様はともかく、ステラちゃんは何で分かるのかな。

 たった一目見ただけで気付いたみたいだけど。



「ステラさま。どうして分かったんです?」

「え? あ、ルミエールさまもご覧になりますか?」

「んう?」



――――――――――――――――――――

【Name】    ロランド

【種族】   人間種 竜人

【一次職】  精霊剣士(Lv.60)

【二次職】  炭鉱夫(Lv.4)


【職業履歴】 

一次:戦士(1st) 霊戦士(2nd) 

   精霊剣士(3rd)

二次:炭鉱夫(Lv.4)


【基礎能力(経験値0P)】            

体力:100 筋力:75(+30)  魔力:15(+40) 

防御:10(+21) 魔防:0(+14)  俊敏:50 (+21)


【能力適正】

白兵:A 射撃:D 器用:D 

攻魔:C 支魔:E 特魔:E

――――――――――――――――――――



 え、凄い。

 何が凄いって色々と凄い。

 

 まず、当然のようにレベル上限(カンスト)……私の能力値と比較した時の差が凄くて、第二に補正値の多さが凄くて、第三にこれらすべてを見れるステラちゃんの能力が凄い。

 ナナミやユウトの鑑定でもここまでの情報は見れなかった筈。

 私の眼鏡に至っては名前と簡単な情報だけだ。



「うむ? 知らなかったのか、ルミエールよ。古来より人が空を仰いだように。大いなる天井へ穿たれた神々の覗き穴こそ、星。星の御子はあらゆる存在の情報を見通す力を持っているのじゃ」

「……鑑定家の上位互換?」


 

 プシュケ様が説明してくれるけど……つまり、レベルカンストの鑑定家って事なのかな。

 道理で、さっきの参加者選手に並んでた彼にも気づいたわけだ。

 リアさまが神託の力で、ステラちゃんが看破の力……。


 ……ん?

 もしかしてソレ、私の弱さも明け透け……ってコト?

 私がもう無職じゃない事も? 知ってるのに?



「凄いんだね、ステラちゃん」

「いえ、いえ!!」

「ところでさ。もしかして、私のも見た?」

「……………」

「ステラちゃん?」

「―――ごめんなさいです!」



 みーたーなーー?



「いっか。困るものじゃないし」



 そもそも、一昔前まで自分から無職って名乗ってたんだから、今更だよね。

 もう、気にせず応援してよ。

 今なら会場中は戦いに目を向けてる筈だし、誰もこっちなんて見ないよね。


 次の試合に出場する筈の子は―――あぁ、居たいた。



「ユウトがんばってねーー」




   ◇



 

「―――ねぇ。上……、なんか貴賓席の端っこに知り合いいない?」

「知らん」

「偉い人に挟まれてるっぽいんだが」

「知らん」

「新聞にあんな構図載ってなかった?」

「知らん」



 目の錯覚だろうか。

 目の錯覚の筈だ。

 目の錯覚であってくれ。

 


「ふぁいとだよーー、ユウトー。がんばってねーー」

「―――あ、やっぱりルミエールさんだ」



 やっぱいるわ。

 本当に意味がわからないが、何故か貴賓席にいるわ。

 どういう経緯でそうなるんだよ、そうはならないだろ。



「聖女だからな。当然のように賓客待遇なんだろ。知らんけど」

「―――……はぁ。行ってくるわ」

「「いてら~~」」

「ツッコミ疲れですね、お薬出しておきます」

「ん。かえってくるまでに処方頼む」

 


 偶にこういう会話でもないと、恵那の二次職が薬師な事忘れるな……と。

 最後の息抜きにと仲間たちと軽く話して席を立ち、入場口へと向かう。


 今回の相手は……あぁ。

 どうやら……いや、何故か? 非常に嬉しい事に、俺はあのギルドと縁があるらしく。

 

 

「―――やぁどうも。お久しぶりです、青騎士さま。よもや一対一で戦える日が来るとは、恐悦至極……」

「いや、二次予選の時に会ったよね? うちの団員やってくれたよね? クロニクルで王様に不意打ち掛けようとしたらしいね。色々ひっくるめて―――心にもない事言わなくて良いから」



 本選……俗にいう決勝トーナメント初戦……相手は、青騎士。

 最強ギルドのNo.2を張る精鋭中の精鋭……GR三位の大ギルド【亡者の千年王国】、その団長であり最強PLの一角でもある女を正面からやった化け物の一人。


 何処までやれるか。

 それを測る指標としては―――……いや、流石にちょっと大物過ぎないか?

 段階踏めよ。

 踏んだ結果がこれなのか。



「ね、ユウトクン」



 あと、名前で呼ばれるのもやっぱり嫌だな。

 自分でつけておいて何だが、現実に引き戻される。



「何でかは知らないんだけどさ。王様、君に凄い期待してるみたいなんだ」

「……ほー?」

「心当たり、ある?」

「いいや、全く」



 既に開始の合図は送られている。

 が、あっちもまだ仕掛けるつもりはないようで。

 俺も、青騎士の言う騎士王の興味……思惑というべきものには興味があり。

 観客席の一角―――ヤツのギルド員が固まっている方向へと向けられる視線。


 

「そ。やっぱ分かんないか」


 

「うん……。そういう所あるんだよ、ムーンさんって。何考えてるか分からないくらい先まで見通してるって言うか。先の予想……僕達の言葉では憶測っていうじゃん? よく、憶測でモノを言うなっていうじゃん。でも……そういうのが、明確なビジョンになってるんだ、あの人の中では、常に。それ、外れた事ないんだ」



「だから―――僕も、知りたいんだよッッ!!」



 蒼の雷撃が走った。

 まさに、光だった。



「―――ッッ……!!」

「お、やるじゃん。最高速出したの、大会では初めてなのに。君、データキャラじゃなかったの? まず見誤っておくところだよ、ここ」

「……相手は常に過大評価するのがモットーでな。てか見誤ったら死んでただろ、今の」



 首元ギリギリまで迫った刃をどうにか剣で受けたが……冗談じゃない。

 本当に、開始一撃目で終わるところだったぞ。


 あまりに速い。

 何ならパーティー最速のナナミより速い。


 ―――いや、バグか?

 アイツの職業って狩人とか盗賊の系統だったか?

 混乱の最中にも、雷撃と見紛う程の速度で二撃、三撃と繰り出される長剣の刃。

 

 ご丁寧に刀身も青一色で。

 苛烈な攻撃に唯一良い所があるとすれば、目に優し―――ッ。 



「―――良いねッ!! やっぱ強いよ、君!!」

「聖騎士の骨頂ってどっしり構えた防御力じゃないのかよ……、何でこんな……―――“看破”」




――――――――――――――――――

【Name】    RANT

【種族】   人間種

【一次職】  聖騎士(Lv.60)

【二次職】  鑑定家(Lv.12)


【基礎能力】            

体力:30 筋力:20 魔力:20

防御:27 魔防:3 俊敏:150 


【能力適正】

白兵:A 射撃:D 器用:C 

攻魔:E 支魔:E 特魔:E

――――――――――――――――――




 何だこのふざけた能力値。

 騎士なめてんのか? 防御低すぎだ……―――俊敏ンンッ!?



「ひゃくご―――……はッ!?」

「あ、見ちゃった? 良いよ、別に。レジストとか普段からしてないし」



 明らかにパーティーのタンクを一手に引き受ける聖騎士の能力構成じゃないだろお前!


 鑑定レベルの都合だろうが、俺が見れるのはあくまで武器防具による補正値を除いた裸一貫での基礎能力と能力適正だけで。

 つまり、今見えているのは補正値抜きのステータス。

 

 ……俊敏など、ここから更に上がる筈で。

 そりゃあ速いわけ……。



  ―――いや、注目すべきは筋力値だ。

 俺よりも低い。

 思えば、初撃……あの一撃がもっと重かったのなら、俺は剣で受けきる事も出来ずにやられていた筈で。

 俊敏と引き換えに、見えない補正込みでも奴の筋力は俺より低いと考えていいだろう。


 だが、筋力とは強力な武器防具を装備する為の最も重要なパラメーター。

 通常は上位の防具ほど要求される筋力値も高い筈で。


 何で大層な大鎧なんか着られる?

 補正があるようなアイテムを身に付けている感じもない。


 ならば。



「―――鎧自体かッ!」

「せいかーい」


 

 筋力に勝るというならばと、上段から強力な一撃を振れば、まるで軽業師のようにひらりとバックステップ。

 段ボール並みに軽い鎧か?

 燃やされないように青色に染めたのか?

 やはり、秘密はあの騎士の代名詞でもある蒼鎧にあるらしく。

 


「この鎧、Aランクの激レア装備でねーー。防御の補正値は程々だけど―――代わりに、装備の要求値がないんだ」

「―――――は?」



 要求値のない大鎧……?

 何考えてんだ開発。


 Aランクは、現時点では最高峰の装備。

 最上位ギルドの団員でも一つか二つ持っているかどうか、なくても全然普通というレベルの代物で。

 

 そういう意味では俺の武器【焔刀斬鬼】もA-のランクだが……完全なAランクとは大きな隔たりがある。


 差はやはり重く。

 が、装備の強弱で負けたなんて、俺の仲間はだーれも納得してはくれないわけで。



「いや、デメリット完全克服はダメだろ! 軽戦士と武闘家の存在意義完全否定してんぞその装備!」

「あははッ!!」

「スピードタイプの聖騎士って、何だよ……!」



 いや、そもそも。

 武器防具関係なく、コイツは強い。

 最上位ギルドで団長を張っていてもおかしくない実力、判断能力。

 それがナンバー2を張っているかつ、その他団員の層もあり得ない程に厚い。


 ヤバ過ぎだろ円卓。

 サーバー最強なめてたわごめんなさい。



「―――逆にさ。君、なんなの?」

「ん?」

「僕、結構本気でやってんだけど? 全部往なさないでくれない―――かなァッ!!」



 迅雷と放たれた横薙ぎを寸でで躱す。


 どうしてやり合えてるか?

 そんなの、決まってる。



「目指してるんだよ。ギルドランク一位。一位さまの二位さまに負けてられるか」

「へ? ―――……ふふっ」



 コイツは、超えて行く壁だ。


 負けるのは別に良い。

 だが、一方的にやられるのは論外だし、負けっぱなしなのも絶対にあってはならない。

 必ずやり返す……それが俺たちのモットー。

 


「本気で言ってる? 夢を壊すようで悪いけど、子供が将来の夢で語るようなものじゃないんだよ? オンラインゲームの一位って」

「はは……、将来はゲームクリエーター、とかな。アンタみたいな小学生が言いそうなことだ」

「―――カッチーン。君まで僕の事チビって言うんだッ!!」



 ……実際、ゲームに夢などない。

 どれだけ自由を謳うゲームでも、オルトゥスでも例外はなく……オンラインゲームというものは、知れば知る程現実的。

 スポーツだってそうだ。

 突き詰めると、科学や数学、物理の話になってくる。

 廃人と呼ばれるものなど、睡眠も食事も、全て……欲求の全てを捨て、つぎ込んで、綿密に計算まで始めて戦っている。

 大人げない事に、その為に何百万、何千万だってつぎ込む。


 更には、ハクロやユーシャ……生まれながらの、生まれる時代を間違えたような、天性の武芸者がいるように。

 本当の強者っていうのは、凡人など及びもつかない速さで駆け上がっていくから。


 本当に、どの世界も現実は不公平ばかりで。

 不公平だからこそ―――俺たちに勝機がある。



「子供の遊びじゃない、って? ―――だな、同感だ。“斬鬼零落”」

「……おっと」



 半月を描くように横薙ぎにした一撃が、騎士の小手を捉え、震わせる。

 当然、減少した体力はあまりに少ない。

 俺のそもそもの攻撃力が低いのもあるが、やはり鎧。

 

 防御にもしっかりと補正はあるみたいだな、あのチート鎧。



「―――楽しむのは、夢見るのは。子供の特権か? 違うだろッ。遊びでも、遊びじゃなくても、楽しんでみろよ。仕事も、苦労も。何でも楽しんでやるのが一番良いって。分かってるのに、何でやらないんだ? 突き詰めて、新鮮味もなく、無感情に最高効率最強収集……楽しいか? ソレ」

「…………、は」

「一位は、最高だろ? んじゃ、ソレを維持する苦労は? 自分が討ち取られる事を考えて、ストレスヤバいだろ?」

「……………」

「原点回帰。童心に帰ってやってみれば良い。楽しんで目指すんだよ、最強を。世界相手に楽しむくらいの覚悟で、な」



 あの人ならそうするだろう。

 偶然も、理不尽も……全てを、全力で楽しむだろう。


 だから、俺たちもそうする。

 ゲームってのは元来、楽しむためにあるのだから、義務になっていいはずなどないし、目的を見失う必要などない。


 そして、楽しんだ果てに一位になる。

 たったそれだけであの人が仲間になってくれるなら、安い条件ですらある。

 


「“一閃”……と、“一閃”ッ!!」

「!」

「一閃、一閃……一閃ッ!」

「―――ッ!! ははッ。……出たね。リラにやってた技……初期技の連続運用してる相手は初めて見たよ、ホント。君ってさ―――」



「ガッチガチのPK構成だよね? 戦闘スタイル」

「只のデコイだよ、俺は。体力全然減ってないだろ? 決め役に……主役になりたくないんだ」

「はは。ナニソレ、ホントに意味わかんない。さっきといってる事違くない? サーバートップになるのなんて、主人公じゃなくて何なのさ。 ラスボス?」

「友人キャラってのはどうだ? 主人公ルートはリアルだけで十分なんだよ、こちとら」



「―――……何? リア充なの? 君も」

「あぁ、想像の斜め上にな」



「―――……そ」



「……成程、やっぱり、そうなんだ。そういう事なんだ……」



 お互いの体力は互角。

 いや……僅かに俺が勝ってる。

 が、俊敏特化とはいえ攻防御の技やパッシブスキルを主軸とする聖騎士相手……ソレもかの青騎士相手に、初見の攻撃が何度も通じる筈はない。


 このまま続行なら、確実に負ける。

 

 最悪、温存してる札も切り崩して……。



「……そっか。―――良いよ。降参」

「―――なに?」



 互いに構えるまま、流れる時間。

 俺と同じく目で思案を表現していた青騎士は、不意に己が武器を鞘に収める。

 意味が分からなかったが―――ヤツはニカリと笑って。



「リラが行ってた意味が分かったし、納得できた。見てみたい……ううん。僕も見て見たくなったんだ。君が、王様と戦ってるところ」



 ………。



「………それ、利敵行為って言わないか?」



 利敵。

 読んで字の如く敵の利になるようなことをする迷惑行為(トロール)の事だが。

 ワクワクという言葉で表せる男児の様子は、その容姿も相まって幼く見え。

 


「だって、ロマンない? ユウト。特に大ギルドの長っていうわけでもなく、そんなに知名度ない君。君が、序列三位のリラと、二位の僕を退けて、一位の王様に挑む……ってね!」

「……はは」

「それにさ? 先も言ったけど―――王様、君の事凄く興味あるみたいなんだ」

「―――――」

「一応言っておくよ? 僕は、別に君に華を持たせようとしてるんじゃない。最強は、僕達の王様。それは変わらない。あの人は、本当に格が違うんだ。君は、あの人とは違う」



 俺はあいつとは違う、と。

 やはりコイツも、あの時の奴と同じような事を。



「ま、それだけ。王様と戦うまで負けないでよ? ホント」



 それだけ言い残し、刃を収めた青騎士は去っていく。


 ふと、ある姿を探して見上げた視界。

 観戦席の一角に固まった一団……その中央に座する白銀の騎士と目が合った―――気がした。

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