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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第八章:フォール編

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第1幕:遺跡探訪




「む……、むむ―――む?」



 興味深い。

 これは、実に興味深いよ。

 やっぱりこの世界はレベルの高い興味をオールウェズ提供してくれるね。



「そうだ、そうだとも。この遺跡も、さっきの場所と殆ど同じ構造、同じ事が描かれてる。その前の遺跡も、更にその前のも。場所はかなり離れてるのに内容はそっくり瓜二つだ」



 複数に、沢山だ。

 世迷いの森の深くに幾つもある遺跡群に描かれているのは、以前私が王国古代都市の遺跡で見た壁画と同じような感じで。

 太陽のような形、月のような形、そして星のような形。

 宝石を埋め込んで表現しているらしく、ピカピカーって感じに光って見えるこれらが主な内容。

 多分、オルトゥスに語られる創世神話の様子、そして天上の神々を指していると思うんだけど。


 どうして同じ内容を幾つも?

 細かい所で差異があるとか?

 或いは、一つが見つかっても他が見つからなければ大丈夫みたいな保険のような?


 前者だとしたら、私が生まれるよりずっと前に流行ったっていうオーパーツ……クリスタルスカルみたいな、全部集めると世界があーだこーだみたいな感じなのかな。

 で、後者の場合は……―――もし、そうだとして。

 じゃあ、それって()()見つかっちゃいけなかったの?

 どの遺跡も、損傷が激しいのは確かだけど、どうも意図的に壊された箇所が多いみたいだし……。


 

 ―――その誰かに見つかった?



「意図的に壊されてるのは、三つの光の中央、と。何が彫られてたのかな? 謎は深まるばかりだね、なぞなぞ、なぞーー」

「……………」



 現在地は秘匿領域にあるエルフの初期開始地点【妖精都市エデン】……そこからやや歩いた場所にある小遺跡だ。

 実は最近、この手の遺跡探索に凝っててね。


 というのも、私の現在の職業。

 聖女の第三スキル「夜明け」には、これら神様の名前やらが出てきて。

 そこから興味が再燃したんだ。

 元より私は王国にあるディクシアの遺跡とかも行ってたし、秘匿領域にある博物館トゥリスアウルムとかも興味深かったし。

 私、ただ観光地を巡るだけじゃなくてこういう遺跡探訪とか好きなんだ。

 元の世界でもね。

 


「ね。気に入るだろう? クオンちゃんも」

「えーーと、……うーーん」



 で、本日の同伴者はさすらいの武芸者クオンちゃん。

 ショートボブの黒髪に紫色の瞳……瞳の色はともかく、あちらの彼女の面影を感じさせる可愛らしくも優し気な風貌とは裏腹に、実はすごく強くて頼りになる剣士さん。

 更には、彼女には隠されたもう一つの能力と言うべきものがあって……。

 私では届かない至高の領域に、彼女はいるんだ。


 そうとも。

 アレは今から遡る事数日前……。



『ホ。テーデー、ホーー』

『ホ?』

『『ホホッホッ……』』

『……………はぁ』

『―――なぁ、ルミねぇ? 頼むから拗ねたらハトを召喚しまくるのやめてくれないか』

『……………』

『ルミねぇ』



『……馬車、運転できない』

『『知ってた』』



 そう、数日前。

 リア殿下とステラちゃんが割り勘……わりかん? で用意してくれた、凄く豪華な馬車を手に入れた私がふかしたジャガイモみたくほくほくだったのも、本当に僅かな間。


 完全に失念していたんだけど、私はそれを運転できる【御者】でも、騎乗みたいなスキルを所持している訳ですらなくて。

 白塗り、特異な木材が持つ素材の色そのままで、しかし鏡のように滑らかに磨き上げられた車体には星空と太陽を思わせるような彫刻が。

 この世界にあってはかなり高級らしいゴムの車輪は衝撃を優しく吸収して長持ち。

 窓は幕とスライドガラスの二枚組みかつ、精緻な金属細工がそこかしこに。

 このうえ、お馬さんまでお利口でとっておきの子たちを用意してくれたなんて、信じられるかな。



 ―――()()()()()()……()()()()()()、私なんかの為に……!

 


「凄い、クオンちゃんは本当に凄いよー。運転までできるなんて」

「そこまで褒められるような事でもないと思いますけど……操縦は得意なんです。よく、あの子と一緒に……―――何でもないです」



 やっぱり、普段から運転してるからなのかな。

 

 彼女、あんまりこういう遺跡とかは趣味じゃないみたいだから、せめてお話だけでも弾ませようと色々話題を供してみるけど。

 やっぱり、こうやって濁される事もチラホラ。

 隠し事が多い時期なのかな。



「でも、本当に良いんですか? いま、人界って異訪者の最大の武闘大会っていうのやってるんですよね? 帝都で」

「やってるらしいね」

「あーー……っと」

「クオンちゃんなら優勝も狙えると思うんだけどね」

「……あはは。まさか」

「あ、でもね? この後合流する子達もかなりデキる子たちなんだ。楽しみでしょ?」

「―――あの。もしかして私戦闘狂みたいに思われてます?」



 違うんだ。

 だって、クオンちゃんっていつも戦うの凄く楽しんでるし。

 私知ってるよ?

 クオンちゃんが強そうなPLさんの戦闘を見て剣の鍔と鞘をカチカチ鳴らしているの。


 顔だって、薄く弧を描いてるんだ。

 あっちではそういう顔見せた事ないのに。



「彼女たちはね? 皆より更に少人数……三人で活動してる子たちなんだけど。クールで優しい術士派生、魔女っ娘リエルちゃん。小さくて可愛いけど、神出鬼没な盗賊派生のソーナちゃん。で、リーダーで戦士派生のユーシャちゃん。ユーシャちゃん達は凄いんだ。本当に勇者パーティーみたいだからね」

「―――勇者の、勇者? ……あの。よく分からないんですけど」



 他の二人も凄くユニーク、かつ凄く()()()()()けど。

 でも、一番クオンちゃんに会わせてみたいのは、やっぱりユーシャちゃんかな。


 彼女、金色の長い髪が綺麗なんだけどね?

 蒼を基調とした旅装に赤いマントを付けてて、武器は煌びやかでナンカスゴク強そうな長剣と盾。

 愛嬌のある顔立ちだけど、ボーイッシュな旅装の効果が手伝って何処か凛々しさもありつつと、劇作で主役を張るに十分な才能を感じたんだ、私。

 

 

「そう。多分、物語で語られる勇者っていう存在が居るなら、彼女みたいな子なんだって。そう感じさせるオーラのある子だよ、彼女は」

「……成程」

「勿論、強いし」

「………!」

「それでいて、人助け大好き。私が出会ったのも、彼女たちが人助けをしようと躍起になった延長みたいな感じだったし……」



 そこも良い。

 何せ、見ず知らずのNPCを救うために、必死に病気を治せるお医者さんを探してたんだ。

 NPCを助けるって。

 言うのは簡単だし、実際オルトゥスに来たばかりのPLは都市好感度とかの関係もあって皆そう動くんだけど……いつの間にか、忘れちゃうんだ。

 でも、それって当たり前のことで。

 それこそが普通で。



「……ふふ。絶対にクオンちゃんも気に入るよ。私が保証する―――……けど」

「けど?」

「案外、敵対とかしちゃうのかな」

「―――どういう事です?」


 

 彼女は私の言葉に首を捻るけど。

 だってそうだろう?



「ほら。クオンちゃんって、魔族側の将軍さんだろう?」

「あ、あはは……。改めて言われると、何か複雑って言うか……。えっと、そんな大層なものでもないんですけどね―――……」



「へ?」



 ………。

 ……………。



「な―――ななななんっな……!!」



「なんでぇぇーー!?」

「今更じゃないかな。教皇庁でも会ったのに」


  

 そもそも、現実と違う名前と容姿でゲームを楽しんでる彼女を探し出したんだ。

 今更、甲冑で覆ったくらいで分からなくなるはずもないじゃないかと。


 待ち合わせの時間もあるし、遺跡を出て馬車に向かいつつ、怯えた目でこちらを見てくる彼女に説明説明。



「と、いうわけで。第一次クロニクルで騎士王くんと戦ったPL。第二次でユウトたちと協力してくれたPL。暗黒騎士ヴァディスは君の事だと思ったんだけど」

「ひ……、ぅ……」

「運転とかできるのも、竜とかに騎乗出来る関係のスキルなんだろう?」


 

 あくまで九割がたくらいの可能性だったけど。

 その狼狽具合から見るに、やっぱり正解なのかな。


 そんなへたり込まなくても良いとおもんだけど。

 ほら、今に馬車の傍で草を食んで待ってたお馬さん達がお顔ペロペロし始めてる。



「ぁ、の……うひゃぁ!!」

「ルㇽㇽ……?」

「ブルル……」



 今日会ったばっかりなのに、余程懐かれてると見えるね。

 動物に好かれる……羨ましいスキルだとも。



「あ、あの……! ルミエールさん? 後生、ですから……」

「うん。分かってるとも。一緒に皆へ説明しようね」

「じゃなくて!!」



 んう?

 ずぅーーっと内緒にしてて今更一人で説明するのが恥ずかしいから、一緒に謝ってほしいって話じゃないのかな。


 立ち上がってお馬さん達のご機嫌を取り始めた彼女はイヤイヤをするように首を振る。

 お馬さん達もブルブル首を振る。



「ダメなんです! 今はダメぇ!」

「何で?」

「わたし! 魔族側の! 将軍! 人界側のPLとは敵対してるんですよ!? 幾ら皆が相手でも気まずいってものじゃないんです、怖いんですぅ!」



 成程、道理だ。

 けど、それはどうなるかなぁ。

 いや、敵対云々の話じゃなくて。



「けど、今日遊びに誘ってくれたのって、皆と会いたいからなんだろう?」

「……ぅぅ……。はい」



 そうだとも。

 今日誘った側は私じゃなくて彼女で、名分としてはあの子たちと顔合わせをしたいというものだった。

 だから、私は完全にそのつもりだったんだけど。


 やっぱり彼女も訳アリさんというわけで。

 で、私は内緒でも構わないんだけど、それに関して障害が一つ。

 


「―――多分ね? バレちゃうとおもんだ、何度も会ってると。あの子たち……特にユウトとエナなんかは、そういうのに鋭くてね。観察眼とかスピリチュアル的なサムシングであーだこーだ」

「あ、あーだこーだ?」

「早い話が、かなり早くバレる」

「それ、は……困ります……」

「じゃあ、やっぱり会わない?」

「……あいたい、ですぅ」


 

 ワガママさんだ。


 正体はバラしたくない。

 でも、リアルフレンドとしてそろそろあの子たちと一緒にも遊びたい。

 成程、ワガママさんだとも。

 けど、正直な女の子って凄く良いし、可愛いスミ……クオンちゃんの頼みと来れば、私も無碍には出来ないし。

 ちょっとイジワルもしちゃったし、協力もやぶさかじゃないよ。



「じゃあ、別の方法で隠す?」

「……聞いても?」



 流し目のまま、縋るような視線。

 良いね、その顔。

 学校中の男の子たちが放っておかないわけだ。



「犯罪の片棒担ぐことになるけど、良い?」

「―――っ。……聞いても?」



 少しためらったけど、やっぱり会いたいと見えるね、あの子たちに。

 で、一度でも会って一緒に行動とかしちゃうと、もうダメ。 

 クオンちゃんみたいな情に厚くて、かつ寂しがり屋な子なんかは一度味わったその幸福を奪われる事に耐え切れない。


 だから、ここは一つ。

 私の奥の手であり、出来れば使いたくない術―――「優しい嘘」が必要になってくる。



「簡単さ。嘘をつくんだ、私が」

「う、そ……?」

「そそ、ウソ。ショウタ君やワタル君が元よりそういう性格なのはクオンちゃんも分かってるだろうけど、特にあの三人はね? 私を凄く……心から信頼してくれてて。だから、そこに漬けこんで最初の最初に釘、楔を打ち込むんだ」

「―――――」

「クオンちゃん、アレ知ってる? 互いの持ってる三桁の数字を当て合うゲーム」



 理解が追い付いてないような彼女へ畳みかけるようにソレを説明する。

 それは、二人用。

 二人は互いに、相手に見えないように1から9までの数字を、被らないように三桁で決める。

 後は、お互いがターン形式で当て合う。


 凄くシンプルだけど、面白いゲームだ。



「……それって」

「そう。例えば、最初の一答。私の数字が123だとして、クオンちゃんが言うんだ。145って。1は数字も、数字の場所も合ってる。だから、言わなきゃだよね? ヒットしてますよって。―――でも、私が言うんだ。全部ハズレ……ってね?」

「!」



 簡単なのさ。

 最初からその選択肢を奪ってしまえば良い。

 ソレが絶対のルールである以上……相手が自分に全幅の信頼を寄せている以上は、ね。

 誤魔化すのも簡単なんだよ。


 このゲームとあのゲームが違うのは、ただ一つ。

 限られた数字の中からしか選択肢がなく、いずれは誤りに気付けるゲームと……広がり続ける世界のまま、答えが逃げ続けるゲームという差。

 後は永久に、ずっと……あの子たちは違和感を覚えたとしても永遠に答えに辿り着くことはない。



「私が、こう言うんだ。クオンちゃんは、ずっと秘匿領域を彷徨(さまよ)いさ迷い冒険をしてましたって。私が、それを保証するんだ。あの子たちは私を疑わないよ? 絶対」

「わた、し……」


 

「―――皆を、騙す……」



 私の方針としては、誰かが不幸になるような嘘はついちゃいけないというものがある。

 ギリギリのラインでも、ウソをつこうとすると凄くわざとらしくなっちゃったりね。


 良いとも、いいとも。

 特別だ。

 彼女は、この誘惑には勝てない。


 

「今回は特別、ね? 他ならぬクオンちゃんの頼みだからだよ?」

「……………」

「でも、その代わり……分かってる、ね?」

「―――……何が、望みなんです?」



 今、この瞬間。

 彼女は私という悪魔のささやきに負けて契約を結んでしまった。

 魂を差し出しちゃったんだ。


 流石は魔族側の騎士さん―――暗黒騎士さんって言うんだっけ?



「じゃあ、今日一日専属として目的地まで運転よろしくね。それじゃあ、しんこーー」

「……出発しまぁーーす」



 ………。

 ……………。



 得意分野が異なるから、あの子たちじゃ一回では気付けないだろうけど。

 あのギルドに彼が居なくて良かったね。

 今は注意をこっちに逸らせてるけど、多分……一回触れ合っただけで気付いちゃっただろうから。

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